がんの進行を急速に早める…がん治療医がすぐさま摂取をやめさせる"ある食べもの"【2022上半期BEST5】
プレジデントオンライン / 2022年8月16日 10時15分
※本稿は、和田洋巳『がん劇的寛解』(角川新書)の一部を再編集したものです。
■白米の代わりに玄米、パンは全粒粉パンを選ぶ
炭水化物は糖質と呼ばれるように、体内で糖(ブドウ糖)に変換された後、正常細胞のエネルギー源として使われます。ところが、がん細胞もまたブドウ糖をエネルギー源としており、正常細胞の約40倍にも上る数のブドウ糖輸送器を使って、とりわけ必要量を超えて変換されたブドウ糖を次々と取り込みます。
そこで、必要量を超える量の炭水化物を摂取しないこと、すなわち炭水化物の摂取量を控えめにすることが、まず重要になってきます。加えて、血糖値を急激に上昇させるような摂取の仕方をしない、という点にも留意が必要です。血糖値が急激に上昇している状態は、まさにブドウ糖が必要量を超えている状態そのものだからです。
したがって、炭水化物を摂取する場合は、体内で一気にブドウ糖に変化する白米、一般的な小麦粉を使用したパンや麺などをできるだけ避け、例えば白米の代わりに玄米、一般的な小麦粉を使用したパンの代わりに全粒粉パンを選ぶなど、グリセミックインデックス(食後血糖値の上昇度を示す指数)の低い食品を摂取するといいでしょう。
■適量は「1食につきご飯茶碗に軽く1杯程度」
玄米には、中心部にある胚乳(白米部分にあたるデンプン質)のほか、その胚乳を包み込んでいる糠層(糊粉層、種皮、果皮)や胚芽が含まれています。同様に、全粒粉(小麦を丸ごと粉にしたもの)を使用した全粒粉パンには、胚乳(一般的な白い小麦粉に精製される部分)のほか、胚芽や表皮が含まれています。
炭水化物を玄米や全粒粉パンで摂取した場合は、米や小麦の胚乳部分だけを摂取した場合に比べて、体内における炭水化物から糖への変化は緩やかとなり、その結果、食後の血糖値の上昇も緩やかになるのです。しかも、玄米の糠層や胚芽には、ビタミン、ミネラル、タンパク質、食物繊維などの健康成分も豊富に含まれているのです。
ただし、玄米の影響指数(食品や飲料を100グラム摂取した場合の体内環境に与える酸負荷の程度。指数がプラスに傾けば傾くほど体内環境は酸性に傾き、マイナスに傾けば傾くほど体内環境はアルカリ性に傾く)はプラス12.5とされているため、玄米を摂取する場合は量を控えめ(1食につきご飯茶碗に軽く1杯程度)にするとともに、野菜や果物をより多く摂取してアルカリ化を図ることが大切になってきます。
■塩分摂取は無塩に近い量が望ましい
同様に、がん細胞はナトリウム・プロトン交換器を駆使して塩分(ナトリウム)を取り込み、プロトン(水素イオン)を排出することで細胞外の微細環境を酸性化します。したがって、塩分の摂取を控えてがん細胞にナトリウムを与えないことが肝要になりますが、塩分もまた水分と同じようにヒトが生きていくためには不可欠の存在です。
では、現実的にはどれくらい摂取を控えればいいのでしょうか。
健康な人について言えば、厚生労働省が推奨している1日あたりの塩分摂取量は、男性で7.5グラム未満、女性で6.5グラム未満となっています。また、WHO(世界保健機関)が推奨している1日あたりの塩分摂取量は男女とも5グラム未満となっています。
しかし、前がん状態にある人や、すでにがんにかかってしまった人がアルカリ化食に取り組む場合、塩分摂取量は無塩に近い量が望ましい、あるいは食材そのものに含まれている塩分量で十分である、と私は考えています。
■たんぱく質は肉よりも大豆や納豆、青魚から
タンパク質もまたヒトが生きていくためには必要不可欠の栄養素ですが、体のアルカリ化という観点から言えば、タンパク質を牛肉や豚肉などの動物性のタンパク源から摂取することはなるべく控えます。代わりに、大豆や豆腐や納豆などの植物性のタンパク源からなるべく摂取することを心がけることが基本になってきます。
また、タンパク質を動物性のタンパク源から摂取する場合は、イワシやサンマ、サバやサケなどの青魚から摂取するのが理想的です。青魚にはDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)などの、健康成分としての必須脂肪酸(ヒトの体内では合成できない脂肪酸)が豊富に含まれているほか、DHAやEPAそのものに体内の慢性炎症を鎮める作用があるからです。
■「卵」はがん治療にも強力な味方だが…
ただし、タンパク質がどれくらい身になるかという点で比較すると、植物性のタンパク源は動物性のタンパク源に大きく劣ります。したがって、血清アルブミン値が安全基準値の4を下回らない状態を維持するためには、完全栄養食品と言われる鶏卵を摂取するのも1つの方法となります。
鶏卵にはタンパク質だけではなく、カルシウム、鉄分、リンなどのミネラル成分をはじめ、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンD、ビタミンEなどのビタミン成分、さらには脂質など、ビタミンCと食物繊維以外の栄養素がほぼ含まれています。
気をつけるべきは、鶏卵には1個につきおよそ200ミリグラムのコレステロールが含まれていることです。したがって、摂取量としては1日1個程度に留めておくことが妥当であると考えられます。
ちなみに、「生卵かけ玄米ご飯」はあまり推奨できません。玄米に含まれるビオチンという成分と卵白に含まれるアビジンという成分が消化管の中で化学反応を起こし、消化不良などを引き起こす懸念があるからです。
■野菜や果物は「生のまま丸ごと」がいい
しかし、炭水化物や塩分やタンパク質の摂取を頑張って控えめにしたとしても体内環境はがん細胞が好む酸性に傾いていきます。酸性に傾いた体内環境を中性に戻し、さらにアルカリ性にまで戻すためには、唯一のアルカリ化食品とも言える野菜や果物を多く摂取するのが最も有効です。
私のクリニックでは、とくに野菜の推奨摂取量は1日あたり400グラム程度としています。また、野菜や果物は加熱すると有効成分の一部が分解されてしまうため、多くの野菜や果物を「生のまま丸ごと食べる」ことも推奨しています。
しかし、毎日400グラムの野菜を摂取するのは容易ではありません。そこで、野菜や果物をジューサーやミキサーにかけ、ジュースにして摂取することを奨励しています。とくにオススメなのがニンジンをベースとしたジュース(ニンジンに果物などを加えてジューサーで搾ったもの)ですが、ジュースについては、毎朝、1日に必要な量を作って冷蔵庫に保管しておくと便利です。
また、野菜や果物にはビタミン類のほか、フィトケミカルなどの抗酸化物質も豊富に含まれています。フィトケミカルは野菜や果物の色素に含まれている成分で、その代表格にあたるポリフェノールにはがん発生の原因になる活性酸素を体内から除去するほか、同じくがん発生の原因になる悪玉コレステロールを減らす働きもあります。
■代謝の速いビタミン類は3食毎に補給する
中でも、緑黄色野菜や果物はビタミンの宝庫と言われています。
例えば、脂溶性のビタミンについて言えば、ビタミンAはニンジンのほか、カボチャ、モロヘイヤ、小松菜、トマトなどに豊富に含まれており、ビタミンEはカボチャ、モロヘイヤ、アーモンド、落花生などに豊富に含まれています。ただし、落花生(ピーナッツ)は体内環境を酸性に傾けてしまうため、避けるのが無難です。
水溶性のビタミンであるビタミンCは、パプリカ、菜の花、ブロッコリー、キウイ、イチゴ、オレンジ、グレープフルーツなどに多く含まれています。
しかも、ビタミンAとビタミンCとビタミンEには相互作用があり、これらを併せて摂取することで効果はさらに増していきます。そのため、相互作用を有するこの3種類のビタミンは「ACE(エース)」とも総称されています。ただし、ビタミン類はすぐに代謝されてしまうため、朝、昼、晩の3食のたびに補給し続けることが肝要となります。
■がん細胞を攻撃するキノコ類をたくさん食べるには
さらに、ハナビラタケ、干しシイタケ、シメジ、キクラゲ、エノキなど、キノコ類にはがん細胞を攻撃、殺傷する2次免疫(獲得免疫)を高めるβグルカンが大量に含まれています。とくにハナビラタケはその含有量が多いことで知られています。
ただし、キノコ類を毎日、大量に摂取することもまた容易ではありません。また、キノコ類に含まれるβグルカンを取り出すためには加熱も必要になります。
そこで、私のクリニックでは、すり潰したキノコ類に加熱した出汁を加えて作る「キノコペースト」の摂取を推奨しています。ペースト状にすることで、保存が可能になるほか、使用の選択肢も広がるからです。一例としては、玄米にキノコペーストを加えて炊く、といった使い方もオススメです。
■「甘いケーキ」はがん細胞にとってもおいしい
牛乳、バター、チーズなどの乳製品には、がん細胞の活動活性を上げるIGF-1(インスリン様成長因子)が多く含まれています。よく「体にいい」と言われているヨーグルトもその意味では例外ではなく酸性化食品なのです。チーズやバター、とりわけチーズの酸性化力は強烈です。
したがって、乳製品の生クリームがたっぷりと載った甘いチーズケーキなどは、がん細胞にIGF-1とブドウ糖を与え、かつ、がん細胞周辺の微細環境をがんが好む酸性に傾けるという点で、「最悪の食品」と言っていいでしょう。
私のこれまでの臨床経験から見ても、とくにがんにかかった女性の患者さんの場合は、「甘い洋菓子」などの甘味品を多食していたという傾向が顕著に見られます。
したがって、私のクリニックでは、このような食歴を持つ患者さんに対しては乳製品や甘味品の「即時摂取中止」を指導しています。実際、多くの患者さんが乳製品や甘味品の即時摂取中止をはじめとする食生活の見直しによって劇的寛解を得ているのです。
■健康面でメリットしかない食品や飲料などない
ただし、乳製品、とくにヨーグルトなどには、腸内細菌叢、いわゆる腸内フローラを整える効果があります。そして、腸内細菌叢が乱れるとがんにかかりやすくなることが知られているのです。
それらの点を考慮した上で、私のクリニックでは玄米を玄米麹で発酵させた特製の甘酒を甘味品や調味料として推奨することもあります。発酵食品には腸内細菌叢を整え、2次免疫力を上昇させて、がん細胞の活動活性を抑止する働きもあるからです。
突き詰めて言えば、がんや生活習慣病に対してメリットしかない食品や飲料などこの世に存在しません。食品や飲料の持つメリットとデメリットを天秤にかけ、治療効果の上がる最適な組み合わせを選択していくことが肝要となるのです。
■牛肉豚肉、ソーセージなどがもつ2つの発がん性物質
動物性のタンパク源、中でも牛肉や豚肉、ソーセージなどの加工肉は尿ペーハー、すなわちがん細胞周辺の微細環境をはじめとする体内環境を著しく酸性に傾けます。しかし、牛肉や豚肉や加工肉の弊害は酸性化だけではありません。
実は、動物性のタンパク質を豊富に含んだ牛肉や豚肉や加工肉などを焼いて調理する過程で2つの発がん性物質が生成されることがわかってきています。
1つはHCA(ヘテロサイクリックアミン)、もう1つはPAH(多環芳香族炭化水素)と呼ばれる物質です。このうち、HCAは肉類を焼いた際にできる黒いコゲに含まれており、PAHは炭などに落ちた肉類の油から立ち上る煙に含まれていますが、いずれも発がん性物質として知られている有害物質なのです。
■「がんをおとなしくさせる食事」はたくさんある
したがって、少なくとも前がん状態にある人やすでにがんを発症してしまった人がタンパク質を摂取する場合は、牛肉や豚肉や加工肉などの動物性タンパク源ではなく、大豆をはじめとする植物性タンパク源から摂取することが推奨されるのです。また、タンパク質の摂取不足を動物性タンパク源で補う場合は、抗炎症作用も持つDHAやEPAを豊富に含む青魚などから摂取するのが上策となります。
以上が「がんをおとなしくさせるための食事術」になりますが、これらの食事術に則った具体的な献立例やレシピ(朝、昼、晩の3食)については、そのための下ごしらえ(出汁の取り方、サラダドレッシング・ディップの作り方、キノコペーストの作り方、野菜・果物ジュースの作り方など)も含めて、私の過去の著書『がんを生き抜く最強ごはん』(毎日新聞出版、2019年)や『がんに負けないからだをつくる 和田屋のごはん』(WIKOM研究所、2018年)の中で詳しく紹介しています。
また、ここで紹介した食事術の詳細とがんに対して有効なメカニズムは最新刊『がん劇的寛解』(角川新書、2022年)で解説していますので、ぜひとも参考にしてみてください。
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からすま和田クリニック院長、京都大学名誉教授、一般社団法人日本がんと炎症・代謝研究会代表理事
1943年大阪市生まれ。1970年京都大学医学部卒業。医学博士。京都大学胸部疾患研究所、同大学再生医科学研究所を経て同大学大学院医学研究科器官外科(呼吸器外科)教授。京都大学を退職後、2011年にからすま和田クリニックを開設。主な著書に『がんに負けないからだをつくる 和田屋のごはん』『がんに負けないこころとからだのつくりかた』(以上共著、WIKOM研究所)、『がんを生き抜く最強ごはん』(毎日新聞出版)、『がん劇的寛解』(角川新書)などがある。
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(からすま和田クリニック院長、京都大学名誉教授、一般社団法人日本がんと炎症・代謝研究会代表理事 和田 洋巳)
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