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なぜ日本の富裕層はインテリアが垢抜けないのか…1000軒を訪ねた家具屋の社長が考えるたった1つの原因

プレジデントオンライン / 2022年9月8日 15時15分

リビングハウスの北村甲介社長 - 撮影=小倉和徳

どうすれば「おしゃれな家」に住めるのか。リビングハウスの北村甲介社長は「必要なのはお金ではない。高級家具の配送で1000軒の家を回ったが、お金持ちの人でも9割の家は垢抜けなかった。なぜなら家具を買うときに『調和』を考慮していないからだ」という――。

■「家具屋3代目」修行先で任されたのは配送だった

ぼくは24歳の頃、ある北欧系の家具メーカーで働いていました。家業を継いで家具屋になることを決心したぼくに、「まずは修行」と父が紹介してくれたのがこの会社だったのです。

「修行」と言っても、任されたのは販売でも買い付けでもなく、配送の仕事でした。来る日も来る日も、2トントラックを運転し、ひたすら家具を運び続けます。組み立て式の家具が多かったので、家の中に運び入れ、組み立てて、配置するまでがワンセット。これを1日に5~6軒ほど繰り返します。単調で、体力任せな肉体労働です。「一体自分はここで何をやっているんだ」。重たい家具を運びながら、何度思ったことかわかりません。

それでも続けたのは、学びがあったからです。売り場から届けられた家具が、実際にお部屋に配置された状態を見れるのは配送員だけ。これから家具業界で生きていくぼくにとって、他人の家を見る、家具が置かれる現場を知るというのは、貴重な経験でした。

■1000軒の家を回って気が付いたことがあった

結局、配送の仕事は1年半続けたので、この間、1000軒余りの家を訪問したことになります。

多くの家を見て回る中で、気が付いたことがあります。それは、「家具がおしゃれだからといって、空間がおしゃれになるわけではない」と言うことです。

このメーカーで扱う商品の価格帯は、ソファで20万~30万円、ダイニングセットで15万円ほど。高級とまではいきませんでしたが、お店が青山にあることや、海外ブランドだったこともあってか、お客様は裕福そうな洗練された方が多い印象でした。配送先はタワーマンションや立派な戸建てばかり。夏の日のぼくは、短パン、タンクトップ姿で、汗もだらだらだったので、ご自宅にお邪魔するときは、なんだか申し訳ない気持ちになったものです。

「こんなにおしゃれで、お宅も立派なのだから、きっと中もおしゃれに違いない」。ところが、一歩家の中に入ってみると、どうでしょう。失礼ながら、垢抜けない。家具一つひとつは高級でおしゃれなはずなのに、なぜ……。

■「おしゃれな家」とそうでない家の違いとは

なぜこんなお話をするかというと、こうしたお宅は1軒や2軒ではなかったからです。ぼくの感覚では、1000軒のうち、少なくとも900軒はそうした「垢抜けない家」でした。なぜそうなってしまうのか。

ぼくがたどり着いた答えは、「調和」です。人でたとえると、こういうことです。服が一流の高級ブランドでも、サイズが合っていなかったり、髪の毛がぼさぼさだったり、持ってるカバンや履いている靴が服とちぐはぐだと、台無しですよね。反対に、低価格なブランドでも、合わせるアクセサリーや、着こなしによってはすてきに見えます。服それ自体以上に、コーディネートがおしゃれを決めるポイントなのです。

部屋も同じです。ぼくが見てきた「おしゃれな家」に住むお客様に共通していたことがあります。それは家を「飾る」感覚がある、ということです。たとえば、一面真っ白の壁ではなく、一部に柄や色が入った壁紙を使う、絵画や花、オブジェを飾るといった具合です。自分たちが住む環境を、より居心地よく、気持ちが高鳴る空間にするために、モノを買い足していく。寒くないけれど、おしゃれのためにスカーフを巻く、そんな感覚かもしれません。着こなしならぬ「住みこなし」力、そんなものを感じました。

壁に掛けられたさまざまなアート
写真提供=リビングハウス

■「新築が一番いい」垢抜けない根本的な理由

そんなのセンスじゃないかというご指摘が飛んできそうですが、ぼくが感じたのは、文化的背景の違いです。どういうことかというと、実は、「おしゃれな家」に住んでいる大半が海外から来られたお客様だったのです。

ここには1つ、大きな考え方の違いがあると思っています。

みなさんは、新しい家と、古い家、どちらに魅力を感じるでしょうか。

今でこそ、中古のリノベーション物件だったり、ファッションでも古着を「中古」ではなく「ヴィンテージ」と呼んだり、新しくないものに価値を感じる人が増えてきました。

とはいえ、やはり「新しいものがいい」という感覚が、日本人の中では根強いと感じます。この感覚は、部屋や家具に対しても同じです。新築時の真っ白の壁を保つために、持ち家にもかかわらず、絵を飾るのに穴をあけることすら抵抗を感じる。せっかく買ったソファだけど、汚したくないからカバーをかける……。手を入れたり、使い込んだりすることを、「汚れる」というようにマイナスにとらえる人が多いのではないでしょうか。

■欧米ではむしろ手を加えた状態が評価される

一方で、欧米では、こうした状態をむしろ「味」としてポジティブに受け入れる感覚が強い。日本では、新築のマンションを買って、玄関の鍵を開けたその瞬間に、価格が3割引きになるのが一般的ですが、欧米では、中古の物件の方が価値が高い、という状況が珍しくありません。ペンキで塗り替えた壁や、時を経て色味が変わった床など、暮らしの中で、使い込み、住みよい環境のために手を入れてきた、その状態に価値があるわけです。

こうした価値観の違いは、インテリアに対する考え方にもつながっています。

本来であれば、家を買ったその日、最初の家具をそろえた日というのは、住まいを作っていくその「スタート」にすぎません。そこから、「飾り」を増やしていきながら、理想の空間を創り上げていくわけです。つまり、家の「ピーク」は、そうして手を入れてきた「今」やその先にあるのです。

ところが、大半の日本人にとって、家の「ピーク」は、最初にあります。新築、新品の時が一番良くて、あとは家も家具も劣化し、価値が下がっていくだけという考え方です。だから、家には余計な手を入れたくない。劣化した家具を買い替えるときも、「空間をつくっていく」という意識よりも、単純に古くなったソファAを新しいソファBに替えようとする。だから、家具にいくらこだわっても、空間自体の価値という意味では最初のピークよりも上回ることがないのです。

■「点→点」売り方にも問題があった

これまで、日本人の家が垢抜けないその理由を、文化的背景からお話してきました。でも実は、それだけではありません。垢抜けない原因は、家具を売る側にもあると思っています。

みなさんはこれまで、家具を買うときにどのような接客を受けてこられたでしょうか。イメージしていただくために、1つの例をご紹介しましょう。

あなたは、今のソファが古くなったので、新しいソファを購入するため、お店に訪れました。入店すると、まず店員が声をかけに来ます。「何をお探しですか?」からはじまり、サイズやデザイン、予算の希望などを質問してきます。それを基に、候補をいくつか挙げて、その特徴やこだわりについて、詳しく説明してくれます。例えば、座り心地の秘訣が羽毛にあることや、肌触りが良く丈夫なのは、革のなめし方にこだわりがある、といったようなことです。

さて、この販売の何が問題なのか、お気づきでしょうか。ずばりこれは、「ソファ」そのものに焦点を当てた、「点」の売り方なのです。つまり、住まいの空間や、そこでの調和を意識することなく商品を提案しているということです。

リビングルームのインテリア
写真提供=リビングハウス

家具メーカーでは、いまもこうした売り方が主流だと思います。「問題」とは言いましたが、実はそれがダメなわけではありません。商品自体を知り尽くし、そのよさをきちんと伝えるということは確かに大切です。ただ、ぼくが言いたいのは、そういうやり方では、家具を買ったその先にある、「空間」の価値を高めることには必ずしもつながらないということです。

■求められているのは“モノ”を売ることではない

配送員からはじまったぼくの家具屋人生ですが、前述のような問題意識の下、2011年、父から家業を引継ぎ、「リビングハウス」の3代目の社長に就任しました。

これまでお話ししてきたように、残念ながら、日本人の多くは「家を飾る」、「住みこなす」感覚に乏しいと言わざるを得ません。そもそもおしゃれな家に住んだ経験がないし、どうすればより良い空間をつくれるのか、その知識もない。

そういう中で、売り手に求められているものは何なのでしょうか。それは、「家具」という「モノ」を売ることではなく、モノを通して、その先にある住まい空間の価値を高める提案ができることです。

どういうことなのか。ぼくたちが日々どのようにお客様と向き合っているのか、その例をご紹介したいと思います。

たとえば、椅子を買いたいというお客様が来店されたとします。「しみがついたから買い替えたい」のだそうです。「せっかくだから、前よりもすてきな椅子がほしい」と。

一般的な家具屋であれば、お客様が求めている椅子をご提案して、それで終わりかもしれない。これは椅子Aから、椅子Bに変える、いわば、「点」としての家具の提案です。でも、ぼくたちの目指しているものはそうではありません。

北村 甲介氏
撮影=小倉和徳

■リビングハウスが目指しているもの

さらに質問を重ねます。「椅子を使って何をするのか」「どんな空間に置くつもりなのか」、ヒアリングを重ねていくと、次第に椅子の先に思い描いている“くらし”が見えてきます。たとえば、「1日のなかで、唯一家族と一緒に過ごせる夕食を、楽しく囲んでいる」というような情景です。

どうすればその時間や空間を、より特別なものにできるのか。これをご提案するのがぼくたちの仕事です。

北村甲介『「かなぁ?」から始まる未来 家具屋3代目社長のマインドセット』(幻冬舎)
北村甲介『「かなぁ?」から始まる未来 家具屋3代目社長のマインドセット』(幻冬舎)

ヒアリングの結果、いまのダイニングスペースは、白壁、白色光の殺風景な状態だということが分かりました。そうであれば、椅子という「点」にどれだけこだわっても、それほど効果はないでしょう。それよりも、照明を暖かい色のものに変えたり、絵画を壁にかけたりする方が、お客様の理想の空間に、より近づくことができるかもしれません。

お客様が本当に求めているものは「前よりもすてきな椅子」ではなかったわけです。極端なことを言えば、机を買いに来られたお客様に、「机じゃなくて絵を買った方が良いんじゃないですか」なんていうこともあるのです。一人ひとりのお客様から、言外の隠れたニーズをいかに汲み取り、解決策をご提案できるか。これが、売り手に求められていることだと思います。

■インテリア文化後進国だからこそ伸びしろがある

たいへんありがたいことに、社長に就任した2011年から10年余りで業績は大きく伸び、事業は拡大しています。店舗数は4倍(7→31店)、売り上げは3倍(約14億→約42億円)、社員数は5倍近く(49→228人)となっています。

世の中にはぼくたちよりも立派な会社がたくさんあります。でも、「こういうふうになりたい」と思えるロールモデルは正直、なかった。それは他社が劣っているということではなくて、目指しているものが違ったからだと思います。

残念ながら日本は、「空間を心地よくする」という意識においては、後進国です。でも、だからこそ、伸びしろは大きい。ぼくたちは家具を売っていますが、実は自分たちを「家具屋」だとは思っていません。「日本を空間時間価値の先進国にする」そんな思いでこれからも走り続けたいと思います。

リビングハウスの北村甲介社長
撮影=小倉和徳

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北村 甲介(きたむら・こうすけ)
リビングハウス代表取締役社長
1977年大阪市生まれ。慶應義塾大学商学部を卒業後、ベンチャー企業に就職。その後、デンマーク家具会社の日本法人で家具配送・組み立ての修行を積み、26歳で父が経営するリビングハウスへ入社。2011年に33歳で代表取締役社長となる。著書に『「かなぁ?」から始まる未来 家具屋3代目社長のマインドセット』(幻冬舎)がある。

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(リビングハウス代表取締役社長 北村 甲介 構成=プレジデントオンライン編集部 廣瀬奈美)

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