相手の耳が確実にダンボになる話し始めの最強のささやき…「ここだけの話」「実はね」ともうひとつは?
プレジデントオンライン / 2022年7月29日 11時15分
※本稿は、岡本純子『世界最高の雑談力』(東洋経済新報社)の一部を再編集したものです。
■人を惹きつけるストーリーの作り方
第1章でも少し紹介しましたが、私は社長や企業幹部に加えて、政治家の話し方の家庭教師もよくお引き受けしています。
政治家によくする「2つの話し方のアドバイス」
ですから、政治家のみなさんには、つまらない政策についてぐだぐだ話をするのはやめて焦点を絞ると同時に、「ストーリー」を話してくださいとアドバイスしています。ストーリーというのは、簡単にいえば、人を楽しませたり、興味を引いたりするように組み立てられたお話のことです。
データや数字、抽象的な言葉は、人の心になかなか刺さらないものです。でも、ストーリーを聞くと、人は、興奮やドキドキをもたらすアドレナリンや、ホッとさせるオキシトシンなどの脳内ホルモンが活発になり、ジェットコースターに乗せられたように、感情が刺激されます。
まるで、主人公の感情の流れに入り込んだかのように、ハラハラ、ドキドキを体感し、悲しみや驚きに共感するのです。
主人公のBeforeとAfterがよく見えるものが魅力的
つまり、ストーリーは聞き手の脳をハッキングするほどの効果があるということです。「ストーリーを語る人と聞く人とでは脳波が同期する」という研究もあります。だからこそストーリーは、記憶に残りやすく、理解がしやすい。
とくにわかりやすいのが、困難や課題、チャレンジを乗り越えて、主人公が気づきを得たり、成長したり、変化をするもの。主人公のBeforeとAfterがよく見えるものが魅力的なストーリーです。
(After)でも、ニューヨークで「コミュ力修業」をして、自分の殻を破ることができた。
(気づき)コミュニケーション力は誰でもいつからでも鍛えられることに気づいた。
たいした話ではなくてもいいんです。
堅苦しい話ばかりでなく、こうした小さな物語をちりばめてください。「素の自分」「人間臭い自分」が垣間見える話し方、とくに成功談より失敗談など、カッコつけない「ぶっちゃけトーク」が聞き手を魅了するのです。
■度肝を抜かれた読売・渡邉恒雄社長の入社式のあいさつ
ストーリーといえば、私の記憶に強烈に残っている話があります。1991年、読売新聞社の入社式で聞いた渡邉恒雄社長(当時)のあいさつです。
じつは私は7年後に死にます。
その葬式に流す音楽のテープを秘書に渡してあります。
あまりにインパクトのある話で、度肝を抜かれました。
あれから、30年が経ち、たまたま見ていたテレビ番組で、彼がキャスターに自分の仕事部屋の引き出しにあった「テープ」を見せているシーンが映っていました。
まさにあのテープです。
そのテープは、彼が「戦争に出征する前の晩に、死を覚悟して仲間と聞いた曲だ」、としみじみお話になっていました。もしかしたら、入社式のときにはそんな話もしていたのかもしれません。なぜ、あんな話をしたのか、長年の謎が少し解けた気がしました。何十年経っても、脳裏に刻み込まれる「ストーリー」の力は無限大なのです。
【コラム:演説の上手な政治家・下手な政治家】
政治家は辻立ちや演説など、場数は多いので、うまいのかと思いきや、じつは「こりゃ、ひどい」というレベルのケースも少なくありません。最悪なのは、面白くもない政策の話を、つまらなそうに淡々と話す人。もしくは自分の主張をただがなり立てる人。政策は大切ですが、外交だ、コロナだ、医療だ、年金だ、と羅列してしまうので、くどくどとして、ちっとも面白くないのです。
ちなみに、ストーリーを上手に活用している政治家もいます。ある女性政治家は、演説会で、自分が小さいころ、幼かった弟のおむつを替えるなどの面倒を見ていたことや、親の介護で実家に帰ったとき、ゴミ出しに苦労した話を生々しく語っていました。
それまでの政策の話では退屈そうにしていた聴衆が、途端に身を乗り出し、聞き入っていたのが印象的でした。政策を羅列するより、身近なヒューマンストーリーのほうが100倍、人を惹きつけるものだと実感した瞬間でした。
■「3つのささやき」で、聞き手の心をわしづかみ!
人は人の話が大好きです。
「あの○○さん、じつは~」
「××さん、○○したんだって」
知っている人の名前が聞こえてくると、なんとなく「えっ、なになに?」と耳がダンボのように膨らみ、身を乗り出してしまいますよね。
そう、人はうわさ話が大好きです。
人がうわさ話を大好きな理由は?
なぜ、そんなに好きなのか。
これについても、びっくりするぐらいたくさんの学術的研究があります。それらをかいつまむと、次のような理由になります。
・人類学的に、うわさ話は貴重な情報を、幅広く伝えるという役割を果たしてきた
・うわさ話によって、どのような行いが社会通念的に受け入れられるのか、受け入れられないのかを学ぶことができる
・うわさ話を聞くと、脳の動きが活発化する
・ほかの誰かの不正や間違った行動を見聞きすると心拍数は上がるが、それについてうわさ話ができると心拍数は下がり、心を落ち着かせることができる
・うわさ話は孤独を癒やし人の距離を近づけ、エンタテインメントとしても楽しめる
たかが「うわさ話」にこれだけの学術的研究があるということも驚きですが、それぐらい、人間の社会活動には欠かせないということのようです。
「サルが、お互いの身体についているノミをとってあげたり、身体についたほこりを払い合うように、うわさ話は人と人をつなげる有力な手段」と、イギリスの高名な人類学者ロビン・ダンバー氏も述べています。
■「じつは」「ここだけの話ですが」は最強ワード
人のうわさ話が大好きな人間が思わず、聞き耳を立ててしまう「3つのささやきワード」があります。
「○○さんがね」
「ここだけの話」
「じつは」
だから、政治家の方々の講演でも、
「○○首相が、あのとき……」
「××大臣は、本当は……」
といった話に、聴衆もついつい引き込まれてしまうのです。
なので、「じつは」「ここだけの話ですが」という言葉も入れてくださいね、と先生方にはアドバイスしています。聞いている人が、この人は自分だけに「とっておきのうわさ話」をしてくれているんだ、と思うからです。
ネガティブなうわさ話は控えめがおすすめですが、適度なゴシップは人間関係の「スパイス」みたいなものなのです。
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コミュニケーション・ストラテジスト
グローコム代表。企業やビジネスプロフェッショナルの「コミュ力」強化支援のスペシャリスト。リーダーシップ人材の育成・研修などを手がけるかたわら、オジサン観察も続ける。著書に『世界一孤独な日本のオジサン』(角川新書)などがある。
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(コミュニケーション・ストラテジスト 岡本 純子)
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