「この人、苦手だな…」漫然とそう思い続けて人間関係をダメにする人が知らない改善のコツ
プレジデントオンライン / 2022年8月17日 15時15分
※本稿は、原邦雄『職場の人間関係が劇的によくなる!ほめコミュニケーション』(ワン・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
■人間関係で悩んだら過去の記憶を“上書き”する
人間関係の悩みは、相手との過去に何かの出来事があり、それを「嫌な思い出」として記憶してしまっていることから生まれてきます。そのとき、実際にそのように記憶しているのは相手ではなく「あなた」です。
悩みの解消のためには、相手に対する記憶を「良い記憶」に上書きする必要があります。これを私は「Re Connect(つなぎ直し)」と呼んでいます。
私は社会人として会社で働いている以上、人間関係の改善は業務の1つだと思っていますし、むしろビジネスの場というのは人間関係のRe Connectのチャンスがあふれていると考えています。
なぜなら、会社には“行かなければいけない”からです。
これがプライベート環境での人間関係であればそうではありません。
苦手な相手や悪い人間関係が存在するのであれば、そのコミュニティやグループから離れたり、嫌いな人とは付き合わない選択肢があります。
SNS社会の現代であれば、コミュニケーションをしたくない相手とは「既読無視」や「ミュート」や「ブロック」をしてしまえば連絡を絶つことができます。
相手が何を言ってきたとしてもあなたの側には通知されなかったり、無視したり、それこそ人間関係のシャットダウンができるわけです。
ところが、ビジネス環境ではそうはいきません。というか、それをすると困るのはあなたの側になってしまいます。
■過去の出来事を「嫌な思い出」として“編集”したのは誰か?
嫌いな上司がいるからと言って上司をブロックしてしまえば、必要な業務連絡が届かなかったり、然るべき指示命令が伝えられなかったりして仕事に支障が出ます。
これは何かのプロジェクトをする場合でも同じで、誰ともコミュニケーションを取らなかったり、相手からの呼びかけを無視することであなた自身が孤立するくらいであればまだいいですが、最悪の場合は部署(チーム)やプロジェクトに支障が出て会社の業績に悪影響が出る可能性も考えられます。
そして、それを引き起こしたのがあなたの「人間関係のシャットダウン」だった場合、その責任の一端を解雇や減給・降格などであなた自身が引き受けなければいけない可能性も出てきてしまうのです。
このように考えてみると「ビジネスでの人間関係はシャットダウンできない」という制限は、むしろRe Connectのチャンスだと考えられないでしょうか? 「会社に行くのが嫌だ」「この人に会いたくない」と考えるのでは誰でもできることですし、起こりえることです。
ただ、そこに囚われ過ぎないで、考え方を一歩進めてもらいたいと思います。
では、Re Connectの具体的なステップに入っていきましょう。最初は「記憶の編集権」があなた自身にあることを自覚するところから始めます。相手との嫌な思い出が過去の出来事であり、それがあなたの頭の中の記憶である以上は、それは誰かによって“そのように編集された思い出”であることを意味します。
■記憶のマスターテープは自分で編集できる
誰が編集したのかと言うと、もちろんあなた自身です。私は、親友の定義を「良い思い出がたくさんある人」としています。あなたにも親友がいると思いますので思い出してもらいたいのですが、本当にその人とは良い思い出しかないでしょうか。喧嘩をしたことは? つかみ合いになったことは? 絶交しかけになるまで言い争ったことは? そこまででなくても嫌な思い出が複数あるのではないでしょうか。
にもかかわらず、あなたとその人は今も親友なのはなぜでしょうか。
それは、あなた自身が長い長い「その人との思い出のマスターテープ」を自在に編集して、それこそ高校野球のハイライトのような映像集にまとめてしまっているからです。
これは決して悪いことではありません。むしろ、人間とはそういうものです。ただ、もしもそうであるなら、嫌な思い出しかない人もまた、あなた自身がマスターテープを意図的につなぎ合わせ、腹が立ったり、つらくて泣きたくなるような映像集に編集してしまっているからだとも言えます。
まずはそのことを認識しましょう。その自覚ができたら、マスターテープの編集権は自分にあることをあわせて自覚してください。
■「あの人と話したくない」まずはその感情を一旦排除する
マスターテープの編集権を自覚したら、次は相手への感情を一旦排除していくことをしていきます。ステップ2です。
人間関係が悪い相手との嫌な思い出や、次にコミュニケーションを取るときを想像すると、人間には何かしらの感情が湧いてきます。怒り、不安、悲しみ、ムカつき、恐怖、言葉にできないモヤモヤ、心の重みなどの感情が生まれ、それがあるから「嫌だな」という言葉が出てくるわけです。
この感情を、この時点で排除することをしてみてください。忘れ去る必要はありません。一旦、横に置くのです。
そのときにヒントにしてもらいたい考え方があります。「愛の反対は憎しみではない。無関心である」というマザー・テレサの言葉です。
一般的に「好き」という感情の対極にある感情は「嫌い」だと思われています。
ですが正確には、好きも嫌いもどちらも「相手への関心」という共通の気持ちが存在しています。何かや誰かに関心があって、その判断が好きになるか嫌いになるか、ということなのです。
逆に、関心がないものには好きも嫌いもありません。
道端に落ちている石ころを好きや嫌いで判断する人はいないでしょう。自分が歩くときに躓きの原因にでもならない限り、人はそういうものに関心を払わないのです。
■相手もまた、自分に関心を抱いていたことに着目する
これはクレームの世界でよく言われますが、最大のクレーム客とは何も言わずに黙って離れていくサイレント・マジョリティです。
むしろ、何かしらの声をあげてクレームをつけてくる人は少数派で、そこには(単に憂さ晴らしをしたいだけというのもありますが)何かしらの業務改善のヒントや、サービス業として至らない点をお客さま目線で指摘してもらっていることが隠されていたりします。
だから「クレームは宝だ」と言われるわけです。
同様に、嫌な思い出のもととなっている嫌な出来事がある場合、そこには何かしらのアクションがあったはずです。
ということは、相手はその時点で自分に何かしらの関心を抱いていたからにほかなりませんし、あなたが好き/嫌いの感情を持っているということは、あなた自身もその相手には関心を持っていることになります。
無関心であれば、そもそも人間関係の悩みは生まれないからです。
このことに気づき理解すると、人間関係でこじれている相手へあなたが持っていた感情の囚われから一旦は離れて、落ち着くことができるはずです。
その落ち着いた目線でもって思い出のマスターテープを見直してみましょう。すると、相手の行動や発言の中でも理解できる部分や、納得のできること、意外と興味深いことなどが見えてくることがあります。
■「新しい上司はなぜいつも不機嫌なのか」背景を創作してみる
ステップ3は少しレベルが上がります。「視点移動」です。
視点移動は、相手がその行動や発言をした背景を、相手の立場に立って考える方法です。
「そんなことできるわけがないだろう」そう思うかもしれませんが大丈夫です。相手の立場に立つと言っても、あくまでも“あなたの創作”で構わないからです。
以前私のセミナーに参加された若い男性が、職場のリーダーにまつわるこんな話をしてくれたことがありました。
《かつてはいいリーダーに恵まれて、チームワークもとてもいい部署だったのですが、半年前にそのリーダーが異動してしまい、新しい上司がやってきたんです。
しかし、その上司はいつも不機嫌で、あいさつもしないし、チームで成果を出しても、「お疲れ様」とか「よくやったね」とか、なんの声がけもないし、笑いもしない。そのうち、だんだんとチームワークも悪くなっていって、ギクシャクした空気の部署になってしまったんです。このままでは成果も出せないし、何よりも僕自身が会社に行くのがつらくなってしまって、メンタルも病んでしまいそうだったので、辞める覚悟でその新しい上司に話をしました。「あいさつもしないですし、いつも不機嫌で、チームの雰囲気が本当に今よくない状況です。どうか、メンバーとコミュニケーションをもっととって、チームを盛り立ててくれないか」と。
するとその上司は、はっとした表情をして、「申し訳なかった」と頭を下げたんです。「じつは、妻がガンであることがわかって、まだ小学生のふたりの娘もいて、これから先、どうしたらいいのかと、ずっと考え続けていたんだ」と。
それを聴いて、逆に何も想像できていなかった自分が情けなくなって、「僕にできることがあれば何でも言ってください!」と伝えました。その後、上司はその話をチームにも共有してくれて、チーム全体で上司をサポートする意識が芽生えて、今はまたかつてのように職場がとてもいい雰囲気になったんです。》
■人間の感情は、事情を知ることで変化する
いかがでしょうか。不機嫌であいさつもしなかった上司の過去の言動そのものは何も変わらないのに、背景が明るみになったことで、人間の感情や行動、発言までもが変化することを、この話は教えてくれています。
人間の感情は事情を知ることで変化する、ということなのです。
私たち人間は自分の感情の世界で生きる動物です。その感情によって思い込み、相手を良く評価したり悪く評価したりしています。
■自分に都合のいい脚本を書いてしまえばいい
プライベートであればそれでもいいかもしれません。
ですが、ビジネス環境においては、先述の通り改善していかなくて困るのは周囲ではなく、むしろあなたなのです。
ですから、相手の立場に視点移動をしてパラダイム転換を行うのです。
そして、その方法は真実でなくて構いません。あなたが勝手に都合のいい脚本を書いて、バックストーリーを妄想しましょう。
例えば「自分に常にプレッシャーをかける課長」で考えてみます。
仕事に対して常に厳しい目線で発破をかけ、時には厳しい指導の言葉を投げかけてくるとしましょう。あなたはその課長が嫌で「どうして自分にだけ厳しいんだ」と腹が立つ半面、苦手意識も持っているとします。
■“妄想”によって相手に対する感情をコントロールする
そこで妄想の視点移動です。
実は、その課長はあなたに目をかけているのですが、あなたが転勤の候補になってしまい、何とか今の部署に引き留めて、もっと成長させたいと思っています。
そこで自分の上司である部長にかけ合って「まだ粗削りだけどあいつは絶対に伸びます。自分が責任を持って一人前にしますから、3カ月だけ人事を待ってください。ダメだったときの責任は私が取ります」と伝えていました。
常識的に考えれば、そんな都合のいいことはないかもしれません。
ですが、これをやっていいのです。なぜなら、あなたが相手に対しての感情をコントロールして人間関係を改善することが目的だからです。
もちろん、自分だけの秘め事にしておけばバレることもありません。
妄想の視点移動を使って「自分にとって都合のいいバックストーリー」を創作すればいいのです。
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経営コンサルタント
1973年、兵庫県生まれ。大手コンサルタント会社から飲食店の洗い場に転職し、4年間住み込み、店長を経験し独立。教育メソッド「ほめ育」を開発し、多くの業種にコンサルティングを行っている。『自分をほめる習慣』(すばる舎)、『たった一言で人生が変わるほめ言葉の魔法』(アスコム)など著書多数。
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(経営コンサルタント 原 邦雄)
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