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日本電産の永守重信会長が「まったく同じ内容のメール」を連日1週間も送り続けていた本当の理由

プレジデントオンライン / 2022年8月4日 10時15分

日本電産の永守重信会長

どうすれば人を動かせるのか。日本電産の永守重信会長は「私はよく『人に教えるときには千回言行』と言っている。だから同じ内容のメールを連日1週間、送り続けたこともある。どんな人であっても、毎日メールを送り続ければ、いつかかならず返ってくるからだ」という――。(第2回)

※本稿は、永守重信『人生をひらく』(PHP研究所)の一部を抜粋・再編集したものです。

■スピーチは、冒頭が重要

日本人には「訴える力」が足りないと私は思っています。まずもってスピーチが苦手です。自分の会社や事業、研究所などがどういう方向に向かうべきかとか、訴えることはたくさんあるはずなのに、訴える力がないばかりに、人がついてこない。訴える力というのは、ただ単に上手な文章を書いたり、書いてあることを読むだけでは向上しません。常日頃から自分が考えているポリシーをピシッと、心に届く形で訴えるのでなくては、人というのは動かないものです。

日本電産の経営会議に行っても、グループ会社の経営会議に行っても、みなスピーチが下手。専門家に言わせれば、人間というのは、5分くらいはどんなにつまらない話でも寝ずに聞いているものらしいのですが、その後は3分くらいで眠くなります。目は開いているのだけど、ほとんど気絶しているかのようです。

「プレゼン能力」というよりも「訴える力」がないから人を気絶させてしまうのでしょう。大河ドラマでも何でもそうですが、最初のところで「このドラマは他とは何か違うな」と思わせないと、視聴者は最後まで観てくれません。初回であくびばかりさせていたら、「全然おもしろくないな」となって、そこでおしまいになってしまいます。

だから、話のスタートというのはものすごく重要になります。にもかかわらず、プレゼンの資料は細かい字ばかりで遠くから読めない、与えられた時間で何を訴えようかが定まっていないので、何を言っているのかわからない、そんなスピーチが多い。

■「笑い」「驚き」「感心」の3つを入れる

中には、短い時間でポイントを突いてパシッと言う人がいます。たとえ訳のわからない話でもポイントを突いているから、時間通りにパッと終わる。

そもそも与えられた時間をオーバーしてしまうのはよくありません。30分くらいまでなら、「これとこれを話せば30分くらいになるな」と時計を見なくても、プラスマイナス5分くらいで終われるようにしないといけません。

では、具体的にどんな話から入ればいいかといえば、まずは「笑い」が必要です。5分くらいの短い話は別にしても、30分とか1時間話をしようと思うと、堅い話ばかりでは聞いているほうが続かないからです。

笑いが終わったら、次は「へー!」という驚き。三つ目は「ははー、なるほどな」という感心です。笑い、驚き、感心の三つがそろっていれば、人は寝ません。ワハハと笑いながら寝られる人はいません。驚いているときも、感心しているときも、人は眠ったりしないものです。

そして、5分に一度は、笑い、驚き、感心のどれかを披露する。4分50秒くらい難しい話をしたあと、最後の10秒でパッと笑いを入れて目を覚まさせるわけです。

■雑談が苦手な日本人

地位の高い人の話というのは、概して硬くてつまらないものです。そういう人のスピーチは最初からしてイメージがよくありません。「ああ、この人が出てきたか」と思った瞬間から眠くなってくる。とくに昼ご飯が終わった後の会議なんてひどいもので、そういう人の話は子守歌になってしまう。文字で起こしてみたら内容も悪くないし、結構いいことを言っているのに眠くなるというのは、やはり訴える力がないからなのです。

企業の役員室にある大きなテーブルと椅子
写真=iStock.com/mevans
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mevans

とはいえ、スピーチとはまったく関係ない、訳のわからないジョークを言っても仕方がありません。その話に関連するジョークを言わないといけない。この「雑談力」というのも日本人が苦手としている分野でしょう。

外国に行くと、「日本人ほどおもしろくない国民はいない」とよく言われるのはそのためです。あるとき、「なぜ日本人はあんなにおもしろくないのか」と中国人に面と向かって言われたことがあります。中国人は丸テーブルに座って話をしながらご飯を食べたり、お酒を飲むので、自然と雑談力が磨かれていくのでしょう。

一方の日本人はどうでしょうか。日本電産の幹部でランチをしたら、ご飯を食べることばかりに気を取られて、話をしようという気がそもそもない。料理は個別に出てくるのだからそんなに慌てて食べなくてもいいものを、ただ下を向いて食べている。これでは雑談力を向上させるのは難しいでしょう。

■リーダーに必要なのは「訴える力」

従業員が10人いるのか、100人いるのか、1000人いるのかは別として、自分の思っていることを組織の上に立って訴えることができるかどうか―─。これが、リーダーの原点であり、必須だと考えています。

日本には会社が約500万社あるとされますが、99%が中小企業です。それ以上大きくならないのは、「どういった志を持っているか」がまずもって影響しているのですが、志以上に「組織を大きくしていく力」、すなわち、訴える力が欠けていることが多いのではないでしょうか。

日本電産のグループ会社を見ても、訴える力のあるところは成長性が高いという特徴があります。訴える力があれば、聞いている社員が「これならやっていけるんじゃないか」「自分もがんばろう」という気持ちになります。

一方、訴える力がなければ、聞いているほうは「この人はまた口だけやな」「言っていることとやっていることが違うな」という気持ちになってしまう。それでは、訴える力どころか、逆に「口から出まかせ」になってしまい、何の効果もなくなってしまいます。

つまり、訴える力というのは、求心力、人心掌握力なのです。相手の心に訴えるものでなければ、人が動くことはないでしょう。

■一人でも部下を持つなら、必ず人の心を掴まなければいけない

部下を持たなくていい、一人でやっていきたいと考える人には、求心力は要りません。しかし、一人でも部下を持つ場合は、必ず人の心を掴まなければならない。まず、心に訴えて、それを頭で理解して、初めて行動に移せるようになる―─。この順番が大切です。具体的にいえば、「ああ、この人の言っていることは実現可能だな」とか、「その通りだな」というように心に通じたあとに頭に上がってくる、そして頭で理解したあとで行動に移していくことになります。

この間、30代で病院をつくった経営者に会ったところ、「今、私は全然、患者の診察はできません」と言っていました。それでも、とんでもない数の病床がある病院を経営できているのはなぜでしょうか。現場の医者に手術スキルがないと困りますが、病院経営者にとって必要なのは手術スキルではなく、訴える力だからです。

なぜなら、経営には理屈が通用しないからです。会社を経営していると、毎日毎日違ったことが起きます。設計とか開発とかなら、一応は基本となる理論や理屈がありますが、経営にはそれがありません。

だからこそ、組織の上に立つ人には訴える力が必要なのです。理屈通りにいかないことであっても訴える力を駆使して部下の心を動かさなければいけないのです。

■人に教えるときは千回言行

もし、あなたに部下が1000人いたとして、どれだけの人が、あなたが伝えていることを本当の意味で「わかっている」でしょうか。本当の意味で「わかる」ためには、頭でわかっているだけでは十分ではありません。完全に腑に落ちて、実行できるところまでもっていけることが、本当の「わかる」であって、そこまで「わかる」人は、1000人いても1人くらいではないでしょうか。

だからこそ、何度も伝えないといけないのです。私はよく「人に教えるときには千回言行」と言いますが、人にわかってもらおうと思ったら、1000回は言わないと伝わらないということです。

ビジネスマン同士の会話
写真=iStock.com/fizkes
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fizkes

ただ、実際には、1000回伝えているリーダーはほとんどいないでしょう。たいていは途中で放り出して、「こんな困ったやつは、もう辞めさせろ。言っても仕方がない」と諦めてしまう。本当は、1000回繰り返せば、絶対に伝わるのを途中でやめてしまっているのです。「1回言っただけでできる人」は天才であって、世の中にはそうそういるものではありません。秀才でも10回は言わないといけない。だから、1回しか言わないで、「なぜできないんだ!」と言うのは無理があるということです。

そして、大事なのは、1回目のときも、2回目のときも、1000回目のときも、初めて言ったように話すこと。聞いているほうは、「この話はもう100回目だ」と思って聞いていたとしても、言っているほうは、「今日は初めてだぞ、この話は」という気持ちで話さなければなりません。

中には、「お言葉を返すようですが、先ほどから何やら初めてのようにお話をされていますが、もう100回聞きました」と言う人がいるかもしれません。もちろんそんなことはわかっています。でも、まだ1000回に到達していないから、こちらは1000回言うぞ、伝わるまで言うぞという気持ちで話しているのです。

■返事があるまで、同じ内容のメールを送り続ける

京都の三十三間堂には「千手観音坐像」「千体千手観音立像」という国宝があったり、比叡山延暦寺のお坊さんが「千日回峰行」を行なったりと、仏教の世界では1000という数字がよく使われています。

そして、仏教の世界では、1000回言ってもできない人は、あの世に行けと言うらしいのです。厳しい言い方をすれば、「あなたはこの世に生きている価値がないんですよ」ということを意味しているのでしょう。

これをビジネスに置き換えて考えるとどうなるでしょうか?

永守重信『人生をひらく』(PHP研究所)
永守重信『人生をひらく』(PHP研究所)

たとえば、私は返事があるまで同じ内容のメールをバンバン打ちます。そうすると、やっと返事が返ってくるわけですが、そこには「会長、パソコンの操作を誤っておられませんか? 同じ内容のメールがもう1週間続いて来ていますよ」と書いてある。「だったらなぜしっかりと対応しないんだ。返事が来るまで、私は打つんだ。1000日続けて打って返事が来なかったら、君はクビだ」というわけです。

人間というのはたいていそうで、「おまえ、あのとき言ったじゃないか」「あのとき指示しただろう」と言ったところで、すぐにアクションを取って結果を出す人というのはごくわずかです。だから人の上に立つ人は、御用聞きになったつもりで、1000回でも言い続けないといけません。

もちろん、1000回言う時間が惜しいから、新しい人を採用したほうがいいという判断もできますが、どんな人でも1000回言えば、腑に落ちるということを忘れないでほしいと思います。

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永守 重信(ながもり・しげのぶ)
日本電産 代表取締役会長
1944年、京都府生まれ。6人兄弟の末っ子。京都市立洛陽工業高等学校を卒業後、職業訓練大学校(現・職業能力開発総合大学校)電気科を首席で卒業。1973年、28歳で日本電産を創業し、代表取締役に就任。同社を世界シェアトップを誇るモーターメーカーに育てた。また、企業のM&Aで業績を回復させた会社は60社を超える。著書に『成しとげる力』(サンマーク出版)、『人を動かす人になれ!』(三笠書房)など。

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(日本電産 代表取締役会長 永守 重信)

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