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タダで商品をもらって「5つ星」のやらせレビューを投稿…アマゾンで「フェイク評価」を書く人たちの動機

プレジデントオンライン / 2022年8月23日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PictureLake

アマゾンに「5つ星」の評価を投稿するなら、商品を無料で提供する。そんな悪質なやらせ業者が後を絶たない。やらせ業者に協力する人たちは、なにが動機なのか。ジャーナリストの横田増生さんは「私が話を聞いた人は、タダでもらった商品をメルカリやヤフオクなどで転売していた。『月10万円は稼げます』と自慢する人もいた」という――。(第2回/全2回)

※本稿は、横田増生『潜入ルポ アマゾン帝国の闇』(小学館新書)の一部を再編集したものです。

■「扇風機、懐中電灯、傘、水着、犬のおもちゃ…」

「僕が今まで、アマゾンから0円で仕入れた商品ですか?」

そう言って、上原浩介(26)=仮名は、自慢げに語りはじめた。

「財布にTシャツ、靴、コンピュータのマウス、コンピュータのキーボード、イヤホン、扇風機、懐中電灯、傘、水着、犬のおもちゃ、赤ちゃん用のトレーニングパッド……。そのなかで一番値段が高かった商品は、ドライブレコーダーで8999円でした。全部の点数では、30点前後ですかね。転売目的で手に入れた商品です」

上原の話を聞いたのは、大阪市内にあるホテルの中にあり、自然光がよく入ってくる天窓の高い、洒落たレストランだった。

法律にも引っかかりそうな話をあっけらかんとした態度で話す彼に、私は違和感を抱いていた。また、1時間の取材の間、彼は終始、スマホをいじり、メールやLINEのやり取りをつづけており、その態度を不思議な気持ちで眺めていた。

■転売ヤーが利用するアマゾンの「0円仕入れ」

上原は、アマゾンに5つ星のレビューを書くことを条件に、商品をタダで手に入れることを《0円仕入れ》と呼んでいた。いわゆる、フェイクレビューである。それを《0円仕入れ》と言い換えるのなら、まともな商売のようにも聞こえるのだが、やっていることは詐欺まがいの行為である。そうした私の当惑に関係なく、上原は話を得々とつづける。

「はじめたのは、4、5カ月前のことですかね。友人からアマゾンで《0円仕入れ》っていうのがあるよって聞いて、ネットで検索してみたんです。フェイスブックにいくつものグループがあって、そこで出品者がレビューしてほしい商品を掲示しているんです。僕は10グループほどに登録しました。

タイムラインに流れてくる商品を見ながら、転売できそうな商品を見つけたら、投稿者にメッセージで、レビューさせてください、って連絡するんです。梅雨の前には傘を仕入れ、夏の行楽シーズン前には自撮り棒などを仕入れる、といった感じです。出品者からの了解が出たら、その商品をアマゾンで購入して、その後、5つ星をつけてレビューを書いた後で、(決済サービスの)ペイパルを使って購入金額を全額返金してもらうんです。商品の値段にプラスアルファで500円を上乗せして払ってくれる気前のいい出品者もいました」

■タダで入手した商品はメルカリなどで転売する

どんな人が出品者なのだろうか。

「想像ですけれど、99%が中国人の出品者だと思いますね。一応、通じるレベルではあるんですが、日本語が怪しいですし、やり取りの途中で、中国語で返事が来たときもあります。そういうときは、ネットの翻訳機能を使って返事を書いたこともありました」

出品者はどのような要求をしてくるのだろう。

「アマゾンで購入した商品を、5つ星でレビューしてくれというのが1点。2点目はある程度の字数、200〜300字ぐらいで書いてくれ、というもの。3点目は、できれば商品の写真もつけてくれ、という感じですかね。でも、僕は、絶対、写真はつけませんでした。どうしても写真がほしいという出品者の場合、たいていは、中国のアリババや淘宝(タオバオ)で同じ商品が出品してあるので、グーグルで画像検索して探すんです。そこから写真をダウンロードして、適当にトリミングしてつけました」

そうしてタダで手に入れた商品はどうするのか。

「メルカリやヤフオクで新品として転売します。だから、レビューのために写真を撮るとなると、いったん開封するので、新品にはならないでしょう。転売に一番いいのは、イヤホンなどの小型の家電製品ですね。置いておくスペースも要りませんし、だいたい1週間前後で売れていきます。5000円の商品なら、3500円ぐらいの値段をつけて売ります。どうせタダで仕入れた商品なんで、売れた金額がそのまま利益ということです。まじめにやれば、軽く月10万円ぐらいは稼げますよ」

■アマゾンのレビューと購買パターンの関係性

話を聞いているうちに、彼の本業は何なのだろうか、という疑問がわいてきた。

「ボクですか。大学を卒業してから、ネットで物品販売をやりたいと思っていろいろやっていたんですけれど、今は資金が底をついて、先輩のところに身を寄せているんです」

卒業した大学名を尋ねれば、東京六大学の1つであった。それなら、まともな就職先もあったのではないか、とも思ったが、それは彼が選んだ生き方であり、私が口を挟む必要はない。

多くのアマゾンの利用者は、アマゾンで購入するときレビューを参照するが、果たして、そのレビューと購買パターンには、どのような関係があるのか。アメリカでは、アマゾンのレビューと購買パターンに関する大学の研究結果がある。

スタンフォード大学のデレック・パウエル教授らが17年、《心理学的科学誌》に発表した研究によると、アマゾンの利用者は、より多くのレビューがついている商品を購入する傾向がある、と指摘されている。同じような携帯電話でも、5つ星のレビューで、2.9のレビューが25件ついているより、同じ2.9のレビューが150件ついている方を選ぶ、というのだ。

5つ星のレビューにおける中央値は3だ。2.9のレビューとは平均以下となる。平均以下のレビューの件数が多いということは、利用者の商品に対する評価が低いことを意味する。しかし、アマゾンの利用者は、悪いレビューが多くついた携帯電話を買う傾向が強いのだという。パウエル教授は「大衆に追随する心理が働いているのだろう」と分析する。

スマートフォンで商品をスキャンする店員
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■口コミ情報を信用する消費者は5割以上

さらに、アメリカの調査機関のアンケート調査によれば、ネットショッピングの際、91%の消費者がレビューを読み、84%がレビューを自分の友人からの推薦と同じように信用している、と答えている。加えて、日本のネット調査会社マイボイスコムが17年に行ったネット上の口コミ情報に関する調査によると、ネット上の口コミ情報を「かなり信用する」と「まあ信用する」を合わせると55%を超えており、口コミ情報を参考にするサイトとして、1位の《価格・ドット・コム》の次に、アマゾンのカスタマーレビューが2位となっている。

ならば、アマゾンで5つ星のレビューがたくさんついた商品の売れ行きがよくなるのは、当然であろう。出品者がフェイクレビューを金銭で買い取れば、その分、費用と手間が発生するが、後で売上げが上がり元が取れると踏んでのことなのだ。

私も取材先を探すために、フェイスブックの4つのグループに入った。《アマゾンジャパンレビュー募集中》や《JPアマゾンレビューアー募集》などのグループだ。私のフェイスブックには、私がジャーナリストである旨や、私のこれまで書いた記事などがタイムライン上に上がっているので、断られるのを覚悟で申請したが、申請したすべてのグループに難なく入ることができた。

参加申込者については、何の審査もしてないのだろう。グループのメンバーの数は、1万人から2万人。フェイスブックで検索すると、簡単に見つけることができる。私は、そこから参加者にランダムに取材のお願いを送って取材先を探した。

■上場企業で働きながら「0円仕入れ」を繰り返す30代男性

品川駅内のスターバックスで話を聞いた男性が差し出す名刺には、だれもが知る東証一部上場の社名が入っていた。篠崎克己(33)=仮名だ。《0円仕入れ》をはじめて2年がたつという。

「僕と妻と、まだ生まれたばかりの息子の3人のアマゾンのアカウントを使って、5つ星のレビューを書いています。これまでに、3人で合わせて150件以上のレビューを書いてきました。手に入れたのは、スマホのケースに、ブルートゥースのイヤホン、時計のバンド、アイコスの互換機、小型の掃除機3台、靴など数えきれないほどですね。ドンキ(ドン・キホーテ)で買えるものなら何でもタダで手に入る感じですかね。

だけど、詐欺と思われる商品もフェイスブック上のタイムラインに流れてくることがあるので注意が必要です。iPhoneXとかiMacのレビュー募集というのがありましたが、アップルがレビューを募集することは考えられないです。間違って買ってレビューしたところで返金されることはないのが落ちでしょうね。2万円以上する商品のレビューを募集しているときは、疑ってかからなければいけません」

薄暗い部屋でノートパソコンで作業する人の手元
写真=iStock.com/SasinParaksa
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SasinParaksa

私自身、18年秋に30万円のフォルクスワーゲンポロが「ペイパル完全払い戻し」の商品として、フェイスブックのタイムラインに流れてきたのを見たことがある。11年製で、走行距離8万6000キロ。即座に「どう考えてもウソだろう」と思った。

■「商品がタダで手に入るのが魅力でやめられないんですよね」

大企業の正社員であれば、お金に困っているわけでもないのではないか、と私が篠崎に尋ねると、

「金銭的なことではなく、商品がタダで手に入るのが魅力でやめられないんですよね」

最近は、以前、取引のあった中国業者から、月に1、2回、無料で商品が送られてくるのだと篠崎は言う。

「ある日、これからは、僕がアマゾンで買ったことにして、定期的に商品を送らせてもらっていいですか、というメッセージがきたんです。実際にお金を払うことも、レビューも要らないって言うんです。そこから、月に2回、1回につき10個ほどの商品が送られてきますね。イヤホンやスマホの画面フィルム、携帯のゲームコントローラーなど、要るものと要らないものが交じっていますけれど。その意図ですか? 商品が売れた体裁にして、売上げランキングを上げたい、ということなんでしょうかね。断る理由もないんで受け取っています」

私も似たような投稿をフェイスブックで見たことがあった。

発信者の名前は、《Aj Chen》とある。プロフィールには、「一歩ずつ、少しずつ、しっかり歩いていきます」という自己紹介文と、潮州市出身で広州市在住、早稲田大学出身と書いてある。私の経験上、名前も在住地、出身校もウソである場合がほとんどだ。出品者も、レビューアーもほとんど偽名を使う。それで取引が成り立つこと自体、このフェイクレビューの取引のいかがわしさを端的に表している。

「皆さん、いつもお世話になります。住所を教えていただき、アマゾン商品を2〜3点(商品価格5000円ぐらい)受け取ってくれた方を募集しています。ご興味あれば、直接にご連絡くださいませ。よろしくお願いします」

■フェイクレビューはどのような文面で書かれているのか

実際、フェイクレビューとはどのような文面で書かれているのか。3000円近い値段がする、セラミックファンヒーターについたフェイクレビューは、

★★★★★ こぢんまりした部屋にジャストフィット

今まで小さな部屋だったので、コタツでしたが、PCなど使用のために、コタツに変わる暖房を考えていたところ、この様な商品に出会いました。わずかなスペースに置けて、思ったより暖かく、小さな部屋にはピッタリで、使い勝手も良いです

とある。

この商品には80件以上のレビューがつき、70%以上のレビューが5つ星だった。

■フェイクレビュー作りに必要な3つのアカウント

2000円台の値段がついた《キーファインダー 探し物発見器》には、こんなレビューがついている。

★★★★★ 簡単に見つかりました?

車の鍵とかスマホとか細々したものをときどき無くすので、紛失防止の為に買いました。普段スマホをマナーモードにしたまま無くしてしまうので、他の人に電話をかけてもらって着信音を頼りに探すことも出来なくて困っていたので、非常に探しやすくなって便利です

このキーファインダーには、40件のカスタマーレビューがついていて、5つ星レビューが75%。私が見たときには、忘れ物防止タグの部門で、《Amazon’s Choice》のロゴがついていた。いずれの出品者もプロフィールに記された住所はCN、つまり中国であった。(著者注・レビューの文章は、だれが書いたのかを特定されないように若干表現を変えている)

フェイクレビュー作りに参加するには、以下の3つが必要となる。アマゾンのアカウントとフェイスブックのアカウント、ペイパルのアカウントである。

■アマゾン側が特定するのは難しい

商品の購入から返金までの流れは以下の通り。

1 フェイスブックのアマゾンのフェイクレビューグループに参加する。
2 タイムラインから無料で手に入れたい商品を見つける。
3 フェイスブック経由で出品者に「レビューしたい」とメッセージを送る。
4 その際に、購入者のペイパルアカウントと、アマゾンのプロフィールページを送る。
5 出品者から商品の検索キーワードや商品の写真などが送られてくる。
6 アマゾンのサイトから商品を購入する。
7 出品者に注文番号を送る。
8 購入後1週間ほどの間隔を開け5つ星でレビューを書く。また、必要によってレビューに写真を添付する。
9 レビュー掲載後に、新しいレビューが載った自身のプロフィールページを出品者に送る。
10 出品者からペイパル経由で銀行口座に購入商品の代金が返金される。

──となる。

商品を購入してレビューを書く以外は、全てのやり取りはアマゾンの外で行われるため、アマゾン側が、どれが金銭の取引によるフェイクレビューであるのかをピンポイントで特定することは難しい。

複数の人から取材をして、「フェイクレビューは儲かる」という話を聞いたが、最初に頭に浮かんだのは、本当にそんなに儲かるのか、という疑問である。たしかに、無料で手に入れた商品ではあるが、それをメルカリやヤフオクに出品し、購入者が付いたら、発送作業までしなければならないのである。手間に見合っただけの儲けがあるのだろうか。

■「0円仕入れ」ができても儲かるわけではない

そう思っていたら、平山直哉(27)=仮名が、エクセルで作った一覧表を私に見せながら、こう言った。

「たいして儲かりませんよ」

平山は、会社員の片手間に《0円仕入れ》をやっている。彼が作ったエクセルの表には、これまでフェイクレビューで手に入れた27個の商品名と値段、レビューを書いた日付、メルカリでの販売額、送料などがびっしりと打ち込んであった。

27商品のアマゾンでの販売価格の合計は7万4000円強。これを0円で“仕入れた”わけだ。一番安い商品は、スマホのGalaxy S9タイプに貼る保護フィルムで870円。一番高いのが、ブルートゥースイヤホンで5488円。これらの商品をメルカリで売って、手数料や送料を引いた後で手元に残ったのは、1万6000円強。まだメルカリに出品中の商品も数点あるが、こんな低調な収支なのだ。

「まず送料と発送の手間がかかりますね。僕は、平日は会社員として働いていますので、発送作業は家に帰ってからか、土日にやることになるんですけれど、商品に合わせて梱包して、郵便局に持っていって小包で送るんです。送料で一番高かったのは、腹筋ローラーの900円でした。

それに、メルカリでは値下げ交渉というのがあって、購入希望者から、値段を下げてくれれば買う、といわれることが多いんです。アマゾンで5000円以上したブルートゥースのイヤホンは、まったく同じ商品が複数出品されていたので、結局は2円で売ることになりました。送料が340円かかっているので、338円の赤字でした。馬鹿らしい話です」(平山)

平山は、1カ月やっただけでやる気が失せた、という。

■一番おいしい思いをしているのは、依頼する側の出品者

「手間と時間を考えたら、とても割に合わないと思いました。手元に残る金額が1桁違うなら、やりつづけるかもしれませんが、こんな金額ではとてもやってられない、というのが本音ですね」

横田増生『潜入ルポ アマゾン帝国の闇』
横田増生『潜入ルポ アマゾン帝国の闇』

実態はそんなものだろうな、と私は納得した。

まず、アマゾンの商品にレビューを書いて、返金してもらうまでのプロセスが長い。時間にして、最短でも10日はかかる。その先に、メルカリやヤフオクに出品し、売れれば発送作業が待っている。割に合わないとは、まさにその通り。それでもフェイスブックのタイムラインを見ていて、フェイクレビューの依頼が一向に減る気配がないのは、それが出品者にとっては、安価で、かつ効果的な商品の宣伝方法だからだ。日本でのテレビCMやネット広告に支払うほどの資金は到底ない。

たとえフェイクではあれ、人海戦術で自社の商品についた高評価のレビューを積み上げていくことは、商品の売上げの増加に大きく寄与するのだ。商品を無料で渡すだけで、その商品に5つ星のレビューがつくのなら、こんなに安上がりな話はない。ここで一番おいしい思いをしているのは、フェイクレビューを依頼する出品者なのだ。

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横田 増生(よこた・ますお)
ジャーナリスト
1965年福岡県生まれ。関西学院大学を卒業後、予備校講師を経て、アメリカ・アイオワ大学ジャーナリズム学部で修士号を取得。93年に帰国後、物流業界紙『輸送経済』の記者、編集長を務める。99年よりフリーランスとして活躍。2020年、本書の元となる『潜入ルポamazon帝国』で第19回新潮ドキュメント賞を受賞。その他の著書に、『仁義なき宅配』『ユニクロ潜入一年』など。最新刊は『「トランプ信者」潜入一年 私の目の前で民主主義が死んだ』。

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(ジャーナリスト 横田 増生)

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