もう日本企業では働きたくない…東南アジアの女性たちが怒る「日本人男性のセクハラ」の恥ずかしい手口
プレジデントオンライン / 2022年8月2日 9時15分
■「25歳エロ系デパート販売員」として動画を無断投稿
「日本人男性に、何度も卑猥な質問をされ、その様子を撮影した動画を無断でYouTubeにアップされました。ほかにも被害者が大勢います。助けてください」
今年2月、Twitterを通じて、タイ人女性のAさんからこんな相談が届いた。
早速、メッセージに添えられたURLをクリックしてみると、「おっさんタイ語も英語も話せません 25歳エロ系デパート販売員」と書かれたサムネイルが目に入る。
動画を再生してみると、若いタイ人女性の姿が映っている。
その女性こそ、前述のAさんだという。
動画には、初老の日本人男性B氏が登場し、Aさんに対して、「セックスは好き?」「今夜ホテルに来る?」「サービスいいの?」といった、複数の性的な質問を繰り返していた。
「この男性とは出会い系アプリで知り合いました。食事をしていると、日本の友達に君の動画を送りたいと言われ、突然撮影が始まりました。卑猥な質問をされても受け流していましたが、その後友人から、あの動画がYouTubeで配信されていると聞きました。無断でこんな動画を公開するなんて、本当に怒りが収まりません。日本人は礼儀正しい人たちだと思っていたのに」(Aさん)
■「侮辱罪」として刑事罰を受ける可能性も
その後、AさんがLINEを通じてB氏に動画の公開中止を求めると、B氏は軽い謝罪とともに動画を削除する。
ただ、このB氏のチャンネルには当時、Aさんとは別の複数のタイ人女性たちが、同様に顔出しで卑猥な質問を受ける動画が、ほかにも数本アップされていた。
これがTwitterで問題提起され、在タイ日本人の間からも批判が相次ぎ、B氏は動画をすべて削除する事態に追い込まれた。
ただ、一部の視聴者は、そうした事情を分かっていながら、「面白い。もっと見たい」「うらやましい」というコメントを残しており、一部の日本人の人権意識の欠如ぶりを明るみに出した。
現地タイの弁護士は、「本人の許可なく勝手に動画を撮ることは、日本と同様にプライバシーの侵害になる」と、動画の違法性を指摘する。その上で、「辱めを受ける動画を勝手に不特定多数に見せたり、インターネット上で配信したりすることは侮辱罪にあたり、刑事罰の対象になる」と警鐘を鳴らす。
■「東南アジアをばかにする日本人」に厳しい目
いま、東南アジア各国で、日本人によるセクハラ被害が多数報告されている。
SNS上には、被害に遭った現地女性の怒りの声が噴出、日本人の印象が悪化する事態に発展している。
なぜ、東南アジアで、日本人による性被害が多発しているのだろうか。
その背景には、男尊女卑やアジア人軽視といった、日本に古くから根付いた価値観があると考えられる。
タイで30年以上暮らしている、ある日本人男性(60代)は、「過去の経済的な栄光を忘れられない日本人の中には、いまだに東南アジアをばかにしている人もいる」と指摘する。
タイではここ数年、SNSを中心に、このような日本人による女性への性被害が度々話題になっている。
2020年には、在タイ日本人らが、タイ人女性をナンパし、ホテルに連れ込めるかどうかを競い合うという動画がTwitter上で炎上。動画の内容が日本語からタイ語に訳されたことで、タイ人からも多くの批判が相次いだ。
■「Z世代」の登場で告発が増加
歓楽街が発展しているタイは、昔から「女性を安く買える国」というイメージがつきまとい、外国人と現地女性のトラブルが後を絶たなかった。
だがかつては、そうしたトラブルが表沙汰となることは少なかった。
なぜ、近年、こうした性被害の告発が大炎上するようになったのだろうか。
理由の一つは、タイを取り巻く環境の変化にある。
経済成長が続くタイでは、中間所得層が拡大し、人々の暮らしや考え方も近代化してきている。
特に1990年半ばから2010年代初頭に生まれた、いわゆる「Z世代」は、その多くが大学まで進学しており、人権問題をはじめ、社会問題に対する関心が高い。そこにスマートフォンやSNSの普及が相まって、問題や被害の告発が拡散しやすくなり、前述の炎上につながったと考えられる。
■ベトナムで「日本人男性の謝罪動画」が1万シェア
こうした問題は、タイだけにとどまらない。
特に、最近、性被害の告発が目立っているのは、ベトナムだ。
今年4~5月の連休中には、ベトナムにおける入国制限が緩和された影響で、ベトナムに向かう日本人が増えた。
と同時に、ベトナム人女性に対する盗撮や、強引な売買春の勧誘など、複数の性被害が現地で炎上した。
そのうちの一つが、次に紹介する「飛行機内盗撮事件」である。
現地報道や盗撮被害に遭った女性のSNS投稿によると、その被害女性は、ベトナム国内便の機内で、たまたま隣に座った日本人男性から盗撮されていることを、別の搭乗者から知らされたという。
その後、その日本人男性に、撮影した動画を見せるように要求したものの、男性が拒否。この日本人男性は、盗撮したこと自体を否定し続けた。
■普通のベトナム人に売春を持ち掛け炎上
その後、被害女性は、航空会社の職員などの協力を得て、この日本人男性を問い詰め、盗撮動画を確認する。男性のスマートフォンの中には、女性が寝ている間に撮影された、足など全身の映像が複数あった。
発覚後、被害女性は、日本人男性に対して、立ち上がって頭を下げて謝るように要求。
その謝罪の様子や、機内での一連のやり取り、盗撮された動画などがFacebookに投稿されると、瞬時に拡散され、ベトナム国内を中心に1万件以上シェアされた。
投稿を見たベトナム人からは、「日本人は自分たちが想像できないほど変態なんだな」というあきれ声や、「日本文化は好きだが、一部の無神経な日本人の行為にはがっかりだ」といった落胆の声が相次いだ。
これとほぼ同時期に、別の事件も発生している。
ある日本人男性が、ベトナムのコンビニで、そこにいたごく普通の一般女性に、売春を持ち掛けた。すると、この女性が怒って日本人男性を殴り、警察が呼ばれる事態となった。
ただ、警察がやってきた後も、この日本人男性が何ら悪びれることなく、ヘラヘラ笑っている様子がSNS上で拡散され、大炎上してしまった。
■「セクハラに耐えられない」親日タイ人女性の悲鳴
こうした性被害の問題は、東南アジアに進出する日系企業の人材採用にも影を落としている。
日系企業で働いていたタイ人女性からは、「飲み会でのお酌の強要や、肩を抱かれるといったセクハラに耐えられなくなった」「上司に夜の誘いを何度も受け、苦痛になり退職した」といった声も聞こえてくる。
日系企業で働く彼女たちは、日本の文化が好きで、大学で日本語を専攻するなど、時間とお金をかけて日本語を学んできている。
だが、セクハラ被害に遭ったタイ人女性らは「もう日本企業で働きたくない」と口をそろえる。
企業の国際競争が厳しさを増す中、日本企業はこうした親日で優秀な人材を、その「人権意識の欠如」のせいで、失っている事例もあるのだ。
■「古い価値観」から脱却しなければ中国・韓国に負ける
アジアの新興国が台頭する中、海外に進出する日系企業をとりまく環境は、大きく変化している。
「1990年代、タイで優れた会社といえば日系企業だった。いまはタイでも経営がしっかりしている会社が増えており、欧米や韓国、中国の会社にも、魅力的な会社はたくさんある。相対的に、日系企業以外の選択肢が増えている」。
タイで日系企業向けに人材紹介を行う、パーソネルコンサルタントの小田原靖社長は、そう指摘する。
そうした中で、セクハラやパワハラといった労働問題に加えて、「一律昇給や年功序列のような日本独特の制度が、外国人材獲得の足かせになっている側面もある」と指摘する。
日本では高齢化、人口減少が続き、国力の低下が懸念されている。
そうした中、日本企業が生き残るためには、海外での新規市場開拓や、海外事業展開を加速せざるを得ない現状がある。
一方、現在のように、ネット社会が発達すると、不適切な行為があれば、すぐネット上で炎上してしまう。
それがきっかけで、一企業のみならず、国全体のイメージが悪化してしまうことも考えられる。
そうした状況の中、個々の日本人、日本企業ともに、古い価値観から脱却し、人権意識をアップデートしなければ、大炎上は今後も続くだろう。
日本人のイメージをこれ以上悪化させないためにも、海外におけるコンプラ意識をより高めることが求められている。
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フリージャーナリスト
共同通信グループ系メディアのタイ駐在記者を務めたのち独立。現在はフリージャーナリストとして、東南アジア圏の経済情報や、現地の社会問題、ミャンマー難民問題などを取材。『週刊エコノミストオンライン』『新潮社フォーサイト』『AERAdot.』等に寄稿している。
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(フリージャーナリスト 泰 梨沙子)
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