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なぜすぐに救急車を呼ばないのか…業務中の死亡事故が相次ぐ「アマゾン物流センター」の異様な実態

プレジデントオンライン / 2022年8月22日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jetcityimage

アマゾンの大量の商品は、どのように管理されているのか。アマゾンの小田原物流センターに潜入したジャーナリストの横田増生さんは「複数の社員から『物流センターで業務中の死亡事故が何度も起きている』という証言を得た。その中には、倒れてから救急車が到着するまで1時間かかったケースもあった」という――。(第1回/全2回)

※本稿は、横田増生『潜入ルポ アマゾン帝国の闇』(小学館新書)の一部を再編集したものです。

■「何でもかんでも隠し通そうとする姿勢に嫌気がさしたんです」

私のアマゾンでのアルバイトの最終勤務日が終わった後の夕刻、平塚駅前の個室居酒屋で西川正明(仮名)に会った。アマゾンの小田原物流センターが稼働したときから働いている古参社員だった。

席に着くとまず、西川の社員証を見せてもらった。アマゾンの正社員であることを表すブルーバッジに、顔写真が貼ってあり、名前が記してあった。私を含めたアルバイトのバッジが緑色であるのに対し、アマゾンの正社員はブルーバッジとなる。アマゾンの正社員がブルーバッジをつけるのは、世界共通だ。

私は最初に、どうして週刊誌の情報提供サイトにアマゾンを告発するメッセージを送ったのか、と尋ねた。メッセージは、A4用紙で4枚分あった。アマゾンという会社は、どこもかしこも秘密主義で貫かれており、こうした内部告発をする社員は皆無に等しいことを、これまでの取材で骨身にしみて知っていたからだ。西川は一気にこう答えた。

「ボクは、アマゾンが自分たちに都合の悪いことは何でもかんでも隠し通そうとする姿勢に嫌気がさしたんです。小田原では作業中に亡くなった人を何人も知っています。けれど、亡くなった翌日に、花瓶に入れた花を飾るだけで、ワーカーさんには何も説明しないんです。

ボクが、死亡事故の後で、ワーカーさんにもちゃんと説明した方がいいんじゃないですか、と社内で言っても、みんなに話してもたいして意味がないから、といったわけのわからない理屈をつけて、説明することから逃げたことがありました。

また、自分たちがセンター運営に関する大きなミスをしてワーカーさんに迷惑をかけても、それを謝るわけでもなく、ひたすらごまかそうとします。さらに、社員間やワーカーさんに対する、セクハラやパワハラもあります。アマゾンの秘密主義のため、こうした話が、マスコミで報道されることなく、ネットの2ちゃんねる(現在の5ちゃんねる)ですら、ほとんど見つけることができません。

果たしてこれでいいのか、ボクたちは日々ワーカーさんの信頼を失っているんじゃないのか、と悶々としながら働いているんです」

■3年間で3人が亡くなっていた

話している間でも、居酒屋の店員が引き戸を開けて注文を取りにくるたび、西川がピタリと口を閉じる。誰かに聞かれるかもしれないという警戒心を感じた。

西川が確実に知っている範囲でも、小田原の物流センターの立ち上げの直後の13年から16年にかけて3人死亡したという。いずれも夜勤の男性で、1人はピック作業中に倒れ、20〜30分間動かないでいたところを、発見されたが亡くなった。

もう1人は、夜勤明けのロッカールームで倒れていた。私服に着替えた後だったので、どこの派遣会社の所属かわからず、それを調べるのに手間取ったのもあり、救急車で搬送中に亡くなったという。翌日に花瓶の花を飾ったというのはこのときのことだ。最後の人は、夜勤の勤務中に倒れて亡くなった、という。

これはちょっと情報が古いかな、と私は思っていた。亡くなった人のことを確認しようとしても、入れ替わりの激しいアマゾンのような職場では、当時のことを正確に覚えている人は多くないのではないか、と考えていたら、次につい最近亡くなったアルバイトの話を聞いて驚いた。

私がアマゾンで働きはじめる直前の10月上旬に亡くなっているのだ。亡くなったのは10月10日の午前9時過ぎ。50代の女性が、ストー(棚入れ)の作業中に倒れ、そのまま亡くなったという。女性の名前は内田里香(仮名)で、派遣会社の名前もわかっている。これなら、遺族までたどり着ける可能性があるな、と思いながら話を聞いていた。

■“いびきみたいな音”をたてながら倒れていたアルバイト

次に西川が語る「ワーカーさんへの迷惑」というのは、私が働く半年前に起こった。アマゾンが現状の派遣会社経由でのアルバイトの契約を打ち切り、時給を300円近く引き上げ、アマゾンとの直接雇用に切り替えようとした。しかし、思い通りにアルバイトが集まらず、計画を打ち切ったことを指している。

最後のワーカーさんへのパワハラは、体調を崩して休みがちになったアルバイトを無理やり自主退職に追い込んだことなどを意味している。そのなかでも重大に思えたのは、働いている最中に亡くなった人が複数いるということだ。

まずは、10月10日に亡くなったという内田について取材を進めた。複数の関係者に話を聞いた結果、内田が亡くなったのは次のような経緯だった。

内田の勤務時間は朝9時から夕方6時まで。そして、9時半ごろに、4階の物流センター内で“Bトンボ”と呼ばれる調達用品の置き場の近くの棚の間に内田が倒れているのが発見されたという。発見したのはピッキングのアルバイトの男性だった。その男性は、倒れた内田が発するいびきみたいな音を耳にしている。

男性が、そのことをアウトバウンド(商品のピッキングから梱包・出荷までの作業)のリーダーに連絡すると、それをインバウンド(商品の納品から棚入れまでの作業)のリーダーに引き継いだ。ピッキングというのはアウトバウンドの一部で、内田の担当していたストーはインバウンドの一部だからだ。インバウンドのリーダーは、「あとは、オレがやっておきますんで」と言って引き継いだ。

ちなみに、この“Bトンボ”は、4階の詰所から歩いて1、2分の位置にある。このインバウンドのリーダーは、上司のスーパーバイザーに携帯電話で連絡してから、内田が倒れている現場からいったん離れた。

倉庫内に積まれた段ボール
写真=iStock.com/Petrovich9
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Petrovich9

■救急車が到着したのは発見から約1時間後だった

第一発見者のアルバイトに加え、内田が倒れていることに気づいたもう1人の男性アルバイトも、事の成り行きを見守っていると、リーダーが電話してスーパーバイザーがやってくるのに10分近くかかったという。その間、内田のいびきのような音も徐々に小さくなっていくのに気がついていた、と彼らは口をそろえる。

スーパーバイザーは、警備員と一緒に車椅子を持ってきたが、とても車椅子に乗せられる状態ではない、ということで、今度はアマゾンの社員を携帯電話で呼んだ。10人ほどのアマゾン社員とセンター内の救急隊がAED(自動体外式除細動器)を持ってやってきた。しかし、AEDによる応急措置をほどこすと、内田は吐血した。

ようやく救急車が呼ばれ、物流センターの1階に到着したのは10時30分過ぎのこと。内田が倒れてから1時間前後がたっている。その後、搬送された病院で息を引き取る。享年59。死亡届に記入された死因は、くも膜下出血だった。

急行する救急車
写真=iStock.com/gyro
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gyro

亡くなった当日の朝、内田と言葉を交わした庄司恵子(仮名)は、こう話す。

「9時の始業前に、2階の静脈認証のコンピュータの前で顔を合わせると、おはよう、っていつも通りにあいさつしたんです。今日の作業はどこなのって、内田さんに訊かれたので、2階でストーですって言うと、私はいつもと変わらず4階のBトンボだよ、って返事があったんです。じゃあまたお昼にね、って言って別れたんです。出勤日が同じときは、いつも仲間数人で一緒にお昼を食べていましたから」

しかし、正午のお昼休憩になっても、内田が食堂に姿を現すことはなかった。庄司は仲間と、「どうしたんだろうね」、「休憩時間がずれることはめったにないんだけどね」などと話していた。

■「誰かが亡くなったという話は一言も出てきませんでした」

庄司が、内田が倒れたことを聞いたのは、午後5時ごろのこと。作業場所が移動となったので、配置表を見ているとき、別のアルバイトから「今朝、内田さんが倒れたのを知っている?」と言われ、はじめて内田が病院に運ばれたのを知る。内田が亡くなったのを知るのは、翌日、出勤してからのこと。アルバイト仲間が教えてくれた。庄司はこう語る。

「びっくりしたのはもちろんのことですが、信じられない気持ちの方が大きかったですね。その日の朝、お昼を一緒に食べようね、って話していた人が突然いなくなるなんて。生まれてはじめて経験しましたが、こんな別れ方もあるんだな、って呆然としました」

冒頭の西川が嘆いたように、内田が亡くなったという事実が、物流センター内の朝礼で語られることはなかった。内田が亡くなった翌日に出勤したアルバイトはこう話す。

「朝礼では、緊急に病院に搬送された人がいるんですが、倒れたワーカーさんを発見してから病院に搬送するまでに時間がかかりすぎた、とは言っていました。けれど、誰かが亡くなったという話は一言も出てきませんでした。とはいえ、毎日顔を合わせている仲間が亡くなればすぐに伝わります。亡くなったのが内田さんであることは、彼女と面識のあった人ならほぼ全員知っていたんじゃないでしょうか」

■なぜすぐに救急車を呼ぶことができなかったのか

朝礼で「搬送するまでに時間がかかった」という話が出たということを聞く前から、私が内田の亡くなった経緯を聞いていて繰り返し疑問に思っていたのは、なぜもっと早く救急車を呼ばなかったのか、ということである。

アルバイトは、作業場への携帯電話の持ち込みが許されていない。しかし、アルバイトでもリーダー以上となると携帯電話を持っている。内田が倒れているという報告を受けた最初のリーダーが、すぐに救急車を呼んでいれば、もしかしたら内田は助かっていたのかもしれない、との思いが憤りとともに何度も頭を駆け巡った。なぜ、電話をかける先が、スーパーバイザーやアマゾン社員である必要があったのか。

死因となった、くも膜下出血についてネットで調べると、倒れたらすぐ救急車を呼ぶことが重要だ、とあり、「できるだけ早く治療を始めると、より効果が高く、後遺症もより少なくなる」と書いてある。

死因が何であろうとも関係ない。話は簡単である。目の前で意識を失って倒れている人を見たら、119番に連絡する。なぜこれができなかったのか。

■センター内には健康を気遣うポスターが貼られていたが…

私が物流センターで働いていたとき、いろいろなポスターが貼ってあった。労働者の働きぶりを監視しているようなポスターが数多く貼られていたのだが、それと同じぐらい多いのが健康に関するポスターだった。

トイレに貼ってある、おしっこの色で自分の健康を確認しましょう、というポスターから、機械の巻き込み事故や転落事故の最新の労災認定の国内の統計数字や、熱中症対策のために水分を補給しましょう──などなど。アマゾンは、アルバイトの健康に大きな関心を寄せていますよ、というメッセージにも読める。さらに、休憩室には、「倒れている人を発見したら」というポスターもあった。

「発見者は、すぐ近くにいるリーダー、スーパーバイザー、アマゾン(携帯電話保持者)に連絡」、「リーダー、スーパーバイザー、アマゾンは、呼吸をしてない、返答がない(意識がない)場合は、すぐに119番通報を行う」とある。加えて、「呼吸停止10分で、蘇生可能性50%。救急車は8分で到着(全国平均)。救急車の手配と心臓蘇生法開始が救命の鍵」と書いてある。

人が倒れたら、その後の迅速な対応が、生死の分かれ目になることは、アマゾン内で情報として共有されていたわけだ。しかし、現実に内田に行われたことは、これとはまったく逆のことである。

言行不一致の理由は何なのか。

■アマゾン社員に報告しなければ救急車も呼ぶことができない

アマゾンの正社員として首都圏の物流センターで13年から16年まで働いた山本英樹(仮名)は、ポスターの文言と現実の間に横たわる大きな溝についてこう説明する。

「アマゾン社内では、物流センターでアルバイトの方が倒れたときの連絡系統というのが厳格に決まっているんです。発見者からリーダー、次にはスーパーバイザー、その次は“アマゾニアン(アマゾン社員を指す)”に連絡を上げていかなければなりません。そのうえで、センター内にある、安全衛生部やセンターのトップであるサイトリーダーに報告して、はじめて119番に電話して救急車を呼ぶことができるんです。

アルバイトであるリーダーやスーパーバイザーが、アマゾニアンの頭を飛び越して救急車を呼べば必ず叱責の対象となります。内田さんが倒れたという報告を受けたとき、リーダーやスーパーバイザーが考えたことは、おそらく、内田さんの生命のことより先に、アマゾニアンへ報告しなければならないのが気が重い、ということだったでしょうね。

センター内で人が倒れれば、どうやって改善するかという書類を書かされるのです。内容がアマゾンの気に入らなければ、何度も突き返されます。それに、アマゾンの承諾なしに救急車を呼べば、電話した本人がつるし上げられるだけでなく、派遣会社の責任も問われます」

■アルバイトの体調よりも、本社への報告書を気にかけている

人命救助よりアマゾンの決めた手順を守る方が大事だというのは、にわかには信じがたい。しかし、山本はこうつづける。

横田増生『潜入ルポ アマゾン帝国の闇』
横田増生『潜入ルポ アマゾン帝国の闇』

「各センターが気にしているのは、怪我人や病人などの数字です。たとえば、夏になるとどこのセンターでも熱中症のアルバイトが出るのですが、各センターの安全衛生部には、何人以下に抑えるという目標が本社から降りてくるんです。

私は、2度ほど、熱中症にかかったアルバイトと一緒に救急車に乗ったことがあるんですが、その間、何度も、安全衛生部の担当者から、医師から熱中症という診断は出ましたか、それともほかの理由ですか、と電話で結果を催促されたのを覚えています。彼らが気にするのはアルバイトの体調ではなく、本社に報告する書類に記載する数字だけなんです。

お亡くなりになった内田さんのことは残念ですが、小田原での対応を聞いても、私は何の不思議も感じません。アマゾンの社風がよく現われているな、と思うだけです」

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横田 増生(よこた・ますお)
ジャーナリスト
1965年福岡県生まれ。関西学院大学を卒業後、予備校講師を経て、アメリカ・アイオワ大学ジャーナリズム学部で修士号を取得。93年に帰国後、物流業界紙『輸送経済』の記者、編集長を務める。99年よりフリーランスとして活躍。2020年、本書の元となる『潜入ルポamazon帝国』で第19回新潮ドキュメント賞を受賞。その他の著書に、『仁義なき宅配』『ユニクロ潜入一年』など。最新刊は『「トランプ信者」潜入一年 私の目の前で民主主義が死んだ』。

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(ジャーナリスト 横田 増生)

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