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アメリカに比べれば日本のコロナ対策はずっとよかった…ビル・ゲイツがそう主張する意外な理由

プレジデントオンライン / 2022年8月5日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/rockdrigo68

日本のコロナ対策は海外からどう評価されているのか。マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏は「コロナ対策の成否は『超過死亡数』で見るべき。その点で日本は世界で最も高齢化が進んでいるにもかかわらず、特にうまく対処した国だ。一方、アメリカは世界で最も失敗した国となった」という――。

※本稿は、ビル・ゲイツ『パンデミックなき未来へ 僕たちにできること』(早川書房)の一部を再編集したものです。

■コロナで重要なのはほかよりうまく対処した国を見ること

人は過去から学ばない、そう言うのは簡単だ。でもときには学ぶこともある。第3次世界大戦がまだ起こっていないのはなぜか。ひとつには1945年に世界の指導者たちが歴史を見て、不和を解決するにはもっといい方法があると判断したからだ。

そんな気持ちで僕はCOVIDの教訓を見ている。僕らはそこから学び、致命的な病気から自分たちを守るべく、もっといい仕事をしようと決意できる。それどころか、いますぐ計画をつくってそこに資金を投じることが欠かせない。COVIDが過去のニュースになり、切迫感が薄れて、世界の注目がほかに移ったあとでは遅すぎる。

世界のCOVID対応のよかったところと悪かったところがさまざまな報告で示されていて、僕はそこから多くのことを学んだ。それに、ポリオ根絶など国際保健分野の仕事から得た数多くの重要な教訓と、ゲイツ財団の専門家および政府、学界、民間セクターの専門家とともにパンデミックを日々追うなかで得た教訓とをひとつにまとめて検討してもきた。重要なのは、ほかよりうまく対処した国を見ることだ。

■ワシントン大学のサイト「世界の疾病負荷」はコロナ分析に最適

おかしいと思われるのはわかっているが、僕のお気に入りのウェブサイトは、世界中の病気や健康問題を追跡したデータを集めたサイトだ。「世界の疾病負荷」という名前で、掲載されている情報は驚くほど細かい(2019年版では、204の国と地域で286の死因および369種類の傷病を追跡している)。人はいくつまで生きるのか、何のせいで病気になるのか、時間の経過とともにそれらがどう変化するのか、こういったことに興味があれば、このサイトがいちばんの情報源だ。一度に何時間でもデータを見ていられる。

このサイトを公開しているのは、僕の地元シアトルのワシントン大学にある保健指標評価研究所(IHME)だ。おそらく名前から想像できるように、IHMEは世界中の健康状況を測定することを専門とする機関である。因果関係を証明しようとするコンピュータ・モデリングにも取り組んでいる。一部の国で患者が増えたり減ったりしている理由を説明できそうなのはどの要因か、今後の見通しはどうなのかを示すモデリングだ。

■日本は最も高齢化が進むにもかかわらずコロナにうまく対応した

2020年はじめから、僕はIHMEのチームにCOVIDについての質問を浴びせてきた。知りたかったのは、COVIDに最もうまく対処している国に共通するのは何かだ。そうした国がすべて正しくおこなったことは何か。この問いへのあるていど確かな答えが見つかれば、最善の取り組みを理解でき、ほかの国にそれを採用するよう促すことができる。

まず必要なのが成功を定義することだが、これは思うほど簡単ではない。ある特定の国で、COVIDにかかった人がそのために亡くなる頻度を単純に把握することはできない。若者より高齢者のほうがCOVIDで亡くなる可能性が高いので、数字に歪みが生じ、高齢者が特に多い国はほぼ必然的にほかより悪い結果が出るからだ(世界で最も高齢化が進んでいるにもかかわらず、特にうまく対処した国が日本である。どの国よりマスク着用義務が遵守されていたのがその成功理由の一部と考えられるが、おそらくほかの要因もあった)。

■コロナ対策の成功の尺度は「超過死亡数」で見るべき

ほんとうに目を向けるべき成功の尺度は、病気の全体的な影響を捉えた数字である。COVIDの患者で病院が手いっぱいになり、そのために治療が行き届かず心臓発作で亡くなった人も、COVIDそのもので亡くなった人と同じく数に入れられるべきだ。

まさにそうした数字を示す尺度がある。超過死亡数(あるいは超過死亡率)と呼ばれるもので、COVIDによって直接亡くなった人に加えて、波及的に生じた影響によって死亡した人もそこに含める(国の人口規模を考慮に入れるために、単位人口あたりの超過死亡数で示される)。超過死亡が少なければ少ないほど、うまく対処しているということだ。実のところ、なかには超過死亡がマイナスの国もある。COVIDによる死者が比較的少なく、人が家にとどまることが大幅に増えたために交通事故やその他の致命的な事故も減ったのがその原因だ。

【図表1】超過死亡数
出所=『パンデミックなき未来へ 僕たちにできること』

■ヴェトナムは感染力が高い変異株で大きな打撃を受けた

2021年終わり近くのアメリカの超過死亡は、100万人あたり3200人をこえていて、おおむねブラジルやイランと同じくらいだ。一方、カナダは650人ほどで、ロシアは7000人を大きくこえている。

オーストラリア、ヴェトナム、ニュージーランド、韓国といった、超過死亡が最も低い(ほぼゼロかマイナスの)国の多くは、パンデミックの初期に三つのことをしていた。人口のかなりの部分を検査し、陽性者や濃厚接触者を隔離して、入国した可能性のある感染者を発見、追跡、管理する計画を実行していたのだ。

残念ながら、初期の成功を維持するのはときにむずかしい。ヴェトナムではCOVIDのワクチン接種を受けた人が比較的少なかった。ひとつにはワクチンの供給が限られていたからであり、またひとつにはウイルスを抑えるのに国が大きく成功していたため、ワクチンが差し迫って必要と思われなかったからでもある。

それゆえはるかに感染力の強いデルタ株がやってくると、なんらかの免疫を得ていた人が国内に少なかったため、ヴェトナムは大きな打撃を受けた。2021年7月に100万人あたりわずか500人だった超過死亡率は、12月には100万人あたり1500人近くまで上がる。ただし、超過死亡率が上がったあとでも、ヴェトナムの状態はやはりアメリカよりよかった。全体としては、あのような初期対策をとったことで、よりよい結果につながったといえる。

■コロナ対応を成功させた国は政府と国民に信頼関係がある

またIHMEのデータからは、COVID対応での国の成功は、政府への国民の信頼度とおおむね相関関係にあることもわかる。これは直感として理解できるだろう。政府を信頼していたら、COVID予防の政府指針に従う可能性も高くなる。

一方、政府への信頼は世論調査で測られる。とりわけ抑圧的な政権のもとで暮らしていたら、見ず知らずの世論調査員に政府についての本音を話すことはおそらくないだろう。それにいずれにせよ、この研究結果はすぐ実行に移せる実際的なアドバイスにはつながりにくい。国民と政府のあいだで信頼を築くには、それ自体を目的とした骨の折れる仕事に長年かけて取り組む必要がある。

うまくいく取り組みを見つけるもうひとつの方法が、問題を反対側から見ることだ。つまり、個々のことを特にうまくやったお手本を見つけて、そのやり方を調べ、ほかでも同じことができるようにする。〈国際保健の手本(Exemplars in Global Health)〉というそれにふさわしい名前のグループがまさにその仕事に取り組んでいて、とても興味深いつながりを見つけている。

たとえばほかがすべて同等なら、保健制度が全般にうまく機能している国はCOVIDに首尾よく対処できる可能性が高かった。訓練された人材がじゅうぶんいて、コミュニティの人たちから信頼され、必要なときに物資が揃っている診療所の強力なネットワークがあれば、新しい病気を撃退するのに有利になる。

ここからわかるのは、すべてのパンデミック予防計画には、何にもまして低・中所得の国が保健制度を向上させる手助けを組みこまなければならないということだ。

■国境の渋滞で感染者が増えたウガンダが行ったコロナ対策

もうひとつ例を挙げよう。データを見ると、国から国への感染拡大では国境をこえたトラック輸送がかなりの原因になっていたことがわかる。

この問題にうまく対処したのはどこか。パンデミックの初期にウガンダは、入国するすべてのトラック運転手にCOVIDの検査を義務づけ、すぐに東アフリカ地域全体もあとにつづいた。しかし検査のプロセスには時間がかかり、検査キットも不足していたので、この方針によって国境で最大4日待ちの大渋滞が起こり、窮屈な待機所で待つあいだに運転手同士が感染することも増えた。

渋滞の輸送トラック
写真=iStock.com/DarthArt
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DarthArt

ウガンダと近隣諸国は、いくつかの対処をして遅れの解消を図った。国境検問所に移動式の検査室を送ったり、結果を追跡し共有する電子システムをつくったり、国境ではなく出発国で検査を受けるよう運転手に求めたりといった具合だ。やがて国境の渋滞は解消され、感染者数も抑えられた。

ようするにこういうことだ。初期に人口の大部分を検査し、陽性者とその濃厚接触者を隔離して、国外からやってくる感染可能性のある人たちに対処できれば、感染者数をほどほどに抑える状態をつくれる。こうしたことをすぐにしなければ、極端な措置でしか大量の感染者と死者を防げなくなる。

■「2020年のホワイトハウスのコロナ対策はひどかった」

失敗のことをくよくよ考えるのは好きではないが、なかにはあまりにもひどくて無視できないものもある。前向きなお手本もあるとはいえ、たいていの国は、少なくともどこかの側面ではCOVIDにうまく対処できなかった。ここでアメリカを挙げるのは、個人的に状況をよく知っているからであり、もっとうまく対処できてしかるべき国だったからでもあるが、過ちをたくさん犯したのはもちろんアメリカだけではない。

2020年のホワイトハウスの対応はひどかった。大統領と有力な側近たちはパンデミックを軽く見て、国民にとんでもないアドバイスをした。信じられないことに、連邦政府の諸機関は互いにデータを共有するのを拒んでいた。

アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の所長が政治的に任命される職であり、政治の圧力のもとに置かれていることと、CDCが公表した手引きのなかに明らかに政治の影響を受けたものがあったことも、当然ながら事態を悪化させた。

さらに悪いことに、2020年のCDCの責任者は疫学の訓練を受けた人物ではなかった。ビル・フェイギやトム・フリーデンら、すばらしい仕事をしていまも記憶されているかつてのCDCの所長たちは、キャリアの大部分あるいはすべてをCDCで過ごした専門家だ。戦闘のシミュレーションすら経験したことがないのに、突然戦争を指揮しなければならなくなった将軍を想像してもらいたい。

しかし最大級の失敗は、アメリカがうまく検査を実施できなかったことだ。検査を受けた人はあまりにも少なく、結果が出るまでの時間も長すぎた。ウイルスに感染しているのにさらに7日間もそれがわからなければ、ほかの人にうつしながら1週間を過ごした可能性がある。個人的にいちばん信じがたい問題は、アメリカ政府が検査能力を最大まで広げなかったことであり、最優先ですぐに結果を出すべき人を見きわめて全検査結果を記録する一元的な方法をつくらなかったことである。

この問題は非常に簡単に回避できたはずだからだ。パンデミックがはじまってすでに2年経ち、オミクロン株が急速に広がるなかでも、症状があるのに検査を受けられない人がたくさんいた。

■まともなソフトウェア企業ならできるウェブサイトをつくらなかった

2020年の最初の数カ月の時点で、アメリカにいてCOVIDに感染しているのではと心配していた人はみな、政府のウェブサイトを訪れ、症状とリスク因子(年齢や居住地など)についての質問にいくつか答えることで、検査を受けられる場所を確認できるようになっているべきだった。あるいは検査用品が足りなかったのなら、希望者たちの優先順位が高くないことをそのサイトで判断し、いつ検査を受けられるかを知らせることができたのではないか。

そのサイトは、検査キットが最も効率的に使用されるように、つまり実際に陽性の結果が出る可能性の最も高い人に使用されるようにするだけでなく、検査を受けたがる人があまりにも少ない国内の地域について政府に追加情報も与えられただろう。このデータがあれば、政府はより多くのリソースを投入してそれらの地域で情報を提供し、検査を拡大できたはずだ。

ビル・ゲイツ『パンデミックなき未来へ 僕たちにできること』(早川書房)
ビル・ゲイツ『パンデミックなき未来へ 僕たちにできること』(早川書房)

またそのサイトを利用して、陽性の結果が出たりリスクが高かったりする人にすぐに臨床試験に参加できる資格を与え、重症化したり死亡したりするリスクが最も高い人がワクチン接種を受けられるようにもできただろう。それにパンデミックのとき以外でも、ほかの感染症との闘いでそのサイトは役立ったはずだ。

まともなソフトウェア企業なら、このサイトをすぐにつくることができたはずだが、結局、州や都市は手もとの手段に頼らざるをえず、プロセス全体がカオス状態に陥った。まるで西部劇の世界(ワイルド・ウエスト)だ。

ホワイトハウスやCDCの担当者たちと電話で話し、特に議論が白熱したときのことを憶えているが、この基本的な措置をとるのを拒んでいることに対し、かなり無礼な口をきいてしまった。世界で最も革新的な国で、致命的な病気と闘うにあたって現代のコミュニケーション技術をなぜ使わせようとしなかったのか、いまでも理解できない。

(マイクロソフト共同創業者 ビル・ゲイツ)

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