「追加で500万円」を払わないと新居に住めない…戸建住宅の引き渡しで相次ぐ「インフレ特約」という想定外
プレジデントオンライン / 2022年8月3日 10時15分
■「ウッドショック」により住宅建築費が高騰
「住宅の建築費用が当初の金額より200万円以上高くなると言われた」
「リフォーム工事を検討しているが、カタログより高い見積もり金額を提示された」
いま、全国の消費生活センターに、こうした相談が多数寄せられています。
2021年に「ウッドショック」が発生して以来、戸建住宅の建築費が高騰を続け、中には「契約時より大幅に値上がり」し、その超過分を請求されるといったケースも相次いでいるのです。
「ウッドショック」とは、コロナ禍をきっかけに発生した、世界的な木材価格の高騰のことです。
コロナ禍でリモートワークが普及すると、より広く快適な戸建住宅を求めるニーズが、アメリカ・カナダなど北米を中心に、世界各国で高まりました。
日本でも、2021年に入ると、コロナ禍からの経済活動回復の動きがあり、住宅需要が高まります。
加えて、コロナ禍の影響で世界の物流が混乱。特に国際海上輸送が、大きな打撃を受けた結果、輸入木材価格がさらに高騰してしまいました。
その結果、戸建住宅の建材として使われる、木材の価格が一気に高騰。その影響で、いま、戸建住宅の建築費が急上昇しているのです。
■「コロナ・オイル・アイアン・ウッド」の4大ショック
住宅建築費の高騰要因は、ウッドショックだけではありません。
「コロナ」「オイル」「アイアン」を加えた、「4大ショック」が、いま、日本の住宅需要を直撃しています。
その一つ、コロナの影響がまだまだ続いています。
ゼロコロナ政策を取る中国では、つい6月まで上海がロックダウンされていましたし、いま世界中でオミクロン株BA.5系統による「第7波」が猛威を奮っています。
しかも、ウクライナ戦争により、ロシア産木材の輸出が制限されたことで、ウッドショックに拍車がかかっています。
木材を含め、さまざまな資材のサプライチェーンが回復するのは、まだまだ先になると予想されます。
また、原油・ガソリン価格の高騰も、住宅建築費を押し上げています。
7月19日時点での全国のレギュラーガソリンの価格は、平均で1リットル当たり171.4円。3週連続で値下がりしたものの、まだまだ高値で推移しています。
原油価格が上がれば、建築資材の輸送費が上昇するほか、工事コストにも跳ね返ってきます。
原油価格のほか、鉄価格の高騰も大きな影を落としています。
異形棒鋼(鉄筋)、H形鋼(鉄骨)といった、鉄(鋼材)価格が上昇を続けており、部材によっては、過去最高値を更新したものもあります。
鉄筋や鉄骨といった鋼材は、マンションだけでなく、戸建住宅の建設でもよく使われます。そのため、鋼材の価格が高騰すると、やはり住宅建築費に跳ね返ってきます。
実際、2006年から2008年に鋼材価格が高騰した際は、建築費の水準が大きく上昇したことがあります。
その上、円相場が歴史的な円安水準となっているため、外国から輸入する資材・資源価格は、円高時より、大きく値上がりしてしまいます。
こうした複合的な要因により、「住宅建築費インフレ」が引き起こされているのです。
■住宅価格がコロナ前より約26%も上昇
現時点で、注文の戸建住宅は、ウッドショック前と比べ、2~3割ほど価格が上昇しています。
全国の工務店団体の調べによると、「床面積40坪の在来型木造住宅」、つまり、おおむね「家族4人、3~4LDKの一般的な木造一戸建て」の建設コストは、「ウッドショック」前の2020年の時点で、約2042万円でした。
ですが、「ウッドショック」後の2021年には、約2383万円と、約340万も値上がりしています。実に、1年間で約16.7%もの上昇です。
2022年に入り、さらに価格上昇のペースが上がっている印象です。
私が確認した範囲では、コロナ前なら3000万円ほどで建てられたはずの住宅が、いまなら3800万円ほど必要になっています。
コロナ前と比べて、実に26%もの上昇です。
しかも、こうした上昇傾向は、今後も中長期的に続くことが予想されます。
これから職人の高齢化がさらに進むため、建築現場の人手不足が悪化し、人件費がさらに上昇するでしょう。
その分を考えると、戸建住宅の価格は、今後さらに上がると思われます。
戸建住宅の購入を検討されているなら、早く買わないと、どんどん価格が上昇してしまうかもしれません。
■建築費高騰により「ステルス値上げ」が横行?
こうした住宅の「建築費インフレ」が問題になるのは、何もこれから購入する方だけではありません。
むしろ、すでに住宅を購入し、契約書を交わして、引き渡しを待つ人のほうが、より深刻な問題に直面する可能性があります。
冒頭でご紹介したように、契約時の金額より、高い費用を請求されるケースも多発しています。
本来は、契約書に「特約」がなければ、建築費高騰分を施主が支払う必要はありません。ただ、住宅会社側が、契約書の「特約」に、「経済事情の激変等で価格が上がったときには、理由を明示して必要と認められる請負代金額の変更を求めることができる」などの一文を入れていることがあります。
これは、国交省の中央建設業審議会「民間建設工事標準請負契約約款」にも記載されているもので、一般的な「特約」です。そのため、契約書を交わしたあとで、建築費高騰分を、住宅購入者が負担するケースが出てくるのです。
具体的な事例では、契約後に建築費が500万円も上昇したため、最終的に、建物のレベルダウンを受け入れて200万円程度下がったものの、まだ足りないので、庭や家具はあきらめたうえで、残りの超過分を現金で支払った、といったケースもあります。
その他、資材価格が上昇すると、施主が知らない間に、「ステルス値上げ」されてしまう可能性もあります。
「ステルス値上げ」とは、つまり、資材を勝手に安いものへ変えられたりするケースです。
そのほか、職人の人件費を削るために、予定外の突貫工事となって、住宅のクオリティが落ちるという可能性もあります。
トラブルを避けるためには、どんな資材を使っているのかを施主側が把握し、どの材料がどのくらい値上がりしたのか、きちんと説明を求めることが必要でしょう。
住宅メーカーの話をしっかり聞いて、お互いによく話し合うことが大切です。
■「未完成住宅の引渡し」が横行している理由
「完成後に当初より高い金額を請求される」「ステルス値上げ」に加えて、いまトラブルが多発しているのが、「未完成住宅の引渡し」です。
ここでいう「未完成住宅」とは、電気や水道も通っていて、一応住むことは出来る状態にはなっているものの、「当初の計画100%に達していない」状態で、施主に引き渡されるケースのことです。
例えば、当初の計画では、キッチンに「最新の食器洗浄機」を設置するが、コロナ禍によるサプライチェーンの混乱で、「最新の食器洗浄機」の納期が2年待ちなどになってしまっている、といったケースが多発しているのです。
そのため、その食器洗浄機が入荷したら、再度取り付ける約束で、未完成にもかかわらず住宅を引き渡してしまう場合があるのです。
あるいは、施主が希望するトイレや、照明器具などの入荷が遅れているので、仮のトイレや照明器具を、一時的に設置した上で、希望商品が入荷したら再度工事する、というケースもあります。
統計がなく、あくまで現場の感覚に過ぎませんが、現在、新築住宅の約10%が、こうした「未完成住宅」のまま引き渡されており、今後も増えていくことが予想されます。
「未完成住宅の引渡し」の場合、トイレや食洗器などをあとから据え付けることになりますが、動作や水漏れなどについてのチェックが甘くなり、トラブルになりやすいのです。
通常の引渡し時には、作業した大工さんのほか、現場監督、販売した住宅メーカーの担当者が、それぞれ時間をおいて念入りに何重ものチェックを行います。
しかし、「未完成住宅の引渡し」の場合、そうした何重ものチェックが行われません。据え付けたその場で問題がなければ、OKとされてしまいがちです。
しかし、特に水回りの場合、つなぎ目などが甘いせいで、時間が経ってから水漏れが発生することも多いのです。
そのため、「未完成住宅の引渡し」はなるべく避けたほうがいいでしょう。
いずれにしても、住宅建設やリフォームは不透明な状況が続きそうです。不測の事態に備えて、費用や期間について余裕をもって計画してください。
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不動産コンサルタント
さくら事務所会長。1967年生まれ。業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」を設立し、現在に至る。著書・メディア出演多数。YouTubeでも情報発信中。
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(不動産コンサルタント 長嶋 修)
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