「問題:人口を10年後に1.2倍にする方法を述べよ」頭のいい人の納得の発想・思考法
プレジデントオンライン / 2022年8月25日 11時15分
※本稿は、佐々木裕子『実践型クリティカルシンキング 特装版』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。
■日本の人口を10年後に1.2倍にするには?
日本の人口を10年後に今の1.2倍にするには、日本政府はどうしたらいいでしょうか? 打ち手の仮説を考えてみてください。
まず、ちょっとだけブレスト(ブレインストーミング)です。打ち手の仮説を可能な限り考えてみてください。はい、どなたからでも、言ってください。だいたい7個くらいは出ますので。
※ブレインストーミング:発想法のひとつ。複数の人で集まって、アイデアを自由に出し合う。質より量で、とにかくたくさんアイデアを出す、人の意見を批判しないなどのルールがある。
――移民。
――児童手当の拡充。
――独身税をとる。
――子どもが生まれた世帯の税金を控除する。
――医療のさらなる向上。
――自殺対策。
はい。ほかには?
――ベビーブームを引き起こすようなロールモデルをつくる。
――植民地をつくる。
――保育所の充実。
――教育費用の無料化。
ほかにはどうですか?
――国民の所得を上げる。
――外資系企業の誘致をもっと進める。
――フランスみたいに婚外子を認めて支援する。
こんなものですか? だいたい出尽くしました? ほかでセミナーをやると、「クローンをつくる」とか、「人口の定義を変える」とか(笑)。「それって犬とかを人口に数えるっていうことですか?」なんていうのも出てきます。自由な発想がぐっと広がるとおもしろいものですよね。
■アイデアを構造化する
では、今出た打ち手を構造化してみます。ズームアウトですね。
まず独身税、児童手当、子どもがいる世帯の税控除、保育所、教育、税収、婚外子、これ何にまとめられますか?
——少子化対策。
その通り。少子化対策ってどういうことかというと、子どもを増やす。出生率を上げるっていうことですね。
じゃ、自殺対策、医療の向上、こっちは?
——死ぬのを減らす。
そう。「出生率を上げる」「死亡率を下げる」MECEですね。足し算ですね(笑)。
あと、「移民」がありますね。これは、外から連れてくることだから、3つめの選択肢ですね。これで、なんとなくMECEですね。「植民地」はどうでしょう? 「植民地」をこの構造に入れようと思うと、「領土を拡大する」という選択肢ができますね、じゃ、今までの案は、「領土そのまま」というくくり方をする。どれもMECEですね。
構造化してみましょう。構造化して見てみると、ああ、そうだねと納得する。あ、じゃあ「移民」には「受け入れを加速させる」と「行くのを減らす」という打ち手もあるなとか、見えてくる。見えなかったものが見えてくる。構造化すると、今まで思いもつかなかった選択肢に気づくというメリットがあります。
■打ち手を絞る
はい、案がたくさん出ました、構造化できました。次は、絞らなくてはなりませんね。じゃ、みなさんのおすすめの案を教えてください。「出生率を上げる」「死亡率を下げる」「移民を増やす」「植民地をつくる」で、手を挙げてください。
……「出生率を上げる」がいちばん多い。「出生率を上げる」8割、「死亡率を減らす」が1割、「移民を増やす」1割という感じ。「植民地」は、いない。
まず生まれるのを増やしたい人。なぜですか? なぜそれがおすすめ?
——若い人を増やしたほうが人口ピラミッドも正常になるから。
正常になるから。たしかにそうですよね。わかります。死ぬのを減らしたい方? なぜですか?
——たとえば自殺なんですけれども、自殺することで、その分の人数も減りますが、残った家族のダメージが大きくて、快適な生産がすごく減ると思うので。
では、移民をおすすめする方。なぜですか?
——確実性があるかなって。少子化対策はすぐ効果があるかわからない。増えないかもしれないじゃないですか。治安の維持とか、日本人を増やすとかの条件がなければ、いちばん達成に近いのかと。
なるほど。わかります。では、もう一度考えてみてください。命題は、「日本の人口を10年後に1.2倍にする」ということです。今日学んだことを思い出してみましょう。
——何のために増やすのか?
はい、その通り。命題に戻る。「なぜ?」ですね。なぜ人口を増やすのか? なんで10年後に1.2倍にしたいのか? 情報は少ないですが、想像できますか?
——日本を活性化させたい。
——少子高齢化による年金負担とか医療費の問題を解決する。働く若者を増やして人口ピラミッドのバランスをとるため。
なるほど。じゃあ、ここでいう「人口」は、単なる人口ではなく「労働人口」であるということでしょうか?
——はい。
じゃあ、そうだったとします。労働人口だと。さっきの日本の活性化も考えたら、確実に消える打ち手は何ですか?
——死ぬのを減らす。
はい。これ逆ですね。年金問題や医療費問題の解決にはならないですから。ほかには?
——「出生率を上げる」。出生率を上げても、10年後には労働者になれない。
そうなんです。間に合わない。
ですから、もし「10年後までに(労働)人口を1.2倍に増やす」が、ほんとうに正しい目標設定で意義があるんだとしたら、この短期間でできるのは「移民受け入れ」しかないということになります。数千万人規模でできますからね。相当たいへんなので現実的にどうかという問題はあるにしても、論理的にはこれしかないということになります。
こういう打ち手の仮説を考えるときには2つのポイントがあります。
■打ち手を考えるポイント①「ほかに選択肢はないか?」と何度も問う
先ほどの演習でも、「ほかには? ほかには?」と言ったらけっこう出る。なので、最初はズームインしすぎず、「ほかにはないのか?」とズームアウトする。最初「少子化対策」が出たらそっちにずっといっちゃうんじゃなくて、「ほかにはないのかな。ほかにはほんとにないのかな」というふうに考え続ける。すると、新しい枝を思いつくんですね。
すぐ思いつくものを深掘りする前に、どんどん広げていくと、「植民地」とか「クローン」なんて案が出てくるわけです。現実的ではないかもしれないですけど、発想が少し増えてくる。
■打ち手を考えるポイント②目標設定と照らし合わせながら絞る
もう1つ、いちばん大事なポイント。命題、すなわちいちばん最初の目標設定と照らし合わせながら、行ったり来たりしながら絞り込む。
これをやるだけで、情報収集を一切しないで、選択肢が消えます。難しい問題で、時間も限られてて、情報も大量にありすぎる。だからそれができるとスピーディな判断ができ、効率にもつながります。
さらに、さっきのように目標設定があいまいだと、自分でクリアに設定し直すことも必要だ、ということはずっとやってきましたね。
目標設定と解決策が論理的に矛盾する。そりゃダメでしょ、と思いますが、実はこれ、普通にやってて気がつかないことってけっこうあるんですよ。さっきみたいに、なんとなく印象で「出生率を上げる」を選んでしまう。
なので、目標設定をクリアにすることがすごく大事。
今回は「人口」としか書いていないから、いろいろな案が出てくる。これが最初から「日本の労働人口を増やすには」と定義されていたら、たぶんみなさんから「死亡率を減らす」とかの仮説は出てこなかったんですね。もっと移民のほうを深掘りしていたでしょうし、「リタイアする年齢を後ろ倒しさせる=高齢者雇用を増やす」とか、「もっと若いうちからビジネスをさせる=若年雇用や起業促進」などが出てきたはずなのです。
改めて、目指すものを正確に定義することの重要性について感じていただけたらと思います。
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チェンジウェ―ブ代表
東京大学法学部卒業後、日本銀行を経て、マッキンゼーアンドカンパニー入社。シカゴオフィス勤務の後、同社アソシエイトパートナー。8年強の間、金融、小売、通信、公的機関など数多くの企業の経営変革プロジェクトに従事。マッキンゼーを退職後、企業の「変革」デザイナーとしての活動を開始。ChangeWAVEを創立し、変革実現のサポートや多様性推進、経営人材育成に携わる。自身の両親の介護の始まりとともに、超高齢社会の課題解決を目指すエイジテックベンチャー、株式会社リクシスも創業。複数大手企業の社外取締役やダイバーシティ委員にも就任するなど、変革屋としての活動の幅を広げている。愛知県出身。著書に『21世紀を生き抜く3+1の力』『数字で考える力』(以上、ディスカヴァー)がある。
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(チェンジウェ―ブ代表 佐々木 裕子)
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