最弱テレビ局の深夜番組出身なのに…佐久間宣行の「テレ東退社後の大ブレイク」に業界人が驚かないワケ
プレジデントオンライン / 2022年8月7日 13時15分
■「最弱テレビ局」出身のプロデューサーが華々しく転身したワケ
佐久間宣行・46歳。最も有名なのは『ゴッドタン』(テレビ東京系)のプロデューサー・演出家としての顔だろうか。しかし、もはや何がメインフィールドなのかわからないほど、活躍の場は広がっている。
2021年3月のテレビ東京退社後も、『ゴッドタン』『あちこちオードリー』の演出・プロデュースは続行。ラジオでは『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)』(ニッポン放送)のパーソナリティを務めるほか、動画配信サービスで『トークサバイバー!~トークが面白いと生き残れるドラマ~』(Netflix)、YouTubeで『佐久間宣行のNOBROCK TV』なども手がけている。
YouTubeのチャンネル登録者数は56万2000人、視聴回数は約1億6900万回。さらにツイッターは31万9000フォロワー、インスタグラムは10万8000フォロワー(いずれも原稿執筆時の数値)を数え、いずれも右肩上がりで増え続けている。また、昨年行われた『あちこちオードリー』の配信ライブは8万4000枚を売り上げて「2021年番組オンラインイベント1位」の座を獲得していた。
クリエイターだけでなくキャストとしての活躍も増え、今年に入ってからだけでも『スッキリ』、『踊る!さんま御殿‼』(ともに日本テレビ系)などに出演。さらに映画『ストレンジャー・シングス 未知の世界 シーズン4』ではゲスト声優も務めた。書籍を出せばヒットし、2022年7月にはアイドルプロデュースのプロジェクトもスタートするなど、その影響力は増す一方と言っていいだろう。
かつて民放キー局の中で「最弱」「番外地」と言われたテレビ東京の社員に過ぎなかった佐久間がなぜ時代を象徴するほどの存在になったのか。あらためて、その成功の理由を掘り下げていきたい。
■企画で大事なことは「通る」「通らない」ではない
現在こそテレビ東京は「面白い番組が多い」などと言われているが、かつてはお笑い系のバラエティがほとんどなく、業界内で「最弱」「番外地」と言われていた。その状態を変えたのが佐久間宣行という声が多い。
もともとテレビ東京は、制作費、スタッフ数、ローカル系列局のすべてが民放他局より大幅に少なく、実現できる企画の幅が狭かった。しかし、佐久間は20代のころから「通る」「通らない」を別にしてお笑い系企画を提案し続けてきたことをこれまで何度も明かしている。
「通らない」を「失敗」や「評価ダウン」と思わず続けられることが成功の要因であり、意志の強さと視野の広さを象徴。佐久間はまず上司たちに「お笑い系の番組、特にコントがやりたい」という意志を伝えて自身を印象づけることに成功していた。
その上で、お笑い好きのターゲット層を狙う枠が新設されるときや、お笑いに興味があるスポンサーが見つかったときなどのタイミングで実現させていったという。
■結果として「視聴者ファースト」に
かつても現在も、マーケティングや流行にとらわれることなく、自分が面白いと思ったものを実現させるために動く佐久間の姿勢は、テレビ業界では異色。視聴率ありきではなく、視聴者の熱や愛着の深さを狙う視聴者ファーストの姿勢が、平成後期から令和にかけての視聴者嗜好(しこう)にハマってきた感がある。
だから佐久間の手がける番組は放送収入だけではなく、『ウレロ☆』『ゴッドタン』『あちこちオードリー』のようにイベント、配信、映画、舞台などの有料コンテンツ展開で稼げるものが多い。
その視聴者ファーストの先頭にいるのが佐久間本人。プロデューサー・ディレクターでありながら、視聴者としての自分を楽しませるような番組を企画し、現場では誰よりも楽しげに笑っている。だから撮影現場は「佐久間を笑わせよう」とキャストとスタッフの士気が高く、「もうひと笑いさせよう」という前向きな姿勢が見られるという。
テレビ東京の番組は低予算を逆手に取った一点突破型の企画が多く、切り口は斬新でも飽きさせずに毎週最後まで見せ切ることが難しい。
つまり、プロデュースと演出の技術が他局の番組以上に求められるのだが、佐久間はその両方を担うマルチプレーヤーであり、スキルの高さが前提にあることは疑いようのないところだ。
■誰よりも現場を楽しんでいる
「現場を楽しむ」という姿勢は佐久間が出演者となった際も変わらない。それが最もわかりやすいのは『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)』(ニッポン放送)だろうか。当初はフジテレビ系列のラジオ局でテレビ東京の局員がパーソナリティを務めることが驚かれたが、学生時代からラジオ好きの本人にとってはどこよりも楽しい場所のように見える。
もう一つ印象的だったのは、NHKの定番正月番組『新春TV放談』『あたらしいテレビ』に2019年から今年まで4年連続で出演していること。現役の民放局員が他局のコンテンツを語る番組に出るだけでも珍しいのだが、最近では動画配信サービスへの愛をたっぷり語るなど、テレビマンのイメージを覆す姿を見せている。
この1年では日本テレビの番組に連続出演。『アナザースカイ』にメインゲストとして出演したほか、『スッキリ』ではドラマ『真犯人フラグ』の考察コーナーに半年間レギュラー出演し、『踊る!さんま御殿‼』では芸人に近いポジションで笑いを誘っていた。
特筆すべきは人気者になった現在も、気取らず自分を大きく見せようとするところがないこと。それどころか、率先してミーハーになれるなど、バカに見えることを恐れない姿勢が若年層に受け入れられている。事実、『真犯人フラグ』の考察コーナーではノリノリで予想しながら、外しまくり自虐する姿は好感度抜群だった。
■作り手と視聴者の目線を持つ強み
プロフェッショナルの作り手とミーハーな視聴者という二つの目線を持って出演できることが佐久間の強みであり、自分の好きなものを愛情たっぷりに話す姿は、個人の趣味嗜好が尊重される現代の風潮にもフィット。
たとえば、現在配信されている『神回だけ見せます!』(TVer)で名シーンについて語りまくる姿は本当に楽しそうであり、共演者でトーク巧者の伊集院光をリードするような話しぶりを見せている。
アラフィフ世代に入って管理職としての仕事が増えたが、現場が好きなため退社を選んだこと。さらに円満退社で番組制作を継続していることも含め、佐久間は現在の視聴者が好印象を抱くような言動を見せ続けているのは間違いないだろう。
■芸人から慕われるためにやっていること
最後にもう一つ、佐久間の強みとして挙げておきたいのが出演者、特に芸人たちとの信頼関係。
佐久間は芸人たちが若く売れていないころから、しっかりリサーチするほか、自らヒアリングするなどリスペクトを欠かさず、現場でもコミュニケーションを取り続け、編集も責任を持って担うことで信頼を得ている。だからこそ佐久間がテレビ東京を離れ、彼らが人気者になったあとも芸人たちとのつき合いが続いているのだろう。
『ゴッドタン』『ウレロ☆』におぎやはぎ、劇団ひとり、バナナマン、バカリズム、東京03、オードリーらを起用したことは広く知られているが、たとえば今をときめく千鳥も6年前に『NEO決戦バラエティ キングちゃん』でキー局初のMCに抜擢(ばってき)したのは佐久間だった。ちなみに現在も担当番組だけでなく、YouTubeチャンネルでも若手・中堅の芸人たちを発掘し続けている。
「発掘」という先見の明があるだけでなく、新たな魅力を引き出すプロデュースも佐久間ならでは。日ごろ、劇場からラジオ、YouTube、動画配信サービスまで媒体を問わずアンテナを張っているため、テレビでは見せない性格、経歴、スキルなどに着目し、それにクローズアップしたオファーをしているという。
どのバラエティも「この芸人はこのキャラクターとこのギャグ」という起用に偏りがちな中、佐久間は新たな魅力を引き出すことを諦めていない。
たとえば『ゴッドタン』の「腐り芸人セラピー」に起用したインパルス・板倉俊之やハライチ・岩井勇気のように、本人にとっては新境地である上に、視聴者にとっても新鮮な笑いを届けようとしている。
■俳優業を始めたとしても不思議ではない
かつてテレビ東京は「民放4局から外れたタレントしか起用できない」という苦しさを抱えていたが、佐久間の番組によって「テレビ東京で起用されたタレントが民放4局で起用されていく」という逆流現象が起きるように変わった。言わば、「佐久間が目をつけた芸人なら間違いがない」ということであり、だからこそ『ゴッドタン』『あちこちオードリー』は業界内視聴率が高い。
作り手としても、出演者としても人気者である上に、放送、配信、リアルイベントなど活躍の場を問わないのだから、影響力が増すのは当然だろう。先日、あるインタビューで秋元康から俳優業を勧められて否定したことを明かしたが、現在の充実ぶりなら演じる姿を見せても決して驚かない。
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コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者
テレビ、エンタメ、時事、人間関係を専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、2万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。
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(コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者 木村 隆志)
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