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「元世界チャンプのジムで心も体も激変」聖心女子大卒50代女性が週5の汗だくで手に入れた一生モノの価値

プレジデントオンライン / 2022年8月18日 11時15分

右から筆者、ジム会長の川島郭志さん、筆者の友人の焼き菓子店オーナー。 - 写真=筆者提供

「ボクシングが一番痩せやすいよ」。そう聞いて入会したボクシングジム。聖心女子大出身で、女性の意識行動研究をするラボの代表を務める山本貴代さん(50代)の当初の目的はダイエットだったが、週5でジムに通ううちに心もカラダも激変した。本人による体験手記をお届けしよう――。

■元世界チャンプのジムに週5で通う50代女性の“壮絶”体験

「え、漏れちゃう……」

日常生活の中に、縦で跳ぶ動作を続けるシーンはない。だから50代の私のカラダが縄跳びに対応できないのも無理はない。「失禁するのか、私は、ここで?」。ぴょんぴょん跳びながらこらえるが、ふくらはぎはパンパン、息も苦しい。心臓が悲鳴を上げている。

無理だ、やっぱり無理だったんだ……。

この年になって、まさか私が縄跳びをやるとは。自分で言うのもなんだが、聖心女子大出身でかつては“お嬢さん”と呼ばれたこともあったのに。でも、もう後戻りはできない。ボクシングの基本は漫画・アニメ「あしたのジョー」でもおなじみの縄跳びなのだ。やるしかない。

縄跳びをする山本氏
縄跳び1000回(写真提供=筆者)

昨年末、私・山本貴代は「川島ボクシングジム」(東京都大田区)に入門した。プロ選手も養成する本格的なジムだ。当然、格闘技経験など一切ない。それでも、快く受け入れてくれた。

入会のきっかけは、コロナ太りだ。何としてもダイエットしたい。

試合も練習も3分刻みで動き続け、ヘトヘトになるボクシングは、「一番痩せるよ」と聞いて「なら、やりたい」と思っていたが、ツテがないとなかなか入門する勇気がわかない“男の世界”である。しかし、繰り返すリバウンドに、「いいかげん終止符を打て」という天からの声が聞こえ、「やるなら本格的に」と近所のジムの門を叩いた。「体験してみますか」との優しい声掛けを拒み、即入門だ。やれば、できる。

そんなこんなで、人生半ばを過ぎたのに危うく漏らしそうになったわけだ。

ジムでは、バンテージの巻き方から始まり、ボクシングのノウハウをスーパーフライ級元世界チャンピオン6回防衛の記録を持つ川島郭志会長が、丁寧に指導してくれる。プロになるわけではないおばさんに、世界チャンピオンが自ら日々教えてくれる習い事などない。

いろいろと決まり事もあった。挨拶が基本。一人ひとりに挨拶をするところから始まる。これが中学時代の部活のようで新鮮だ。「挨拶は短く」と会長。1階のガラス張りで中が見えるジム。通りすがりの人たちがちらっちらっと見ていく。

■「殴る」快感を覚えてしまった

ボクシングの試合は1R(ラウンド)3分なので、ここでは、全てが3分×3(子供は2分)で回っている。カラダに3分という時間を覚えさせていくのだろう。3分ごとに、タイマーのブザーが鳴り響き、1分休んでまた3分と、自分との戦いが始まる。

この動と静の繰り返し。縄跳び、サンドバッグ、パンチングボール、シャドー……さまざまな音が、汗とうめきに似た声に混ざり飛び交っている。

ミット打ちをする山本氏
写真提供=筆者
会長を相手にミット打ち - 写真提供=筆者

求められるのは、持久力と瞬発力。女性部員は少ないけれど、子供から、若者、そしておじさんまで、息を切らし真剣にサンドバッグに向かう。エアコンは一応動いているが、みな汗だく。息子が入会し、後から父親がハマるパターンも多いようだ。

通い初めの頃はヤバかった縄跳びだったが、こんな私でも半年もたてば、1000回跳べるように。最近入ったおじさんは、ゼイゼイ息を切らして倒れそうではないか。

しかし、シャドーの練習に移動すれば、そんなドヤ顔もできない。鏡に映る自分はとても見られたものではない。それでも、わが身を見て、シャドーを繰り返さねばならない。残念な自分と向き合うのは拷問だ。逃げ出したくなる。その衝動を抑えてくれるのは、「カッコよくなりたい」という欲望だ。

パンチングボール
パンチングボール(写真提供=筆者)

マスクをしているから、口元は隠せるが、カラダのラインは丸見えになる。脚をスポーツタイツのCW-X1枚で勝負している女子もいるれけど、私は無理だ。お尻を隠すべくその上からトランクス型をもう1枚身にまとう。アイメークは、汗で崩れるのを計算に入れてしっかりめ。隣に立つ若者の機敏な動き、若い女性のスタイルには完敗だけど、そもそも勝負しようと思ってはいけない。

パンチングボールは、くるくると空回りすることしばしが。でも、毎日触っていたら、段々リズミカルになってきた。意識を全集中するとうまく叩ける。そんなときは自分の音に少し陶酔。なかなか奥深いものがある。

サンドバッグは難しいけれど、にっくき相手だと思って立ち向かう。無心で叩いていると、汗は吹き出し、息は切れるが、体の奥底から沸きあがってくるものがある。最近フックがうまくなってきた。サンドバッグだけど「殴る」快感を覚えてしまった。

■ミットにパンチ。私の中の獰猛な何かが覚醒した

練習のローテーションの最後は、床に汗と涙と血がしみ込んだリングに上がってのミット打ちだ。相手は元世界チャンプの会長。これまで人を殴ったことはないけれど、会長が手にするミットに向かいパンチがバシッと音を立てて決まったとき、私の中に眠っていた獰猛な何かが覚醒する。目には見えないが、確実に脳内で何かがドバッと出て、細胞の1個1個が生まれ変わるのがわかる。「ああ、私はもっともっとうまくなりたい」。

ミット打ちをする山本氏
写真提供=筆者
ミット打ちで力を振り絞る - 写真提供=筆者

汗だくになる流行りのスポーツは、いろいろあるけれど、ボクシングは自分との闘いだ。

かつて通ったことがある、みんなで音楽に合わせノリノリにこぐ暗闇バイク(フィールサイクル)や、やったことないけれど時間ごとに移動していくおばさんに人気のカーブスとは真逆だ。ボクシングは神の領域に感じる。

そしてボクシングは、孤独だ。みんなで同じ動作をしているようで、最初から最後まで向き合うのはたった自分ひとりきりなのだ。

ダイエットといえば、始めて3カ月で体重は3kg落ち、ボディーは締まってきた。筋肉もついてきて、気が付けば、プロテイン片手に、自宅キッチンで力こぶをつくってポーズする自分がいる。

バンテージを巻く山本氏
バンテージを巻くのもお手のもの(写真提供=筆者)

家族の反応もずいぶん違う。夫や息子によれば、「後ろ姿が変わった」らしい。ジムでたまにしか会わないマダムは会うたびに褒めてくれる。「すごく痩せたわね」「足の筋肉が引き締まってかっこいいわ」と。半年たった今は、筋肉がついた分、体重は戻ったけれど、去年まできつかったスカートやパンツがするすると入るようになった。体幹が整ったのか、スコアはさておき、ゴルフも飛ぶようになった。

別世界だと思っていたボクシング。ルールも選手も知らないし、テレビのボクシング中継は怖くて目をそらすほどだった。そもそも殴り合うスポーツなんて、野蛮な人がやることだ。そんな私が週4~5回、部活のように通っている。楽しくて仕方がない。

何がそんなに私の心を掴んだのだろうか。試合に出るわけでもないのに、なぜこんなにハマるのか。この快感はなんだろうか。

通いながらずっと考えていた。ひとつは、仲間から活気とエネルギーをもらえることだ。それだけで若返る自分がいる。音と手応えとで、日常では味わえない刺激がジムには溢れている。その日の仕事などのストレスはたちまち発散される。

■「これ以上は無理だと自分の限界を作ってはいけない」

プロでいられるのは36歳まで。人生半ば過ぎた私は試合に出ることはないし、スパーリングもやらない。ある時、「私は何に向かっているのか」「私は何を目指せばいいのか」と会長に聞いてみた。

「目指す先など決めなくていい。とにかく前へ進むんです」
「これ以上は無理だと、自分の限界を作ってはいけない」

会長はシンプルに答えた。なるほどね。自分に負けないこと、気持ちが一番大事。これは、全てのことに通じることだろう。世界を見た男の言葉は重みが違う。

棚に並んだグローブ
撮影=筆者
棚に並んだグローブなど - 撮影=筆者

徳島の海辺で育ち、2歳半からボクシングを始め、世界チャンピオンを勝ち取り、6回防衛した川島会長の話を聞けるのも醍醐味(だいごみ)だ。子供の頃の毎日の練習、選手時代の苦悩……、どれだけ心が強いんだろう、と尊敬する。会長の下で、強い意志を手に入れられれば怖いものはない。

川島ジムはプロを育て興行もしている。テレビ中継さえ見ることができなかった私が、今年に入り、すでに3回も後楽園ホールに足を運んだ。

初めての試合観戦は、最前列のゴング後ろ。特等席だ。「汗と血が飛び散るかも」と言われて、ビクビクしながら行ったが、見終わったとき、私の目は血走っていた。生死をかけて戦う者を見ているうちに、選手に自分を重ね合わせていた。打て、下がるな、ジャブだ、ボディだ、今だ、おい何やってるんだ、打つんだ……。

「ボクシングを始めた」と仕事仲間や友達に話すと「何を求めて始めたのか」とよく不思議がられる。「ダイエット」という返答は、最近はもうしない。違う目的に変わったのだ。

ボクシングジムにて
練習を終えぐったり(写真提供=筆者)

ジムの入り口に貼ってあるポスターにも心を奪われた。

「心が強い人は、強くなれます」と書いてある。このコピー、やっていない頃の自分には全く響かなかっただろうが、今の私には刺さった。深く強く。

心が強くないと、ボクシングは勝てない。顔がズタボロになり、みじめにマットに沈むだけだ。試合を見ていても感じたが、粘り強く相手に向かっていくにはパンチの技術力はもちろんだが、それ以上に精神力が必要だ。私は負けない、絶対負けない。前へ、前へ、前へ。そうだ、私が欲しいのはこの強い心だったのだ。

仕事で何かあるとすぐにへこたれたり、ダイエットがうまくいかなかったりするのも、心が弱いから。強い心さえ手に入れられれば、最強の自分になれる。

みんなどうしてボクシングを選んだのだろう。ちょっとジムの仲間に聞いてみた。

週5通う女性経営者(50代):「筋肉をつけたくて始めたけれど、いつの間にかその楽しさにはまり、得たものは会長の人間力ね」

ボクシング歴17年の男性(50代):「まだ動ける自分に陶酔できる、まだいけるなって。でも自分に勝つのは難しいですね」

ダイエット目的で始めたばかりの女性(20代):「もっともっとうまくなりたい」

心強くなるという点では、私は、まだまだ心は緩いけれど、体幹が鍛えられてきたことで、心身共にぶれない自分が育ってきた。実は、意外とくよくよするタイプで、悩み始めると人知れず落ち込むことも多かったが、くよくよの塊は、その日のうちにパンチでボコボコにして遠くへ吹き飛ばすすべを得た。

腹筋も筋トレも、縄跳びも1000回跳ぶと決めたら跳べるまで頑張る自分もいる。まっ、いーか、やーめた、ではなく。気持ちが負けないようになってきた。

心にも体にも筋肉がついてきた。筋肉は一生増え続けるというし、老若男女の仲間を見ているだけで無限大の可能性を肌で感じられる。

生まれて初めての格闘技は、私の人生を確実に変えた。

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山本 貴代(やまもと・たかよ)
女の欲望ラボ代表、女性生活アナリスト
静岡県出身。聖心女子大学卒業後、1988年博報堂入社。コピーライターを経て、1994年~2009年まで博報堂生活総合研究所上席研究員。その後、博報堂研究開発局上席研究員。2009年より「女の欲望ラボ」代表(https://www.onnanoyokuboulab.com/)。専門は、女性の意識行動研究。著書に『女子と出産』(日本経済新聞出版社)、『晩嬢という生き方』(プレジデント社)、『ノンパラ』(マガジンハウス)、『探犬しわパグ』(NHK出版)。共著に『黒リッチってなんですか?』(集英社)『団塊サードウェーブ』(弘文堂)など多数。

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(女の欲望ラボ代表、女性生活アナリスト 山本 貴代)

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