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遺産は不動産で残したほうが得する…お金持ちの常識「タワマン節税」にある意外な落とし穴

プレジデントオンライン / 2022年8月5日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/YvanDube

お金持ちが競うように買い求めるタワーマンション。なかでも高層階は人気を誇る。なぜななのか。元国税調査官の大村大次郎さんは「タワマンは高層階になるほど固定資産税が安くなり、連動して相続税も安くなる。しかし、意外な落とし穴がある。露骨な税金対策になる場合は注意が必要だ」という――。

※本稿は、大村大次郎『改訂版 税金を払わずに生きてゆく逃税術』(悟空出版)の一部を再編集したものです。

■金持ちはなぜかタワーマンションを買いたがる

「タワーマンション節税」という言葉を聞いたことがある読者も多いのではないだろうか?

都心の一等地に建てられたマンションが、発売と同時に完売するというケースは多々ある。

たとえば、2015年の年末から2016年春にかけて、『パークコート赤坂檜町ザ・タワー』というマンションが販売された。

このマンションは、港区赤坂9丁目の東京ミッドタウンに隣接する場所にある、地上44階建ての超高層タワーマンションである。戸数は322、最高価格の部屋はなんと15億円である。これがすぐに完売したのである。しかも、高層階から売れていったというのだ。

そして、高級マンションの購入者は、巷で流布されているような「中国人の富裕層」ではなく、大半が日本人だというのだ。

高層マンションが建てられるようになって、もう半世紀たつが、これほど金持ちが高層マンションに固執するようになったのは、最近のことである。

以前、日本人の金持ちは、これほどまでに固執はしていなかった。彼らは長い間、広い土地に豪邸を建てることをステータスとしていたのである。

しかし、昨今の金持ちは、一戸建てより高層マンションを買いたがる。

おそらく、その動向には節税対策が絡んでいると思われる。

なぜ、タワーマンションを買えば節税になるのか、普通の人にはなかなかわかりづらいと思う。

なので、それを簡単に説明したい。

■高層階は「固定資産税が異常に安い」

マンションの高層階が売れる理由の一つは「固定資産税が異常に安い」ということである。

固定資産税というのは、土地や建物などの「固定資産」にかかる税金である。

マンションを所有している場合、マンション全体の固定資産税を、各所有者の所有面積割合に応じて、案分されることになっているのだ。その案分割合には、階層の違いは考慮されない。

つまり、低層階であっても、高層階であっても、所有している面積に応じて固定資産税は課せられるのである。

だが、タワーマンションの場合、低層階と高層階では、販売価格に大きな違いがある。にもかかわらず、面積比では同じ固定資産税しかかかってこないのである。

しかも、固定資産税の評価額というのは、相続税の算出基準にもなっている。固定資産税の評価額が、マンションが相続資産となった場合の評価額の基準にもなるということである。

つまり、高層階であっても低層階であっても、同じマンション、同じ面積ならば、相続税の評価額は同じになるのだ。

東京都心の風景
写真=iStock.com/YvanDube
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/YvanDube

高層階と低層階であれば、場合によっては倍近い価格差が生じることもある。にもかかわらず、相続資産としての評価額は同じなのだ。ざっくり言えば、タワーマンションの高層階を買えば、相続税が低層階の半分になるのである。

それを狙って金持ちたちは、高級マンションの高層階を競うようにして買い求めているのである。

■高級マンションは相続税対策に打ってつけ

そもそも、タワーマンションに限らず高級マンションは、相続税対策に打ってつけなのである。遺産は現金、預金で残したり、一戸建ての家で残したりするより、高級マンションで残したほうが各段に節税効果が高いのだ。

その仕組みを説明したい。

相続税とは、死亡した人が資産を遺していて、遺族が一定以上の資産をもらった場合にかかってくる税金のことである。

一定以上の資産とはどれぐらいか。それは、基礎控除額が3000万円で、法定相続人一人あたりの控除額が600万円というルールからはじき出すことができる。

遺族が二人の場合は、

600万円×2+3000万円=4200万円

となり、4200万円以上の遺産を受け取る場合に、相続税が発生する。

ところが、この遺産の評価額というのが、少し複雑な計算になっているのだ。

現金、預金などの場合は、その金額そのままが遺産の評価額になる。

しかし、家などの不動産は、複雑な計算をすることになる。不動産の評価額は原則として時価ということになっているが、時価だけにその不動産を売ってみないとわからないものであり、売らずに正確な時価を算出することはできない。

そのため、便宜上、遺産としての不動産の評価額は、土地の部分は路線価を基準に、建物部分は固定資産税の評価額を基準に決まることになっている。

路線価とは、道路に面している土地の評価額のことで、毎年、国税庁が決めている。

この路線価は、市場価格に近い価格が設定されるが、市場価格よりも高くなった場合は相続税を取り過ぎることになるので、やや低めに設定されている。

固定資産税評価額というのは、市区町村の担当者が建物を見て、これはいくらぐらいというのを算定して決める。そして、年を経るごとに減額されていく。年を経れば建物の価値は下がっていくからだ。

路線価にしろ、固定資産評価額にしろ、たいがいの場合、市場価額よりも若干低めに設定されている。

しかも、建物の場合は、建ててから年数を経るごとに価値は下がっていくので、10年も経てば半額以下になることも珍しくない。

そのため、遺産は現金、預金で残すよりも、不動産で残したほうが、相続評価額は低くなるのだ。

■330m2以内の宅地なら相続税は80%減

しかも、不動産は相続税の評価額を算出するうえで、さらに有利な条件を備えている。もし遺産である家には故人と家族が一緒に暮らしていて、故人が死亡した後も家族が住み続ける場合は、遺産評価額が極端に安くなるのだ。

土地の評価額が80%も減額されるのである。

これは「小規模宅地等の特例」と呼ばれる制度であり、330m2以内の宅地を、死亡した人と同居している親族が相続した場合に適用される。

同居している親族には、もちろん配偶者も含まれる。だから、夫が死亡して、妻がその家を相続した場合は、その土地の評価額は80%減でいいということなのだ。子供が同居していた場合は、同様にこの恩恵の対象になる。

そして、「小規模宅地等の特例」の「330m2以内」という条件は、全国共通なのだ。都心部であっても、地方であっても、330m2以内の住宅地は、この特例の対象となる。土地の価格は関係なく、あくまで面積だけが条件となるのだ。

たとえば、都心の一等地にある宅地でも、面積が300m2ならばこの特例の対象となり、地方の500m2の宅地にはこの特例は適用されないのである。

だから、地方で広大な家を建てるよりは、都心部で330m2以内の宅地と家を買うほうが、相続税対策になるのだ。

そしてマンションであれば、どんなに広くても、所有している土地の面積が330m2を超えることはほとんどない。そのため、高級マンションを買って、そこに住んでおけば、相続税が大幅に節税できるということである。

相続資産としての評価額の大きさ(時価が同じ場合)
出典=『改訂版 税金を払わずに生きてゆく逃税術』

■露骨な税金対策には当局も目を光らせる

ただし、このタワーマンション節税には、落とし穴がある。

相続税の評価額を「固定資産税の評価額」で決めるというのは、便宜上そうされているだけであって、原則としては時価で換算されることになっているからだ。

だから、固定資産税を基準にして申告していても、税務署に時価で換算されて修正される恐れがあるのだ。

そして、税務当局はタワーマンション節税をけっして快く思っておらず、明らかな相続税の節税目的のタワーマンション購入に対しては、追徴税を課したこともある。

とある資産家が、相続税対策のためにタワーマンションを購入し、その資産家が死亡した途端に、遺族がマンションを売却したので「明らかに相続税逃れである」とし、慣例となっていた「路線価による価格評価」ではなく、本来の「時価評価」で、相続資産の算定をし直したのだ。

しかも最近になって税務当局は、タワーマンション節税に対してさらに厳しく対処するようになった。

2017年度から、固定資産税の評価額が改正されたのである。20階以上のマンションの高層階に対しては、階を上がるごとに高くなるように設定されている。最大で1階と最上階の差は、10数%程度だ。

ところが、この固定資産税の改正は、かえって「タワーマンション節税」を後押しすることになるかもしれない。

なぜなら、高層階と低層階の価格の違いは、わずか10数%では済まない。マンションによっては、2倍以上の価格差が生じる場合もある。50階建てマンションの50階と1階を比較して、価格差が10%などということはあり得ない。

したがって、新しい固定資産税を適用されたとしても、節税策としてはまだ十分にメリットがあるからだ。

大村大次郎『改訂版 税金を払わずに生きてゆく逃税術』(悟空出版)
大村大次郎『改訂版 税金を払わずに生きてゆく逃税術』(悟空出版)

そして、この新しい課税方法が適用されるのは、2017年4月以降に販売されたマンションである。それ以前に販売された物件には、以前のままの固定資産税が適用されている。

ということは、中古のタワーマンションならば、以前とまったく同じように節税策として使えるのである。

もちろん、あくまでも原則は「時価換算」であり、先ほど例にあげたようなことも発生しているので、相続税対策に使うにはノーリスクというわけにはいかない。しかし、覚えておいて損はないはずだ。

※税率および数字は、本書刊行時(2021年9月)のものです。

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大村 大次郎(おおむら・おおじろう)
元国税調査官
1960年生まれ。大阪府出身。元国税調査官。国税局、税務署で主に法人税担当調査官として10年間勤務後、経営コンサルタント、フリーライターとなる。難しい税金問題をわかりやすく解説。執筆活動のほか、ラジオ出演、「マルサ!! 東京国税局査察部」(フジテレビ系列)、「ナサケの女~国税局査察官~」(テレビ朝日系列)などの監修も務める。主な著書に『あらゆる領収書は経費で落とせる』(中公新書ラクレ)、『ズバリ回答! どんな領収書でも経費で落とす方法』『こんなモノまで! 領収書をストンと経費で落とす抜け道』『脱税の世界史』(すべて宝島社)ほか多数。

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(元国税調査官 大村 大次郎)

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