1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

技術やサービスのことは一切聞かない…永守重信がイイ企業とダメ企業の見きわめに使う「とっておきの質問」

プレジデントオンライン / 2022年8月10日 10時15分

日本電産の永守重信会長

成長する企業や成長する人材を見きわめるには、どうすればいいのか。日本電産の永守重信会長は「最も基本的な方法は、経営者と社員の働き方を見ること。そこに評価の勘所がある」という――。

※本稿は、永守重信『人生をひらく』(PHP研究所)の一部を抜粋・再編集したものです。

■成長する企業を見極める簡単な質問

京都には、「京都市ベンチャー企業目利き委員会」というのがあって、以前、私も委員長を務めたことがあります。2代目委員長の堀場(ほりば)雅夫(まさお)さんが亡くなられたあと、「委員長をやってほしい。京都のために尽くしてくださいよ」と言われて、断り切れずに委員長になったのです。

ベンチャーというのはお金がないので、目利き委員会のほうで、A、B、Cとランクをつけて、Aランクをもらうと銀行の融資が受けやすくなる。そんな仕組みです。多くの委員は、「これはどういう理屈で、こういう製品をつくっているのか? 今後のマーケットはどうだ」とか、製品・サービスのことばかり聞いている中、私はそういうことは一つも聞きませんでした。

たいていの場合、私の質問は「あなたは何時に会社に来ている? それで何時に帰る? 土曜日に何をしている?」だけで、その答えいかんによって、「これはAだ」と答えるようにしていました。

そのときは、「そんな質問だけで、Aをつけるなんて!」と言う人もいましたが、そのあと、京都市の副市長さんが来て「永守さんは本業のことは何もお聞きになりませんでしたが、結局、永守さんがAを付けられたところは全部残っています」と教えてくれました。

■学校の成績は見なくていい…「学校を休んでいない人」を採用せよ

そもそも、ベンチャー企業というものは、そんなに大した技術は持っていません。私が創業したのは28歳で、社会に出て6年くらい。武器にたとえるなら弾が一発だけ入っている小さなピストル程度でしょう。それに比べて、大会社というのは、機関銃で撃ちまくっている。かたや弾が一発しかないベンチャーは、パーンと撃って外れたらそれで終わりです。

だから、技術のすばらしさというのは、関係ないのです。たまたま一発目の弾が当たったとしても、撃ったらそれでおしまいです。もう弾はありません。だから、一発目が当たったら次、次、次と、持続的にやれるかどうかだけの話なのです。

これは人を採用するときも同じで、日本電産では今では高卒の人を採ることは少なくなりましたが、以前は、「採用するときは学校の成績とかそんなものは見なくていい。何を見るかわかるか。出席率を見ろ。学校を休んでいない人を採れ。高校生活3年間、全然休んでいないやつを採ってみろ。勉強とかそんなものは関係ない」と言ったら、見事にいい人が入ってきてくれました。

その頃、他の会社では、成績がAの人とか、非常に好感の持てる青年を採っていたようですが、そうした人の多くは敵前逃亡、逃げていってしまったという話を聞いたことがあります。

■技術力よりも、どれだけ働いているかのほうが大事

目利き委員会の具体例を挙げると、ある会社に対して、他の委員は、「いや、この会社はAランクと違いますよ」と散々反対したけれど、私は「いや、あれはAだ。あれをBとかCにするんだったら、私は委員を辞める」と、ゴリ押ししたことがあります。

その会社のその後はといえば、案の定、売上500億円くらいまで一気に成長していきました。なぜ、私がAランクにしたかといえば、彼らが恐ろしいくらい働いていたからです。睡眠時間を最小限にするだけでなく、風呂に入る時間も惜しんで働いていると聞いたから、Aランクにしたのです。10分や15分の審査時間では、技術の話を聞くよりも、そうした勘所を押さえたほうが、よほど正しい評価ができると私は思っています。

オフィスで働くビジネスパーソン
写真=iStock.com/kieferpix
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix

▼まとめ

成長する企業を見極める最も基本的な方法は、経営者と社員の働き方を見ること。そこに評価の勘所がある。

トップの器以上には組織は大きくならないから、経営者は自分自身の器を大きくし、あわせて社員の器も大きくしていかなくてはならない。

■「ジョブローテーション」に向かない人もいる

本来「人事」は、個別具体的なことであって、人によって対応を変えるべきものです。

たとえば、ある能力を有していることによって大成功する可能性がある人に対しては、ジョブローテーションだからといって、ぐるぐる部署を回さないほうがいい。それでは人事の失敗となってしまうでしょう。

日本電産グループの中にも、かつては、何の脈絡もなく、開発の人を営業にもっていったり、工場にもっていったりと、ぐるぐると人を入れ替える会社がありました。しかし、それでは本当のプロは育ちません。たとえ部署を変えるとしても、軸を変えてはいけないというのが私の考え方です。当該人物が「エンジニア」だとすれば、エンジニアを軸に少し違う島に異動させることはあっても、軸がまったく違うところに異動させてはならないということです。

そして本人に対しても、「君は技術者だ。わかっているな? それでも、今からもっと高い地位に就こうと思うなら、一度2年くらいは工場を経験してほしい」というように、こちらの意図を伝えるのです。実際、日本電産では、開発センターの所長になるような人は、必ず一度は工場を経験しています。

これは当たり前のことであって、設計を担当した人が、自分が引いた図面がその後どうやってつくられるかを知らないでは済まされないということです。だから、たとえ開発部長をやっていたとしても、一度は工場に出て工場長をやって、今度は開発センターの所長として帰ってくる。そうすれば、両方がわかるようになります。

営業をやってきた人を購買に回すのもいいでしょう。売る立場の人というのは、買う立場の人にいつもいじめられているわけですが、今度は逆の立場、すなわち買う立場になることで見えてくるものがあるということです。

■自分の部下をすぐに「ダメな人材だ」と決めつけないこと

ですから、軸を変えない範囲で、全体が10とすると、そのうちの1か0.5くらいは他のことをやらせるというのは非常によいことだと私は思いますが、くれぐれも、根拠もなしに人を動かすことだけは避けていただきたい。

会社が発展するか否かは、いかに適材適所に人員を配置するか、能力が活かせる場所で働いてもらうかにかかっていると言ってもよいでしょう。

私は「すぐにダメだと言うな。ダメならば適材適所の部署へ変えてやれ」と言っています。場所を変えるだけで、これまではまったく能力を発揮できていなかった人物が、活きてくる例もたくさんあるからです。営業ではまったくダメだったけれど、他のところに異動したら、ものすごくよくなるということはよくある話です。リーダーというのは、そういう人使いをしないといけません。

▼まとめ

会社の発展は、人員を適材適所に配置し、能力を活かしてもらうことにかかっている。リーダーはそんな人使いができなければならない。

リーダーというのはかくあるべきで、説得もせずに「あいつはけしからん。私の言うことを聞かない」と言うのは、誰でもできることであって、本当の指導者ではないということです。

▼まとめ

組織においては「健全なる反対」があっていい。しかしリーダーは、その反対を賛成に変える強力な説得力を持たなくてはならない。

■教えもせずに「こんなこともできないのか!」と言っていないか

昔、日本電産には、「彼の部下になった人は必ず辞める」という上司が3人ほどいました。もし、今導入されているような360度評価をやったなら、おそらく彼らはワースト3になることでしょう。

永守重信『人生をひらく』(PHP研究所)
永守重信『人生をひらく』(PHP研究所)

でも、不思議なことに、本人はそのことにまったく気づいていませんでした。自分では上手に部下を管理していると思っているので、「なぜ、君の部下になる人はすぐに辞めるのか」と聞いても、「それは自分のせいではありません。たまたまその方の実家が何か事業をやっていて、帰りたいとか……」と弁明するわけです。

彼らはみな華々しい経歴の持ち主で、自分は頭がいいものだから、すぐに「こんなこともできないのか!」となってしまっていたのでしょう。

しかし、本来、上司というものは部下に「今日はちゃんとやり方を教えるから、いいか?」と言って、しっかりと教えなければなりません。

10回、20回、100回、そして1000回言ってもダメなら、「こんなこともできないのか!」と言っても構いませんが、1回も教えないで言うのは論外です。

要は人の使い方を知らないわけです。部下というのは、何はともあれ、包み込まなければ始まりません。包み込むというのは、甘やかすこととは違います。もし、工場の現場だったら「そこに機械があって、最初にボタンを押して、それでこうなって……。一遍やってみなさい」というように機械の使い方を教える。部下の作業を見ながら、「うんうん、そうそうそう。あー、それはこっちのことだ。もう一遍やってみなさい」と言って、それができたら次の操作を教える。

それで何回も教えて、最終的に「ダメだな。この仕事に向かないな。別の仕事をやろう」と言って、マッチングする仕事を一緒に見つける。仕事には向き不向きがありますが、必ずどこかにマッチングするものです。ですから、本人にやる気がある限りにおいては指導していかなければなりません。これが包み込むということです。

工場で働く男女
写真=iStock.com/coffeekai
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/coffeekai

■好き嫌いで人を使いだすと組織はおかしくなる

人を使うというのは簡単ではありません。気概と執念が必要です。中には、はいはいと言って何もやらない人もいますが、それに対して怒ったり、好き嫌いで人を使い出すと、組織はおかしくなってしまいます。

私は創業以来、「儲けてくれる人が一番偉い。その次に偉いのは会社にいい変化を与えた人だ」ということを頭の中にたたき込んできました。好きであろうが嫌いであろうが、会社の中では、儲けてくれる人が偉いからです。

そうはいっても、儲けてくれるけれど、私も嫌いな人に遭遇することがあります。でも、査定ではいい評価をつけます。さすがに仕事が終わってからどこかに一緒に飲みに行こうとは思いませんが、辞めてほしいなんて思ったことは一度もありません。

▼まとめ

人には向き不向きがあるが、必ずマッチングする仕事がある。それを一緒に見つけるのが上司の役割である。

----------

永守 重信(ながもり・しげのぶ)
日本電産 代表取締役会長
1944年、京都府生まれ。6人兄弟の末っ子。京都市立洛陽工業高等学校を卒業後、職業訓練大学校(現・職業能力開発総合大学校)電気科を首席で卒業。1973年、28歳で日本電産を創業し、代表取締役に就任。同社を世界シェアトップを誇るモーターメーカーに育てた。また、企業のM&Aで業績を回復させた会社は60社を超える。著書に『成しとげる力』(サンマーク出版)、『人を動かす人になれ!』(三笠書房)など。

----------

(日本電産 代表取締役会長 永守 重信)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください