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近畿では10年に1度のヒット商品…からあげクン「ほりにし味」にキャンプ好きが大興奮しているワケ

プレジデントオンライン / 2022年8月21日 12時15分

「からあげクン」とコラボしたアウトドアスパイス「ほりにし」 - 写真提供=ローソン

8月2日から「からあげクン」の新フレーバー「ほりにし味」が全国のローソンで販売されている。この新フレーバーは、すでに今年3月、近畿エリアで限定販売され、大ヒットしている。「ほりにし味」とはいったい何なのか。そこには、競合他社に先駆けてアウトドア市場に参入するという大きな野望があった――。

■全国のローソンに登場した謎の「からあげクン」

からあげクンといえば、1986年の発売以来、36年間で累計37億食を売り上げてきたローソンの看板商品である。

長寿のひとつの要因は、ファンを飽きさせないフレーバー戦略にある。基幹フレーバーは「レギュラー」と「レッド」。それに「チーズ」と「レモン」が彩りを添える。加えて「北海道ジンギスカン味」(北海道)、「山ちゃん手羽先味」(中部)、「沖縄県産シークワーサー味」(沖縄)といったエリア限定のヒット商品を全国販売につなげることで、話題を提供し続けてきた。

ローソンが運営するサイト「からあげクンファンクラブ」によれば、これまでに発売されたフレーバーは全部で322種類。近年では毎月1~5種類程度のフレーバーが発売されているから、新しいフレーバーが発売されるのは取り立てて珍しいことではないわけだが、なんといっても今回のフレーバーは「ほりにし味」である。

名前を聞いただけでは、何のことだかわからない。どんな味だか、想像もつかない。しかも「ほりにし味」は新商品の開発を担当する商品部が発案したものではなく、1人の支店長の提案が元になって商品化されたというのである。

謎の新フレーバー「ほりにし味」はどのように誕生し、なぜ全国展開されることになったのか。その経緯を追ってみた。

■コロナ禍の低迷を救う新フレーバー

2021年3月、ローソンの近畿エリアである会議が開催されていた。商品部と現場の代表である支店長数名が四半期ごとに集まって、エリアの運営方針を討議する会議だ。

会議の席上、商品部のメンバーからこんな議題が提出された。

「コロナの影響で売り上げが伸び悩んでいます。ぜひエリア商品を出して盛り上げていきたいのですが、からあげクンの新フレーバーで何かいいアイデアはありませんか?」

ローソンは今年度、「地域密着×個客・個店主義」を戦略コンセプトに掲げ、エリア(地域)に密着した顧客サービスの創造を目指している。エリア商品とはいわゆる地域限定販売の商品であり、地域密着を象徴する重要なアイテムだ。そもそもからあげクンの新フレーバーには店舗を元気にする効果があるが、地域限定の新フレーバーとなれば店舗はなおさら「売っていこう」という意識を持ちやすい。

しかし、会議に参加していた新井健吾京都南支店長(京都南地区にある130店舗を管轄する)は、近畿エリアだからといって「たこやき風」や「○○ポン酢味」といった、いかにも関西風な新フレーバーを出すことにはあまり意味がないと考えていた。そうした「味を似せた商品」をいくら出しても、その先の展開を期待できないからだ。

■会議の出席者は「ほりにし? なんやそれ」

「ほりにし味のからあげクンを提案します」

新井さんがこう発言すると、会議室の中にクエスチョンマークが渦巻いた。

「ほりにしって、何?」
「アウトドア用の万能スパイスです。キャンプをやる人ならみんな知っています」
「お客様の中でそのほりにしを知ってる人って、どのくらいいるの?」
「とにかくSNSを検索してみてください。そうすれば、キャンパーの間でほりにしがどのくらい話題になっているかわかっていただけると思います」

コロナ禍の影響で、「安全なレジャー」としてキャンプ人気が高まっていた。2020年には610万人だったキャンプ人口が2021年には750万人と、わずか1年間で23%も増加している。こうした背景を考えても、新井さんにはキャンパーに人気のほりにしを使った新フレーバーは絶対に売れるという確信があった。

インタビューに応じた新井さんはこう話す。

「それはその通りなんですが、だからといって、単発の商品として売れればいいと思っていたわけではないんです」

では、いったい何を目論んでいたというのだろうか。

新井健吾さん。1980年生まれ。2003年ローソン入社。店長やSVを経て、18年に支店長に。店舗経営サポートを中心に社内部外調整などに携わる。
写真提供=ローソン
新井健吾さん。1980年生まれ。2003年ローソン入社。店長やSVを経て、16年に支店長に。店舗経営サポートを中心に社内部外調整などに携わる - 写真提供=ローソン

■生粋の仕事人間がキャンプにハマった理由

新井さんと「ほりにし」の出会いは、約3年前。仕事人間でほとんど趣味らしい趣味を持たず、休日も「数字を上げる」ことばかり考えていた新井さんは、ある時、このままでは視野の狭い人間になってしまうという危機感を持ったという。

「唯一好きなものが車だったので、とりあえず旧車と呼ばれる昔のランクルを買ってみることにしたのです。インスタグラムで旧車のメンテ方法などを検索していると、旧車のオーナーばかりが集まるキャンプの告知が目に留まりました」

キャンプはまったくの未経験だったが勇気を出して参加してみると、あれよあれよという間にキャンプの虜になってしまった。ただし、ハマり方が一風変わっていた。

「私、もともとインテリアに興味があって、いかに美しい売り場にするかを考えるのも好きだったので、テントの中の導線をどうすれば心地いい居住空間にできるかとか、キャンプギアの色の組み合わせをどうすれば美しいかといったことを、いろいろな職種の人と語り合うのがとても楽しいのです。好きなことについて語り合っていると心が浄化されます」

休日にキャンプを楽しむ新井さん
写真提供=新井健吾
休日にキャンプを楽しむ新井さん - 写真提供=新井健吾

おそらくここ数年で、キャンプの愛好者が増えただけでなく、キャンプは質的にも劇的な進化を遂げているのだ。

■塩や醤油のように「ほりにしある?」

「初めてキャンプに行って驚かされたのが、打ち合わせしたわけでもないのに、みなさんほりにしを持っていることでした。料理の時間になると、塩や醤油と同じような感覚で『ほりにしある?』とか『ちょっとほりにし取って』なんて言っている。『ない』という答えはあり得ない、キャンパーなら持っているのが当たり前のスパイスだったのです」

いったい、ほりにしとは何なのか?

調べてみると、ほりにしとは和歌山県伊都郡かつらぎ町にあるアウトドアショップ「Orange」のマネジャー、堀西晃弘さんが5年の歳月をかけて開発した万能アウトドアスパイスであった。

これ1本で肉、魚、野菜、ご飯、パスタ、サラダとすべての食材の味つけができてしまう。醤油ベースで日本人好みの味ではあるが、フランス料理に使うミルポアパウダーを配合しているので洋食にも合う。つまり、全方位に使えるスパイスなのであり、2019年の発売以来、すでに200万本を売り上げているという。

「ほりにし」を開発したアウトドアショップ「Orange」のマネジャー堀西晃弘さん
写真提供=ローソン
「ほりにし」を開発したアウトドアショップ「Orange」のマネジャー堀西晃弘さん - 写真提供=ローソン

■「キャンプ気分を味わいたいからローソン」が目標

「ほりにしをかけると何でもほりにし味になるので、私は外食に行くときにも常に携帯しているほどのほりにし好きですが、実はコンビニって、キャンプに近い存在なんです。キャンプに行くとき、用意し忘れたものがあればコンビニに寄って買っていくでしょう」

なるほど。要するに、ほりにしがいずれコンビニの定番商品になれば、増加を続けるキャンパーのニーズをキャッチできると新井さんは考えたのだろう。そして、コンビニがほりにしを扱うことを宣伝するには、人気商品であるからあげクンのほりにし味を出すのが効果的だ……と、こんな推理をしたが、どうも正解ではなかったようだ。

いったい、新井さんの狙いは何なのか?

「最終的には、実際のキャンプだけでなく、家の中でもちょっとしたキャンプシーンを味わいたいと思ったらローソンだよね、という形に持っていきたい。それには、からあげクンのようなファストフードから入っていくのが、一番てっとり早かったわけです」

からあげクンは自社の製品だから手を加えやすいのはわかるが、いまひとつ、新井さんの真意がわからない。

「キャンプって、非現実の世界ですよね。ディズニーランドのようなテーマパークが代表ですが、非現実の世界が楽しいのは当たり前です。一方で、コンビニってものすごく現実的な世界ですよね。その超現実的なコンビニの世界に、非現実を持ち込めたら最高だと私は考えているのです。そして、その演出をできるのがアウトドア系の商品なのかなと。つまり『キャンプに行くからローソンに寄ろう』ではなく、最終的には『キャンプ気分を味わいたいからローソンに行こう』となってほしいわけです」

新井さんは「キャンプは非現実の世界」と話す
写真提供=新井健吾
新井さんは「キャンプは非現実の世界」と話す - 写真提供=新井健吾

現実世界にいながらにして非現実の楽しさを味わえたら、まさにコンビニエンスだ。つまりほりにし味のからあげクンとは、現実の世界に非現実を持ち込むための橋頭堡(ほ)だったのであり、新井さんの真の狙いは、コンビニとしてアウトドアマーケットに先鞭をつけるだけでなく、現実にはキャンプに行かない人まで、アウトドアマーケットの中に取り込んでしまうことにあったのだ。

■ほりにし味は近畿で10年に1度の大ヒット商品に

新井さんは、振り返ってみれば、ローソンの採用面接の段階から「現実の代名詞であるコンビニを非現実の世界に近づけたい」と訴えていたという。だからこそ、新商品の開発を担当する商品部を希望せずに、店長やスーパーバイザー(SV)と売り場づくりに携われるポジションにこだわり続けてきた。テント内の導線やキャンプ用品の色彩に凝ってしまうのは、いわば新井さんの業のようなものなのだ。

「ほりにしをきっかけに、アウトドア感覚を味わえる日配食品や冷凍食品、あるいは低価格のキャンプ用品を常備するようになっていけば、やがて『アウトドアならローソン』というフレーズが定着してくことになると思います」

「キャンパーズマシュマロ」や手作りキャラメルポップコーンなどのキャンプ関連商品
写真提供=ローソン
「キャンパーズマシュマロ」や手作りキャラメルポップコーンなどのキャンプ関連商品 - 写真提供=ローソン

今年3月、近畿2府4県で発売したほりにし味のからあげクンは、発売初週で30万食を売り上げ、2週間でほぼ完売。近畿エリアでは10年に1度という大ヒットを記録した。8月2日からの全国販売では、過去300種類以上発売したフレーバーで歴代10位に入る初週販売数を記録した。

「アウトドアならローソン」。そんな日がやってくるのは、意外に近い将来かもしれない。

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山田 清機(やまだ・せいき)
ノンフィクションライター
1963年、富山県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『東京タクシードライバー』 (朝日文庫)、『東京湾岸畸人伝』『寿町のひとびと』(ともに朝日新聞出版)などがある。

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(ノンフィクションライター 山田 清機)

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