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旧統一教会元信者が解明「夫と長男が自殺し、次男が元首相を殺害…それでも信者を続ける母親の"頭の中"」

プレジデントオンライン / 2022年7月25日 18時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Elmar Gubisch

山上徹也容疑者(41)の母親はなぜ、旧統一教会への入信を続けているのか。元信者だったジャーナリストの多田文明さんは「夫や長男の自殺といった家族の悲劇や、次男による凶行事件は、母親が宗教にのめりこみさえしなければ避けられたように思います。母親自身もそれを理解しているはずですが、頭の中は完全に教義につかっており、簡単に抜け出せない状態です」という――。

■自分のせいで家族が破綻…なのに信者をやめない理由

安倍晋三元首相を綿密な計画で銃撃した山上徹也容疑者(41)。すでに報じられているように、その動機については旧統一教会(現世界平和統一家庭連合)に入信した母親が約1億円を献金したことで家庭が破綻したこと、また、元首相のことを教団のシンパであると考えたことがあるとされています。

容疑者ファミリーが歩んだ歴史は壮絶なものです。容疑者の父と兄は自殺、本人も自殺未遂。そんななか、母親は宗教にのめりこみ続け、自宅などを売り払ってまで献金。現在も旧統一教会に在籍し、年金から献金しているといった報道もあります。下記は、現在までに報道されている容疑者ファミリーの主な歴史です。

容疑者のファミリーに起きた出来事】(参考文献『週刊新潮』(7月21日号)ほか)
父親:京都大学卒で、会社を経営していたが、母親(妻)が別の宗教にのめりこんだことを苦に自殺。
:7年前に病を苦に自殺。
母親:夫の生命保険、実父から相続した事務所や自宅を処分し、さらに献金
容疑者本人:自衛隊に入隊していた任期中に自殺未遂事件、奈良県で安倍晋三元首相を銃撃。

家族の悲劇は母親が宗教にのめりこみさえしなければ避けられたものも多いように思われます。

なぜ、自分の大切な家族がつらい目に遭い、息子が自死を選択し、さらに元首相の殺害行為に及んでしまったのにもかかわらず、母親は信仰をやめることをしないのか。不可解に思う読者の方も多いのではないでしょうか。

カルト的な思想を宗教にハマる人の心のメカニズムとはいったいどんなものなのでしょうか。

■旧統一教会「献金はご自身の意思で行う」は本当なのか

旧統一教会の恐ろしさは、筆者のように中に入って信者となったものにしかわからないものがあります。

凶弾に倒れた安倍晋三元首相がビデオメッセージを寄せた旧統一教会の関連団体・UPF(天宙平和連合)には、米ドナルド・トランプ前大統領からもメッセージが寄せられていました。政治家や有名人などが賛同するような関連団体は多くあり、一見すると問題があるようには見えないかもしれません。しかし、外側からだけではあの教団の本質は見抜けません。

白い仮面を手に持つ、スーツ着用の男性
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

7月11日に都内で実施した会見で、教団は「(旧統一教会の)行事や企画で献金要請されることはありません」「献金はご自身の意思で行う」と発言しました。

これを聞いて、元信者だった人の中にも「私も、自ら献金をした」と思っている人がいるかもしれません。しかし、それは違っています。献金するように誘導されているのです。

約10年間、「中の人」となり、その後、ジャーナリストとして長年、詐欺や悪質商法を見てきたからわかることですが、だます側はお金を払わせる際、本人に選んでいるように思わせて、実際のところ、その選択肢しかない状況に追い込んでいることがよくあります。

例えば、一時期、被害の多かったものに「買え買え詐欺」があります。旧統一教会とは直接関係ありませんが、その手口としてはきわめて似た要素があります。

詐欺グループはある高齢者宅に、「近くに○○老人ホームが完成予定した」とのお知らせと、その施設への入居権利の申込書を郵送しておきます。そしてそれが届いた頃に、老人ホームとは関係のない業者を装い、電話をかけます。

「○○老人ホームの完成予定のお知らせと入居権の申し込み書が、お宅に届いていませんか?」
「ありますよ」

「本当ですか? 実はこのホームに入居したい人がいるのですが、それが届いた人しか申し込めないようになっています。代わりに申し込んでもらえませんか?」と懇願してくるのです。

これを聞いた高齢者は次のように思いつきます。

「自分が申し込めば、困っている誰かの助けになるかもしれない」

そう思い申し込み、自分の名義を貸して、高額な権利金を払い、結果的にお金をだまし取られてしまうわけです。詐欺犯らは、高齢者らに「自分にしかできないことだ」と思い込ませて、申し込むように仕向けているのです。これと同じようなことが、旧統一教会の献金や霊感商法による物品購入でも行われています。

■旧統一教会で勧誘する側にいた著者が語る恐怖の“手口”

筆者自身は、大学4年生の頃、旧統一教会を隠した勧誘にひっかかり、教団に入りました。友人からバレーボールに誘われたのがきっかけでした。その後に自己啓発のサークルに誘われて、勉強をすることになります。私が信者だったのは1987年から10年ほどです。

旧統一教会ではその人の持つ悩みや不安に付け入ろうとしてきます。当時の筆者は就職への不安を抱えていました。「ここで学ぶことで視野を広げて、願う企業に就職したい」と思うなかで、自己啓発の勉強に自分で申し込みをしたつもりでいました。その先には、ライフトレーニングなど、信者にさせるためのステップが続きますが、これらもまた自分で選んでいたつもりでした。

しかし、後に組織の内情を知るうちにそうではなく「選ばされていた」ことに気づきます。

筆者は教会内で「講師」と呼ばれる肩書を与えられて、長く務めました。

90年代当時の教会の勧誘手法はシステム化されていて、そのレールに乗せることで、新しい信者を量産していきました。勧誘をする者は、とにかく入口の自己啓発サークルに誘い入れれば良いので、必死になって多くの人に声をかけます。

仮に、会社に勤務しているA子さん(貯金500万円)が勧誘されるケースでお話します。

街頭では「自己啓発の勉強をしてみませんか?」「姓名判断を受けてみませんか?」というだけで、統一教会であることは告げずに、勧誘場所に誘い込みます。自分の人生をよりよくするために、自分は今、何をすべきか。そんな思いや悩みを抱く若者は少なくありません。「自己啓発」というフレーズが刺さるケースもあるに違いありません。

A子さんが声をかけられて自己啓発サークルに入会すると、ビデオでの勉強を口実に、教義を徐々に植え付けていきます。筆者の時にも「聖書の勉強をしている」と思わせながら、実際には、統一教会の教義を教えられました。

数カ月して、教義がある程度、頭にすり込まれたところで、2日間の泊まり込みの「セミナー」に参加させます。ここでは受講生の心に訴えるような講義がなされますが、実はこの「お泊り」が大事で、教団では信者になると、ホームと呼ばれるところで四六時中、共同生活をすることになりますので、その第一歩として2日間のセミナーを経験させます。

互いに肩を組み合い円になる若者たち
写真=iStock.com/franckreporter
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/franckreporter

セミナーを終えたA子さんには不思議な高揚感があり、教団側はすかさず次のステップである、2週間の泊まり込みが基本の「ライフトレーニング」への誘いをしてきます。A子さんは会社に通いながら、夜には講義をして泊り、会社に行くということになるでしょう。

ライフトレーニングの最終日近くで、ようやく「統一教会」であることを告げられます。そして次のステップである、「4日間セミナー(4Days)」に参加することになり、その後も延々とトレーニングは続き、信者となっていきます。

おそらく多くの人は、A子さんは自ら選んで先に進んでいると思うかもしれません。しかし、そうではないのです。すでに教義が心に刷り込まれている状況では、霊界の実在や神様の存在も信じさせられています。神様の言葉を守った行動を取らなければ「不幸になる」「地獄にいく」とも思わされていますので、先に進まざるをえない状況なのです。

特に筆者は長くライフトレーニングの講師を担当しました。ここでは、最終日近くに「統一教会である」ということを告げることになります。

ある時、こんなことがありました。

■統一教会に嫌悪を抱いたのに、自ら飛び込む信者

1992年8月に3万組の合同結婚式がありましたが、それを前にテレビのどのチャンネルも統一教会に関する話題ばかりでした。ライフトレーニングの受講生たち(6~7人)とテーブルを囲んでお昼を食べていました。テレビから流れる合同結婚式の映像に受講生らは「気持ち悪いね」「誰がこんな宗教に入るんだろう」「信じられない」などと言っています。

午後の講義が始まります。そして最後に「さて、皆さんが学んできた講義内容は誰が解明されたかというと」と言い、黒板に「世界基督教統一神霊協会」と書きます。

「先ほど、皆さんがテレビで見ていた、統一教会の文鮮明先生が解き明かされた内容です」

すると、受講者たちは一瞬、絶句し、その後、「えっ」「うぇ~」という悲鳴にも似たような声を出します。それはそうでしょうさっきまで、悪口を言っていた団体なのですから。

さて、その後はどうなるか。

このときは全員、次のステップである4Daysに参加しました。そしてその次のトレーニングにもほとんどの人が参加して、信者としての道を歩み始めます。

ここがこの勧誘システムの恐ろしいところです。あんなに合同結婚式を行う統一教会に嫌悪感を抱いていても、次の瞬間、受け入れてしまう状況に追い込まれるのです。

ここにはカラクリがあります。

実は受講生はそれまでに受けたビデオによる勉強会などで感想文を書き、その時に話をした内容はカウンセラーの所見として報告され、本人の悩みを含めてストックされていて、個人情報は組織内ですべて共有されています。

当時、筆者の上には教育部門をつかさどる長がいました。その人を中心に、毎日のように、「どうやって信者にしていくのか」という会議が行われます。「統一原理は受け入れているか」「本人は何を動機にして、統一教会の教えを聞いているのか」「霊界の存在はどのくらい信じているか?」「お金はどのくらいもっているか?」などです。

一人ひとりの受講生の状況が報告され、講師やトレーニングのスタッフがどう接するべきかの指示がなされます。

さらに、「統一教会という名を明かした時にどういう態度をとるか」「拒否した時には、どういう対応をとればよいのか」など事細かに指示されて、対策が打たれています。そして、相手が断るだろう言葉はすべて封じておくのです。

脳内情報の流れでつながる人々の抽象的なイラスト
写真=iStock.com/ajijchan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ajijchan

仮にA子さんが「だまして教えたのですか! 統一教会の悪評は知っています!」と、言ってくることが想定される時には「マスコミはすべての真実は話してくれません。今まで接してきた人たちがそんな悪い人たちに思えますか?」と切り返します。

さらに「もう少し先に進んで、真実を確かめても良いのではないですか? イエス・キリストのように、真実を話すものは言われなき誹謗(ひぼう)中傷を受けるものです」と諭すのも常套手段でした。

統一教会と言われて、相当反発することが予想される人には、個別の部屋を用意して、他の人への悪影響を及ばさないようにさせることもあります。すべての否定的要素は封じておくのです。

受講生らは心が教義に染まっている状況である上に、このような万全の対策を取っています。そこで「4daysはどうする?」とわざと聞きます。しかし、彼らはすでに「先に進みます」というしかない状況に追い込まれています。

自分で選んだように思わせて、先に進ませる。これが手なのです。

つまり、旧統一教会内ではその人の個人情報は丸裸になっており、組織的個人という完全アウエーの状況で、受講生らを信者への道を歩ませます。

しかしこれは信者教育だけに限ったことではありません。献金や物品購入においても同じです。もしA子さんが500万円の貯金があったとします。すると、そのことが会議のなかで取り上げられます。

「霊界、因縁は信じているか?」「救われた実感を持っているか?」などの話がなされています。特に「神の言葉に反したら、神の子になれず、地獄にいく」「不幸な人生になってしまう」「家族、親族が悲惨な状況になる」などの恐怖心を感じているかが、大事なポイントになっていたように思います。

こうした入念な打ち合わせが行われた後に「先祖の悪因縁があるということで、100万円の印鑑を買わせなさい」と指示がなされます。

さらに「4Daysで、統一教会のことを受け入れたら、次のトレーニングで、お父様(文鮮明氏)の神の国をつくるため、残りの400万円を献金させるようにしなさい」という方針が決められて、後日、A子さんに実行されます。

すでにA子さんは、統一教会の教えに染まっているので、手のひらで転がされるように全額を統一教会に払ってしまうわけです。

なんで統一教会に入信してしまい、多額の献金をしてしまうのだろうと思う方は多いと思います。この「自発的に入信した」「自分から、神の国実現のために献金した」と誘導させる手口こそが恐ろしいのです。

■夫と長男を失い次男が逮捕でも信者続ける母の「頭の中」

山上容疑者の母親も、自らの旧統一教会への入信が家庭崩壊のきっかけになり、息子が安倍元首相を銃弾で打った動機になったかもしれないことは、頭の中ではよくわかっていると思います。しかし、それでも信者をやめられない。

その理由は、教団をやめたら「事故や病気になり、不幸になる」「サタンの側になってしまい、地獄にいく」という恐怖心が大きいはずです。しかしそれだけではなく、教義を知ることで心が救われた実感を持っていることもあると考えられます。

筆者のいた旧統一教会では、これを「救われた実感」という呼び方をしていました。

これまで述べてきたように、旧統一教会の教えが入った人物に多額の献金をさせるか、させないかは上層部との会議のなかで決められて、そこでたてられたストーリーのなかで、本人に「救われた」という思い(救われた実感)を持たせて、お金を出させています。

入信も同じで「自分が選んで入った」のではなく、実際は「(教団側の言葉に)思いつかされて、その道を選ばされた」のですが、このことに気づくには、旧統一教会の内部事情を知り、信者時代の自分の行動を振り返る必要があり、容易ではありません。

自分の行動を振り返り……例えば、霊感商法の商品を買った際、自分から「買います」と言ったのはなぜか、と心の中を見つめ直し、実は「買います」と言わされていたという現実に気づけるか。自分の心に旧統一教会がくくりつけた偽りの糸を一つひとつ外していかなければなりません。

マインドコントロールの概念
写真=iStock.com/SvetaZi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SvetaZi

信者にとってこうした作業はしんどいものです。なぜなら、長年信じていたものを手放すことは、これまでの自分の人生への否定にもなるからです。

容疑者の母親は20年以上の信者といわれています。当時の記憶をたどりながら、だまされていたという現実に気づくには、おそろしく長い時間がかかるでしょう。母親が今も、統一教会を信じ続けたい思いは、元信者としてはよくわかりますが、教え込まれたマインドコントロールを解くためには、絶対に向き合わなければならないことなのです。

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多田 文明(ただ・ふみあき)
ルポライター
悪質業者への潜入取材経験からジャーナリスト、ヤフーニュースオーサーとして活動。近著に詐欺商法の事例満載の『信じる者は、ダマされる。元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)がある。

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(ルポライター 多田 文明)

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