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コロナを"世界最悪の感染症"と考えるのは間違っている…ビル・ゲイツがそう結論づけたワケ

プレジデントオンライン / 2022年8月9日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/asiandelight

新型コロナウイルス感染症(COVID)とは、どれほど危険なのか。マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏は「コロナにより2021年末までに1700万をこえる超過死亡が引き起こされた。しかし貧困国では、過去10年でそれをこえる人がマラリアや出産で命を落としている。コロナはこうした健康格差を明らかにしたにすぎない」という――。

※本稿は、ビル・ゲイツ『パンデミックなき未来へ 僕たちにできること』(早川書房)の一部を再編集したものです。

■世界のコロナ対策は優秀だったが、格差も明らかにした

全体としては、COVIDへの世界の対応は並はずれて優秀だった。2019年12月には、この病気のことはだれも聞いたことがなかった。それから18カ月のうちに、複数のワクチンが開発され、安全かつ有効であることが証明されて、30億をこえる人、すなわち地球上の人口の40パーセント近くに届けられた。地球規模の病気に人類がこれほど迅速に、あるいは効果的に対処したことはない。普通なら5年以上かかることを1年半で成し遂げたのだ。

しかし、この驚異的な数字のなかでも驚くほどの格差があったし、いまもある。

まず、パンデミックはすべての人に等しく影響を与えたわけではない。アメリカの黒人とラテンアメリカ系の小学3年生は、白人とアジア系アメリカ人の児童の2倍、教室学習に遅れが生じた。アメリカでは黒人、ラテンアメリカ系、アメリカ先住民は、すべての年齢層でCOVIDによって死亡する可能性が白人の2倍高い。

■コロナ以前の所得レベルに戻るとされる貧しい国の人はわずか3分の1

パンデミックの全体的な影響が最も厳しく見られたのが、世界の低・中所得の国である。2020年、パンデミックのために世界中で1億近くの人が極度の貧困状態に追いやられた。これは約15パーセントの増加であり、数が増えたのは数十年ぶりだ。また、2022年にはほぼすべての先進国がパンデミック以前の所得レベルに戻ると見こまれているが、低・中所得の国では、それが見こまれるのはわずか3分の1にすぎない。

たいていの場合と同じように、世界で最も苦しんだ人は最低レベルの手助けしか得られなかった。貧しい国の人は、豊かな国の人と比べてCOVIDの検査や治療を受けられる可能性がはるかに低かった。最も著しい格差が見られたのがワクチンだ。

■「ひとつの国でたった25回しかワクチンが投与されていない国もある」

2021年1月、COVIDワクチンの提供がはじまるなか、WHOの事務局長は執行理事会の冒頭で厳しい評価を口にした。「少なくとも49の所得が比較的高い国で、3900万回分をこえるワクチンがすでに投与されました」とテドロス・アダノム・ゲブレイェソス博士は述べる。

「最低所得国では、ひとつの国で25回分しか投与されていません。2500万回ではなく、2万5000回でもなく、たったの25回です」

その年の5月には、テドロスが警告していた格差は新聞の一面を飾るニュースになっていた。「パンデミックはふたつに分かれた」という見出しが「ニューヨーク・タイムズ」紙に出る。

「一部の都市では死者がゼロ。ほかでは数千。ワクチンが富裕国へ流れていくなか、パンデミックの断絶は引きつづき広がっている」。WHOのある職員は、この格差を「道徳的に非道な状態」として公然と非難した。

こうした例はいくらでも挙げられる。2021年3月末の時点で、アメリカ人の18パーセントがワクチン接種を完全に終えていたが、この数字はインドでは0.67パーセント、南アフリカでは0.44パーセントだった。7月末にはアメリカでは50パーセントまで急増したが、インドではわずか7パーセント、南アフリカでは6パーセント未満にとどまっていた。何よりひどいのは、富裕国の重症化リスクが低い人が、貧困国のリスクがはるかに高い人よりも先にワクチン接種を受けていたことだ。

新型コロナウイルスワクチン接種券の封筒
写真=iStock.com/shirosuna-m
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shirosuna-m

■コロナウイルスは国際保健における最悪の不平等ですらなかった

これを目のあたりにした多くの人は、こうした状況に憤慨しショックを受けた。命を救えるワクチンが世界に何十億回分もあるのに、どうしてその分配がこれほど不公平なのか。抗議者がデモをし、政治家は心のこもった演説をしてワクチンを寄附すると約束した。

しかし国際保健の世界で仕事をする人たちの反応はちがった。もちろんみんなCOVIDをめぐる不公平に怒ってはいた。けれども、COVIDがほかと無関係に起こったわけではないこともわかっていた。COVIDは国際保健における唯一の不平等とはとてもいえず、それどころか最悪の不平等ですらなかったのだ。

考えてもらいたい。COVIDによって2021年末までに1700万をこえる超過死亡が引き起こされた。この数にはぞっとせずにいられない。しかしこれを過去10年間の発展途上国での死者数と比べてみよう。

2400万人の女性と赤ん坊が出産の前、最中、直後に亡くなった。腸疾患で1900万人が死亡した。HIVで1100万人近くが死亡し、マラリアで700万人をこえる死者が出て、そのほとんどが子どもと妊娠中の女性だ。そしてこれは過去10年間だけの数字である。そのずっと前からこうした病気で人が死んでいて、パンデミックが去ってもこれらはなくならない。毎年襲ってくるが、COVIDとはちがって世界の最優先課題として位置づけられてはいない。

抗マラリア薬の横に寝ているアフリカの子供
写真=iStock.com/poco_bw
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/poco_bw

■若くして死ぬか健康な大人になるかは生まれた国とお金次第

こうした病気で亡くなる人の圧倒的多数が低・中所得の国で暮らしている。どこで暮らしていてどれだけお金をもっているかによって、若くして死ぬか成長して健康な大人になるかがおおよそ決まるのだ。

ビル・ゲイツ『パンデミックなき未来へ 僕たちにできること』(早川書房)
ビル・ゲイツ『パンデミックなき未来へ 僕たちにできること』(早川書房)

これらの病気のなかには、低所得の熱帯諸国におもに存在し、それゆえ世界の大部分で無視されがちなものもある。過去10年間で、サハラ以南のアフリカではマラリアで400万人の子どもが死亡しているが、アメリカでの死者は100人に満たない。

ナイジェリアで生まれた子どもは、5歳の誕生日を迎える前に亡くなる可能性がアメリカで生まれた子の28倍高い。

いまアメリカで生まれた子どもは79年間生きることを見こめるが、シエラレオネで生まれた子が見こめるのはわずか60年だ。

■健康格差はコロナに限った話ではない

つまり健康格差は珍しいことではない。COVIDへの世界の不平等な対応に富裕国の多くの人がショックを受けたのは、それが異例だったからではなく、ほかのときには健康格差が目に入っていなかったからだと思う。世界全体が経験したCOVIDという病気によって、いかにリソースが不平等かだれもがわかるようになったのだ。

みなさんを落ちこませたいわけでもなければ、国際保健に命を捧げてこなかった人たちを非難したいわけでもない。ポイントは、これらはすべてもっと注目されてしかるべき問題だということだ。こうした病気を患う人のほとんどが低・中所得の国で暮らしているからといって、その恐ろしさが減るわけではまったくない。

僕の父が、この現象の道徳的側面を見事に言い表したことがある。ずっと昔のことだが、合同メソジスト教会の協議会でスピーチしたとき、父はこんなふうに言った。

「マラリアで苦しむ人たちは人間です。国家安全保障の戦力ではありません。輸出品の市場でもありません。対テロ戦争の盟友でもありません。わたしたちとはなんの関係もないところで、無限の価値をもつ人間なのです。愛情を注いでくれる母親がいて、必要としている子どもがいて、慈しんでくれる友人がいる。われわれはその人たちに手を差しのべるべきです」

■世界の健康状態が向上すれば国際関係もよくなる

まさにそのとおりだ。20年前にメリンダと僕がゲイツ財団を立ちあげたときには、この格差を減らし、最終的になくすことを目指して資金を提供することを最大の焦点にした。

道徳面での主張を展開しても、ひときわ豊かな国の政府を完全に納得させて、自分たちの国民を殺していない病気を減らしたり根絶したりできるだけの資金を出させることはできない。さいわい説得力をさらに高める実際的な論点もある。たとえば、健康状態が向上すれば世界はもっと安定して、国際関係もよくなるといった論点だ。僕は長年それを主張してきたし、いまCOVIDの時代には、新薬と保健制度に資金を投じれば、世界に広がる前にパンデミックを食い止めるのに役立つという恩恵もある。

■パンデミック予防と感染症プログラムは一方ではなく両方すべきこと

マラリアなどの感染症と闘うためにすべきことは、ほぼすべて将来のパンデミックに備えるのにも幅広く役立つし、その反対も同じだ。パンデミック予防か感染症プログラムか、どちらかひとつを選んで資金を投じなければならないという二者択一ではない。そのまったく反対である。両方できるのではなく両方すべきなのであって、それは両者が互いに補強しあうからだ。

国際保健において世界が成し遂げた進歩と、その進歩を可能にしたものをおさらいしておこう。前述した格差はたしかにひどいが、いまは歴史上のどの時点よりも小さくなっている。保健の基本的施策についていえば、僕らは正しい方向へすすんでいるわけだ。この進歩がどのように起こっているかはスリリングな物語で、パンデミックを予防する世界の能力にも直接関係している。

(マイクロソフト共同創業者 ビル・ゲイツ)

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