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電気代高騰のさなか、猛暑のエアコン代を社員が自己負担…在宅勤務手当を払わぬ企業の確信犯を許せるか

プレジデントオンライン / 2022年8月1日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/show999

コロナ禍で引き続きテレワークを実施する企業は多いが、約7割の社員が在宅勤務手当などの支給を受けていない。ジャーナリストの溝上憲文さんは「物価高に加え、実質賃金は前年同期比でマイナス。そんな逆風の中、多くの企業が在宅勤務時の光熱費などを社員に自己負担させている。手当は会社の施しではなく、労働者が受けるべき当然の権利です」という――。

■通信費、光熱費…“自腹”テレワークが当たり前なのか

物価がどんどん上がっている。

6月の消費者物価指数が前年同月比2.2%上昇した(総務省)。10カ月連続の上昇となり、伸び率は消費増税の影響があった2015年3月(2.2%)以来、7年1カ月ぶりの高水準になった。

それに追いついていないのが賃金だ。

今年の春闘の平均賃上げ率は労働組合の中央組織の連合の最終集計結果は2.07%(6004円)だった(7月5日発表)。3年ぶりに2%台になったものの、物価が上回り焼け石に水の状態にある。

実際に厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、物価等を加味した4月の所定内給与の実質賃金は前年同期比マイナス1.6%、5月もマイナス1.4%に落ち込み、上がる気配がない。

今後も物価上昇が続くことが予想され、ビジネスパーソンの可処分所得のさらなる減少が必至だが、そんな中、気になるのが在宅で仕事をしているテレワーク勤務者の生活だ。

出社制限が緩和されつつあるとはいえ、東京都内の企業(従業員30人以上)の5月のテレワーク実施率は56.7%と半分以上の企業が実施。従業員300人以上の企業では80.3%。テレワークを実施した社員の割合は45.3%、そのうち週3日以上が47.6%もいる(東京都産業労働局)。

在宅勤務は通勤時間がなくなり自由に使える時間が増えるなど利便性が高いので利用者の人気も高い。

しかし一方で、在宅で仕事をするには相応の費用が発生する。ノートPCやスマホは会社から貸与されることがあっても、当初の机や椅子などのイニシャルコストに加えて、通信費や光熱費などのランニングコストの負担もバカにならない。

ましてや最近の物価高である。6月の消費者物価はエネルギー価格の上昇によって電気代は前年比18.0%、都市ガス代は21.9%も値上がりしている。さらに電力と都市ガス大手各社は7月分からの追加の値上げも決定している。

猛暑の在宅勤務は熱暑でエアコンもフル稼働だ。オフィス勤務時代の始業から終業時までの8時間を在宅で過ごすとなると、エアコンなどの電気代は相当の額になるはずだ。ランチも社食ではなく、自炊するとなるとガス代もかかる。

光熱費などを自腹で負担するとなると、さらに生活は圧迫される。当然、会社はそれに見合う額の費用を手当として支給するべきである。ところが実態はそうなっていない。

■社員が望んでいるのに「テレワーク手当はない」70.8%

LASSIC(ラシック/東京都港区)の「テレワークによる家計への影響 2021年版」(2022年4月26日)によると、「テレワーク手当はない」と回答した人が70.8%に上っている。

2020年度は82.5%だったが、手当支給企業がわずかしか増えていない。

また、ロバート・ウォルターズ・ジャパン(東京都渋谷区)の「アフターコロナ時代の新しい働き方意識調査(2022年版)」(2022年4月13日)では、在宅勤務者が会社から受けた支援内容について聞いている。

「携帯電話、スマートフォン」(28%)、「PCラップトップ」(24%)が最も多いが、仕事に必要な機材であり、会社が貸与するのは当然だ。

しかし「電気代等の光熱費」の支援は17%、「オフィス家具(モニター机・椅子)の購入手当」の支援は14%にとどまっている。

さらに会社に受けたい支援のトップ3は「自宅・ネット環境に対する支援・手当」(65%)、「電気代等の光熱費」(62%)、「オフィス家具(モニター机・椅子)の購入手当」(61%)だ。

エアコン
写真=iStock.com/Viktor Chebanenko
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Viktor Chebanenko

在宅勤務者が支援や手当を望んでいるのにテレワーク手当を受け取っていないと回答した人が7割もいるとは驚きだ。

なぜならコロナ感染拡大後の2020年に在宅勤務の負担軽減策として新たに「在宅勤務手当」を支給する企業が登場し、話題になったが、結果的に普及していないからだ。

しかも在宅勤務者の支援・手当は会社の“施し”ではなく、労働者が受けるべき当然の権利でもあるからだ。

雇用労働者に対して、会社が自宅を作業場所に指定している限り、オフィスと一体と見なされ、必要な措置を取ることが義務づけられている。労働者の賃金など権利を守る労働基準法(労基法)や健康と安全を守る労働安全衛生法は、在宅であってもオフィス・工場勤務と同様に使用者は遵守しなければならない。

さらに在宅勤務の支援や手当を支給していない企業は法律違反の疑いもある。労働基準法では労働者に情報通信機器、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合は就業規則に規定する必要がある(89条第5号)と定めている。

また、2021年3月25日の改定された厚生労働省の「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」によると、この法律の条項の解釈についてこう述べている。

「テレワークを行うことによって労働者に過度の負担が生じることは望ましくない。(中略)費用負担の取り扱いは様々であるため、労使のどちらがどのように負担するか、また、使用者が負担する場合における限度額、労働者が使用者に費用を請求する場合の請求方法等については、あらかじめ労使で十分に話し合い、企業ごとの状況に応じたルールを定め、就業規則等に規定しておくことが望ましい。特に労働者に情報通信機器、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合には、当該事項について就業規則に規定しなければならないこととされている」

つまり、在宅勤務の経済的負担について使用者と労働者(労働組合など)が協議して決める、そして決めたルールを就業規則に盛り込むか、テレワーク規定を設ける必要があるということだ。

■会社からの施しではなく、労働者が当然享受すべき権利

また、社内の法律である「就業規則」の改定や新しい規定を設ける場合は、従業員の過半数労働組合もしくは過半数代表者と協議し、その結果を従業員に周知するとともに労働基準監督署に届け出る必要がある。

逆に言えば、在宅勤務に関する支援や手当の支給がない場合、そのルールが就業規則に記載されておらず、テレワーク規定のないままに社員に負担を強いる企業は労働基準法89条違反ということになる。

読者のみなさんには、ぜひ自社の就業規則を確認してもらいたいが、仮に在宅勤務の負担を社員が負担する規定になっており、そのことを社員の誰もが知らなかった場合、これも周知義務に反し、労基法違反となり得る。

炎天下で40度を超える気温を指す温度計
写真=iStock.com/lamyai
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/lamyai

前出の厚労省のガイドラインには光熱費などについてこう記載されている。

「在宅勤務に伴い、労働者の自宅の電気料金等が増加する場合、実際の費用のうち業務に要した実費の金額を在宅勤務の実態(勤務時間等)を踏まえて合理的・客観的に計算し、支給することも考えられる」

つまり、就業時間と休憩時間、そして残業時間に要した自宅の照明やエアコンなどの電気代相当を企業が支給することを求めているともいえる。

少なくとも在宅勤務を原則とする企業や推奨している企業は在宅勤務手当を支給するべきだろう。

そうでなくても通勤定期代の支給を廃止し、出勤日の実費精算に切り替えるなど、会社の費用負担が減っている企業も多い。最低でも減少した通勤手当に見合う在宅勤務手当を支給しても損をすることはないだろう。

前出のLASSICの調査によると、テレワーク手当をもらっている人では「5000円未満」が20.6%、「5001円~1万円」が6.0%、1万円超は2.6%。5000円未満ではとても光熱費を賄うには十分ではない。

大手サービス業に勤務する社員(30歳)は、

「2020年のコロナ禍以降テレワークに移行している。通勤費はその都度の実費精算になったが、テレワーク手当は月額3000円。手当額以上に光熱費や通信費が増えており、社員の不満も高まっている」と明かす。

こうした不満を抱える企業も多いのではないか。

光熱費など物価が高騰する中、残業規制で残業代も減少している。自分たちの生活を防衛するためにも在宅勤務に要する費用を受け取るべきだ。

前述したように、このお金は会社からの施しや恩恵ではなく、働いている人が当然享受すべき権利だからである。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。

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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)

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