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「100円ショップが100円」なのは日本ぐらい…ダイソーがついに始めた「300円ショップ」は成功するのか

プレジデントオンライン / 2022年8月10日 12時15分

東京・銀座に開店する100円ショップ「ダイソー」の旗艦店=2022年4月13日、東京都中央区 - 写真=時事通信フォト

原材料の価格高騰などで、「100円ショップ」という業態が岐路にある。経営コンサルタントの鈴木貴博さんは「業界首位のダイソーは300円ショップ業態に進出した。しかし、100円と300円ではビジネスモデルが大きく違うため、成功するとは限らない」という――。

■「100円ショップが100円」なのは日本ぐらい

みんなが大好きな100円ショップですが、そのビジネスモデルが岐路に立たされています。原油価格の高騰でプラスチックが値上がりし、円安で中国やマレーシアなどからの仕入れコストも上昇しています。日本全体が値上げラッシュでもう100円で商品を提供するのが限界まで来ているのです。

そもそも世界中を見回しても100円ショップで商品が100円で買えるのは日本ぐらいです。ダイソーの会社案内(2021年)に書かれている海外店舗での価格を今の日本円に換算するとアメリカ(1.5ドル)、中国(10人民元)、香港(12香港ドル)、ブラジル(7.99レアル)と世界中の広い地域でだいたい「200円ショップ」という水準になっています。

均一価格の水準がもっと高い国や都市もあります。タイ(60バーツ)が227円、ドバイ(7ディルハム)が257円、そして日本から見れば一番物価が高い国のひとつであるオーストラリア(2.8豪ドル)では264円という水準です(いずれも8月8日時点)。

■努力に努力を重ねて、いよいよ限界が来ている

日本の消費者は「安くなければ買わない」という特性が強いのです。このため、他の国では200円で売る商品を、日本でだけ100円で売っているというのが100円ショップ業界です。仕入れ先を高コストの中国から安い東南アジアに移したり、中に入っている商品の個数を減らしたり、商品を小さく薄くしてプラスチックの使用量を減らしたり。努力に努力を重ねてきましたが、いよいよ限界が来ているというのが現在の状況です。

100円ショップ業界では業界2位のセリアがそれでも100円均一を維持しています。一方で、首位のダイソーやキャンドゥ、ワッツなどでは200円商品や300円商品を増やしています。そしてその延長線上の戦略として、「100円ショップではない高価格業態」への進出が始まっています。

この高価格業態戦略は成功するでしょうか? 100円ショップ業界の生き残り戦略を探ってみたいと思います。

■ワンフロアに3つの業態が入った旗艦店

東京の中心地、銀座マロニエ通りのユニクロが入っている商業ビルの6階にはワンフロアまるまるダイソーグループの3業態が入っています。ダイソーと300円ショップ業態のTHREEPPY(スリーピー)、そしてStandard Productsの3業態です。

働く女性や主婦層をターゲットにした雑貨を扱う3COINS。
働く女性や主婦層をターゲットにした雑貨を扱う3COINS。

このTHREEPPYとStandard Productsのふたつの新業態をこの記事では「300円ショップ新業態」と呼ばせていただきます。本当はダイソーにも300円商品は売っていますし、THREEPPYやStandard Productsにも300円ではない商品は売っていて、特にStandard Productsは300円商品を中心に100円から1000円まで幅広い商品をそろえているというように実態はややこしいのですが、中心価格帯が300円の業態である点からの呼び名としてご理解ください。

さてこの300円業態は新しいかというとそうではなく、歴史的には100円ショップと同じくらい古くからある業態です。業界では3COINS(スリーコインズ)が老舗として有名です。300円業態の3COINSのコンセプトは「あなたのちょっと幸せをお手伝いする雑貨店」で、ベーシックな生活雑貨やインテリア雑貨、最近ですと女性向けのアクセサリーやスマホ関連商品などをコンパクトな店舗の中に取りそろえて営業しています。

■私が3COINSのものを愛用するワケ

生活の中で「100円ショップではちょっと物足りないから300円ショップで取りそろえたい」という消費者ニーズは確かにあります。私も3COINSには消費者としてちょくちょく通っていて、たとえばレインコートは3COINSのものを愛用しています。

その理由ですが経営コンサルタントがレインコートを着る機会は1~2年に一度しかありません。暴風雨の日なのに重要な相手に会うためにどうしても出かけなければならない予定がある日だけです。重要な相手なので100円ショップのレインコートではかなり恥ずかしい。でもそのために高いレインコートを常備しておくのもいかがなものかという状況に300円業態はぴったりの解決策を提供してくれるわけです。

300円業態にはもうひとつ違った品ぞろえの別業態があります。それはキャラクター物を中心としたプチプライスショップです。昨年新しい運営会社に経営移管して復活したミカヅキモモコや390円の商品を中心としたサンキューマートなどが有名どころです。

■複数の業態で進出し、どの戦略が一番いいかを追及していく

この300円業態に参入するダイソーは、冒頭で述べたようにTHREEPPYとStandard Productsのふたつのコンセプトの異なるフォーマットで進出しています。

THREEPPYは2018年に開業して、当時は比較的低年齢の女性が好みそうな雑貨やアクセサリーを中心に展開していました。それを今年「あいらしい。そして私らしい。」の新コンセプトでリブランディングして出店拡大し始めました。現在のコンセプトは商品領域としては3COINSとダイレクトに競合しつつ、ピンクやミントなどくすみ系のパステルカラーで商品を統一ことで「かわいい」が好きな女性消費者に訴求する商品ラインナップになっています。

写真はTHREEPPYマロニエゲート銀座店。
写真はTHREEPPYマロニエゲート銀座店。
THREEPPYは、「あいらしい。そして私らしい。」をコンセプトに、大人可愛い雑貨を追求するブランドで、トレンドのグレーやピンク、ミントなどのくすみカラーを取り入れている。写真はダイヤシリーズ食器。
THREEPPYは、「あいらしい。そして私らしい。」をコンセプトに、大人可愛い雑貨を追求するブランドで、トレンドのグレーやピンク、ミントなどのくすみカラーを取り入れている。写真はダイヤシリーズ食器。

一方のStandard Productsはひとことで言えば無印良品の低価格競合を狙ったように見えます。無印良品と同じシンプルで機能的なデザインを追求しつつ、生活雑貨としての定番商品に狙いを絞り300円中心の手ごろな価格で比較的高品質な雑貨をそろえる方向性です。

ちなみにダイソーのような業界大手が300円ショップという新業態に進出する際に、このように違うコンセプトの複数の業態で進出するというのは企業戦略論としては定石です。どういうことかというと「その領域が今後の成長の本命だと思われる」場合において「ひとつの新規事業だけだと失敗したときに企業の命運が途切れてしまう」というリスクを避けるために、「あらかじめさまざまな形で異なる社員による異なるチャレンジを複数追及する」ことが定石なのです。

銀座のマロニエ通りにダイソー、THREEPPY、Standard Productsの3つの業態が集結しているのは、まさにこの戦略の縮図です。100円ではモノが仕入れられない現状において、ダイソーは以下の3つの戦略をとっています。

1.ダイソー業態で200円、300円、500円商品の比率を増やしていく
2.THREEPPY業態で300円プチプラ需要を取り込む
3.Standard Productsで300円中心の1000円までの品ぞろえでこだわり層を取り込んでいく

社内で競争させながら、最もいい戦略を追及していくわけです。

■100円ショップが成立する理由

この100円ショップの高価格業態戦略は成功するでしょうか? 高価格業態への進出についてダイソーにとっては実は大きな注意点があります。

みなさんも100円ショップと300円ショップで、それぞれレジに並ぶ行列を眺めてみると面白いと思います。なぜなら明らかな違いに気づかされるからです。100円ショップの顧客のかごの中には商品がたくさん入っているのですが、300円ショップの顧客はかごを持たずひとつかふたつの商品を手に持ってレジに並んでいるのです。

この消費者習慣の違いから100円ショップと300円ショップのビジネスモデルに違いが生まれます。

そもそも100円ショップが成立する理由を整理してみるとこういうことです。まず消費者は100円ショップに頻繁に出かけるのが生活習慣になります。そしてお店ではついついたくさん購入しがちになります。また買いに行く手間を考えたら「迷ったら買う」行動に出るのです。そしてその結果、お店から見れば原価が高いものと安いものが一緒に売れていくことになります。びっくりするほどお得な商品もあるのですが、原価が低い商品も売れるから100円でも利益が出るのです。

写真はStandard Productsマロニエゲート銀座店。
写真はStandard Productsマロニエゲート銀座店。

■300円ショップが成功するための2つの条件

一方で300円ショップでは消費者が商品を吟味して買います。ここが大きな違いです。もちろん単価が高いのでひとりが1~3個しか買わなくても売上高はそこそこの金額になります。しかし「もしだめだったら捨てればいいから」という感覚で買い物をする消費者はそれほど多くはない。結果として出来の悪い商品や割高な商品は売れ残ってしまいます。

そうなるとこの業態が成立するためには目利き力や仕入れ力が非常に重要になります。それが必要条件だとすれば、十分条件としてはそのうえで利幅もちゃんと大きいことも必要になります。100円ショップ業態ではかつては原価が60%台といわれてきました。冒頭に述べたような昨今の経済事情から目下の原価率はさらに上がっているはずです。

しかしついで買いやずぼら買いが期待できない300円業態では原価率をもっと低く抑えないと全体では利益を出せません。この「目利き力や仕入れ力が重要」という点と「原価率が100円ショップよりも低くないと成立できない」という条件はどちらも、店舗を100円ショップのようには拡大できないという制約条件にもなります。

そしてもうひとつ大きな違いがあります。100円ショップでは「競合相手と圧倒的な価格差がある」点が消費者から支持される理由です。ところが300円業態では競合相手もなかなかに価格が低いものです。

■ライバルはニトリ、無印良品

ダイソーグループのTHREEPPYは消費者の目から見れば一番の競合はニトリでしょう。ニトリは特にパステルカラーの雑貨にフォーカスしているわけではありませんが、ニトリの商品点数がものすごく多いことを前提に考えればパステル調が好きなユーザーはニトリでパステル調の生活雑貨をそろえることが可能です。そしてその価格はみなさんもよくご存じの「お値段以上」ですから、これはTHREEPPYにとってはなかなかに手ごわい相手ということになります。

鈴木貴博『日本経済 復活の書』(PHPビジネス新書)
鈴木貴博『日本経済 復活の書』(PHPビジネス新書)

Standard Productsがダイレクトに競合するであろう無印良品も実はここ10年の間にかなりの低価格化が進んでいます。かつて無印良品はシンプルな商品だけれども品質が良く、その分だけ価格も高いという業態でした。しかしそれだとたとえば衣料の分野ではユニクロに押されてしまう。そこで無印良品の衣料は年々改良を重ねて、今ではユニクロと価格比較しても十分な競争力を持つところまで変貌しています。

Standard Productsが扱う生活雑貨群についても無印良品で同等品を眺めるとほぼ1000円以下、主にワンコイン(500円)以内で買えてしまいます。Standard Productsがもし全品300円であればそれでも競争力は出ると思いますが、500円、1000円の商品については正直、無印良品の顧客が手を伸ばすのは厳しいかもしれません。

このように考えるとダイソーから見れば300円ショップ新業態への進出はなかなか簡単ではなさそうです。とはいえ100円ショップ業態全体でいえば仕入れ値高騰の今、新たな戦略が必要です。300円ショップ新業態が激しく競るなか、どんな未来を切り開いていくのか。注目していきたいと思います。

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鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』など。

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(経営コンサルタント 鈴木 貴博)

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