政治家や企業社長がひれ伏す「話し方の家庭教師」が絶賛する最強の雑談王はあの"カリスマホスト"
プレジデントオンライン / 2022年8月15日 11時15分
※本稿は、岡本純子『世界最高の雑談力』(東洋経済新報社)の一部を再編集したものです。
■ソフトバンク孫正義社長は「質問力や聞く力の達人」
ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長は、「質問力や聞く力が非常に高い」というのが定評です。私がお会いしたときも、尊大さは一切なく、親しみやすい語り口が印象的でした。
東京都の現副知事で、ヤフーの元社長としてその下で働いていた宮坂学さんは、孫さんが、会議などの席で「目をグワーと見開いて、ずっとタブレット端末にメモをとる姿」がとても印象に残っているそうです。
「どの幹部より一生懸命に聞く姿勢」を自分も学ばなければと肝に銘じたと言います。「話す」を銀メダルとすれば、「聞く」はコミュニケーションの「金メダル」だということを、肝に銘じましょう。
■じつは「最強の聞き上手」だった菅義偉さん
口下手で知られた菅義偉前首相ですが、プライベートでお会いすると、本当に気さくでお優しい人です。いつお会いしても、とにかくエラぶることがなく、謙虚に、人の話に耳を傾けてくださいます。
私も多くの権力者とお付き合いしてきましたが、極めて珍しい存在です。私が、グローバル水準のコミュニケーション術を教える「世界最高の話し方の学校」を立ち上げるという話をしたときは、「すごいバイタリティーだねえ」と目を丸くしてほめてくださり、学校の「特別講師」も引き受けてくださいました。
「これから日本を引っ張る次世代リーダーたちを応援したい」という趣旨に賛同してくださったからです。大勢の人の前での話はたしかに苦手意識が強かったようですが、「人を動かす力」はピカ一で、実際に多くの実績を残されました。
対面でお話しすると、その一言一言がじつに滋味深いのです。最近はどうしても、舌鋒鋭く人前で話す力ばかりが重視され、「中身より、パフォーマンス」といった人が得する世の中になっているように感じますが、そういったうわべだけのものがすべてではない、とつくづく感じます。
■料理も雑談もうまい天才シェフの店
「この人は話がうまい」と聞けば、私は東西南北、どこへでも飛んで行きます。高僧の話を聞きに、青森の恐山まで足を延ばしたり、ちょっと怪しい投資セミナーの講師の説得力が半端ないと聞いて、その会合に潜入したり……。
「天才カリスマシェフの話術がすごい!」と聞き、向かったのが山形の鶴岡市でした。全国から、食通が集まるという「アル・ケッチァーノ」のシェフ、奥田政行さん客席を飛び回り、お客さんとの会話を弾ませます。
その人懐っこさが、またミシュラン級。あっという間に相手の胸襟を開き、距離を縮めていきます。彼いわく、その秘訣のひとつが「相手に同化する」ことだそうです。相手の話し方をマネして、その温度や周波数に話し方を合わせていくのだとか。会った瞬間から「見ず知らずの他人」のような気がしないのには、そんな理由があったのです。
![仕上げのソースをかけるシェフの手元](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/c/1200wm/img_5c190016f575a1c0e40423856b986347491340.jpg)
■中田敦彦さんの比類なきたとえ力
たとえの妙味はやはり、膝をポンと打つような面白さでしょう。それが上手なのはお笑い芸人の方々ですよね。
中田敦彦さんが大人気の「中田敦彦のYouTube大学」で、前作『世界最高の話し方』を取り上げてくださいました。その中で、彼はまさに人を惹きつけるテクニックを縦横無尽に駆使していたわけですが、とくに印象深かったのが、卓越したたとえ力でした。
・「鉄のように固い意志」でなく、「田舎のばあちゃんがくれたせんべいぐらい固い意志」。
・視線は投網じゃないんですよ。(ぶっきらぼうに広げて投げりゃいいってもんじゃない)
・会話は餅つき。(相手のリアクションを確認せずに話すのは)餅つきで、相方が餅を返しているのを確認しないまま、ノールックでひたすら杵をついているようなもん。
・会話って、相手の杵と息を合わせることです。リアクションを待つんです。
・情報の銃弾をマシンガンのようにぶっぱなしてはいけない。
本当にうまいですよね。もう、ほんと脱帽です。
■最強の雑談王といえば……?
これまでお会いした人の中で、「最強の雑談王」といえば、アメリカのコミュニケーション教育のカリスマ、デール・カーネギーの本が愛読書だという、カリスマホストのROLANDさんです。
彼が主演するネット配信番組で、「コミュニケーション」がテーマの回にゲストとして呼んでいただきました。まず会った瞬間に、深々とお辞儀する礼儀正しさにびっくり。さらに、「情熱が大切」「人と会うときには、いつもの1.5倍嬉しい表情を見せろ」「人に興味を持って、質問せよ」「一方通行にならず、ラリーが大切」「隙を見せろ」などなど、コミュニケーションの本質をとらえた言葉やインパクトのあるたとえを、これでもかと繰り出しました。
その洞察力にノックアウトされたのですが、とくに印象に残ったのが、高い雑談力です。
私も、テレビ番組などに出させていただくことがありますが、カメラの外では案外、無口な司会者やタレントも少なくありません。
しかし、ROLANDさんは、番組が始まる前も、司会者の女性と、「僕が嫌いなのはね、パクチーと柚子と辛いものと……」とぺちゃくちゃと話が止まらない様子。「おしゃべりが好きすぎる」とおっしゃっていました。
基本、「人が好き」。究極のナルシシストのように見えますが、自分をしっかり愛したうえで、さらに「あふれ出る愛」を周囲の人にどんどんと、お裾分けしているような感じです。
圧倒的なエネルギーを持ち、相手を照らし、元気にし、いい気分にする。そんなパワーとオーラにすっかり魅了されてしまいました。
■絶対、選挙に勝てる話し方とは
「話し方の家庭教師」である私の生徒さんの中には、みなさんがよくご存じの政治家もいます。これまで、大勢の政治家の遊説の「追っかけ」をし、彼らの話し方をウォッチするなかで、「選挙に勝てる話し方」というのがあるのが、だんだんとわかってきました。
「政治家が有権者から信頼されるために一番必要なのは何か?」と問われたら、みなさんは「実績」「品格」「人柄」などとおっしゃるかもしれません。
もちろん、それも大事ですが、じつは「この政治家は自分のことを理解し、自分の声に耳を傾け、わかってくれている」という有権者の感覚こそが決め手なのです。政治心理学が専門の米エモリー大学のドリュー・ウェステン教授いわく、アメリカの有権者は、次の2点で、候補者に投票するかどうかを判断しているのだそうです。
② 私のような人を理解し、気にかけているのかどうか?
まさに、トランプ氏が大統領になれたのも、支持者の考え方に憑依し、
「僕は君たちの気持ちをわかっているよ」
「君たちの仲間は僕だけだ」
![岡本純子『世界最高の雑談力』(東洋経済新報社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/1/1200wm/img_01ff1a9e82814dec15deb555ffa4bad0153886.jpg)
とささやきつづけ、彼らが聞きたい話を滔々と繰り出したから。小難しい話を上から目線で繰り広げるのではなく、同じ目線に立ち、受け取りやすい球を投げてくれる人。
「私の話をよく聞き、私の気持ちをわかってくれる」
「この人は私と同じ価値観だ」
「親しみやすい」
そう思わせてくれる人に、人は否が応でも惹かれてしまうのです。
岸田文雄首相の「話を聞きますアピール」の真意はそんなところにあるのかもしれません。
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コミュニケーション・ストラテジスト
グローコム代表。企業やビジネスプロフェッショナルの「コミュ力」強化支援のスペシャリスト。リーダーシップ人材の育成・研修などを手がけるかたわら、オジサン観察も続ける。著書に『世界一孤独な日本のオジサン』(角川新書)などがある。
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(コミュニケーション・ストラテジスト 岡本 純子)
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