マスコミは不安をあおっているだけ…東大名誉教授が「孤独死は立派なことだ」と褒める理由
プレジデントオンライン / 2022年8月24日 15時15分
※本稿は、矢作直樹『閉塞感がニャくなる魔法の言葉88』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。
■孤独死は特別なことでも寂しいことでもない
猫は気高く誰にも見られずに死ぬ、と言われています。これは、身体が弱ってきたときには誰の目にもつかないところに逃げ込むという防衛本能によるものだとも言われています。
今、世間では孤独死を、よくないこととして、問題として扱っている風潮があります。私はそうは思いません。
一人で家で死ぬということは、つまり、それまで一人で家で生活していたということです。
これは褒められこそすれ、非難されるようなことではありません。
家族と同居していたとしても、亡くなるときは一人です。たとえ、家族に見守られ、手を取られていたとしても、肉体を脱いで、あの世へ帰るときは誰もが一人です。
孤独死という言葉が独り歩きをして独居の人の不安をあおっていますが、なんの心配もありません。逆を言えば、誰もが孤独に死ぬのですから、孤独死は別に特別なことではありません。
寂しくもありません。先に逝った、あなたにとって懐かしい人が迎えに来るからです。両親かもしれませんし、配偶者や友人かもしれません。もしかしたら、飼っていたペットも一緒に迎えに来てくれるかもしれません。死は終わりではなく、こちらからあちらへ処替(ところが)えするだけです。楽しみに待っていていいのです。
独居の方は、家族や友人と毎日連絡を取り合うなどしていれば、万が一のときに時間がかからず発見されます。もし、時間が経ってしまっても、あなたの魂に傷はつかないし、なんの問題もありません。脱いだ服が少々傷(いた)んでしまうだけです。
■一人でいても自由に好きなことができる
仲間がいないのを嘆くことはありません。一人でも楽しいことはたくさんあります。一人でできることに楽しみを見つけることができればいいのです。一人は気ままで自由です。
そういうと、そうした人生に意味があるのか、などとにらまれそうです。でも、人生に意味などいるのでしょうか。一匹で歩いている猫を見て不幸と感じるでしょうか。一人の気ままな自由を実感したら、きっと、人生に意味を見出す必要などないと思うでしょう。
私は学生のときから、一人でいるのが好きでした。山登りや自転車やランニングが好きなのは一人でできるからです。自分のペースで、誰に気兼ねする必要もありません。
山へはだいたい一人で行きます。長い時は3週間近く、人に会わないこともあります。冬は寒いです。風呂にも入れません。食事も質素なものになります。「何が楽しいの?」と友人に真顔で聞かれますが、荷物を詰め、山の準備をしているときは、まるで遠足前の子どもです。
また、私は一人暮らしのうえに留守がちなので、動物は飼えず、その代わりに植物を育てています。ランやグズマニアをいただいて鉢分けしたり、近所の花屋で買ったハイビスカスやブーゲンビリアなども育てていて、冬なのに花を咲かせていたりすると本当にけなげだと思います。話しかけると、まるで答えてくれるようなのです。
音楽を聴いたり、地図を見たり、本を読んだり、私の好きなことはすべて一人でできるものです。人嫌いなわけではありません。小さい頃から、一人でいる時間が多いのです。そこに、童心に戻れるような瞬間が少しでもあれば、それが幸せというものです。
■私がテレビのニュースを見ない理由
猫はたぶん、テレビを見ません。ですから、擬人化された漫画や小説の中の猫でもない限り、ニュースを見て世の中を嘆いたりはしません。
私は一方的にたれ流されるテレビのニュースは見ないようにしています。必要な情報はネットや文献から取捨選択します。
私たちができるのは、自分の心持ちをしっかりさせることだけです。それができないのなら、なるべくネガティブなニュースを見聞きしないようにしましょう。これは、逃げではありません。自分にインプットする情報は自分で選べるのです。同様に、つきあう友だちも自分で選べます。できる限り、自分が心地良いものを取り入れるようにしましょう。
■マスコミは心配をあおることばかりする
たとえば、子どもへの虐待が後を絶たない、というニュースをよく目や耳にしますが、本当にそうでしょうか。ネットに公表されている警察庁の公式データを見ると、2009年から子供の虐待死の数は減少しています。
その一方、虐待事件の件数は増えています。これには理由があります。児童虐待防止法が制定されて虐待の範囲が大幅に拡大されたからです。この法律に基づいて警察が虐待の捜査や検挙に積極的に取り組むようになったために見た目の数字が増えました。ニュースは、データに基づいて正確に読み取る必要があります。マスコミは心配をあおることばかりするものです。
世の中の不条理を悲しんだり、怒ったりすることは不要。世の中を変えることなんてできないと割り切って楽しそうに幸せそうに生きていれば、それが世の中に影響を与えます。
■「万が一の事態」に向けて心がけることは…
「備え」をして、「恐れ」を手放してください。猫のようにいつも泰然自若としていましょう。
でも、「恐れ」だけで、「備え」がおろそかになってはいませんか。自分なりに備えれば、「あとはなんとかなる」と覚悟が定まるものです。
たとえば地震や台風など災害についていえば、家族が3日間過ごせるように備えることが目安です。3日間の内に、自治体の対策が整ってきます。そのための備えが必要、というわけです。具体的な準備については、消防庁のホームページなどに一般的な案内が載っています。
いろいろなものが入った「非常袋」を今はかんたんに買うこともできます。他に、赤ちゃんのオムツとか、ペットを飼っているならペットフードの備えとか、自分なりにアレンジする必要もあるでしょう。
私はいつも登山用のヘッドライトをカバンの中に入れています。電源が落ちても、明かりがあればとりあえず安全な場所へ動くことはできます。準備は想像力を働かせて行いましょう。
「○○になったら、○○する」というシミュレーションも必要です。これも想像力が必要です。自家用車を持っているなら、水没しそうになったら窓を割る、ということでカナヅチなどを運転席に備えておくこともいいでしょう。
準備が終わったら心配するのはやめましょう。もし、日本国民のすべてが「地震が来たら怖い」と思っていると、その集合意識が現実に地震を創ってしまうかもしれません。かといって、何も起こらないと思うのは謙虚さが足りません。地球に対して失礼です。「もし動くならば、穏やかな変化でお願いします」と祈ればよろしいと思います。
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東京大学名誉教授
1956年、横浜市生まれ。1981年、金沢大学医学部を卒業後、麻酔科、救急・集中治療、内科の臨床医として勤務しながら、医療機器の開発に携わる。1999年、東京大学工学部精密機械工学科の教授に。2001年に同大医学部救急医学分野教授、同大病院救急部・集中治療部部長となり、東大病院の総合救急診療体制の確立に尽力する。2016年3月、任期満了退官。著書に『「死」が怖くなくなる50の神思考』『閉塞感がニャくなる魔法の言葉88』(ワニブックス)など。
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(東京大学名誉教授 矢作 直樹)
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