だから旧統一教会の"金ヅル"にされる…日本に蔓延する「孤独推奨ビジネス」の罪深さ
プレジデントオンライン / 2022年8月3日 11時15分
■貧困、カルト入信、犯罪……の背景にある「孤独」
「うつ病や不安、暴力や依存症など、私たちの抱える多くの課題の根源。それは『孤独』である」
これは、CDC(疾病予防管理センター)などを傘下に持つ米公衆衛生局の長官ビベック・マーシー氏の言葉だ。マーシー氏が全米の医療や福祉の現場をくまなく視察して、気づいたのは、貧困や依存症で苦しむ人の共通項は「孤独」ということだった。それ以来、頻繁に「孤独」のリスクについて発信し続けている。
貧困、虐待、いじめ、引きこもり、依存症、カルトへの入信、犯罪……。今、巷で取りざたされる多くの社会的問題の表層がA面だとすれば、B面には多くの場合、「孤独」が隠れている。
孤独な人が必ずしもこうした問題を抱えているわけではないが、問題を抱える人に共通するのは「孤独」だ。人や社会と上手につながれないことによる不安感や寂しさ、絶望感は人を心身ともに崖っぷちへと追い詰める。
「孤独」は「心の飢餓」と言われる。お腹が空いたという飢餓感は「何か食べなさい」、のどが渇いたという渇望感は「何か飲みなさい」という脳からのサインであるのと同様、「孤独感」は「人と繋がりなさい」という脳からの指令であると考えられている。だから、そのサインを無視して、「我慢」しようとすれば、そのひずみが心身の問題として現れる。
孤独は一日たばこ15本吸うこと、アルコール依存症であることの2倍の健康リスクがあり、早死にリスクが50%上がる。こうした科学的研究から、世界では「孤独は現代の伝染病」として、その危険性に警鐘が鳴らされてきた。
■文壇の大御所や有名人などによる孤独礼賛ビジネス
そうした世界の趨勢とは逆行するように、日本では、「孤独」を美徳とする風潮が非常に根強い。書店に行けば、「孤独の力」「極上の孤独」「孤独をたのしむ力」など「孤独万歳本」ばかりが無数に並び、全力で「孤独」を肯定している。孤独に耐えられる人が一流で、耐えられない人は三流だと言わんばかりの論調だ。
実際に、筆者が「孤独のリスク」について記事を書くと、「一人の何が悪い」「人は一人で生きていくものだ」「余計なお世話だ」といったコメントがずらっと並ぶ。
これはなぜか。
まず、「孤独」と言う言葉に2面性があることだ。英語では、一人でポジティブな時間を過ごすSolitudeと寂しく不安なlonelinessが区別されているが、日本語では、双方を孤独と呼んでおり、そこが混同されやすい。もう一つは、同調圧力の強い日本では群れないことへの憧憬が強く、孤独=自立・独立・孤高である、と考えられやすいことが挙げられる。
![男性の背中](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/0/1200wm/img_f085b8cb40d93ac728e2592b0118c11d384392.jpg)
本来、孤独の「孤」は「みなしご」を意味し、孤児のように頼る人がいなく、寂しい内観を指す言葉だ。一人で楽しいsolitudeの「個独」とは違うし、「自立・独立」とも「ソロ」「お一人様」とも異なる。家族がいても「孤独」な人はいるし、単身でも「孤独」を感じない人もいるだろう。
文壇の大御所や有名人が次々と、「孤独」礼賛本を書くのは、実際に、日本に寄る辺のない孤独感を抱え、その寂しさを紛らわせたいという人が多く、本が売れるという理由もあるだろう。「一人」や「自立」といった言葉ではなく、あえて、感情を揺さぶる「孤独」という言葉を使い、そうした不安は気の持ちようで解消できる、と説く。まさに人の不安に付け込む「孤独ビジネス」だ。
しかし「孤独万歳」とうたい上げる彼ら自身は、常に「信者」に取り囲まれ、「作家は一人では歩けない」「人の賞賛を餌にして生きている」「一人でご飯を食べるのが嫌い」などとエッセーやインタビューでは語っているのである。
虐待やいじめを受ける子供、宗教二世、引きこもり、貧困にあえぐ人たち……。そんな絶望的な孤独があふれるこの日本で、「人に頼るな」「一人で強く生きていけ」という誤解をさせる孤独ビジネスは実に罪深い。
■旧統一教会は連帯感を提供しカネを奪う救済ビジネス
孤独ビジネスといえば、カルト教団など、人の「孤独感」につけこみ、所属意識や連帯感を提供することで、時間やカネを収奪する「孤独救済ビジネス」も存在する。まさに、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)などはこの典型だろう。彼らは、生きづらさや孤独感にさいなまれる人々に、人とつながる居場所を与え、取り込んでいく。
![男性の背中](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/1/1200wm/img_4157715385743d70ddccb6db4e6b74ae361687.jpg)
人の「孤独感」は人間の生死にかかわる根源的で激烈な感情だ。都市化、核家族化などにより、現代社会において、それに苦しむ人も爆増しているだけに、「推奨派」も「救済派」もカネになるというわけである。
「人は一人で強く生きていくもの」という「孤独推奨ビジネス」の論法は、翻ってみれば、「自分の身は自分で守れ」という自己責任論と通底する。実際に、孤独は自己責任と考える人の割合は、日本では44%に上り、アメリカの23%、イギリスの11%と比べ、圧倒的に高い(米カイザー財団調べ)。
お腹が空いた人に「飢えは体にいい」、金のない人に「金がなくても生きていける」と説くのにも似た孤独推奨ビジネスの論法では、孤独は自己責任であるから、他人に手を差し伸べる必要がない。自分は自分の身さえ守っていればいい。
つながりの大切さを説くよりも先に、人に頼ることは恥、つるむことは悪、仲間も友達もいらない、という主張はディストピア社会を助長することにはならないだろうか。
■孤独→怒り→絶望→社会を震撼させる事件へ
もちろん、ひと時の孤独に耐える強さは不可欠だ。交遊は広ければいいものでもないし、同調圧力に負けて嫌な人間関係を続ける必要はない。しがらみに縛られることのない「自立した生き方」は賞賛されるべきであっても、それは「孤独な生き方」と同義語ではないだろう。
![岡本純子『世界最高の雑談力』(東洋経済新報社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/e/1200wm/img_cefc03c87dfa5e2f1f147ad018bfd347402839.jpg)
孤独の行き過ぎた礼賛・美化は、孤独な人が、その気持ちを抑え込み、声を上げにくくなる、という深刻な副作用を生む。不安で寂しい思いを押し殺し、蓋をして、日本人お得意の「我慢」でやり過ごそう、と号令をかける孤独推奨ビジネスだが、残念ながら、「孤独の身を切る辛さ」はそうやって、抑え込めるものではない。
耐えきれなくなった人が「孤独救済ビジネス」に陥るパターンもあるし、やがて、怒りに変わり、絶望に変わり、社会を震撼させるような暴発へと発展するケースも今後はどんどんと増えてくるであろう。孤独推奨ビジネスと孤独救済ビジネスはある意味表裏一体なのだ。
誰もが自分を守ることだけに夢中になった「一人要塞」だらけの未来は決して生きやすいものではないはずだ。冒頭のマーシー氏はこうも言っている。「自分たちのことばかりに目を向けるのではなく、他者を癒すことで、孤独は癒されるものだ」。孤独を真に癒すのは、「孤独でいいんだ」というマッチョな精神論ではなく、善意ある他者の存在だ。誰もが誰かに手を差し伸べ、誰かの孤独を癒す存在になれる。
孤独は他の誰かの問題ではない。誰にでも、いつでも訪れる可能性のある「全国民」の課題である。「いざとなれば、誰かが支えてくれる」「一人であってもひとりぼっちにはならない」。共に支えあう社会づくりに向けて、真剣に考えるべき時が来ているのではないだろうか。
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コミュニケーション・ストラテジスト
グローコム代表。企業やビジネスプロフェッショナルの「コミュ力」強化支援のスペシャリスト。リーダーシップ人材の育成・研修などを手がけるかたわら、オジサン観察も続ける。著書に『世界一孤独な日本のオジサン』(角川新書)などがある。
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(コミュニケーション・ストラテジスト 岡本 純子)
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