なぜ、あの人とは気が合わないのか…そんな疑問を解消する「4タイプの人間」を見分けるとっておきの方法
プレジデントオンライン / 2022年7月29日 9時15分
※本稿は、林健太郎『優れたリーダーは、なぜ「傾聴力」を磨くのか? 職場の心理的安全性が高まる本』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■人間の価値観を、「4つの分類」で知る
人それぞれの価値観が違うということは、相手の価値観の傾向がわかりさえすれば、話を聞くときにとても便利です。
この「人それぞれの価値観の違い」を把握するうえで便利な、人間の嗜好を4種類に分類した「ハーマンモデル」というものをご存知でしょうか。
考案者は、アメリカのネッド・ハーマン(1922年~1999年)という方。ハーマン氏がゼネラル・エレクトリック社の人材開発部門にいたときに、「社員一人ひとりの脳の個性を理解することで、ビジネスの発展に貢献したい」という思いから、「社員の思考の傾向」を数百人のサンプルから分析して生まれました。
元来は、自己分析のツールですが、相手の考え方の傾向をつかむうえで極めて有効なので、私も若干のアレンジを加えてツールとして活用させていただいています。
このハーマンモデル、なぜ使い勝手がよいかというと、なんといっても4象限に分類されるのが丁度よいと考えています。
これが例えば分類が16種類もあったりすると、数が多すぎて、目の前の部下がどのタイプなのか迷ってしまいます。
■思考の好みやモチベーションの源泉を見える化できる
さらに、「あなたはどういうことを、より好むか?」という切り口で設計されているのが特徴です。つまり、好みはその人の行動の動機と直結しますから、部下の意思を知るうえで、とても参考になるのです。
図表1がハーマンモデルを簡略化した図です。
一度、この本を読み進めるのをやめて、ご自身のことや部下のことを考えてみてください。いかがですか? 「自分は4象限のうち、ここに入るな。あの部下はここ、あの部下はここ……」そんなことが浮かんできませんか?
実際に分析するときは、質問項目に回答してもらい、そのスコアでグラフ化します。私は認定ファシリテーターとして何人もの調査結果を見てきましたが、人によってはひとつの象限に好みが集中する人もいれば、4象限のうち、2つの傾向が強い人もいて、結果はいろいろ。
いずれにしても、その人の思考の好みやモチベーションの源泉を見える化できる便利なツールだと考えていただければよいと思います。
■「4つの分類」別に有効なアプローチ法を知る
ハーマンモデルは部下の思考の好みを把握するのに役立つだけでなく、部下への働きかけにも役立ちます。個別化してアプローチを変えると、より相手に届く働きかけができるようになります。
わかりやすく、オフィスの大掃除を例として説明していきます。
A象限の人に響くのはこんなアプローチです。
「本日は大掃除です。やり方は昨日送ったメールの添付を読んでくれれば全部わかるので、私から言うことはありません。ただ、ひと言だけ。日本人はアメリカ人の2倍、掃除が好き! 以上!」
次、手順が大好きなB象限の人へのアプローチはこんな感じが効きます。
「皆さん、こんにちは。本日の大掃除について順を追って説明したいと思います。まず、最初にやっていただきたいのは倉庫から掃除機を出してくることです。
次にコードを引き出して、あそこにあるコンセントに差し込んでいただきます。掃除機のスイッチを入れる前に忘れないでやっていただきたいのは換気です。しっかりと窓を開けてから掃除を始めてください。最初に掃除をしていただきたい場所は……」
次のC象限の人は、人同士のつながりが大好きなのでこんな感じでしょうか。
「大掃除と聞いて思い出すのは、子どもの頃、冬休みに田舎のおばあちゃんの家で大掃除を手伝ったことです。夜までかかって床を磨いたりしました。
そうすると新年には『大掃除、頑張ったね』なんて言って、おばあちゃんがお年玉をくれました。
お正月はきれいになった田舎の家で、すがすがしく迎えたものです。今日は皆さん、大掃除を頑張って、来年、キレイになったオフィスで気持ちよくスタートを切りましょう」
最後はD象限の人へのアプローチ。
「掃除と言えば宇宙でしょう。たかが掃除にあらず、すべての創造は美しい夜明けとともにやってきます。あれ、何の話だっけ? ま、とにかく、バリッとカッコよく掃除という作品を作りあげよう! ということね」
4象限の違いを明確にするため、少し極端に表現してみましたが、このように、相手の好みによって、アプローチを変えた方がより届くということです。
当然、面談のときに、どんな言葉をかけて「話を聞く」かも、部下のタイプによって変えていくと効果的です。
例えば、Aタイプの部下は、「結論から先に話すこと」を好むし、Bタイプの部下は、「順を追って説明する」ことを好みます。
Cタイプの部下には、「今、社内で困っている人がいるのだけど、力になってもらっていいかな?」と話せば響くし、Dタイプの部下は、「ウチの会社で初めての試みとなるプロジェクトがあるんだけど、会社の未来のためにやってみないか?」なんて言えば届く。
ハーマンモデルは、部下へのアプローチの個別化に活かすことができます。
■「とりあえず」と「次は」が口癖の人は相性が悪い
「ハーマンモデルが部下へのアプローチや面談に役に立つことはわかったが、部下全員が分析テストを受けることはできないし、誰がどのタイプなのかわからない」
そこで、4タイプのそれぞれの人がよく口にする「口ぐせ」を紹介しましょう。
● A象限に入る人の口ぐせ
→ 「要するに」「『ぐらい』じゃわからないよ」「具体的な数字は?」
● B象限に入る人の口ぐせ
→ 「最初は」「次は」「順番に(時系列に)教えて」「マニュアルが欲しい」
● C象限に入る人の口ぐせ
→「○○な感じ」「みんなと一緒に」「感情が大事」「わかる~」
● D象限に入る人の口ぐせ
→「とりあえずやってみよう」「面白いでしょ」「ざっくり言うと」「どーんと」(擬音が好き)
いかがでしょう。あなたの部下で、「あーっ、この言葉、よく使ってる」と、思い当たる方はいますでしょうか。
ちなみに、この4象限の「斜め同士」の関係はコミュニケーションの難度が高いと言われています。
つまり、AタイプとCタイプの人、BタイプとDタイプの人が会話をするとはかどらなかったり、齟齬が起きたりする傾向にあるのです。
相手の価値観が理解できないのですから、苦手に思うのもよくわかります。例えば上司と部下が斜め同士の組み合わせだと、好みが合わないということですね。
だからこそ、この4タイプを理解し、好みの違いを知恵として活用できると知っておくことが、相互理解につながるのです。
■4タイプ別の「響く質問」
自分の部下がハーマンモデルのどのタイプなのかを知ろうとするとき、上司が「どんな質問の仕方をすると部下の反応がよいか」を観察することがひとつの手がかりになります。
● Aタイプの部下
「結論から先に話すこと」を好むので、「ズバリ聞くけど、どう思う?」とか「ひと言で言うと、何がしたい?」などという質問を好みます。
● Bタイプの部下
計画的なことや順番を重視するので、「これまでの経緯を順番に教えてくれる?」とか「まず、何からやるといい?」などの質問を好みます。
● Cタイプの部下
人同士のつながりを重視し、感情を大切にするので、「この部署に配属されて、今、どんな気持ち?」とか「周りの人たちとうまくやれてる?」などの質問を好みます。
● Dタイプの部下
創造性を大切にするので、「自由に語ってくれていいよ」とか「将来的にはどうしていきたい?」などの質問を好みます。
このように、タイプによって好む質問が異なりますから、新しく配属されてきた部下などと話すときは、どのタイプの質問により強く反応するかに注目すれば、その人の好む象限がわかるかもしれません。
これはひとつのアイデアですが、面談の冒頭で、次のように全部の要素を入れて、相手の反応を観察するという手もあります。
「今日は、1時間の間で、順を追って話を進めていきます(B)。この面談の目的は要するに○○です(A)。それについて○○さんがどのように考えて、何を感じているのか聞きながら(C)、これからの○○さんの未来についても話したいと思っています(D)」
少し強引に聞こえるかもしれませんが、これは私が実際に企業研修をスタートするときに必ず使っている「第一声」だったりします。
これにより4象限すべての要素を網羅するため、より多くの人にリーダーシップを発揮できると考えています。
■タイプがわかれば、「うまくいかない原因」も見えてくる
ハーマンモデルの利用法についての説明が少し長くなってしまいましたが、これがいかに部下の話を聞くときに役立つか、伝わりましたでしょうか。
実際に、私がクライアント企業の社員にヒアリングしてみると、夢多きDタイプの社員が、会社の将来を考えて行動しているのに、計画重視で保守的なBタイプの上司から見ると「どうしてアイツはいつも段取りもなしに勝手に動くんだ!」と苦々しく思っている……などということがよくあります。
そんなときは、Dタイプの社員からすると、「どうして会社はオレの気持ちをわかってくれないんだ!」となるわけです。
例えば企業が人材を採用しようとするとき、Dタイプの人を採用したとしますよね。ところが、職場で働く人の多くがBタイプの人だったら、新しく入社したDタイプの人は「なんだ、この会社!」と働きづらさを感じるかもしれませんね。
実際に、そういう実例も見たことがあって、社長さんに「採用の方針と職場の実情が合ってませんよ」とお伝えしたこともあります。
そういう、タイプの違い……というか好みの違いによって起こっている「うまくいかないこと」の原因が、このハーマンモデルを知っていることで「ああ、そういうことね」と理解できるようになるのです。
■好みが違うだけで優劣は存在しない
部下の一人ひとりが、どのタイプなのか見立てられるようになると、例えば面談のときに、Aタイプの部下が、Cタイプの同僚に対して、「○○さんは、会社を仲良しクラブだと思っていて困る」なんて不満を持っていると言ってきても、「それはたしかにあなたから見ればそう感じるだろうね」と余裕を持って聞くことができます。
相手の好みがわかれば、こちらからの問いかけの言葉も変わってきますし、部下も「私の気持ち、わかってくれるんですね!」とばかりにモチベーションが上がり、発言が変わってくるでしょう。
傾聴を相手に合わせてカスタマイズすることができるため、信頼関係の構築にも有効なのです。
ちなみに、ハーマンモデルについて、こんな一文を目にしたことがあります。
「世界中の人たち全員のハーマンモデルの結果を重ねてまん中を取ると、凸凹がなくなって真四角のグラフになる」
要するに、世界中には、まんべんなく、偏りなく4つのタイプの人が存在するということですね。
つまり、「どの好みを持つ人がより優れている」といった優劣は存在しないということです。
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リーダー育成家
合同会社ナンバーツー エグゼクティブ・コーチ。一般社団法人 国際コーチ連盟日本支部(当時)創設者。1973年、東京都生まれ。バンダイ、NTTコミュニケーションズなどに勤務後、日本におけるエグゼクティブ・コーチングの草分け的存在であるアンソニー・クルカス氏との出会いを契機に、プロコーチを目指して海外修行に出る。帰国後、2010年にコーチとして独立。リーダーのための対話術を磨くスクール「DELIC」を主宰。2020年、オンラインでの新しいコーチングの形態「10分コーチング」(商標出願中)を開発。
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(リーダー育成家 林 健太郎)
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