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アメリカが景気後退に陥る確率は40%…今年後半の市場動向を考えるための「5つの視点」

プレジデントオンライン / 2022年7月28日 13時15分

ここ数年順調に値を上げてきた米国株だが、年初以来神経質な値動きが続いている(写真=ニューヨーク証券取引所のトレーダー、2022年6月14日) - 写真=AFP/時事通信フォト

年初以来、米国株の下落トレンドが続いている。このままアメリカは景気後退に陥ってしまうのだろうか。人気米国株ブロガーのもみあげさんは「今年8月のジャクソンホール会議がターニングポイントになる。しかし、どんなに悪くても2024年には景気は回復基調となるだろう」という――。

■米国株をとりまく今の環境をチェックする

年初以来、米国株の下落トレンドが続いています。2022年上半期でS&P500は21%の下落、ナスダックは29%の下落と、1970年以来の歴史的な下落になってしまいました。米国株が今後どのようになっていくのか、投資家は不安な時間を過ごしている状況だと思います。

一方で、その1970年の株価の動き(図表1)を例に挙げて、今年下半期から急激に株価が回復するという予想シナリオを描く向きも少なくありません。

【図表1】1970年のS&P500指数の推移
出所=米Yahoo! financeのデータを基に編集部で作成

果たしてそれほどうまくいくのでしょうか? どのような根拠を持ってその予想になるか、今の米国株の状況をひとつずつ整理しながら、自分なりに今後の展望をお伝えしていきたいと思います。

本稿では現在米国株を取り巻く環境を、以下の5つの視点から順に見ていきたいと思います。

1.インフレ状況
2.利上げ
3.量的引き締め(QT)
4.リセッション確率
5.アメリカの中間選挙

■株価がどうなろうとも米通貨当局はインフレ退治を優先

1.インフレ状況

アメリカのインフレ率は、このところ異常な高まりを見せています。今年5月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比で約8.6%も上昇。これは1981年12月以来の歴史的水準です。

【図表2】2019年以降のアメリカのインフレ率推移
出所=米労働省労働統計局のデータを基に編集部で作成

後述する中間選挙において、米国民が最も高い関心を示しているのがこのインフレ対策であり、バイデン政権や民主党の支持率低下の原因にもなっています。

インフレ懸念自体が株価への重しになっているとともに、インフレによって企業のコスト負担が増大し、それが今後の成長を阻害するといった景気後退懸念を引き起こしてしまっています。

2.利上げ

アメリカの中央銀行に相当する連邦準備制度(FRS)の最高意思決定機関、連邦準備制度理事会(FRB、The Federal Reserve Board)は、現在のインフレの退治を最大の焦点としています。彼らが今年に入ってから一貫して示してきたのは、「株価がどのようになろうとも、何よりインフレ退治を優先する」というメッセージです。これが今年上期の株式市場の下落を招いたともいえます。

FRBは積極的に政策金利引き上げをして、インフレ退治を進めています。コロナ禍以降事実上のゼロ金利政策を取ってきたFRBは、今年3月に0.25%、5月に0.5%、6月に0.75%の利上げを行い、6月末時点の政策金利は1.5~1.75%。7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)でも、0.75%の利上げを発表しました。今後さらに9月、11月、12月の3回の利上げが見込まれており、今年中にあと1.75%(予測中央値)の利上げが行われると観測されています(9月0.5%、11月と12月に0.25%という計算)。

■コロナ対策の緊急緩和策を急速に逆転

3.量的引き締め(QT)

新型コロナウイルス禍の下で米経済を支えるため、FRBは米国債や住宅ローン担保証券(MBS)などを買い入れることによる金融緩和策、量的緩和(QE)を行ってきました。2022年時点で、FRSの総資産量を示すバランスシートの規模は、通常時の2倍に膨れ上がっています。バランスシートの拡大によってインフレが進んだともいえ、このバランスシートを縮小するのが量的引き締め(QT)です。

その規模とスケジュールは下記のようになっています。

・2022年6月1日以降,FRBは1カ月当たり最大475億ドルの国債とMBSを償還。
・2022年9月までにはその規模を1カ月当たり950億ドルに拡大する。

FRBは2017年から2019年において、1カ月当たり最大500億ドルのQTを実施しましたが、今年9月以降はその2倍のペースで引き締めが行われるということになります。

これによって、QT開始からの1年間でFRSのバランスシートを約1兆ドル(11%)削減することをFRBは予定しています。現在のQTペースを2024年末まで維持すれば、バランスシートは現在の国内総生産(GDP)比37%から約20%にまで縮小されます。

その影響はインフレ率に対して25~125ベーシスポイント(0.25~1.25%)に及ぶと推定されています。

■リセッション入りすればS&P500は3300ドル台に下落も

4.リセッション確率

FRBの強力なインフレ封じのあと、リセッション(景気後退)は訪れるのでしょうか。その確率についてはあらゆるアナリストの予想が飛び交っており、平均的にみると40%ぐらいと想定されています。

キーポイントになるのは、アナリストの予想するS&P500銘柄の売上高純利益率(net margin)がまだ非常に高いということでしょうか(“US Profit Margin Estimates Are Too Optimistic, Goldman Strategists Say” By Sagarika Jaisinghani, 28 June 2022, Bloomberg.)。この楽観的予想が否定されてしまうような状況が起きれば、本格的なリセッション入りが意識されると考えています。

もしリセッション入りした場合、現在3800ドル前後で推移しているS&P500指数は、テクニカル的にみて3300ドル程度まで下値を目指す可能性もあり得ると考えています。

■秋の中間選挙の影響は?

5.アメリカの中間選挙

11月8日にアメリカの中間選挙がやってきます。中間選挙とは、4年に1度の大統領選挙の中間の年に行われる連邦議会選挙のことです。中間選挙では、上院の議席の3分の1(2022年選挙は100議席中34議席)、下院の全議席(435議席)が改選されます。

アメリカの選挙のキャンペーンバッジ
写真=iStock.com/Liliboas
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Liliboas

中間選挙の年は株価が下がりやすく、そしてその翌年から株価が上昇するというアノマリー(理論的には説明できないが、経験的に市場でよく見られる規則性)は確かに存在しています。

ただ今回はアノマリーよりも、各国の金融政策、インフレによる企業業績の悪化、さらに史上最大の金融緩和からの史上最大の規模かつ最速ペースでの金融引き締めに焦点を当てて、慎重に投資を継続すべき局面だと思います。

現在民主党は上院と下院で過半数を獲得していますが、直近のインフレ対策の失敗などが響き、アメリカの予想サイトでは少なくとも下院で過半数を失う可能性が高いとみられています。筆者も同じ意見で、そうなれば大統領は民主党、議会で主導権を握るのは共和党という「ねじれ」が発生することになります。今でさえほとんど政策が機能していないのに、その状況にさらに拍車がかかることになりかねません。

■今後の展望を考えてみると…

これまでみてきた米市場を取り巻く状況をもとに、今後の展望を考えてみましょう。

インフレは、ピークアウトする可能性が出てきています。6月末にはそれを先行して織り込む形で、米国債の短期金利・長期金利がともに急落しました。ただ、今後の景気後退を織り込んでヘッジ的に債券が買われたとも考えられるので、これで完全にインフレがピークアウトしたと考えるのは時期尚早かもしれません。7月の利上げ後の状況をみて、ピークアウトをマーケットが完全に織り込めているかどうかを判断したいと考えます。

次に利上げに関してですが、7月の利上げ以降、今度は2023年に予想される利下げをマーケットが織り込めるかどうかです。インフレはピークアウトしたという認識の下に、1年後の利下げは実行される見通しが高いと市場参加者の大半が考えるようになれば、マーケットの動きが底堅くなることも考えられます。

QTはFRBが予定したとおりのスケジュールで進むと思います。もしリセッションになった場合はこのスケジュールに変化が加わるかもしれませんが、ほぼ既定路線として考えておけばいいかと思います。となると、2024年末には引き締め策がいったん終了するだろうということを頭にいれておくべきでしょう。

■リセッションに突入する確率は40%ぐらい

リセッションが到来する確率については、「2022年末もしくは2023年上期に来る可能性が40%ぐらい」と考えればいいかと思います。それを決めるのは、今のところアナリストたちが楽観的に予想している米企業の売上高純利益率がどうなるかでしょう。実際の決算での数字がアナリストの予想を下回った場合、現在の株価の根拠は弱くなりますから、2022年後半のリセッション入りというシナリオが現実味を帯びてきそうです。

中間選挙に関しては、どういう結果が出ようともマーケットは動揺すると思います。民主党が敗北すれば、大統領府と議会のねじれを嫌気して株価が一時下落するかもしれません。一方で、共和党が上院・下院の両方で過半数を取った場合、逆に今後の期待感からマーケットが勢いづく可能性もあります。これは直前まで判断が難しいと思います。

■8月のジャクソンホール会議に注目

これらを総括していくと、状況が変化するのは、2022年8月に開かれるジャクソンホール会議以降と考えます。ジャクソンホール会議は毎年同月に米ワイオミング州ジャクソンホールで開かれる経済シンポジウムで、世界各国から中央銀行や政治家、学者などが参加します。

7月の利上げで、今後のFRBの利上げの方向性はある程度確定しているでしょう。そして8月のジャクソンホールで、アメリカをはじめ世界各国の金融政策の方向性が、足並みをそろえる形で打ち出されると筆者は考えます。

この時点で、世界中で進行中のインフレに対し、各国がある程度自信をもって沈静化できると打ち出せれば、インフレ対策には一つのめどが立ったと言えます。アメリカにとって残された問題は、QTおよびインフレによる企業決算の減速と、それによって導かれる景気後退の可能性です。ただ7月からの決算に、第3四半期(Q3)以降の業績悪化がしっかり織り込まれた場合は、その後の決算は少なくとも横ばい、あるいは上昇していくことが期待され、株価もそれを織り込んで上昇していく可能性があります。もちろん、企業によってその回復具合は異なってくるとは考えます。

米国株の展望まとめ
インフレ……ピークアウトが前提条件。
利上げ……2023年中に利下げに転じる可能性も。
QT……2023年中旬までに状況が見えるかも。
リセッション確率……これからの企業業績の動向次第。
今後の展望……8月のジャクソンホール会議がターニングポイント。悪くても2024年には景気は回復基調か。ただし、1970年の株価急落時と同じように、2022年の後半から急激に回復するかは疑問。2022年中は慎重な投資姿勢がベターと考える。

■これからの投資戦略とリスクコントロール

株価は1年先の未来を織り込むと考えると、2023年後半には現在の景気後退懸念は落ち着いていると想定できます。そのころには、利上げやQTのインパクトを株価が完全に織り込み切っていると考えられるからです。となると、2022年後半のリセッションの可能性はそこそこ高いながらも、2022年後半から株価が落ち着きだすと考えられます。

したがってここからの投資戦略としては、もし市況が急落した場合は恐れずにS&P500インデックスに投資する、もしくは今後成長が期待できそうなセクターの優良銘柄などにコツコツと投資していく戦略が報われる可能性が高いとみています。

個別株を選ぶ際は、ディフェンシブに「守りながら攻める」ならヘルスケア関連が投資しやすい分野になりそうです。特に保険部門のユナイテッドヘルス(ティッカーシンボル:UNH)や、動物医療において世界1位のゾエティス(ティッカーシンボル:ZTS)などは、投資妙味がありそうです。ただしユナイテッドヘルスは、中間選挙において下院で共和党が過半数を取得した場合、オバマケアの廃止・縮小への懸念で弱含みになる可能性も頭に入れておいてください。

ハイテク関係では、米政府の政策に左右されない強さ、キャッシュフローや今後も続く市場寡占性から、マイクロソフト(ティッカーシンボル:MSFT)やグーグル(ティッカーシンボル:GOOGL)に投資妙味があると考えています。

もちろん今後の動向次第で投資妙味は変わってくると思いますが、市況が下落している今の状況において、第2四半期の決算とガイダンスを見ながら、底堅い銘柄を選好していくことをおすすめします。

■「底値当てゲーム」には参加するな

2022年後半が転換点にならない可能性ももちろんあります。米国株投資家の皆さまには、リスクを取りすぎないことを忘れずに、慎重に投資を行ってほしいと願っています。この局面で一番危ないのが、もし株価が上昇したら取り残されてしまうという感情=FOMO(fear of missing out、フォーモ)から、リスクを取りすぎてしまうことだと思っています。

今は誰もが難しい状況です。「底値当てゲーム」に参加するのではなく、大きな下落が発生した時に、コツコツと着実な投資を積み増して、今後の長期投資の基盤を作るという意識で、慎重に投資を継続していただければと思っています。

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もみあげ 米国株投資ブロガー
1977年福岡生まれ・関西育ち。米国在住歴8年目。2018年9月から米国株投資をスタート。ツイッターで2019年4月から本格的に活動を始め、フォロワーは3年間で16万人。一次情報をメインにバイアスの無い情報を中立に届ける事を重視。Twitterとブログにて米国株の最新状況をタイムリーに発信。著書に『もみあげ流 米国株投資講座』(ソーテック社)がある。

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(米国株投資ブロガー もみあげ)

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