1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

「充電しっぱなし」で爆発、母子は焼死…米メディアが報じた電動自転車の知られざる炎上リスク

プレジデントオンライン / 2022年8月24日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Greice Baltieri

■バッテリーが発火、爆発…電動自転車の知られざる危険性

電動アシスト自転車が人気だ。エコで健康的な特性に加え、パンデミック以降は混雑した電車を回避できる交通手段としても注目されている。

しかし、思わぬ事故が起きている。普及が進むニューヨークでは24時間で4台が火を吹く日もあり、CBSニューヨークは火災件数も今年8月の時点ですでに昨年のほぼ倍を記録したと報じている。

もちろん、一概に電動自転車が悪というわけではない。日本でも都市部ではシェアサイクルが普及し、平野部の密集地では数ブロックも歩けば次の貸し出しステーションが見つかるほどに広がっている。国土交通省はシェアサイクルを公共交通網を補完する存在と位置づけ、観光振興や地域生活への貢献の観点から普及・促進に力を入れている。

借り手にとっても、手軽にレンタルできるシステムはありがたい。スマホのアプリで予約し、30分ごとに百円少々などの料金で利用可能だ。レンタカーとは違い、追加料金なしで別のステーションへも返却できるため、荷物の増えた帰り道だけレンタルするなど柔軟な活用ができる。

自分専用のアシスト車を購入したいと考える人も多いようだ。経済産業省の生産動態統計調査によると、2020年には市場規模が600億円を超え、2007年の6倍以上にまで拡大した。自転車全体の販売数が下降するなか、eバイクなど高価格帯の好調な売れ行きが販売単価を同期間に7割ほど押上げ、全体の市場規模を拡大している。

便利な電動アシスト自転車だが、その危険性は意外に周知されていない。自転車にはリチウムイオン電池が搭載されており、充電時を中心に発火や爆発の危険がある。ニューヨーク・タイムズ紙は、ニューヨークではバッテリーが原因となったマンション火災が続発しており、犠牲者を生んでいると報じている。

■マンション火災で母子が死亡、父は重体に

ニューヨーク・タイムズ紙はデロイト社による推定値をもとに、2020年に全米で50万台のeバイクが販売されたと報じている。

これは同期間に全米で売れたEVの2倍以上に相当するという。なお、ここでいうeバイクは電動アシスト自転車に加え、日本では公道を走行できない自走するタイプの製品が含まれている。

販売数の増加に伴い、悲劇的な火災の発生も増えるようになった。同紙は8月3日、マンハッタン北部のハーレム地区のマンションで火災が発生し、2人が死亡したと報じている。10階建てマンションの5階から出火し、この火災で母と幼い娘が死亡し、父親も重体となったという。

CBSニューヨークは、共用階段に保管してあったeバイクが火元だと報じた。現場には、焼け焦げてほぼフレームだけとなったeバイクが残されていたという。

集合住宅の火災
写真=iStock.com/Vladimir18
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Vladimir18

■原因は夜間に充電中のバッテリー

昨年12月には、ショッキングな避難の様子が報じられた。窓から激しく炎が噴き出すなか、外壁を伝い命からがら地上へ逃げた少年・少女の姿がカメラに収められている。

CBSニューヨークが報じた動画では、4階の複数の窓から炎と黒煙が上がる様子を確認できる。13歳少年と18歳少女が煙の充満する室内から逃れるべく、壊れかけた窓枠に両手だけでぶら下がり、続いて移った建物外壁の配管を伝い地上へと降りた。火災の原因は、夜間に充電中だったeバイク自転車のバッテリーだったという。

二人は姉弟であり、その父親の恋人である40代女性が火災により命を落としている。NY市消防局長は記者会見の場で、「これらのバッテリーは損傷したり過充電したりすると水素を放出し、猛烈に爆発します」と述べ、注意喚起した。

米自動車ニュースサイトの「ジャロプニク」によると、火元となった部屋では姉弟の父親が9個のeバイク用リチウムイオン電池を夜間に充電しており、これが未明になって火を噴いた模様だ。アパートからは黒焦げになった7台のeバイクが発見された。この父親はeバイクの修理業を営んでいたという。

■NYで止まらない「悪夢」

悲惨な事故は後を絶たない。NY市消防局は今年4月、eバイクのバッテリー由来の事故が24時間で4件発生したと発表した。CBSニューヨークはこのうち、ブルックリンで住宅が激しく燃え、隣家にも延焼した事故を動画で報じている。夜間にもかかわらず周囲は日中のように明るくなり、近隣住民は「悪夢だ」と語った。

米CBSはその他3件はすべてマンハッタンで発生し、12人が負傷したと報じている。NY市消防局は、火災現場に散乱する黒焦げのeバイクの画像を公開した。

ニューヨークに限らず、事件は広い地域で発生している。米NBCニュース系列のコロラド局「9ニュース」は、中部・コロラドスプリングスでのeバイクを原因とするマンション火災を報じている。同局は「eバイクの人気の高まりとともに、発火の報告が増えている」と指摘し、同様の事例は「全米で」発生していると警鐘を鳴らす。

NBC系列のミシガン局「ローカル4」によると、五大湖に浮かぶマキノー島でもeバイクのバッテリーが爆発。駆けつけた消防隊員が負傷で入院する騒ぎに発展した。島の警察署長は、「島民と観光客はいかなる状況でもeバイクとバッテリーを屋内に保管しないよう、あらゆる手段を講じるべきだ」と述べ、強い警告を発した。

■8月までに120件の火災が発生

eバイクからの出火報告は、ここ数年で非常に目立つようになった。米消費者組合が発行するコンシューマー・リポート誌は、ニューヨークだけで昨年75件の火災がeバイクや電動スクーターなどによって発生し、3人が死亡、72人が負傷したと報じている。

ニューヨークのタイムズスクエア
写真=iStock.com/AndreyKrav
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AndreyKrav

今年はさらに状況が悪化している。CBSニューヨークはNY市消防局のデータをもとに、8月までに120件の火災を誘発しており、すでに昨年のほぼ倍の水準になっていると報じている。

eバイク自体の危険性が高まったわけではなく、パンデミックにより所有者・利用者が増加したことで全体の件数が増えたようだ。eバイクにもともと潜んでいた危険性が、数の増加で表面化してきた形となった。

ニューヨーク・タイムズ紙は昨年、パンデミック以来自転車レンタルの需要が伸び、供給が追いつかないほどになったと報じている。ライドシェアのLyftが自転車シェアの展開に協力し、昨年は11月中旬までに2500万回のレンタル回数を記録したという。

同紙はまた、市場調査会社のNPDのデータをもとに、バイクシェアだけでなく販売も好調だと報じている。パンデミックにより自転車ブームが到来し、2020年のeバイク販売額は、前年比145%増を記録したという。活用されればそれだけ充電の機会も増加し、そのうち一定の割合で発煙・発火事故が起きているようだ。

ニューヨーク市議会議員は地元紙デイリーニューズに寄稿し、パンデミックによるフードデリバリーの増加も一因になったと示唆している。配達員たちが趣味用途のモデルを業務用として一日中酷使していることや、盗難防止の観点から宅内で保管していることで、望まざる火災を招いてしまっていると議員は指摘する。

道路を走るフードデリバリーの自転車
写真=iStock.com/Christine McCann
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Christine McCann

■屋外保管は要注意…発火事故が相次ぐ理由

リチウムイオン電池は、スマホなどにも多く用いられている一般的なバッテリーだ。比較的コンパクトで軽量にできる反面、化学反応により発火しやすい弱みがある。

米テックサイトの「テック・レーダー」は、低品質の製品を中心にバッテリーセルが損傷・過熱することで、内部に封入された電解液が発火することがあると説明している。ひとつのセルが過熱すると周囲のセルに熱が伝わり、次々と熱と圧力が高まる連鎖反応を引き起こす。

もともと取り扱いに一定の注意を要するこのバッテリーに、eバイク特有の難しさが加わっている。リチウムイオン電池は一般に、直射日光や高温多湿の場所を避けて保管することが推奨される。夏場の車内など高温の場所にスマホやバッテリーパックなどを放置し、爆発に至る事故が国内でもたびたび起きている。

だが、eバイクはその性質上、過酷な屋外での使用が主となる。延焼の危険から屋内での保管は推奨されないため、野ざらしの屋外で充電・保管するケースも多い。粗悪な製品ではこのような環境に耐えられず、発煙や爆発に至っているようだ。

■「充電しっぱなし」はNG

eバイクを安全に使用するために、どのような点に留意すればよいのだろうか。9ニュースは消防当局によるアドバイスとして、eバイクを充電器につなぎっぱなしにしないよう呼びかけている。

また、バッテリー付きの自転車本体や交換用バッテリーを購入する際、信頼できるブランドを選ぶことも大切だという。カスタムメイドのeバイクを提供するファット・eバイク社の共同設立者は、同局に対し、「アリババやアマゾン、あるいはノーブランドの無名サイトで購入してしまうと、バッテリーのリチウムイオン・セルの品質、製品の品質、組み立て品質、充電器の品質などは、誰にもわかりません」と指摘している。

米eバイク業界のコンサルタントは、自転車業界向けニュースサイトの「バイシクル・リテイラー」に対し、パナソニック、LG、サムスン製のバッテリーを推奨している。一方で安価な中国製については、安全性の観点から勧められないとの立場だ。

■過去には国内でリコールも、危険性を知り正しい利用を

日本でも電動アシスト自転車の普及が進んでおり、この傾向自体は好ましいことだ。自動車や原付と比べれば排気ガスを生じないことから環境負荷が低いほか、アシスト付きとはいえ一定の脚力は求められ、健康増進効果も期待できる。気の向くままに走ったり、地元のスポットの魅力を発見したりと、自転車目線ならではの気づきもあることだろう。

同時に、適切な注意を向けることも必要だ。全米で発生しているような悲惨な火災の事例は、原理的には国内でも起こり得る。とくに、個人所有のアシスト車のバッテリーが劣化した際、ネットなどで安価な互換バッテリーを購入して使わないよう留意したい。

また、大手の製品だからといって100%安心というわけではない。消費者庁は今年5月、ブリヂストンサイクルが販売するバッテリーの充電中に火災警報器が鳴動し、3人が軽傷を負う事故が起きたと公表した。同型のバッテリーを搭載するブリヂストンおよびヤマハ製のアシスト車、計30万台以上がリコール対象となった。

2020年には、パナソニック製のアシスト車に発火のおそれがあるとして、バッテリーの無償交換が案内されている。産経新聞は当時、対象となるバッテリーが34万個以上になると報じている。

シェアサイクルにおいては、街角のステーションでの駐輪中に充電を済ませる方式のものも登場している。こうしたサービスが必ずしも危険というわけではないが、無人のステーションで充電が行われるという性質上、万一発火した際には初動が遅れる可能性も否定できない。

秋に向けてサイクリングに最適なシーズンが到来するが、電動アシスト自転車の特性を正しく理解し、安全で快適な使用を心がけたい。

----------

青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

----------

(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください