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バキバキと骨が折れても心臓マッサージは続く…救急科の看護師が目を背けたくなった「延命治療」の壮絶さ

プレジデントオンライン / 2022年7月27日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/vm

救命救急の現場では、どのような治療が行われているのか。『自分らしい最期を生きた人の9つの物語』(KADOKAWA)を上梓した看護師の前田和哉さんは「ICUに運び込まれてくれば、延命治療が最優先になる。このため胸の骨をバキバキと折りながら、心臓マッサージを続けることもあった。私はそんな現場に疑問を持って、救急科を離れることになった」という――。

■新人ナース時代に感じた“違和感”

私が看護師としてのキャリアをスタートしたのは、2009年のこと。静岡県内の総合病院に就職し、救急科の集中治療室(ICU)に配属されました。

救急科には昼夜問わず、ひっきりなしに重篤な患者さんが運ばれてきます。中には治療によって回復する人もいましたが、運ばれてきた時点ですでに心肺停止に近い状態で、手の施しようのない方もたくさんいました。

1分1秒を争うような厳しい現場で患者さんの治療やケアに奔走していた私は、看護師として日々やりがいを感じながらも、ある違和感をおぼえるようになりました。

それは、今後回復が一切見込めない、高齢の患者さんに対しても、次々と心肺蘇生や延命治療が行われていくことでした。

■骨が“バキバキ”と折れても心臓マッサージは行われる

実際に救急の現場でどのような救命措置や延命治療が行われていたのか。

まず、患者さんが心肺停止に陥った場合、即座に心臓マッサージが行われます。ただ、強い力で胸骨を圧迫するため、骨がバキバキと音を立てて折れてしまいます。特に高齢の方の場合は骨ももろくなっており、若い人以上にダメージが大きいのは間違いありません。

衝撃だったのは、その折れた骨が肺に刺さって、たびたび出血するということ。患者さんはこの時点で自発呼吸が弱まっているため、人工呼吸器の管を付けることになりますが、その際に吐血のように血が噴き出してくるのです。

さらに患者さんはショック状態に陥っていて、血も止まりにくくなっている。とめどなく流れる血液を吸引したり、拭き取ったりする処置をし続けなければなりませんでした。

血圧も大きく下がってしまいますから、点滴を大量に投与して血圧を上昇させます。すると、全身がむくみ出し、身体に吸収されなかった水分が小さな傷口や点滴の痕などからどんどん出てきてしまいます。吸収シートで全身をぐるぐると巻いて、流れ出る水分を拭き取る処置も欠かせません。

むくみの影響は顔面にも及び、誰だか見分けがつかなくなるほど顔が膨れ上がることもありました。まぶたも閉じなくなり、眼が開いたままの状態になることも……。乾燥を防ぐために、眼の表面に保湿剤のワセリンを塗って、ラップフィルムをかぶせる。そうした処置もナースの仕事の一つでした。

あまりに痛々しくて、目を覆いたくなるような場面もありましたが、実際に医療現場でどのようなことが起こっているのか、知っていただきたいと思い、ありのまま書かせてもらいました。

医療系ドラマの救命のシーンのように、「命が助かってよかった」と軽々しく言えないほど、壮絶な現場であったことは確かです。

■延命治療をしてよかったのかと悔やむ家族

そのことを最も痛切に感じたのは、間近で見ているご家族ではないかと思います。もちろん、医師や看護師が処置をしている最中はご家族に見せることはありません。

ですが、救命や延命措置が行われた後、たくさんの管につながれながら、変わり果てた姿でベッドに横たわっている。その姿を見て、本当にこうした措置を行ってよかったのかと、後悔の念にさいなまれるご家族がいたことも事実です。

病院の待合室
写真=iStock.com/jsmith
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jsmith

なぜ、救命救急の現場でこのような措置が取られるのか?

まず、心肺蘇生や延命治療を行うかどうかについては、ご本人の意識がないため、ご家族に確認します。ところが、ご家族もご本人の意思を把握していないことが多いので、なかなかすぐに決断ができません。その上、救急搬送されたショックもあり、思わず「命を助けてほしい」と、同意してしまうケースが多いのです。

ご家族と連絡がつかない場合も、医師の判断で救命措置がとられることになります。病院はまず「命を救う」ことが第一優先だからです。

ただ、「命を救う」という認識が、病院側とご家族の間で必ずしも一致していないのも事実。ご家族は「どうにか本人の命を助けてほしい」と救命や延命措置に同意しますが、病院はあくまで「救命すること」が目的であって、倒れる以前の状態まで回復できるとは限りません。

■一命を取りとめたとしても、重篤な後遺症をもたらす可能性がある

蘇生行為によって一命を取りとめたとしても、意識不明のままであったり、重篤な後遺症をもたらしたりすることもあります。

それに加え、延命治療を途中でストップすることは困難です。現行の法律に「尊厳死」はなく、もし延命治療を中止した場合、医師の刑事責任が問われる恐れがあります。

そのため、人工呼吸器を一度装着したら、自発呼吸が見られるなど回復の兆候が見えない限り、外すことはできず、意識がないまま何年、何十年と延命され続けるケースも少なくありません。

その間、家族が通院して介護することになり、精神面、肉体面のみならず、経済的にも多大な負担を強いられます。

■何度も話し合いを重ねることで「本人の意思」をくみ取れる

人生の最終段階において、自分がどういう最期を迎えたいのか? 家族や医療・ケアチームと前もって話し合う、「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」、通称「人生会議」の重要性が叫ばれています。

「ACP(人生会議)」は、厚生労働省を中心に普及活動が行われていますが、中でも強調されているのが、本人と家族、医療・ケアチームの間で「繰り返し話し合う」という点です。

なぜ、話し合いを重ねたほうがいいのかというと、心身の状態によって本人の意思が変わる可能性があったり、家族の側が本人に対して望むこともあったりするからです。

ハレ代表取締役の前田和哉さん
写真提供=筆者
多くの終末期患者の看取りに携わってきた、ハレ代表取締役の前田和哉さん - 写真提供=筆者

例えば、本人は「家族に迷惑をかけたくないから、延命治療はしたくない」という想いを持っていても、家族は「できるだけの治療を受けて長く生きてほしい」と願っている場合もあります。お互いに想いをすり合わせることが、本人だけではなく残される家族にとっても、悔いのない最期につながりやすくなるのです。

近年の終活ブームにより、エンディングノートを書く人が増えましたが、書いておくだけでは残念ながら不十分です。

せっかく書き記しても机の引き出しにしまったままでは、いざというときに見つけてもらえず、自分の意に沿わない最期を迎えるリスクもあります。自分の意思は家族や身近な人と共有してこそ、初めて意味を成すものだと考えます。

■術後のリスクや後遺症を事前に理解しておくべき

また、人生会議を行う際には、かかりつけ医や担当の医師など、医療従事者を交えることをおすすめしたいです。というのも、延命治療にはどういうものがあり、その治療によって実際にどういうリスクがあるのか、医療者の立場でないと詳しくわからない部分があるからです。

これは私自身の家族のケースになりますが、以前こんな出来事がありました。

祖母が脳腫瘍を患い、手術をするかどうか家族内で話し合った時のことです。

祖母は、「どうしても手術がしたい。失敗しても自分が死ぬだけだから、責任は自分で取る」と言っていたため、家族もその想いに同意したのですが、現役の看護師でもある私は「待った」をかけました。そこでこう告げたのです。

「厳しいようだけど、もし手術が失敗した場合、重い障害が残り、寝たきりになるリスクもある。そのままずっと介護が続く恐れもあるよ」と。すると、家族は「そこまで想像していなかった」と言い、改めて手術をするべきかどうか考え直したのです。

結果的に手術を受けることになりましたが、術後のリスクや起こり得る後遺症を理解し、覚悟を持った上で治療に挑むのと、何も知らずに挑むのとでは、その後の事態の受け止め方が変わってきます。

私の場合はたまたま医療従事者の立場から意見が言えましたが、そうした医療の面からの視点も加えることで、より納得のいく決断がしやすくなるでしょう。

■本人の意思を伝えられる代理人の存在が重要

終末期における延命治療については、さまざまな方法があります。いわゆる三大延命治療と言われているのが、「人工呼吸」「人工栄養」「人工透析」です。

中でも、口から栄養が取れなくなった場合に行われる「人工栄養」は種類も幅広く、点滴で注入する「末梢(まっしょう)静脈栄養法」、心臓に近い太い静脈に注入する「中心静脈栄養法」、鼻からチューブで胃に送る「経鼻経管栄養法」、胃に直接チューブで送る「胃瘻(いろう)」などがあります。

これらの治療は具体的にどのように行われるのか? 治療を行うことによってどのようなリスクがあるのかなど、それぞれのメリット・デメリットについて、医師から十分な説明を聞くと同時に、不安な点を確認しておくといいでしょう。

患者さん本人が自分の意思を明確に伝えられる場合はよいのですが、終末期の時にはすでに話せる状態にないことも多いかもしれません。

その場合には、本人に成り代わって、意思や希望を伝えられる代理人(代理意思決定者)となる人がいるとスムーズです。

前田和哉『自分らしい最期を生きた人の9つの物語』(KADOKAWA)
前田和哉『自分らしい最期を生きた人の9つの物語』(KADOKAWA)

例えば、「父(母)は、昔から食べることが好きで、『口から食べられなくなったら寿命だ』と言っていた。だから、胃瘻(いろう)の造設はしないでほしい」といったことや、「本人は延命治療を望んでいないが、痛かったり苦しかったりするのはとても嫌だと言っていた。最期、苦痛だけでも取り除いてもらえないか」など、本人の望みをまるで“影武者”のように医師に伝えられるとベストです。

そのためにも、「自分がどういう最期を迎えたいのか」を日頃から家族や身近な人に伝えておくと同時に、家族自身も本人の意向や考え方を知る努力が必要だと言えます。

幸せな最期とは、自分の望んだ形で人生のゴールテープを切れること――。多くの終末期の患者さんやご家族を見てきて、そう実感しています。

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前田 和哉(まえだ・かずや)
看護師
2009年、京都大学医学部保健学科看護学専攻卒業。聖隷浜松病院救急科集中治療室を経て、2014年、ケアプロ株式会社にて4年間で、訪問看護師、在宅医療事業部長、事業所長を歴任。現在、ハレ代表取締役。2018年、多くの救命医療や看取りの現場で得た経験をもとに、病や障がいを抱える患者さんの夢をかなえる付き添い看護サービス「かなえるナース」の事業を開始する。著書に『自分らしい最期を生きた人の9つの物語』(KADOKAWA)がある。

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(看護師 前田 和哉)

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