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だから過去最大の感染爆発が起きている…コロナ感染した現役医師が語る「BA.5の本当の怖さ」

プレジデントオンライン / 2022年7月26日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/imaginima

■数百人の感染者を診療してきたが、ついに

とうとう感染してしまった。新型コロナウイルスに、である。一昨年に始まったコロナ禍以降、現在に至るまで、おそらく数百人の感染者を直接対面で診療してきた私だが、実際に感染したのは初めてだ。

幸い軽症で、発症後2日目には症状はピークアウト。入院加療を要する事態には至らずに済んだが、実際自分が罹患(りかん)して自宅療養者となったことで、感染急拡大の今こそ緊急に解決すべき重要な問題に気づくに至った。

今回緊急寄稿を思い立った理由は、これらの問題を広く共有し、多くの自治体において迅速に対処してもらうことで、全国各地の医療体制をいかに崩壊させずに保ち、それによって手遅れの人をいかに増やすことなく第7波を乗り切るか、この一点の願いに尽きる。

はじめに一言お断りしておくが、今回の私の体験談には、私の医師という職業柄、一般の方々には同様に当てはめることができないことや、利用できない手段等が登場する。ただこれらもその後に述べる問題点を炙り出すことにもつながると思われるので、その点はご容赦いただければと思う。

■ノドの痛みは違和感程度で微熱だったが…

体調の異変に気づいたのは7月15日。皮肉にも、ちょうど直近の拙稿「感染拡大のたびに『行動制限と自粛』はもうやめよ…現役医師が訴える『コロナ第7波』で本当にやるべきこと」が配信された当日の夕方のことである。

連日の発熱外来、通常診療を終えての帰途、なんとなく鼻の奥がヒリヒリする感覚と、いつにも増した疲労感を自覚した。「やや、もしや?」と一瞬不安が頭をよぎったが、これまでこれだけ新型コロナ診療を続けてきて感染してこなかったのだから今さら罹(かか)るわけがない、という根拠なき自信がその不安をかき消した。

久しぶりの3連休前日ということもあり、晩酌もいつもより多め、いや正直なところ深酒となった。0時半ごろに就寝。飲み過ぎもあってか2時半に尿意で覚醒。そのときすでに鼻の奥の違和感はノドの痛みに変わりつつあった。その後、朝までの間はノドの痛みを自覚しつつの浅い眠りだったのだろう。コロナに感染してしまった夢を見ていたような記憶がある。

翌7月16日は7時に起床。ノドの痛みはあるものの違和感レベル、昨夜の深酒のせいかと思われるレベルの頭重感と軽い咳、痰がらみを自覚した。コロナ禍以前であれば「ただの風邪気味」と思ってしまう症状だが、ここ数年インフルエンザはおろか風邪すら引いたことがなかった私にとってはかなりショッキングな事態、不安が現実のものとして襲いかかってきた。

即座に検温してみたところ37度4分。発熱している。この時点で私は「新型コロナに感染してしまった」と確信した。

■迅速抗原検査を行い、買い出しを頼み、勤務先に連絡…

わが家には私の職業柄、万が一の事態にすぐ対応するため、主たる勤務先から新型コロナの迅速抗原検査キットを家族人数分もらって常備していた。PCR検査に使う唾液採取用の容器も常備していたのだが、だいぶ前に息子が学校で濃厚接触者に該当したときに使ってしまった後、補充するのを忘れたままとなっていた。

だが、仮にPCR用の唾液を採取できたところで勤務先までは片道1時間以上。持って行くわけにもいかないし、結果が出るのも翌日以降だ。いずれにせよ私はすでに「有症状者」。持論に忠実に、迷わず迅速抗原検査を行った。

患者さんには数多く行ってきたが、細いとはいえ綿棒を自分の鼻腔の奥深くまで挿入するのはかなり勇気が要る。患者さんにいつも言うように「半眼で鼻に力を入れず、鼻からフーンと軽く息を吐く」を実践して粘液を十分に採取した。結果は判定時間の5分を待たずして陽性となった。私の新型コロナ感染が確定した瞬間である。

まず家族の症状と体温を確認。無症状であったが今後いつ発症するか分からないので、すぐさま開いているスーパーへ数日分の買い出しを頼んだ。同時に主たる勤務先に連絡を入れ、自己検査陽性を伝えた。

■発熱外来で診断確定を待ってはいられない

前稿に書いたが、自己検査陽性の場合でも医療機関を受診して再度検査を受けなければ診断確定とならないという運用がいまだ主流だが、私の主たる勤務地の千葉県では7月13日付で自己検査陽性ならば、それをもって診断としてよいとの通知が保健所から出されていた。

そこでこの自己検査陽性結果をもって、勤務先から保健所へ届け出てもらうことにした。ただこのように一連の自己検査から保健所への届け出依頼までの流れが迅速に完了し得たのは、私が医療者であったからにほかならない。

一般の方々の場合、検査キットが手元になければ、まず発熱外来を予約するところから始めなければならない。感染爆発している現在、どこも予約はすぐに満了だろう。市販の「体外診断用医薬品」であるキットが手元にあって自己検査で陽性を確認しても、まだ多くの自治体では外来を受診しなければ診断確定とはならない。発症から診断確定、届け出まで早くとも2日、遅ければ数日かかりかねない状況なのだ。

私は自ら浴した恩恵を自慢しているのではない。誰もが私と同様の迅速さで対応されるべく体制を整えるべきだと提案したいのである。

■感染して目の当たりにした2つの問題点

主たる喫緊の問題は2点だ。まず第1は、発症後いかに速やかに検査に到達できるかだ。前稿にも書いたが、検査には抗原検査とPCRがある。精度からいえばPCRであるに越したことはないが、正直なところ、現状そんな悠長なことは言っていられない。

抗原検査は見逃しがあるため陰性は信用できないが、有症状で陽性ならばほぼ診断は間違いない。しかも結果はすぐに出る。各家庭内に十分な数のキットがあれば、検査のためだけに発熱外来を受診する必要はないのである。

もちろん発熱はコロナだけとは限らない。他疾患の可能性を考えねばならないのは前稿にて訴えたとおりだ。だが症状がさほどつらくなく、「ちょっと風邪気味かも」という症状であれば、まずは家庭内で迅速抗原の自己検査をするという選択肢は多くの市民に等しく与えられるべきである。

軽症か重症か、無症状か有症状か。たしかにこの判断も簡単とは言い切れない。私が医者ゆえに自分で判断できたのではないか、と思う方もおられるだろう。もちろん自分で判断できない方や、自分の判断に不安がある場合は躊躇なく受診すべきであることは言うまでもない。そして自己検査で陰性であっても「コロナではない」と思い込んでは絶対にいけない。これも何度も言ってきたとおりだ。

■「自己検査→病院で診断確定」ではずっと放置されてしまう

第2は、自己検査で陽性となった場合に、改めて医療機関を受診せねば診断確定とされないという現状だ。まず検査陽性者が受診できる医療機関が限られている。運良く近所にあったとしても、外来機能が逼迫(ひっぱく)している現状で即日受診できるとは限らない。受診できなければ保健所への届け出もなされない。保健所に届け出されなければ、フォローアップもされないし、食料品など自治体からの物資提供もない。陽性という結果を手元に置きながら、不安とともに過ごさなければならないのだ。

新型コロナの迅速抗原検査キットで確認中
写真=iStock.com/ShutterOK
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ShutterOK

これを解決するには、自己検査陽性者について、ごく軽症や基礎疾患のない人等、重症化リスクの低い人については医療機関に直接受診せずとも保健所に届け出てもらえる体制を構築すればよい。これによって、リスクの低い多数の軽症者が予約枠を埋めることを防ぎ、よりリスクのある人、重症になりつつある人に医療資源を有効に振り向けることが可能となり得るのだ。

検査キットの各家庭への無料配布、自己検査陽性者の迅速な感染者認定登録、この2点は、感染急拡大の今、感染者の保護救済と医療機関の逼迫緩和の双方の意味からも、緊急にすべての自治体で導入されるべきだ。自己検査陽性を踏まえて確定診断する医師が足りないという報道もある。これまで診療に協力的でなかった医療機関にも声をかけ、総動員で対応する必要があるのではないか。

■やはりワクチンは効いていることを実感

さて私の症状はその後、発症翌日の夕方から夜にかけて38度2分の発熱があった以降は解熱傾向となり以後微熱。発症後3日目朝には完全に平熱となった。咽頭痛も軽度で咳もたまに出るのみ、味覚・嗅覚障害もなく食欲旺盛でむしろ肥満が心配になってしまうくらいであった。

ワクチンについてはネットで種々の意見を見るが、自分の症状、そして日々の診療でのワクチン接種者と未接種者の感染後の症状の違いを鑑みれば、ワクチンの重症化低減効果はあると思わざるを得ない。感染防止ではなく重症化抑止の観点から、私は少なくとも3回のワクチン接種は勧めたい。

保健所に届け出されると、携帯のSMSにMyHER-SYS(マイハーシス)という新型コロナ健康状態入力フォームの案内がその当日に届く。指定されたURLにアクセスし、メールアドレスや与えられた認証コード、パスワード等を設定し入力するのだが、微熱で軽症の私でさえ、このような入力作業はしんどかった。私より症状のつらい方やネットに不慣れな方は、これらの入力を自分で行うことは困難だろう。

保健所からの直接の電話連絡は7月18日(発症後3日目)に初めてあった。届け出記載事項の正否、症状経過、宿泊療養希望の有無、配食サービスの案内、今後のフォローアップ連絡について看護師から説明を受ける。私の場合、すでにこの前日には症状のピークは過ぎていたため、宿泊療養は希望せず自宅にとどまる選択をした。

■「コロナ=重症」という思い込みが感染リスクを増やす

その後は連日、24時間体制の都の自宅療養者フォローアップセンターから電話で状態確認がくることとなった。そこで知ったのだが、やっとの思いでログインしてMyHER-SYSに入力した自分の健康状態データは、フォローアップセンターとは連動されておらず確認できないとのことであった。

一番つらいときに入力したものが無駄と知って脱力したが、MyHER-SYSの登録自体はいずれ大切になる。療養後の保険金請求の際に必要となる「療養証明書」が、このMyHER-SYSから発行できるからだ。健康状態の入力はせずとも登録だけはしておいたほうがよいだろう。療養証明書は医師の確定診断がなされて初めて発行されるものゆえに、医師の診断体制が崩壊してしまうと保険金を受け取れない人も続出してしまいかねないのだ。

自らが医師とはいえ、看護師の方に直接状況を話し疑問を聞くことができるこのフォローアップセンターのサービスは、非常に心強く思えた。一般の方々であればなおさらだろう。さすがに2年。他の自治体の現状は分からないが、少なくとも都内においては思っていたより不安のない自宅療養体制が作られていた。

幸い私はこのまま軽症で済みそうだが、現在主流といわれているBA.5は危険ではないのか。これについてはまだ軽々に判断すべきではないだろう。ある専門家は基礎研究の結果であるとしながらも、「肺で増殖しやすい可能性」を指摘している。とはいえ「新型コロナは重症化しやすい恐ろしいウイルスだ」との認識を強く持ち続けることは、かえって感染拡大のリスクを増やしかねない。それはどういうことか。

■もし「ただの風邪」と決めつけて検査しなかったら…

発症からの経過を先にお示ししたように、今回私は「ごく風邪の引き始め」の段階で検査したことで、新型コロナに感染したことが発症から数時間で確定できたわけだが、このとき検査していなかったらどうだろう。

翌日は熱が出たが1日で下がってしまっている。発症後3日目にはすっかり解熱し多少咳は出るものの体調的には出勤できるほどにまで回復していた。「新型コロナ=重症」との思い込みがあると、「こんな軽い症状なら新型コロナのはずはない」と検査も受診もせず、まだ感染力のある状況で職場や学校に行ってしまう危険性があるのだ。そうした行動は、言うまでもなく感染拡大の新たな「核」となる。

本稿を執筆しているのは発症後5日目の7月20日。ほぼ症状は消失しているが、再度試しに抗原検査を行ってみた。キットはまだくっきりと陽性反応を示した。発症直後に検査し診断できていなかったら、「ただの風邪」と思っていたら、私は今ごろこの状況で高齢患者さんの訪問診療をしていたかもしれない。そう考えるとゾッとしないだろうか。

2020年、夕日がさす渋谷スクランブル交差点
写真=iStock.com/Eloi_Omella
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Eloi_Omella

■「迅速に検査する、できなければ休ませる」を徹底すべき

もちろん軽症の人ばかりとは限らない。状態が悪化してきた際に、フォローアップセンターを通じて迅速に医療機関の受診につなげてもらえるのかどうかは多くの人が抱く懸念だろう。このまま感染者が増大すれば、高齢者や基礎疾患のある人、ワクチン未接種者などリスクのある人たちの重症化によって、外来のみならず入院機能も逼迫からまひに陥りかねない。

だからこそ可能な限り迅速な検査と診断、もし検査を行えないのであれば体調不良を押しての出勤や登校は行わないし行わせない、収入を気にせず休める体制を万全に担保することが重要なのだ。

逼迫している現場の医療者の間では、すでに受診抑制もやむなしとの声も上がりつつある。わが国の「フリーアクセス、ハイクオリティ、国民皆保険」は、よく“世界に誇る医療制度”と言われるが、なんのことはない。これらは現場の努力でギリギリ保たれていたように見えていただけであって、じつはその基盤は極めて脆弱だったのである。

「検査したいのに受診したいのに、発熱外来はどこも予約満了、どうすりゃいいんだ!」との怒りの気持ちは痛いほど理解できる。だがその怒りは医療機関やそこで懸命に働く医療従事者にぶつけるのではなく、このような脆弱な医療体制を長年にわたって放置してきた政治の不作為に、ぜひぶつけていただきたい。そして一日も早くまっとうな医療政策を行うよう声を上げていただきたい。その声は決してムダにはならないはずだ。

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木村 知(きむら・とも)
医師
医学博士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士。1968年、カナダ生まれ。2004年まで外科医として大学病院等に勤務後、大学組織を離れ、総合診療、在宅医療に従事。診療のかたわら、医療者ならではの視点で、時事・政治問題などについて論考を発信している。著書に『医者とラーメン屋「本当に満足できる病院」の新常識』(文芸社)、『病気は社会が引き起こす インフルエンザ大流行のワケ』(角川新書)がある。

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(医師 木村 知)

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