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平均の半分しか稼げないダメ営業マンの成績がみるみる伸びる…「筋のいい上司」が実践する"すごい導き方"

プレジデントオンライン / 2022年8月2日 11時15分

出典=『実践型クリティカルシンキング 特装版』

「売り上げが他人の半分以下」の社員の業績を上向かせるにはどうしたらいいのか。ある社員の場合、営業回数は他人より多いのに一成約当たりの単価が低いことがわかった。では、その後はどんな手を打つべきか。戦略コンサルタントの佐々木裕子さんが講義形式で解決策を探っていく――。

※本稿は、佐々木裕子『実践型クリティカルシンキング 特装版』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。

■年金営業マンのAさんはなぜパフォーマンスが悪いのか?

さて、では演習をしてもらおうと思います。「課題は何か?」というところに焦点を置いて考えてくださいね。

あなたは、ある年金営業所の所長です。部下のAさんの営業成績が思わしくないので、困っています。1営業月当たりの平均で、年金の成約額を比較してみると、AさんはBさんCさんに比べて、半分以下の売り上げです。Aさんは何が問題なのでしょうか? どうすれば、売り上げが上がるのでしょうか?

年金営業なので、高齢者とか、ひょっとすると企業などのオーナーもいるかもしれませんが、自宅にピンポーンってして保険とか年金とか売りに行く営業ですね。営業がうまくいけば成約です。1回成約してもらうと、けっこう大きい。そんな営業をしているメンバーを束ねている部長が、あなたです。

上司としては、成績のよくないAさんを何とかしたいなと思いますよね。

Aさんは、どうしてこんなことになっていると思いますか? 仮説でけっこうです。なぜでしょう? 何が起きているんでしょうか? 可能性を教えてください。はいどうぞ。

——Aさんは圧倒的にピンポンする回数が少ない。

なるほど、ピンポンする回数が少ない(笑)。訪問が少ないんですね。

——顧客研究にメッチャ時間かけて、訪問していない。けど、実は成約率的にはいいかもしれない。Cさんはとにかくスピード重視で、メッチャ訪問してる。

■「Aさんは家庭に何か問題があるのではないか」

ほかにありますか? はいどうぞ。

——顧客によって契約する金額というのは違いますから、Cさんは、高い契約をしてくれそうな顧客を中心に回ってて、Aさんは、とりあえず手当たり次第ではないでしょうか。

契約が取れても安かったりとかで売り上げが低い。お客さんを選べてないんじゃないかということですね。ほかにありますか?

——そもそもなんですが、実は500万円くらいが営業マンの月平均という可能性はどうでしょう? Aさんは実はそんなに悪くなくて、Cさんは、この年は何か大口契約が1件取れただけ。Bさんは、平均して高いパフォーマンスを上げられる人、とか。

なるほど、Cさんが異常値であると。それもあり得ますね。ほかには?

——はい。Aさんはこの月だけ数字が悪いとか。

10月だけ数字が悪い。なぜそう思いました?

——この月のグラフしかなくて、そのほかの月のことが全然わからないので、Aさんというか、その月がダメなのか、そもそもダメなのかがわからない。

なるほど。わからないと。ほかありますか? はいどうぞ。

グループでディスカッション中
写真=iStock.com/Yagi-Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yagi-Studio

——Aさん、家庭に何か問題がある。

家庭に何か問題がある(笑)。どういうふうにつながってるんでしょう?

——なんとなく。見えないところでつながっているんじゃないかと。

見えないところに関係があるんじゃないかと(笑)。「風が吹けば桶屋が儲かる」みたいな感じでしょうか。なるほどおもしろいですね。見えないけど、何かつながってるかもしれない。ほかにありますか? はいどうぞ。

——月の平均なので、もしかしたらAさんは週明けは弱くて、週末にいくに従って盛り上がっていくタイプかもしれない。

みなさんわりとAさんに対してポジティブ思考ですね(笑)。今までのところでは、「Aさんは実は悪くない」「きっとAさんは大丈夫に違いない」という説も多いのが、すごいおもしろいですね。ほかにありますか?

——もしかしたらAさんは新人で、Cさんはベテランでという序列かもしれないので、横並びのグラフというのは適切じゃないとか。

■「成約はできないけど、アポの件数は取れる人かも…」

なるほど。じゃあ、みなさん、この平均値は、エラー値じゃなかったとしましょう。Cさんも別に異常値じゃなかったとします。これはわりと恒常的だったとします。そこはちょっと前提条件をそろえましょう。

ひょっとしたらAさんは新人かもしれません。でも所長としては、新人だろうが何だろうが売ってもらわないと困りますよね。Aさんが新人だろうが家庭に問題があろうが、売り上げを上げてもらわなければならない。この目標はクリアにしましょう。数字は達成しなければいけない。

とすると、どこからこのAさんの問題を解きほぐしていくのが、いちばん時間的に効率がいいでしょうか? どういうアプローチをする? はい、どうぞ。

——Cさんは成績を上げているので、Cさんのやり方をモデルにして、Aさんは学んでもらう。

Cさんのやり方をモデルにさせる。学ばせる。ほかにありますか?

会議室でグループミーティング中
写真=iStock.com/Cecilie_Arcurs
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Cecilie_Arcurs

——Aさんが1日、何の仕事にどのくらいの時間をかけてるかっていうのをリストアップして、Bさん、Cさんと比較する。

たとえば何を調べます?

——たとえば契約書作成だとか、あと実際お客さんを訪問した時間だとか、そういったものを1日なり、1週間なり何でもいいんですけども記録するということ。就業時間内のことを朝から晩までの時間をリストアップする。

そして分析するわけですね。はい、ほかにありますか?

——そもそも商談のアポが取れてるのか、契約ができているのかを分けて見たほうがいいのかなと。

なぜそう思われたんですか?

——たとえば、成約はできてないけど、アポの件数は取れる人なのかもしれない。であれば、その人はもうアポ専門でやってもいいんじゃないかと。成約は得意な人に任せちゃってもいいのかなと。そういう分業することも考えられると思うんですね。売り上げを考えるならば。

なるほど。アポと契約、この2つに分ければいいんじゃないかと。

実際、日常でけっこうこういう場面あるんじゃないかと思うんです。みなさんは所長じゃなかったとしても、自分の営業成績がなかなか上がらないとか。部下の仕事の効率が悪いとか。なんでなんだろう? ということ。

■「分解して絞る(ズームイン)」を繰り返す

では、これが唯一の正解ではないのですが、回答例を紹介します。

まずズームインしてみます。ズームインというのは、「分解して絞る」ということです。物事や現象を分解して絞らないと、なんでそこになったのかがちゃんと説明できないわけです。

ズームイン① なぜ、Aさんは売り上げが低いの?

では、「分解」してみます。できる限り選択肢を漏らさないように。さらに、わかりやすい分解の仕方をするというのが、ズームインの1つのキモです。構造化とも言われます。

この場合は、売上高が数字です。数字の場合、だいたい足し算・かけ算・足し算。四則演算で分解ができるんですね。営業金額の場合は、さっき言ってくれた方がいましたが、訪問して面談をする、成約をする。成約した後、その成約額がいくらかというもののかけ算で売上が決まります。

つまり、総成約額を分解すると、「面談件数×成約率×1成約当たりの単価」になる。これで分解するとわかりやすいですよね。数字が出てきたら、「この数字はどんなかけ算ででているか」「どんな足し算で積み上がったものか」で考えると分解しやすいでしょう。

分解したら、次は「絞る」です。グラフをご覧ください(図表2)。

なぜAさんは売上げが低いのか?
出典=『実践型クリティカルシンキング 特装版』

先ほど分解した3つのデータを、Aさん、Bさん、Cさんで比較をしました。見ていただくとわかるように、実は「Aさんピンポンしてないんじゃないの?」という仮説は間違ってまして、Aさんけっこうピンポンしてたことがわかりました。Cさんよりもピンポンしてました。ここはすごくがんばっている。で、実は低かったのは、面談当たりの成約率と一成約当たりの単価ですね。

そのなかでも特に単価の差がすごい。この時点でAさんの問題を「単価」に絞ることができました。

これはこういうふうに分解したからわかるんですね。分解しないとわからない。ですから、さっき「Cさんの真似をしたらどうか」という意見が出ましたが、分解しないと「Cさんの何の真似をしなきゃいけないのか」がわからないんです。

■「Aさん、単価上げてね」と言えばいいのでしょうか?

分解して絞ったから、単価のところがどうも問題のように見える。もし何か真似をさせるとしたら、単価に影響するようなことを真似させるのがいいというのがわかります。

でも、これがわからないと、「もっとピンポンしろ」とか言って、また疲弊させてしまうわけですね(笑)。なんとなくの仮説と経験則でやってしまうと、Aさんをいちばん疲弊させてしまうパターンになるわけです。

問題は単価だとわかったとします。では、「Aさん、単価上げてね」と言えばいいのでしょうか?

ズームイン② なぜ、Aさんの単価は低いの?

そもそも、なぜ、Aさんの単価はこんなに低いんでしょうか?

——1つは、どんな顧客に売っているか。要は金持ちに売っているのか、貧乏な人に売ってるのか。もう1つは、どんな商品を売っているのか。高単価の商品を売っているのか、安い商品を売っているのか。

はい。そうかもしれませんね。ほかにはありませんか?

——Aさんの担当のエリア(商圏)に、そもそもあんまりお金持ちがいない。

なるほど。そうなるとAさんが売れないのは所長であるみなさんの責任ですね。Aさんのせいじゃない。

「分解」の構造としては、ここではまず「Aさん以外の構造的問題」と「Aさん自身の問題」に分けてみましょう。

さらに、「Aさん自身の問題」を、低額ニーズのお客さんのところにしか行っていない「Aさんのお客さんの選び方が悪い問題」、あえて低額の商品を提案している「Aさんのウィル(意志)問題」、高額の商品を提案してるんだけど低額に押し込まれてしまうという「Aさんのスキル問題」の3つに分けてみました。

なぜ単価が低いのか?
出典=『実践型クリティカルシンキング 特装版』

分解ができたら、絞ります。先ほどはデータで見ることができましたが、今回はAさんを観察するか本人に聞くしかないんですね。

聞いてみたところ、実は「Aさんのお客さんの選び方が悪い問題」だったということがわかってきたとします。もちろんほかの可能性もあるんですけど、この場合そうだったとしましょう。「分解して絞る」の練習ですから。

■なぜ、お金持ちの客をゲットできないのか?

ズームイン③ なぜ、高額ニーズの顧客のところに行けていないの?

じゃ、どうしたらいいでしょうか? 「お金持ちのとこ行ってよ」と言えばよいのでしょうか(笑)。なぜ、お金持ちのとこに行けてないんだと思いますか? だいたいの物事には必ず理由があるんですね。必ず背景があります。何だと思いますか?

——お金持ちの住んでる場所を知らない? 町の構成ってあるじゃないですか。

なるほど(笑)、ありえますね。知識の問題ですね。ほかにあります? 住んでる場所は知ってても行けてない場合ってありますか?

——気持ちの問題かもしれないんですけど、お金持ちに腰が引ける(笑)。会社とかに行って、普通の平社員の人にばかり営業してて、企業の経営者とかとの商談が苦手。

なるほどなるほど、そうですね。気持ちの問題で行けてない。いま出ている意見だと、1つは「スキル問題」。高額ニーズのある顧客をどう選べばいいかわからない、知識がない。もう1つは、「ウィル問題」。高額ニーズ顧客の選び方はわかっているが、先ほどの意見のように腰が引けていたりして、選ぶ必要がないと思っている。

もう1つ、お客さんの選び方も知っていて、お金持ちに行きたいと思ってるんだけど、やはりお金持ちに行けていない理由があるとしたら何でしょう?

なぜ低額顧客にしか営業できないのか?
出典=『実践型クリティカルシンキング 特装版』

たとえばお金持ちの顧客をリストアップする時間が割けていない、というのもありえます。

訪問するにはリストをつくらないといけませんからね、営業さんは。という、顧客を見極めるウィルもスキルもあるんだけど、多忙すぎてそれに時間を割けない「キャパシティ問題」。

この3つに分解してみました。

では、絞ります。いろいろ聞いたり観察したりしていくと、Aさんは実は時間がなくてリストがつくれていなかったということがわかりました。

■「なぜリストをつくる時間がないのか」の分解すると…

ズームイン④ なぜ、Aさんは高額ニーズの顧客リストをつくる時間がないの?

リストをつくる時間がない。じゃあリストつくろうよ、となりますね。「つくってよ」って言いたくなるわけですけども、ここでも「分解」してみましょう。

なぜつくる時間がないんでしょうか?

——先ほどのグラフ(図表2)のとき、ピンポンの回数(面談件数)がすごく多かったんですね。だからピンポンが多すぎてリストをつくる時間がない。

そうですね。おっしゃる通りです。そういう人ってだいたい営業時間が長いんですね。「営業時間が長すぎる問題」です。

一応、「なぜリストをつくる時間がないのか」の分解をしてみると、このほかに「事務効率が悪すぎる」と「業務が多すぎる」という可能性が考えられますね。ただ、今ご意見いただいた通り、訪問件数の多さを見ると、「営業時間が長すぎる」がいちばん有力ですね。

なぜ高額顧客リストをつくる時間がないのか?
出典=『実践型クリティカルシンキング 特装版』

なんで営業時間が長いと思いますか? なんでピンポンたくさんしちゃうんでしょう?

——戦略がないから。

そうですね。時間をどう使うかの戦略がない。あと、焦ってたりとかするかもしれないですよね。自分は目標数字を達成してないから、件数増やさなきゃ。足で稼がなきゃ。必死でがんばってどんどんドツボにはまってしまう。

■「何が問題か」がわからないと、助けてあげられない

「なぜ?」を4〜5回繰り返す

でも、ここまでちゃんと「分解」と「絞る」を繰り返して、「なぜ問題が起きてるのか」っていうのがわからないと、助けてあげられないんです。

もし、途中でやめてたら、どうでしょう? 「Aさんは高額ニーズの顧客のところに行けていない」までで終わっていたら、「お金持ちのところ行って」って言ったらどうでしょうか? 解決したでしょうか? 

「リストをつくる時間がない」までで終わって、「リストつくってよ」って言って、リストをこの人はつくれたでしょうか?

「なぜリストをつくる時間がないのか?」というところまで理解して、Aさんに「明日、営業行かなくていいから。俺と一緒にリストをつくろう」って言わない限り、たぶん止まらないですよね、この状況って。「ズームインする」って、まさしくこういうことなんです。今私、何回くらい「なぜこんなこと起きてるんでしたっけ?」って言いましたか?

だいたい4〜5回くらいは「なんでこんなこと起きてるんでしたっけ?」って繰り返さないと、本質にたどり着かないと言われています。普通だと、2〜3回で終わることが多いですね。

解くべき最終課題 「Aさんはどうしたら成績が上がる?」
出典=『実践型クリティカルシンキング 特装版』

はい、全体像はこんな感じですね。「なぜ?」を4回繰り返して考えています。少なくともこれくらいまで絞り込むのがポイントです。

■ピラミッドストラクチャーが大事な理由

ロジカルシンキングやクリティカルシンキングの世界では、すべての課題の構造は「ピラミッドストラクチャー」だと言われています。

選択肢や理由などを分解していくとき、どれか1つを選ぶと、捨てた選択肢はもう検討しなくていい。これがピラミッドストラクチャーの最大のメリットです。

たとえばAさんの、原因は「面談件数×成約率×1成約当たりの単価」のように分解されました。調べると「1成約当たりの単価」が問題だということに絞り込めた。そうすると、もう「面談件数」と「成約率」の枝は掘らなくていい。もう「面談件数」はなぜ少ないのか? っていう情報収集をしなくていい。アポイントメントを取るトークスキルが低いのかな? とか、「捨てた枝」の情報収集をしなくてよくなるわけです。

佐々木裕子『実践型クリティカルシンキング 特装版』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
佐々木裕子『実践型クリティカルシンキング 特装版』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

次の「なぜ?」で「顧客の選び方が問題」ということがわかったら、そのほかの選択肢はそれ以上考えなくていい。無駄な情報収集をしなくてもいい。

Aさんも、闇雲にCさんの後ろについて回って学べ、みたいなことをしなくてもいいと。Cさんの後ろについて回ったところで、実はあんまり問題の解決にならない可能性が高いわけです。この状況の場合。でも直感的にはそれがいいんじゃないかと思ってしまう。

最初は限られた情報しかなくても、丁寧に分解して「ピラミッドストラクチャー」にする。

1段階ずつ調べて、1個ずつ大きな枝を切っていく。で、最後本質にたどり着くっていうのが、ズームインのポイントです。

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佐々木 裕子(ささき・ひろこ)
チェンジウェ―ブ代表
東京大学法学部卒業後、日本銀行を経て、マッキンゼーアンドカンパニー入社。シカゴオフィス勤務の後、同社アソシエイトパートナー。8年強の間、金融、小売、通信、公的機関など数多くの企業の経営変革プロジェクトに従事。マッキンゼーを退職後、企業の「変革」デザイナーとしての活動を開始。ChangeWAVEを創立し、変革実現のサポートや多様性推進、経営人材育成に携わる。自身の両親の介護の始まりとともに、超高齢社会の課題解決を目指すエイジテックベンチャー、株式会社リクシスも創業。複数大手企業の社外取締役やダイバーシティ委員にも就任するなど、変革屋としての活動の幅を広げている。愛知県出身。著書に『21世紀を生き抜く3+1の力』『数字で考える力』(以上、ディスカヴァー)がある。

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(チェンジウェ―ブ代表 佐々木 裕子)

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