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調剤薬局なのにコロッケ、ステーキ肉、イチゴも売る…北信越の異色ドラッグストア「クスリのアオキ」の快進撃

プレジデントオンライン / 2022年8月17日 13時15分

布市店入り口すぐの卵売り場といちご売り場 - 筆者撮影

石川県に本社を置くドラッグストア「クスリのアオキ」が好調だ。直近決算の売上高は3283億円。店舗数は849店舗で、業界屈指の勢いで出店している。最大の強みは「食品の品揃え」。いったいどんな店づくりなのか。経営コンサルタントの岩崎剛幸さんがリポートする――。

■入り口に「生卵」を陳列するドラッグストア

現在、石川県白山市に本社を置くドラッグストアチェーン「クスリのアオキ」が急成長を遂げています。この1年で店舗数は725店から849店に増えるなど、業界屈指の勢いです。

興味深いのは、ドラッグストア業界だけでなく、食品スーパー業界からも警戒されるほど、「食料品」に力を入れている点です。

4月某日、私は昨秋にリニューアルオープンした「クスリのアオキ」の松任布市(まっとうぬのいち)店(石川県白山市)を訪れました。そこで、入り口に並ぶ商品を見て驚きました。

「すこやかたまごサイズいろいろ10個入り1パック 158円」

陳列されていたのは「卵」だったのです。値段も食品スーパーに負けない安さです。

ドラッグストアも最近では食品を強化する店も増えていますが、店舗入り口で卵をここまで堂々と陳列する店は見たことがありません。

左を向くといちごの大量陳列「いちごフェア」が。

「とちおとめ」「あまおう」などのブランドいちごが1パック398~698円で販売されていました。その横には生鮮食品の売り場がしっかりつくられていて、新鮮な野菜が大量に陳列されています。

万能ねぎが158円など野菜も値頃で新鮮。その先には鮮魚売り場、そして、精肉売り場に惣菜売り場と、同店の品揃えは完全に食品スーパーです。

肉はとても人気があり、1パック600円前後の「カナダ産輸入牛肩ロースステーキ肉」が何十パックも陳列されていました。

総菜コーナーには「NALXコロッケ」(198円)などの揚げ物が朝からズラリと揃っていました。

いったいなぜドラッグストアという業態でありながら食品を強化しているのか? それを知るためにはクスリのアオキの歴史をたどる必要があります。

■食品を強化するきっかけ

クスリのアオキの前身となる薬局は明治2年に創業しています。

1軒の薬局から始まり、それを青木桂生会長が株式会社化したのが1985年です。当初からドラッグストアとして店舗の効率化・標準化を進めていました。その中で、食品も早い段階から扱いがありました。ただ、2010年ごろまでは食品は全社売り上げの20%に満たない構成でした。

それを大きく変えたのが、青木会長の長男で、14年にトップに立った現社長の青木宏憲氏です。

2010年に上場来初の赤字に陥り、既存店の立て直しに立ち上がったのが、当時、営業本部長だった青木宏憲氏です。営業推進室を設置し、他チェーンに先駆けて調剤部門のテレビCMを始め、同時に食品の強化を本格的に進めていきました。

こうした改革により既存店の売り上げが伸び、企業としても11年に東京証券取引市場第一部に指定され、再成長がスタートしました。この頃から食品の売り上げ構成比が増え、20%だった売り上げ構成比が10年間で40%を超える(22年時点 42.4%)までに拡大したのです。

いきなり食品を強化したのではなく、徐々に地域のお客さんにとって日常的に必要な商品から仕入れ、着実にアイテムを増やしていきました。これが食品に強いクスリのアオキの独自性につながっています。

■全国チェーンに対抗するために行ったこと

21年7月に発表した第3次中期経営計画(22年5月期から26年5月期)の中で3つの重点施策を打ち出しています。

① フード&ドラッグへの転換を目的とした主力フォーマットの変更
② 調剤併設率向上
③ ドミナント強化(地域内でのシェアアップ)

この中で、もっとも強化しているのが「①フード&ドラッグへの転換」です。

生鮮食品を充実させてワンストップで必要なものをすべて購入できる店へとグレードアップさせる施策です。

なぜこのような戦略を取り始めたのか。それは地域別シェアを見るとわかります。

【図表1】クスリのアオキ エリア別売上高(2018~2022)
同社IRデータより筆者作成

売り上げのおよそ半分を占めるのは地元・石川県を中心とした北信越地区です。しかし、地元の売り上げの伸び率は110%と他エリアと比べると伸び率は低くなっています。

出店できるところに出尽くしたこともあるでしょうが、それ以上に、同業他社であるスギ薬局やコスモス薬品、ウエルシアなどの出店が増えているのです。

そこで、全店の4分の1程度の既存店200店舗をリニューアルすると22年7月に発表しました。その半分は本社のある石川県などの北陸3県の店舗です。

新規出店は90店舗と前期比1割程度少ない出店にし、既存店の改装でもともとの地盤の北陸でのシェアアップを狙っています。これらの店は出店時期が古く、小型店(売り場面積1000m2以下)が多いという特徴もあります。

そこで、これまで中・大型店で取り組み、成果をあげてきた生鮮食品強化を地元の小型店にも導入し、フード&ドラッグ業態へと転換し、売り上げを上げていこうとしています。

これによって日常生活に必要な物はワンストップで買えるという「フード&ドラッグチェーン」への業態転換が可能となるのです。結果的に他社との差別化につながり、重点戦略③の地域内シェアを上げることができると読んでいます。

■短期間で地元・北陸以外に進出した方法

クスリのアオキは北陸以外の地域のシェアも高めようとしています。

これまでは自前主義にこだわり成長を続けてきましたが、20年以降に戦略を転換しました。食品の鮮度を高め、より良い品を仕入れるために、ローカルスーパーのM&Aを進めているのです。

その際、買収した店舗をいきなりアオキ色に染めるのではなく、元の経営母体の人と商品の強みをそのまま生かした店舗をつくっています。

例えば、冒頭に紹介した松任布市店は、2020年クスリのアオキが石川県を地盤にしていた食品スーパー「ナルックス」を買収し、その後リニューアルした店舗です。

「クスリのアオキ」の松任布市店
筆者撮影
リニューアルオープンした「クスリのアオキ」の松任布市店 - 筆者撮影

ナルックスが、もともと強みにしていた生鮮、冷凍食品、ビールや酒などのアルコール飲料やベーカリー売り場を生かしています。人気総菜であるコロッケも、ナルックス時代からあるものです。

生鮮3品が強くなってきたのは、こうした地域のローカルスーパーで活躍していた敏腕バイヤーがそのまま活躍しているからとも言えるのです。こうした販売手法もクスリのアオキ流と言えるでしょう。

■中小スーパーの買収で地元に溶け込む

20年以降にクスリのアオキは6つの食品スーパーを傘下に収めています。いずれも店舗数10店舗以下、売り上げも6億~50億程度の地方中小スーパーばかりです。地域に溶け込む店舗づくりをスピーディーに実現するためのM&Aと言えるでしょう。

【図表2】クスリのアオキ 食品スーパーのM&A
同社リリース資料より筆者作成

現在、店舗展開は茨城(52店舗)、埼玉(39店舗)、千葉(20店舗)、群馬(80店舗)など関東地区にも出店を増やしています。今後はこうした地域でのM&Aなどもでてくるかもしれません。

■売上高は上がったが、利益率は下がった

クスリのアオキの売上高の伸びを支えたのは食品であることは次のグラフからはっきりと見て取れます。

【図表3】売上高と食品構成比の推移(2018~2022)
同社IRデータより筆者作成

食品の売り上げ構成比の高まりに比例して、売り上げが増えてきているのがわかります。食品はなくてはならない部門です。しかし、この流れが会社の利益率に影響を及ぼし始めているのも事実です。

【図表4】売上高と営業利益率の推移(2018~2022)
同社IRデータより筆者作成

2020年に3000億円の売り上げを突破したのと同時に、営業利益率が落ち始めています。22年度は4.3%と13年5月期以来、5%を割り込んでいます。企業として5000億円を突破することは当面の目標ですので規模の追求は続きますが、その後を見据えると規模だけでなく質の追求にシフトすることが企業命題なのです。

■調剤薬局の併設を進めているワケ

売り場の中央に立って売り場面積配分を見ると、薬と日用品などの売り場と食品売り場がほぼ半々。しかし、売り場をぐるっとまわって最後の売り場にあるのが調剤薬局コーナーです。

調剤薬局
筆者撮影

ドラッグストア業界において、いま調剤併設は大きなテーマとなっています。

業界トップはスギHDの85%、ウエルシアが79%で続き、アオキは50%台で3位です。

クスリのアオキは23年期末までに60%近くまで引き上げ、26年5月までには調剤併設率70%を目標に掲げています。これをスムーズに進行させるために、以前から新設店舗には調剤用スペースを設けていて、タイミングがきたら調剤を新規投資せずに併設できるように準備してきたと言いますから、かなり戦略的に取り組んでいると言えます。

新卒薬剤師も毎年100人以上の採用をしていて、薬屋としての存在感も強まっています。

医薬品の販売に強いドラッグストアとも、食品を強化している他のドラッグストアとも異なり、食品に強く地域のかかりつけ薬局でもある、ワンストップ型のフード&ドラッグという独自のポジションを築こうとしているのです。

食品スーパーのような顔をしていながら、実は医薬品に強い企業であり続けるというビジネスモデルです。

【図表5】クスリのアオキ 部門別売上高推移(2018~2022)
同社IRデータより筆者作成

今や売り上げの42%は食品が占めていますが、薬と調剤で22%程度にまで高まっていて伸び率(22年/18年)だけで言うと、食品よりも調剤の方が高いのです。

調剤を伸ばすと利益率も高まります。一方で、食品の構成比が上がれば上がるほど粗利率は下がります。このバランスを適正な数値に戻していこうという考えが強まっているのだと思います。

そのための施策が調剤併設率70%なのです。

■ドラッグストア業界のリーダーになれるか

21年のドラッグストア店舗数は1万7622店舗。前年比3.7%の増加です。

一方で売上高は7兆3065億円。前年比0.3%増です。

コロナ禍でインバウンド需要が消失し、ドラッグストア業界も曲がり角にきています。

【図表6】ドラッグストアポジショニングマップ
同社IRデータより筆者作成

日本のドラッグストア業界を整理すると、このようなポジショニングになっています。

ディスカウント強化型のコスモス薬品、カワチ薬品、クリエイトSD。

医薬品強化型のスギHD、ウエルシアHD。

コスメ強化型のマツキヨココカラ&カンパニー。

そして、クスリのアオキ、ツルハHD、サンドラッグなどのフード強化型です。

各社はそれぞれ、何らかの商品特徴を打ち出して、激しいドラッグストア業界、ひいては日本の小売業界を勝ち抜こうとしています。このような特徴をそれぞれが明確に打ち出している点では、他の小売業以上に戦略が明確であり、ドラッグストア業態の独自性を感じます。

一方で、業界内では「売り上げをどこまで伸ばせるか、店舗数をどこまで拡大できるか」という規模の競争が続いているように思います。

このドラッグストア市場での各社の今後の方向性は、食品スーパーやディスカウントストア、化粧品や雑貨など他の小売業へも大きな影響を及ぼします。

そのような意味でも、そろそろ規模の追求から抜け出し、顧客にとっての質の競争にシフトすることを望みます。

現在ではドラッグストアでも食品強化をしている企業は増えており、また立地によっては食品スーパーとドラッグストアとの競合も増えてきています。また最近ではコンビニでも生鮮食品を強化する店(例:ローソンなど)を増やしていて、業態を超えて競争が激しくなっています。

この点で、クスリのアオキのフード&ドラッグチェーンへの変化は、一つの方向性を示しているように思います。

現在のところ、売り上げ規模の割には全国区の知名度があるとは言えません。しかし、クスリのアオキのフード&ドラッグ業態が認知されていけば、業界の枠組みを超えて注目される企業になるはずです。

クスリのアオキがドラッグストア業界の新たなリーダーとなるか。その動向に注目です。

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岩崎 剛幸(いわざき・たけゆき)
経営コンサルタント
1969年、静岡市生まれ。船井総合研究所にて28年間、上席コンサルタントとして従事したのち、ムガマエ株式会社を創業。流通小売・サービス業界のコンサルティングを得意とする。「面白い会社をつくる」をコンセプトに各業界でNo.1の成長率を誇る新業態店や専門店を数多く輩出させている。街歩きと店舗視察による消費トレンド分析と予測に定評があり、最近ではテレビ、ラジオ、新聞、雑誌でのコメンテーターとしての出演も数多い。

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(経営コンサルタント 岩崎 剛幸)

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