夏休みでゲーム・動画漬けのダラダラっ子が激変…親が大きな画面で一緒に見ると「短時間で済む」驚きの仕組み
プレジデントオンライン / 2022年7月31日 11時15分
※本稿は、『プレジデントFamily2022年夏号』の一部を再編集したものです。
■ダラダラっ子をシャキッとさせるすごい仕掛け
私の職業である作業療法士というのはリハビリの専門家です。脳の一部を損傷した人に、残りの脳を使って一定の作業をできるようにしたり、知的障がいや発達障がいで人とのコミュニケーションが苦手な子供の治療を行ったりしてきました。
いわば人間の脳と体の力を最大限引き出し、その人がやりたいことを実現できるようにサポートする仕事です。その経験から私が確信しているのは、「ダラダラしている子=なかなかやる気になれない子」というのは決して性格や気持ちの問題ではない、ということです。脳がやる気を出す状態になっていないだけなのです。
人間の脳をコンピュータに例えると、視覚や聴覚からの刺激はコマンド(指示)にあたります。特定の刺激がコマンドとして脳に与えられると、脳は私たちの意思とは関係なく、自動的に体に指示を出すという働きをするのです。例えばテーブルの上にテレビのリモコンを置いておくと、それを見た脳はそれを掴(つか)むように手に指示を出します。「よし、見よう」と決めてからの行動ではなく、“無意識に”テレビのスイッチを入れてしまっているのです。
脳は視覚からの情報にもっとも大きな影響を受けます。やる気を出させるには、目に入る環境を整えることが必要なのです。やってはいけないことは脳に見せてはいけませんし、一度見せてしまったら逆らえないのです。
宿題とテレビの例で言えば、まずテレビのリモコンよりも先に宿題が見えるようにします。リモコンはすぐには見えない場所に置くこと。学校から帰ったら、すぐにカバンを開けて宿題を取り出し、ノートを開き、1問目だけやってみる。この一連の流れを習慣にしてしまうのです。脳は新規の作業を面倒くさがりますが、一連の流れの中に宿題が位置づけられていれば継続の作業になるので、スムーズに着手できます。
脳をプログラムするのに、もう一つ大事なことが「言語化する」こと。やるべきことを言葉に出して、聴覚から脳にコマンドするのです。
「今から宿題をする」と明確な言葉を声に出して言いましょう。「宿題をやらなきゃな」とか「しっかりやろう」といった主観的であいまいな指示は脳が混乱します。また、逆に、宿題をする前に「面倒くさい」などと呟(つぶや)いたとしましょう。すると、その言葉がコマンドになって脳は「宿題=面倒くさい」と認識してしまい、やる気は下がってしまいます。
脳をコントロールするには「脳への刺激」がカギとなることを踏まえ、ダラダラした子がやる気になる仕掛けを、生活の場面別に具体的にお伝えしましょう。
その前にもう一つ重要なことがあります。ダラダラの原因のほとんどが睡眠不足にあることを覚えておいてください。どんなに脳をプログラムしてバージョンアップしたところで、脳が目覚めていなければ、コンピュータが起動していない状況と一緒ですからね。
■●親の悩み1:「子供がご飯をさっさと食べない」
仕掛け:一皿にまとめる
食卓というのは実は多くの情報で溢れています。たくさんのお皿の中からどれをどういう順番で食べるかを考えなければならないし、さらには「行儀よく」とか「バランスよく」ということにも気を配らなければならない。家族との会話やテレビの音などがあればなおさらです。
![健康的なランチプレート](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/a/1200wm/img_3abf7ab5767453d4f76b07fe0e21a2b4348916.jpg)
脳に与える刺激(情報)をシンプルにすることで、ダラダラ食べは改善できますよ。例えば、お皿の数を減らしてみる。大きめのお皿1枚に3品ほど並べてワンプレート方式にしてみるのもいい。もちろんテレビは消してくださいね。
また、ここでは「さっさと食べる」ことがメインテーマなので、行儀や栄養バランスについては、さっさと食べられるようになるまで脇に置いておきましょう。
私がかつてリハビリを担当していたある患者さんは、脳に損傷はあるものの、手も動くし、食事をする能力もあるのに、自分から食事をすることができず、介助を受けていました。ところが、食事を一品ずつ出す方式(フルコース形式)に変えたところ、自分で食事ができるようになったのです。親御さんに時間の余裕があるとき、この方法も試してみてください。
■●親の悩み2:「子供が整理整頓ができない」
仕掛け:仲間分けゲームをする
机や部屋の片付けというのは、自分が行動しやすいように、自分で環境を整えるという作業です。ですから、一番大切なことは「子供自身に考えさせる」こと。親が決めたルールで片付けをしても、そのルールにぴんと来ていないのでは長続きしませんし、結局散らかったままになります。そもそも、「片付いている」「散らかっている」という概念は、人によって違います。親には散らかっているように見えても、子供にとっては「行動しやすい環境」であることもあります。
そこでまず、「仲間分けゲーム」をしてみましょう。机のそで引き出しの一番上に入っているものを全部出して、それらを3〜4の仲間に分けるのです。大きさや形で分けるのか、紙類や筆記用具類などカテゴリーで分けるのか、親子でしてみると同じ内容物でもまったく違う仲間分けができて楽しいですよ。
次に、その引き出しを3〜4に仕切り、先に分けたものを入れます。100円ショップにあるトレーや家にあるお菓子の箱などを使うと便利です。大きさや形別に入れるのか、カテゴリー別に入れるのか、これは視覚が脳に与える刺激を利用するのです。自分が取り出しやすく、しまいやすい入れ方を工夫することが大事です。
そで引き出しの一番上が終わったら、机の他の引き出しやタンスの引き出し、ロッカーの中なども「仲間分け」してみてください。
■●親の悩み3:「子供がいつまでも動画を見ている」
仕掛け:大きな画面で親も一緒に見る
テレビのダラダラ見、大人でもありますよね。先にも記しましたが、まず、引き出しにしまうなどして、リモコンを目につく場所に置かないことです。そして、テレビをつけるときに「僕は○○という番組を見る」と声に出させ、リモコン置き場に取りに行かせます。言語化して脳に指令を出しておくと、「○○」を見たことで満足し、ダラダラ見はなくなります。ゲームや動画も同様です。
タブレット端末やスマホを使っている場合は、面白いと感じている動画やゲームについて、子供にプレゼンさせてください。本当に面白いものは喜々として話しますが、そうでもないものは口ごもってしまうはず。そして、子供が面白がっている動画を、大画面で親も一緒に見てみましょう。
![家の壁一面に映ったサッカーのリアルなテレビ中継に熱狂する人たち](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/e/1200wm/img_2eedfa1e861f6fc621cc2387fec32b72386417.jpg)
もともと脳は、眼球運動が小さく、隠れてコソコソとやることに依存する傾向があります。スマホやゲーム機の小さい画面はダラダラ見を助長させるのです。大画面で、親と面白さを共有できたら、その動画1本で満足できるはずですよ。
親が一緒に見る時間がとれない場合は、動画やゲームで満足する時間がどれくらいか、タイマーで計ってみてください。動画スタートでオン。もういいやでオフ。それで子供が満足する大体の時間がわかります。30分で満足するなら、それを1単位として子供自身に認識させます。すると、「明日は休みだから今日は3単位かな」「宿題が多いから1単位にしておこう」というように、自分でコントロールできるようになりますよ。
■●親の悩み4:「子供が朝の準備ができない」
仕掛け:ビンゴゲームにする
朝の準備といっても子供にとっては、洗顔、着替え、食事、歯磨き、ランドセルの準備……と、やるべきことが多岐にわたります。前述した通り、子供は課題や情報が多いとパニックになってしまう可能性があります。ダラダラしているのではなく、何からしていいのかわからず困っている状況かもしれません。
そこでお薦めなのが「9ブロック・タスク」という手法です。大きな課題を9つのスモールステップに分解して、それを脳に見せるという手法です。
例えば学校の準備なら、「時間割を調べる」「教科書を入れる」「ノートを入れる」「筆箱の中の確認」「宿題の確認」「提出物の確認」「絵の具や笛、体操着など道具の確認」「連絡帳」「ハンカチ、ティッシュ」の9項目を3×3のマスに書き入れるのです。済んだものに○を付けて、3項目が並んだら「ビンゴ!」と言うなど盛り上げながらさせてみましょう。
最初は○が3つだけでも目を瞑(つぶ)ってあげて。小さな達成感を与えながら、徐々に9個全部○を目指します。
着替えなら、「パジャマを脱ぐ」「下着を着替える」「靴下右をはく」「靴下左をはく」「上着を着る」「ボタンを留める」「ズボンをはく」「帽子の準備」「マスクの準備」で9項目。
慣れてきたら「朝の準備」としてまとめて、「着替え」「ランドセル」「食事」などレベルを上げてみましょう。
![【図表1】ビンゴカードの一例](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/d/1200wm/img_7d4993381b4e9ee653794eb3bd8ef65d350112.jpg)
■●子供を変身させるマジックワード
子供の行動を変えたいときに大切なのは、親が「べき論」や「精神論」でガミガミ言うのではなく、「脳をプログラムしていくって楽しいね」と、親子で一緒に進めていく姿勢です。ゲームでレベルアップしていくように数値化したり、「○○マンに変身」させたり、子供自身がダラダラの自分とは別の自分になれることを認識できる言葉をお伝えしましょう。
![『プレジデントFamily2022年夏号』](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/c/1200wm/img_2c1b6fc85df0577fed4e0ff2c49f444f362560.jpg)
【数値化する】
親「今日のやる気モードはどれくらい?」
子「今日はやる気モード30%なんだ」
親「100%にバージョンアップできるようエネルギーを注入しよう」と、おやつを与える。
【変身させる】
朝の準備がなかなかできないときには、「テキパキマンに変身!」
宿題がたくさんあるときには、「すぐやるマンに変身だ!」
【その気になる用語】
時間が守れないとき、「脳に時間アプリをインストールしよう」
その他、「シン・○○(子供の名前)」「アップグレードしてみよう」など
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作業療法士
国際医療福祉大学卒業後、民間病院精神科勤務を経て国立病院機構で脳のリハビリテーションに従事。脳の機能を活かした人材開発を行うユークロニア株式会社を設立。著書に『すぐやる!「行動力」を高める“科学的な”方法』『あなたの人生を変える睡眠の法則』など。
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(作業療法士 菅原 洋平)
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