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「体重測定は女子部員も裸」「夜9時にスマホ回収・メールチェック」地獄のような運動部寮は変わったのか

プレジデントオンライン / 2022年8月19日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

高校の運動部で近年、“暴行事件”が続発している。暴行が起こる場所で多いのは、寮だ。厳しい上下関係や、狭い部屋に複数人の部員が共同生活を送る環境は昔も今も変わらないのか。スポーツライターの酒井政人さんが現状をリポートする――。

■野球部、サッカー部……運動部の「寮」がやばい

夏の甲子園が佳境を迎えているが、各地の予選開始前にはさまざまな問題も起きた。

例えば、2021年の春のセンバツ高校野球に出場した愛媛県松山市の聖カタリナ学園高。2022年5月に野球部寮内で殴る蹴るなどの集団暴行が起きたという毎日新聞の報道を受けて、7月、学校側が文書で謝罪した(今夏の甲子園地方予選は問題に関係のない3年生12人で出場し、準々決勝で敗退)。

振り返ると、今春、熊本県八代市の秀岳館高サッカー部のコーチが部員に暴行して大きな問題になった場所も寮内だった。かつては名門大学ラグビーチームの合宿所内で大麻栽培が発覚した事件もあった。

これではまるで“犯罪”の温床だ。運動部寮はどうなっているのだろうか。

筆者は、箱根駅伝を目指した東京農業大学時代に運動部の寮に入った。入学時(1995年)の寮は柔道部、空手部(俳優の永井大は2学年後輩)なども一緒。入寮早々に厳しい“洗礼”を受けることになる。

上京時に履いてきた新品のブーツを玄関口に置いておいたら、数時間後に消えていたのだ。油断できないぞ、と驚き、ショックを受けた。

しかも入学したときに1学年上の先輩から、「4年生は神様、3年生は天皇、2年生は平民、1年は奴隷。1年は3~4年生に話しかけてはいけない」と脅された。1年生は練習開始の45分前に集まり、グランド整備を30分するなど、雑用も課せられた。

寮生活はというと、エアコンもない9畳の部屋に男3人。奥は最上級生で1年生は真ん中が定位置だった。ベッドを置くスペースはなく、文字通り「川の字」で眠った。当然、プライベートなんてまったくない。

キッチンやお風呂など共有スペースの掃除だけでなく、1年生は陸上部内の食事当番(夕食)もあり、かなりハードだった。ただ寮費は世田谷区でありながら、1年間で7万円弱(光熱費込み)。親は大喜びしていた。

卒業後、陸上競技をメインとするスポーツライターになって、各学校の寮を訪れたが、最近は徐々にその形が変わりつつある。一方で、ひとり部屋の寮はほとんどなく、さまざまな場面で共同生活を送る現実は変わらない。男子運動部の寮生活は耳にする機会か多いが、女子はどうなっているのか。

■女子長距離選手の過酷すぎる生活

高校の場合、私立の運動部強豪校では、その部単独の寮を完備している場合もあるが、監督の自宅に下宿するというケースも少なくない。

ある女子駅伝チームは監督の自宅を増築した部分が“寮”になっていた。6畳ほどの部屋が4つあり、各部屋に3段ベッドを設置。学習机がひとり一つずつ割り当てられる。いずれも先輩たちが代々使ってきたものだ。あとは3段のクリアケースが1つ。ジャージなどの競技用ウエアでいっぱいになるため、私服はわずかしか入らないし、着る機会もほとんどない。

各部屋にテレビはなく、お風呂は監督宅にある家庭用のものを使用する。ひとりずつ入る余裕はないので、3人ずつ交代で入浴するのが慣習だ。消灯時間は決まってないが、朝練習があるので朝5時頃には起床する。練習後は、夕飯、入浴、マッサージ。練習日誌を書いて、宿題をして、23時前には就寝するという日々を過ごしていたという。唯一ともいうべき楽しみはチームメイトの誕生日(月に1回)にアイスが食べられたことだった。

そんな生活をしてきた現在30代の元選手は当時をこう振り返る。

「よくあんな環境でやっていたなと思います。授業もあるので、とにかく時間がない。1分1秒を争って日々過ごしていました。お風呂もぎゅうぎゅうでしたし、結構過酷でしたね。プライベートはほぼなくて、恋愛する余裕もない。当時はそれが当たり前だと思っていたんですけど、もう絶対にやりたくない」

一方で、「寮生活を過ごした仲間とのつながりは深いです。他の友達とは少し違うかな」と過酷な時間を共有したことで思い出も強くなっているようだ。

別の女子駅伝強豪校はフリージョグのときも学校の敷地から出ることが許されず、故障をすると野菜しか食べさせてもらえなかったという。そのため「刑務所」と揶揄されるほどで、毎年のように“脱走”して、実家に帰る1年生が出ている。

また地方の名門校では周囲の目も厳しい。注目を浴びる存在だけに、コンビニでお菓子を買うだけでも、学校に“通報”されることがあるようだ。

夜9時になると携帯電話(スマホ)を回収されて、メールなどをチェックされていたというチームもある。また男女で強化している学校では、「部内恋愛は禁止」と言い渡されることが少なくなく、それが原因で辞めてしまう女子選手もいる。

強豪校では日々の体重測定が日課になっていることが多い。そのデータを寮の共有部分に張り出しているチームもある。これは男子も同じだが、女子の場合は指導者のチェックが厳しい印象だ。体重が増えると、指導者からきつい言葉を浴びせられるため、日々の体重チェックに耐えられず、やめてしまう選手も少なくない。

体重計
写真=iStock.com/ShotShare
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ShotShare

これは実業団の話だが、かつて女子選手を裸にさせて体重計に乗せていた“とんでもない監督”もいたという。完全なセクハラ行為で、SNSが普及した現代なら大問題となるのは必至だ。しかし、寮生活をしていると外部との接触が極端に減り、選手たちはまるでカルト教団に“洗脳”されてしまって、半ば言いなりとなるケースもあるようだ。

■変わりつつあるものと変わらないもの

寮内ではとにかく大小の事件が頻発する。これは体育会系特有の“上下関係”が大きく影響している。例えば野球部でいえば、先輩が後輩にバットなどを“借りパク”することが少なくないという。また先輩が後輩に指導という名前の「体罰」を行うケースは、今も後を絶たない。

しかし、寮内で選手間でのトラブルを把握するのはかなり難しい。ある強豪野球部のコーチは、「生徒は指導者がいない隙を見てやっていますから、表面化していない問題はたくさんあるはずです」と不安顔だ。いつ問題が露呈して、最悪は出場辞退といったことにつながってもおかしくないのだろう。

そのため近年は上下関係をあえて“逆転”させているチームが出てきている。従来なら1年生がやってきたグラウンド整備などの雑用を最上級生が担うというものだ。

この新方式を採用している野球部の監督は、「上下関係を厳しくしてしまうと、上級生にわがままな心が育ってしまう。それが競技面でも影響するんです」と話している。

近年、運動部寮も変わりつつある。昔は選手たちが「共同で住む場所」だったが、最近は「食事」と「トレーニング」がセットになっているのだ。

食事は監督夫人が手作りしているチームが多かったが、近年は専門業者が栄養管理したメニューを朝・夕に提供しているチームが増えている。今年6月、箱根駅伝での活躍が記憶に新しい創価大駅伝部寮が都内に完成した。カフェのようなオシャレな食堂と広いテラスがあり、最先端のトレーニング機器も充実。低圧低酸素ルームと高圧高酸素ルームまで完備している。いかに「強化」と「回復」ができるのか。寮の質がスカウティングにも大きく影響する時代になっている。

創価大駅伝部の新・白馬寮(同駅伝部HPより)
創価大駅伝部の新・白馬寮(同駅伝部HPより)

一方で変わらないものもある。それは“友情”だ。前出の野球部コーチは、「寮生活で一番大きいのは仲間の存在ですよね。同じ夢や目標を持つ仲間と長い時間を過ごすのはすごく貴重な経験になると思います。話す時間が増え、仲間と支え合うことが多い。寮生活を送ることで濃厚な高校3年間になりますよ」と語っている。

ひとり暮らしはプライバシーが守られ、個人の時間が充実するという利点がある。一方、寮生活も窮屈ながら他者との暮らしから得られる点も少なくない。喜びや感動を分かちあうことができて、より一層「ハッピーな気持ち」になることができるのだ。

だからこそ運動部寮内での昨今の“事件”が残念でならない。寮生活では集団心理が働きやすい。例えば「いじめ」は集団心理が悪い方向に働く代表的な事例であり、客観的に考えれば「おかしい」ということでも、集団のなかにいると普通に感じてしまうことがある。

運動部寮の存在がチームにとってマイナスにならないように、学校や監督・コーチは管理の目を行き届かせ、選手たちも常に互いに冷静な判断力を持ち続けることが、チーム力の向上につながるのではないだろうか。

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酒井 政人(さかい・まさと)
スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)

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(スポーツライター 酒井 政人)

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