受験直前で「塾をやめたい…」そう言い出した子どものやる気をウソのように復活させた"魔法の声かけ"
プレジデントオンライン / 2022年7月30日 14時15分
※本稿は、プレジデントFamilyムック『日本一わかりやすい小学校受験大百科 2023年完全保存版』の一部を再編集したものです。
■なぜ中学受験ではなく小学校受験を選択したのか
わが家が私立小学校受験を意識し始めたきっかけは、まず、都内の中学受験のハードルの高さを知ったことでした。僕たち夫婦は共に岐阜の田舎育ちで、公立の高校を受験するのが人生初の受験、それが当たり前でした。
ところが、東京に来て、友人知人との子育ての話の中で中学受験の過酷さを耳にし、わが子に受験させるなら、まだ実力差の開きのない小学校受験で一貫校を目指すのがよさそうでは? と、夫婦で意見が一致したのです。
妻も、勉強内容的にもサポートできるのでは、と考えたようでした。
学校を探し始めてすぐA小学校を見つけ、理念や校風が好奇心旺盛な娘の性格にぴったりだと思い、目指すことに決めました。
場違いだと思いながら通い始めた塾でしたが、実際はイメージしていたよりも、さまざまなご家庭がいらっしゃるようでした。
小さな頃から通っているご家庭もあれば、塾に任せきりな親御さん、机に座ることもまだ難しいお子さんなど、いろいろ……。
わが家はしつけについて、他と比べたことがなかったのですが、結構厳しくやっている意識はあったので、逆に「これはイケるかも……」と思ったのも事実です。
■あえてゲームは続けさせた
日常生活のなかで、お受験に役立ったものの一つにゲームがあります。と言うと「ふざけてる?」と思われるかもしれませんが、実際、とても効果がありました。
自身の幼少期の経験から、ゲームは奪われると、余計に強い興味を持ってしまい、その期間が長いほど、大人になってからの揺り戻しが大きくなってしまうと考えています。今の僕がまさにそれ。
これは僕が以前、塾講師をしていたときにも感じたことで、時間を決め、親子で共有することで、なんだこんなものかと、ある程度「飽きるものである」ことを体感させてやるのがベストな向き合い方だと思っています。
漫画にも登場するタイトルで1日30分ほど遊んでいたのですが、季節や動植物、お金の計算などを娘は学んでいきました。また、与えられた指令をこなすことで、受験に必須となる「行動観察」の素地が鍛えられたように思います。
コロナ禍でしたので、公園で季節を体感することも難しい状況でしたが、家の中で基本的な一般常識を学ぶにはうってつけでした。
パーティーゲームでは、ペーパーの空間把握、四方図、回転図形の基礎が得意になりました。どれも受験の必須項目です。
■夫婦喧嘩をしている暇はなかった
お受験で1番大変だったのは、ズバリ、娘のメンタルフォロー、モチベーションの維持でした。塾には年中の6月に通い始めたのですが、親の心配をよそに、好きな先生やお友達もできて、嫌がることなく週2回通っていました。
それでも、妻と娘は時々衝突していました。ケアレスミスが続いたときなど、妻の本音が出てしまい、「もうやらなくていい!」と怒鳴り、結果娘が泣く、といったことがありました。
そのたびに僕が間に入っていました。スポーツ競技に例えると、娘が選手、妻がコーチ、僕が監督といったイメージでしょうか。夫婦喧嘩をしている暇はありませんでした。
むしろ、子供たちが寝てからは夫婦の晩酌タイム。そこで僕に愚痴をもらすのが妻の精神的な支えとなったようです。
塾の年長クラスになると、問題も難しくなり、周りにできる子が増え、娘からぽつぽつと弱音や愚痴が出てくるようになりました。それでも次第にクラスにも慣れ成績はまずまず。ゴールデンウイーク特訓も休まず通い落ち着いていたのですが、体調を崩し寝込んだことで一変、モチベーションが急激に下がりました。
とうとう塾をやめるとまで言い出したのです。
■「塾もやめていい。だけど…」
娘が塾をやめると言い出したとき、親子関係が崩壊することも辞さない覚悟で本気で話し合いをしました。これが僕の中で、最大のお受験メインイベントでした。
まず「塾なんてやめな。いつでもやめていい」と、逃げ道があることを伝えました。
そして、受験をする意味から始まり、なぜこんな問題を解かないといけないのか、また、どれだけ塾や問題集にお金がかかっているのかまで。子供を子供と侮らず、どうせわからないだろうと決めつけず、娘のわかる言葉できちんと伝えることに注力したのを覚えています。
■受験を親の強制ではなく、自分ごとだと娘に感じさせた
この話し合い後は、娘にも目的意識が芽生えたのか、受験が「自分ごと」になったのか、机に向かうことはそれほど苦にならない様子でした。「自分ごととして取り組む」というのはわが家のキーワードでした。
そのためには、普段からコミュニケーションを取っておくことが大切で、わが家は全員おしゃべりですし、小さな頃からなんでも自分の言葉で伝えるよう教えてきました。
娘の話も、ささいなことでもできるだけ夫婦で聞いてきました。塾をやめると言い出した娘の小さな挫折は、今からすれば、親子が本音で話し合えるチャンスだったように思います。
■ゴールがあることを意識づけた
受験の夏は、ちょうど東京オリンピックの時期でした。家族でテレビで観戦中、妻の口から思いもよらぬ名言が飛び出しました。
小学校受験では親が助けてやれるのは学校の門まで。あなたは試験会場に一人で行き入試に向き合わなければならない。でも大丈夫。勝負を終えてゴールテープを切った選手を、待ち構えていたコーチが抱きしめる様子がテレビに映し出されます。
「ゴールでお父さんと待っているからね」。そう伝えたことで、娘は受験にも終わりがくることを意識して、安心して本番に臨めたように思います。
■口癖は「絶対大丈夫」
また、妻は常に「受かるに決まってるよ」と言い続け、最後までブレませんでした。まるでアニマル浜口さんのような妻。
子供が自信をなくしたときにも、親が「絶対に大丈夫」と言い続けることはもっとも大切なことではないでしょうか。
三人四脚で駆け抜けた日々でした。妻は過去問分析の鬼となり、4社の問題集の傾向を分析し尽くし娘の苦手を底上げしました。
僕も願書の作文には仕事以上に本気で取り組みました。それもこれも、今、笑顔で小学校に通う娘を見るといい思い出です。
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漫画家
岐阜県出身。2013年『東京百鬼夜行』(新潮社)で漫画家デビュー。『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』(新潮社)は大きな話題に。主な作品は『そのオムツ、俺が換えます』(講談社)、『宇宙戦艦ティラミス』(原作/新潮社)など。現在は週刊新潮にて『俺は健康にふりまわされている』、週刊モーニングにて『ワンオペJOKER(原作)』を連載中。好きなごはんは、味噌かつ定食。
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(漫画家 宮川 サトシ)
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