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大麻、コカイン、ヘロイン、危険ドラッグ、MDMA…すべてを経験した男が「二度と御免」と話すクスリの名前

プレジデントオンライン / 2022年7月27日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/urbazon

違法薬物のなかで最も禁断症状が激しいクスリはどれか。元厚生労働省麻薬取締部部長の瀬戸晴海さんは「さまざまな薬物を経験し、慢性中毒に陥って命を落とした薬物乱用者がいる。彼は、ヘロインは効果が切れた後の苦しみが激しく、『二度と御免だ』と語っていた」という。瀬戸さんの新著『スマホで薬物を買う子どもたち』(新潮新書)より紹介する――。(2回目)

■世界中で急速に蔓延している危険な麻薬

依存性薬物の種類と作用について説明しましょう。

捜査現場で押収される薬物は30~40種におよびますが、日本で主として乱用されているのは、覚醒剤、大麻、コカイン、MDMA、LSD、睡眠薬および指定薬物(危険ドラッグ)の一部です。

ただ、近年では「ケタミン」という麻薬の乱用も顕著になっています。ケタミンは麻酔薬の一種で、幻覚および抑制作用を有しており体外離脱感覚(意識が身体から離れ、自分の身体を空中から見ているような感覚)も生じるとされます。

粉末形態で出回っており、クラブではMDMAのようにパーティードラッグとして使われています。すでに世界的に流行していて、中華圏では「Special K(スペシャルケイ)」や「K他命(ケタミン)」などと呼ばれ、若者が使用する薬物のトップの地位を占めている。日本でも今後、急速に蔓延することが懸念されます。

ヘロインは日本では1960年頃に大流行しましたが、現在では捜査の現場でもほとんど見聞きすることがありません。危険ドラッグの一種で悲惨な事件、事故を誘発した合成カンナビノイド類も下火になってきています。1990年代後半に流行したマジックマッシュルームと呼ばれる幻覚キノコも、2002年に国が麻薬原料植物に指定してからは姿を消しました。薬物にも、時代に応じて流行り廃(すた)りがあるわけです。

覚醒剤、コカインなどは脳を刺激して強制的に興奮させる興奮系(アッパー系)。ヘロインや大麻、睡眠薬は脳を麻痺させて気分を鎮めたり眠らせたりする抑制系(ダウナー系)。LSD等の実際には存在しないものが見えたり聞こえたりする幻覚系(サイケデリック系)に分類されています。

大麻は、幻覚作用も有しており、MDMAは、興奮と幻覚作用、ケタミンは幻覚と抑制作用の両方を有しています。

■乱用者「健太」が語る違法薬物体験記

私が何度か逮捕し、また、病院に搬送した薬物乱用者に健太という男がいます。生きていれば40代後半になりますが、残念ながら一昨年、心筋梗塞で命を落としました。原因は覚醒剤の過剰摂取と推察されます。

健太は学生時代にバックパッカーとして東南アジアや欧米各国を旅しました。そこでまず大麻を覚え、その後、覚醒剤、コカイン、MDMA、LSD、ヘロインと次から次に新しい薬物を経験。危険ドラッグやペヨーテ(アメリカ南西部からメキシコ中部を原産とするウバタマサボテン。メスカリンという麻薬幻覚剤を含有する)まで経験したと聞いた時は、さすがの私も驚きました。

3カ国語を操る語学に長けた男で、大学卒業後も定職に就かず、思い立ったように海外放浪の旅を続けながら、時折、通訳をして生活費を稼いでいました。この健太が、ことあるごとに実体験に基づく薬物の作用を私に話してくれたのですが、これが未経験者にも分かりやすい。

読者の皆さんに薬物を体験してもらうわけにはいかないので、イメージを掴むためにその一部を紹介しましょう。

例えば、「麻薬の王」の異名を取るヘロインについて、健太はこう話しています。

「禁断(退薬症状)が一番きついのはヘロインだね。心も身体もズタズタになる。ヘロインを注射するとなんとも言えない暖かさと幸福感が味わえるけど、効果が切れた瞬間、一気に地獄に突き落とされる感じ。骨や臓器がバラバラに引きちぎられるような激痛に襲われてね、皮膚も冷えきって体毛が逆立つんだ。涙と鼻水が止まらないし、下痢だって続く。“助けてくれ、許してくれ”と何度、神様にお願いしたことか。解毒施設に入所して何とか立ち直ることができたけど、ヘロインだけはもう二度と御免だね」

■渋滞にはまった車内で各種ドラッグをやるとどうなるか

健太は、さまざまなドラッグの効き目について、「例えば深夜、新宿駅に向かって新宿通りを車で走行中、新宿三丁目の交差点あたりで渋滞が発生したとしよう。そんなとき、車内でドラッグをやるとどうなるか」などと、体験談を交えて語ってくれました。

「まず、覚醒剤を注射すると、気分が高揚して全身に力が漲(みなぎ)ってくるんだ。眠気がすっ飛んで疲れも感じなくなる。ところが、そのうち、ちょっとした渋滞にもイラ立つようになる。スマホをいじって気分を紛らわそうとしても、イライラは募るばかり。前の車に向かって“何やってんだ、早く行けよ!”と叫びたくなる。クラクションを鳴らすこともあるし、対向車がハイビームを向けて走ってきたら無性に腹が立って“コラー!”と怒鳴りたくなるからね。喧嘩しても負ける気がしない。車が流れ出すと、思わずアクセルを踏み込んで、前の車を一旦あおってから追い越す。後ろからパトカーが迫ってくると、“おいおい、追いつけるのか? きてみろよ!”と叫んでしまうかもしれないね」
「これが大麻の場合は全く違うんだ。渋滞に関係なくリラックスしてくる。“そんなに急いでどうすんだよ。ゆっくり走ろうぜ”ってね。車内に流れる音楽が繊細に聞こえて、“いいね! この曲”と口ずさんでしまう。効き目の強い大麻リキッドを何服か吸うと、ネオンサインや対向車のヘッドライトがキラキラして、イルミネーションを眺めているような錯覚に襲われるんだ。でも、ハッキリ言って到底、まともな運転はできないな。とにかく反応が鈍くなるから事故を起こすこと請け合いだよ」
「LSDだって? あれは大麻よりもっと強烈だな。時間の感覚がなくなって、光の渦のなかに放り込まれたみたいに、幻想的な雰囲気に包まれるんだ。走り去って行く対向車のライトが残像となって目の奥に残るし、信号が巨大化して襲って来ることもある。まぁ、何がなんだかワケが分からなくなるわけ。そのうちに運転中という意識も消し飛ぶから、LSDをキメながらハンドルを握るなんて殺人行為だよ!」

ちなみにヘロインの場合は、「キマっている最中は暖かい毛布に包まれているような感じで、身も心も軽くなって雲の上を彷徨っていると錯覚する。まぁ、運転なんかは無理だね。居眠り運転するだろうから」だそう。

■すぐにイラつくのは覚醒剤、不安になるのはヘロイン

健太はさらに場面を変えて話を続けます。例えば、渋滞を抜けて家に帰り着いたものの、玄関の鍵を忘れたことに気づいた。なかには妻がいるはずだけど、チャイムを鳴らしても一向に応答がない。こんなときはどうなるか――。

「覚醒剤だったら、すぐにイラつきが始まって、それが怒りに変わってくる。扉をドンドン叩きながら“帰ったぞ、開けろ!”と繰り返し大声で叫ぶだろうね。自宅が戸建てなら庭に回って窓をガタガタ力任せに揺するはず。そのうち“もしかして、俺を閉め出して浮気してるんじゃないか?”という猜疑心に襲われて、“オイコラ! ぶち壊すぞ!”と叫びながら窓を割って侵入するかもしれない」
「その点、大麻ならさほど気にならない。“どうしたのかな? 眠いけど、まぁ、いいか。夜風に吹かれてもう1本吸うか”と、こんな感じだ」
「LSDの場合は、そもそも自分がどこにいるかもよく分からないからね。鍵穴を覗き込んで“あー、これ、万華鏡じゃねえか。すげー”と引き込まれて行くだろう。それどころか、煙になって鍵穴から部屋に入って行く自分を見ることができるかもしれないよ」
「そのまま玄関に横たわって幸福感に浸り続けるのがヘロイン。ポワンとした気分のままね。ところが、意識の片隅で“もし効果が切れてきたらどうしよう。残りのブツは部屋の中だ。部屋に入れなければ地獄が始まる……”と大きな不安に襲われるようになるだろう」

廊下の床に座っている動揺した男
写真=iStock.com/Ivan-balvan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ivan-balvan

■使用者は「ゾンビ」と敬遠されるドラッグ

それぞれの薬物の作用について、イメージだけでも理解してもらえたでしょうか。健太の言葉は少々大げさで、極端とも言えます。でも、私はなぜか共感できるのです。多くの使用者に接するなかで、このような具体的な供述は少なくありません。

私が「コカインやMDMAはどうなんだ。危険ドラッグもやったのか?」と、その使用感を尋ねると、健太は悪びれることなく続けました。

「コカインはハリウッド映画にもよく出てくるお洒落なドラッグで、鼻からスニッフィングして使うだろ。効果は覚醒剤と似ているけど、20~30分しか持たないから、覚醒剤の方が安あがりでいいな」
「MDMAはあまり好きじゃない。若い頃はクラブに繰り出すときの必須アイテムだったけどさ。若い奴向けのドラッグだよ。元気が漲って、なぜだか周りの連中に親近感を覚えるんだ。例えばクラブで1錠飲んだとしよう。30分もすると、見ず知らずの奴らと一緒になって騒いでる。でも、なぜかクスリが効いている間は、歯を食いしばったり、歯ぎしりをしてしまう。クスリが切れるとなんとも言えない焦燥感に襲われるね」
「ちなみに、危険ドラッグは本当に危ないよ。アメリカにいるとき、“合成大麻”と呼ばれるスパイスゴールド(商品名:合成カンナビノイド類の一種がハーブに添加されている)を試してみたけどさ。たった2、3服で意識がブッ飛んだ。大量に吸引した友達が突然、“ウォー!”と喚きながらバスの下に潜り込んで、地面に頭をぶつけだしたこともあった。血だらけになっても、なおガンガンと叩きつけている。危険ドラッグは簡単に人を狂わせてしまうドラッグだ。使用者は“ゾンビ”と気味悪がられていたし、流行期には多くの死者が出てるだろ。あれはドラッグじゃない、ただの毒だよ!」

曇ったガラスの後ろに閉じ込められた女性
写真=iStock.com/baona
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/baona

いずれも「なるほどなぁ」と、的を射た話に思えました。

■覚醒剤の魔力に取りつかれた男の最期

語学に興味があり、海外の庶民文化を学びたいという思いから、バックパッカーになった健太。旅先で気が緩んだのかは分かりませんが、マレーシアのペナン島で知り合った現地の男の誘いで大麻を覚え、一気にドラッグの深みに嵌(はま)っていったそうです。

ネパールのポカラでは“ロイヤルネパール”というTHC濃度が高い大麻に出会い、ますます大麻通に。その後、タイのパタヤでヤーバ(錠剤型覚醒剤)、クラトム(幻覚剤ミトラギニンを含む植物:日本では指定薬物として規制)などの薬物に接し、ロサンゼルスやロンドンでは、コカインやMDMA、LSDを経験します。

大学卒業後、再び訪れた東南アジアでヘロインに溺れ、地獄の苦しみを味わいます。施設に入って何とか立ち直ったそうですが、帰国後、今度は覚醒剤の注射使用に嵌ってしまいました。そして、入退院を繰り返し、最後には心臓病で命を落としています。「肝臓をはじめ全身の臓器に障害が出ていた」と彼の姉は話していました。

■刑事的な措置でも医療的な措置でも治らない

単なる興味から大麻に手を出し、それからよりハードな薬物へ移行。ついには命を落とすという悲しいケースです。覚醒剤では慢性中毒に陥り、治療で回復しても、また、覚醒剤の魔力に引き戻されてしまう。

瀬戸晴海『スマホで薬物を買う子どもたち』(新潮新書)
瀬戸晴海『スマホで薬物を買う子どもたち』(新潮新書)

「スマホとネットがあれば世界中どこからでも安いエスを買うことができる」と仲間内に豪語していたそうですが、結局、依存から脱却することはできなかった。

20年ほど前に、彼の姉から相談を受けたことがきっかけで彼との縁が生まれ、私は取締官という立場を越えて彼と接してきました。彼の方もなぜだか妙に慕ってくれて、海外からカードを送ってきたり、定期的に電話を寄越しては他愛ない雑談をしていました。それだけに姉から突然の訃報を聞かされたときはショックでした。

深入りすると、刑事的な措置によっても、医療的な措置によっても、薬物から抜け出すことができなくなる。彼の死を通して改めてこの事実を学んだ気がします。

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瀬戸 晴海(せと・はるうみ)
元関東信越厚生局麻薬取締部部長
1956年、福岡県生まれ。明治薬科大学薬学部卒業。1980年に厚生省麻薬取締官事務所(当時)に採用。薬物犯罪捜査の第一線で活躍し、九州部長等を歴任。2014年に関東信越厚生局麻薬取締部部長に就任。2018年3月に退官。2013年、2015年に人事院総裁賞受賞。

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(元関東信越厚生局麻薬取締部部長 瀬戸 晴海)

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