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「少女マンガのような恋をしたい」40代女性経営者が月100万円使う"ホス狂い"になるまで

プレジデントオンライン / 2022年8月1日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ParfonovaIuliia

ホストクラブで大金を使う女性たちは自分のことを「ホス狂い」と呼ぶ。彼女たちは何を求めて夜の街に通うのか。ノンフィクションライターの宇都宮直子さんの著書『ホス狂い 歌舞伎町ネバーランドで女たちは今日も踊る』(小学館新書)より、40代の会社経営者「いちごチェリーさん」のエピソードを紹介する――。(第1回)

■取材相手は「昭和生まれの人妻おねえさん」

2021年5月中旬。いちごチェリーさんに取材のアポをとりつけた私は、彼女が指定するバーへと向かった。「ホス狂い」を自称するいちごチェリーさんのプロフィールには〈昭和生まれの人妻おねえさん。担当と推しがいてくれるだけでしあわせ〉と書かれている。

一日数件、投稿されている内容も〈今日歌舞伎町いっちゃうもんね♪〉や〈本当にちょっとした事なんだけど、でも特別扱いされることって姫の特権だよね。〉など、〈被りは殺す〉〈ホストのいう辛いよりお金をつくるホス狂いの女のコのほうがよほど辛いわ(涙)(涙)(涙)(刃物)(刃物)(刃物)〉などという、他の“ホス狂い”たちの書き込みと比べるといたって穏やかなものだ。

待ち合わせは午後2時。昼なお暗い雑居ビルのバーで出会ったいちごチェリーさんは、40代前半。ふくよかな彼女によく似合う、深いブルーのロングカーディガンに、ゆったりとしたチュニックをあわせている。ゆるくウェーブのかかった黒髪をハーフアップにまとめており、化粧もナチュラルメイク。「ホス狂い」という言葉のイメージとはかけ離れている、物柔らかな雰囲気の上品な女性だ。

■「そんなにヤバいところじゃない」と伝えたい

大抵の「ホス狂い」の女性は取材を断るのに、どうして応じてくれたのかと聞くと、「歌舞伎町のホストクラブというと、すごくお金がかかるとか騙されるとか、みんな怖いイメージを持っていると思うんですけど、そうじゃないよ、今は、ちゃんとしているところのほうが多いし、そんなにヤバいところじゃないということを伝えたくて……」

と、緊張した面持ちで、取材を受けた動機を明かした。そして、今回の取材の前にこちらからメールで送っていた質問内容への一問一答を、2枚のA4サイズの紙にワードでまとめたものを渡してくれた。

私からの質問を「Q」、それに対しての回答を、見やすいようにゴシック体の太文字で「A」として、「私はこう思ったのです」と、「です、ます調」の丁寧な口調で書き入れられた「回答書」は、10問ほどの質問に対して、同じ内容が被ることなく配慮もされており、かなり時間をかけて作られたものであろうことが推測できる。

■なぜ真面目な女性経営者がホスト通いを始めたのか

私が今まで取材してきた中で、こういった「回答書」を用意してきた取材対象者というのは、名古屋市の河村たかし市長と、“日本最後の怪僧”との異名もある僧侶・池口恵観氏のみだ。しかも彼らの場合は、取材時間中、その回答書を読み上げ、「こちらで回答を用意しておいたから、その意向にしたがってほしい」という意図がありありとうかがえた。

だが、いちごチェリーさんの場合はそうではなく、まず、初対面の私に、「自分はこういう風に考えている」ことを伝え、お互いのコミュニケーションを円滑にしようという「気配り」で作成されたものだ。そもそも、初めて取材を受けるという人で回答書を準備してきたのは、彼女が初めてだ。彼女のこの行動からは「真面目さ」と「真摯な性格」、そして同時に「手回しのよさ」を感じた。

いちごチェリーさんは既婚者かつ自分の会社を持つ女性経営者だ。会社は夫との共同名義だが、代表はいちごチェリーさんが務めている。夫婦に子供はいない。そういった事情もあってか、彼女は「ホス狂い」を自称できるほど、自分の自由になるお金があるようだった。取材当時はホストクラブに通い始めて、まだ5カ月ほど。最初のホストクラブとの出会いも、また、ツイッターだった。

■新人ホストを初指名し「特別な存在」に

「当時SNSで、世間話をするようなグループがあって、そこで咲夜くん(仮名)という大学生の男の子と仲良くなったんです。やりとりをしているうちに、『実はアルバイトで歌舞伎町でホストをしているんです。まだ指名がなくて……』と、打ち明けられて、じゃあ、行ってあげるよ、となりました。それが、ホストクラブに通うようになったきっかけですね」

会社を経営する前は、観光やブライダルなどサービス業の専門学校で教職についていたといういちごチェリーさんは、教え子たちが経営する居酒屋やレストランなどを応援するために、店に顔を出すということは当たり前のことだった。だから「夜の店」に足を踏み入れることに抵抗はなかったという。

「最初は、義理で1回だけ行こうくらいの感覚だったんですけど、行ってみたら面白かった。歌舞伎町でも、そこそこ有名なグループの店だったので、先輩ホストたちも、話や盛り上げ方が上手なんです。咲夜くんに『ホストにとって、初めての指名客って、一生忘れられない、特別な存在なんだよ』と言われ、お店の先輩ホストたちにも、『咲夜を宜しく』と頼まれ、そこまで特別って言ってくれるなら……って、2回、3回と通うようになりました」

■彼にアドバイスするためにホスト営業を勉強

だが、指名客を得た咲夜くんは、あからさまに彼女に甘えるようになってくる。「その日は行けない」と言っても、来てくれ、と強引に誘い、無理な注文をさせようとする。いちごチェリーさんの他に、客を呼ぼうという努力も見えない。経営者である彼女には、その姿はあまりにも怠惰にみえ、何度も注意した。

彼にアドバイスをするためには、自分がホストを知らないと……と、いろいろな店の有名ホストたちのYouTubeを見ては、営業の仕方について勉強したり、ツイッターでDMを送ってきたホストたちに「実は、こういうコがいるんだけど、どうすれば売れるようになる?」と相談したりもした。だが、咲夜くんの姿勢は改善されることはなく、あげくの果てに、同伴の時に「疲れたから」と一言も発しないという出来事があり、彼女は、ついに爆発してしまう。

「もう、この子は何をいってもダメだと思い、縁を切ることにしました」。

初めてホストクラブに足を踏み入れてから、1カ月足らずのことだった。

■自分好みのホストと過ごす時間にどっぷりハマる

その後、ホストクラブ通いからはすっぱり足を洗おうとしたが、咲夜くんのために、さまざまなホストクラブについて勉強を重ねたこともあり、「その時間を無にするのはもったいない」と思った。またそれ以上に純粋に歌舞伎町のホストクラブに対する興味がわいてきたという。

「咲夜くんについて相談していたホストくんたちも数名いたので、その中でやりとりしていた、数人のホストくんたちの店に、お礼もかねて、指名で遊びに行ったんです」

“義理”からスタートした咲夜くんと違って、自ら“選んで”行ったホストクラブでの体験はまったく別ものだった。咲夜くんと完全に切れたこともあり、自ら「ここ!」と決めたホストクラブで、自分好みのルックスで、一緒にいて楽しいホストたちだけと過ごすことを覚える。

お祝い
写真=iStock.com/Instants
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Instants

そうなると当然のように歌舞伎町に通う回数はぐんと増え、その年の1月には、一日に3軒ほどをはしごするようになった。何軒かのホストクラブをまわり、5人ほどのホストを指名したが、中でも、彼女の心を掴んだのが、良人くん(23歳・仮名)と、キラオくん(30歳・仮名)の2人だ。

■本命ホストには「指名させてくれてありがとう!」

満面の笑顔でいちごチェリーさんが言う。

「本命は良人くん。彼は、まだホスト経験は1年半と短いものの、太いお客さんがついていて、出会った時には、もう店でナンバーに入っていました。若くて表情もあどけない、かわいい系の男の子なんですが、アルバイトホストで、ど素人だった咲夜くんと比べたら、その接客は雲泥の差。もう、“指名させてくれてありがとう!”という気持ちでお店に通ってます(笑い)」

もうひとりのお気に入りのキラオくんは、良人くんとは正反対のセクシー系ホストだ。

有名店の支配人で、月2000万円を売り上げたこともある実力者だという。いちごチェリーさんは、本命の良人くんのためには、できるだけ店に通い指名本数をつけるようにし、一方のキラオくんの店には、たまに顔をだして、経験値も高い“夜のプロ”の接客をとことん堪能した。

■ホストと客の行き着く先は「男女の関係」なのか

水を得た魚のように、歌舞伎町をエンジョイするいちごチェリーさん。だが、彼女には配偶者がいる。

やはり、想像してしまうのは、ホストと客の行き着く先は結局「恋愛関係」なのではないかということ。実際ホストクラブには半世紀以上前の黎明期から、「枕」という言葉がある。「客と肉体関係を持つ」という意味だ。歌舞伎町に足を踏み入れてから、よく耳にしたのが「初回枕」という言葉。「初めて店に来たその日に“寝る”」という、そのままの意味だが、こうした単語が日常化しているほど、ホストと客は、“そういう”関係になることが当然のようだ。

手をつないでいるカップル
写真=iStock.com/kieferpix
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix

そのほかにも「本命の恋人のふりをする営業」という意味の「本営」、「営業抜きにして趣味で付き合う」、「趣味客」、果ては、ホストが営業後に客の自宅に「寝に」行く「家庭訪問」など、ホストクラブでのみ使われる「専門用語」は多々あるが、それらはどれも、ホストと客が「男女の関係」であることを前提としている。

■ホストに求めるのは“本当の恋”ではなく“疑似恋愛”

同い年の夫とは、学生時代に知り合い、恋愛結婚で今年で15年目を迎える。話を聞くと、夫婦関係は良好だという。

「ホスト」と「客」となれば、その先には「男女の関係」は避けては通れないのではないだろうか。そんな疑問をぶつけると、いちごチェリーさんはきっぱりと断言した。

「ホストと肉体関係を持ったら、私にとって、それはもう『終わり』です。ホストから『人妻がホストに来るなんて信じられない』と言われたこともありますが、それはまったく違います。私が、ホストに求めているのは“疑似恋愛”。それも、とびきりの疑似恋愛です。

体の関係を持ったら、それはもう『リアル』になってしまう。私が欲しいのは、『トキメキ』オンリーです。疑似恋愛の中でも“本当の恋”に寄っちゃうと『辛い』とか『恋焦がれる』というような感情がわき出てしまいますが、その感情って、切ないじゃないですか。

■「無人島に誰かひとり連れていけるなら、夫」

私と夫は結婚してもう長く、子供はいませんが、家庭を壊そうなんて一切考えたこともない。『無人島に誰かひとり連れていけるなら、夫』と即答してしまうくらい、なんでもできる人であり、男性として尊敬もしています。歌舞伎町では、ただ単純に、楽しく遊んで刺激的な体験がしたいだけなんです」

彼女に話を聞くまで、ホストに通う女性たちはみな当然「肉体関係」を求めているのではないかと思っていた。取材前に、いちごチェリーさんのツイッターを見ていても「ホストには男女の関係は求めない」と書かれていたが、「本当なのか?」とも疑問をいだいていたし、SNSという場だからこそ、そういう“体(てい)”をよそおっているのかとも思っていた。

しかし、歌舞伎町らしからぬ純朴な風貌でこちらの目をまっすぐ見て、キラキラした瞳で「少女マンガのような恋愛をしたい」という彼女の様子には「そうか」とこちらを納得させる説得力があった。

いちごチェリーさんは、本命の良人くんと、サブ担のキラオくんというタイプの違う2人の間で、時には、“ライバル”であるお互いの存在をチラつかせ、焼きもちをやかせてみたりと、「ずっと恋愛の始まりのようなキラキラの状態」を楽しんでいるという。

■本当の“ホス狂い”は月平均100万円どころではない

「こんな少女マンガみたいな状況が今、リアルに起こっていることが信じられないくらい。そりゃあ、ハマりますよね。本命の良人くんにはなんとか、本数を稼がせてナンバーを上げたいと思うし、キラオくんはサブ担とはいえど『いちごのことは何でも覚えておきたい』って、私が、ちらっと口にしたことも、目の前ですべてメモする。そんなことされたら、シャンパンも喜んで入れちゃいますよ(笑い)」

宇都宮直子『ホス狂い 歌舞伎町ネバーランドで女たちは今日も踊る』(小学館新書)
宇都宮直子『ホス狂い 歌舞伎町ネバーランドで女たちは今日も踊る』(小学館新書)

いくら好きとはいえ、2人にマンネリを感じる時もあるという。そういう時には別のタイプのお気に入りがいる店にいくという彼女は、まさに「歌舞伎町エンジョイ勢」だ。

彼らについて話すいちごチェリーさんは、本当に楽しそうだ。

「誰にいくら使ったかは言えませんが、月アベレージ(※平均)100万円は使ってます。でも、夜職のコや、本当の“ホス狂い”のコに比べればまだまだです」と、さわやかに笑うのだ。

いちごチェリーさんは、私がイメージしていた「ホス狂い」とは大分イメージが違った。“狂って”はおらず、あくまでもわきまえて、自分の範疇をはみ出さずに遊んでいるように見える。そのため、「いちごチェリーさんは、“ホス狂い”とはまた違うんじゃないですか?」と聞くと「いや、私は立派なホス狂いですよ」と、はにかみながら、自らが「ホス狂い」であると強調するのだった。

なぜ、いちごチェリーさんは人から「ホス狂い」と見られたがるのだろうか。その時は、それだけがどうしても、わからなかった。

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宇都宮 直子(うつのみや・なおこ)
ノンフィクションライター
1977年千葉県生まれ。多摩美術大学美術学部卒業後、出版社勤務などを経て、フリーランス記者に。「女性セブン」「週刊ポスト」などで事件や芸能スクープを中心に取材を行う。著書に『ホス狂い 歌舞伎町ネバーランドで女たちは今日も踊る』(小学館新書)がある。

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(ノンフィクションライター 宇都宮 直子)

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