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ロシア製兵器で住民を家ごと焼き殺す…ミャンマー軍事政権が「自国民殺し」を躊躇しないワケ

プレジデントオンライン / 2022年8月16日 11時15分

タイ・バンコクのミャンマー大使館前で行われた集会で、ミャンマー民主化の象徴であるアウンサンスーチーの大きな画像の横で、3本指の敬礼をするデモ参加者(2022年7月26日撮影)。 - 写真=EPA/時事通信フォト

■自国民を虐殺するミャンマー国軍の異常さ

軍事政権による独裁が続くミャンマーでは、国軍が自国民を虐殺するという信じられない事態が続いている。

米議会の出資により設立された「ラジオ・フリー・アジア」は7月、ミャンマー国軍が村に火を放ち、500軒以上の民家を焼き払ったと報じた。少なくとも10人が犠牲になったという。犠牲者は数千人にのぼっており、米ワシントン・ポスト紙は国連のデータを基に、軍事政権がこれまでに2000人以上を殺害、1万4000人以上を不当に逮捕してきたと報じている。

旧称ビルマでも知られるミャンマーは、インドの東方、中国の南方に位置する、人口5400万人ほどの国家だ。長年横暴を続けてきた軍事政権に対抗すべく、1988年には国民民主連盟(NLD)が組織された。指導者のアウンサンスーチー氏に導かれ、2015年の選挙で大勝を収めて晴れて与党となった。

民主化の道のりが開かれたかにみえたが、2021年2月になると軍部によるクーデターが発生。ミャンマー国軍は早朝の奇襲でアウンサンスーチー氏と党幹部らの身柄を確保し、再び実権を握った。NDLによる民主政権は、わずか6年で転覆させられてしまった。

以来、多くの市民が非暴力で抗議の意思を示す手段として、市民不服従運動に参加してきた。職場や公務を放棄し、軍部に反意を示す社会運動だ。また、これら非暴力のデモに限界を感じた一部の国民は、少数民族の武装組織と共同し、国民防衛隊と呼ばれるレジスタンスを立ち上げている。

■ロシア製攻撃機で権力を死守

これに対し軍事政権は、国民の弾圧を強化している。

たとえばレジスタンスの拠点と目される村が見つかれば、攻撃機で爆撃し、焼き払ってしまう。この際投入されているのが、ミャンマー国軍が以前から好んで輸入しているロシア製攻撃機だ。

人権団体の「ミャンマー・ウィットネス」は7月29日、ロシア製攻撃機の「Yak-130」が民間人の居住地域を攻撃しているとする調査報告書を公開した。同機は練習機・攻撃機として用いられる複座式ジェット機だ。

報告書は過去2年間にミャンマーで撮影された画像と映像を分析し、国軍が保有する機体数や民間への破壊行為などを精査している。ウクライナ情勢の分析でも注目を集めている、オープンソース・インテリジェンス(OSINT)の手法だ。衛星画像や市民が撮影しソーシャルメディアで共有したデータなど、公開されているデータから新たな情報を読み解く。

ある映像ではミャンマー国軍が、無誘導のロケット弾と23ミリのキャノン砲を放つ様子が確認され、同人権団体が場所を解析したところ、タイと国境を接する南東部ミャワディの近くの民間人居住地域であったという。この地域には自治権を求める少数民族の武装グループが存在し、クーデター後は反軍事政権のレジスタンスに軍事訓練を行うなどして支援をしていた。

■過剰な戦力で、見境のない攻撃…

民間人への容赦ない攻撃は、国際的批判を招いている。ドイツ国営放送局のドイチェ・ヴェレは、「ミャンマー、ロシア製攻撃機を民間地域で使用し非難される」と報じた。

レジスタンス側も武装してはいるものの、過剰な戦闘力を投入しているとの批判がある。ミャンマー・ウィットネスは報告書を通じ、「高度な攻撃機の見境ない使用」は、レジスタンスによる攻撃と「明確な相違がある」と指摘している。

村を空から狙えるロシアの戦闘機は、ミャンマー国軍に強い優位性を与えている。

カタールのアルジャジーラは、レジスタンスが「多くのアナリストを驚かせてきた」ほど健闘している一方、ロシアが売る軍用機が国軍の制空優位を支えていると指摘している。

ミャンマー連邦共和国ネピドーで行われたパレードに参加したミン・アウン・フライン上級大将
ミャンマー連邦共和国ネピドーで行われたパレードに参加したミン・アウン・フライン上級大将(写真=Mil.ru/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

ミャンマー・ウィットネスはまた、非公表となっているYak-130のおおよその運用数を突き止めた。目撃者によって撮影された映像の機体番号を分析しデータベースを作成したところ、合計20機前後のYak-130を運用していることが判明したという。報告書は、「これによりほぼ間違いなく、ミャンマー空軍はこれまで想定されていたよりも多くのYak-130を運用していると推定される」と述べている。

2021年12月にロシアは、6機の軍用ジェット機をミャンマーに提供している。ドイチェ・ヴェレは、「これは国連総会が2021年6月に採択した、ミャンマーへの武器流入を阻止するよう加盟国に要請する内容の決議に反するものである」と述べ、武器供与を続けるロシア側の姿勢を非難している。

Yak-130は練習機から派生した攻撃兼用機だが、今後さらに高い攻撃能力をもった機体がミャンマー国民を襲うおそれもある。クーデター後にロシアは、同機の追加提供に加え、Su-30(スホーイ30)を輸出用に改良した複座式多用途戦闘機を提供する意向を示している。

■住民を家ごと焼き殺し、逃げる人々を撃ち殺す

軍部はヘリで住民を威嚇し、地上部隊を降ろして殺戮を進めるという手口を繰り返している。米議会の出資により設立された「ラジオ・フリー・アジア」は7月、ミャンマー国軍が中部ザガインの村に火を放ち、500軒以上の民家を焼き払ったと報じた。少なくとも10人が犠牲になっているほか、50人が行方不明との情報もあるという。

関係者によると、亡くなった10人のうち7人は炎に巻かれて死亡した。遺体は見分けがつかないほど炭化しており、身元確認は難航した模様だ。残る3人は軍人によって地元の仏教寺院に連れ込まれ、「暴行され、撃たれて亡くなった」という。

一件で兄弟を亡くした男性はラジオ・フリー・アジアに対し、襲撃の様子をこう語っている。「村で二人で座り込んでいると、2機のヘリコプターが何の前触れもなく空に現れ、私たちを撃ってきました。ほかの複数のヘリが兵士たちを降ろすと、奴らは大通り沿いに進み、人々を撃ち、逮捕し、家々に火を放っていったんです」

900戸ほどの村は、住戸の半数以上を失った。仏教徒が住む地域に目立った被害はなく、焼失はイスラム教徒が住む地区に集中していたという。村はイスラム教徒の多さで知られており、特定の宗教を迫害する意図があったとみられる。

■「村人はそこで喉をかき切られた」

軍事政権の横暴は止まらない。8月に入ると、類似の手口で3つの村が襲われた。英字・ビルマ語紙の「エーヤワディー」が報じたところによると、8月1日からの約1週間のうちに北部サガイン地方の3つの村が襲撃され、住民とレジスタンス合わせて少なくとも29人が死亡したという。

このうち約300戸のカインカン村では、半数近い147戸が破壊された。午前中にロシア製のMi-35(ミル35)が現れ、村に向けて攻撃を加えたという。同時にほかの2機が兵士を空輸してきて降ろすという、7月のザガインの村と非常によく似た手法となっている。

目撃者の村人によると、ある30歳の村人はレジスタンスの拠点が村にあるかと聞かれ、知らないと答えたという。これが兵士を怒らせたようだ。「彼は縛り上げられ、学校の裏手へと連れていかれ、兵士はそこで男の喉をかき切った」という。

生き残った人々の生活も悲惨だ。村人たちは家を失い、蓄えてあった米や作物もダメになった。ある住民はエーヤワディー紙に対し、「ここにいる多くの人たちは、持っていたものをすべて失いました。靴さえもです」と語る。

■孤立する両国の急接近

自国民の虐殺と迫害を重ねる軍事政権は、時が経つほどにますます民主化への妥協を認められない泥沼にはまっている。兵士が市民の命を奪えば奪うほどに、国民民主連盟が再び与党に返り咲いた際、軍部の責任を追求されるおそれが高まるからだ。

とはいえ、このまま圧政を敷き続けたとしても自らの手で国土を焼き、市民不服従運動によって経済が低迷するという冴えない状況が続くのみだ。今後の頼みの綱は、軍事面以外も含めたロシアとの広範な連携となるだろう。

米政治外交専門サイトの「ディプロマット」は、ウクライナ侵攻後のロシア孤立により、ミャンマーとロシアは「互いに強く抱擁する」関係になったと指摘している。

また、エーヤワディー紙は両国が外交・経済・貿易の分野で関係を強化すると報じている。核情報サイトの英ワールド・ニュークリア・ニュースは、原子力エネルギー開発でも協力を深めていると指摘する。

■巨悪を封じなければ虐殺は終わらない

国際的批判の集中しているロシアから兵器を購入し、その兵器で国民の住む村を狙い撃ちにするという行動は常識を逸脱するものだ。

レジスタンスを含めた国民の不満は募っており、反軍部の団結を日増しに強固にしている。事実、航空戦力を除けば、地上戦では国軍はレジスタンスの制圧に手を焼いているとの報道が目立つ。

ロシア機を多用した得意の戦術で村々を恐怖に陥れている国軍だが、頼りのロシアは国際的に危うい立場に追いやられつつある。ミャンマー国軍は中国よりもロシアの戦闘機を好んで導入してきた経緯があることから、ロシアの生産能力に問題が生じれば、国軍は重大な後ろ盾を失うことになる。民主主義政治が再び息吹を吹き返すには、背後にある巨悪を封じ込める必要がある。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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