「とりあえずググる」は逆効果になる…アイデアに詰まったとき、絶対やってはいけないNG行動
プレジデントオンライン / 2022年8月26日 12時15分
※本稿は、小竹海広『言葉のアップデート術』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
■ディスカッションに勝っても「論破」に生産性はない
「論破」するにはコツがあります。
自信満々の態度で、相手の欠点を探し、矛盾を見つけ、定義を求め、イエスorノーの質問を繰り返し、不利になれば話をすり替え、人格攻撃をするといったテクニックを駆使すれば、「論破」した空気を作ることができます。
しかし実際には、次第に相手がうんざりして会話をあきらめているだけのケースも多々あります。論破から生まれるものは何でしょうか。
例えば『ドラゴンボール』と『アベンジャーズ』について、どちらのほうが面白いかを完璧なロジックで説明できるαさんがいたとします。一方、過去の名作たちの良い点も悪い点も知りながら、新しい作品の「アイデア」を考えられるβさんもいます。
ちなみにβさんはαさんを論破できません。このとき、生産性が高いのはαさんでしょうか。βさんでしょうか。答えは明らかにβさんのはずです。
言いかえれば、「プランAか」「プランBか」のディスカッションに勝つ能力ではなく、両方を乗り越える「プランC」のアイデアを出す能力のほうが重宝されるということです。
■「アイデアを発想する方法論」は学校で習わない
いいアイデアが出ないとき、場の空気が悪くなるケースは少なくありません。そんなときに必要なのは、論破ではなく、突破できるアイデアです。
会議室だけでなく、普段の生活やインターネット空間も同様です。その結果、批判の応酬になり不毛なディスカッションで消耗してしまうのです。
本稿では、アイデアを思いつく方法論を紹介します。
アイディエーションとは、その名から連想できるように「アイデアを発想すること」ですが、教育現場で体系的に習うような機会はそう多くありません。
アイディエーションに関する本は多く、流派も色々とあり、本稿で語り尽くすことは到底できませんが、「これだけは絶対に重要」と確信する方法論を厳選してみました。
それでは一つひとつ見ていきましょう。
■珪藻土を使った新しい製品を考えてみよう
① 「アイデアは既存の要素の組み合わせ」→「アイデアは目的と手段の組み合わせ」
世界最初の広告代理店トンプソン社で、副社長を務めたジェームス・W・ヤング氏のベストセラー『アイデアのつくり方』には、「アイデアとは既存の要素の組み合わせである」という有名な一節があります。
このフレーズだけが一人歩きしてしまっていますが、何でもかんでも組み合わせればアイデアになるわけでは、もちろんありません。
例えば珪藻土とプロペラを組み合わせても、どんな製品なのかイメージできません。これは珪藻土という「手段」と、プロペラという「手段」を組み合わせているので、何のためか、何を目的にしたアイデアなのかが分からないからです。
では珪藻土という手段に、「水分を吸い取り滑らないようにする」という「目的」を組み合わせてみたらどうでしょうか。
滑ると困るものを思い浮かべてみてください。まず床ですね。珪藻土を床に敷いたら、と考えてみると、珪藻土を使用したバスマットが思い浮かびますが、すでに製品化されているので、新しいアイデアとは呼べません。
ほかにも足ではなく、手の滑りというテーマだったらどうでしょう?「あっ! 珪藻土で手汗を吸う、滑らないペンとかどうだろう」というアイデアが浮かびます。手汗に悩む人にとっては、画期的な筆記用具のアイデアになるかもしれません。
あるいは物理的な滑りではなく、比喩的な滑りだったら? 「珪藻土お守り」は滑りにくいから、受験生の願掛けグッズとしてアリかもしれませんね。
目的と手段を組み合わせる思考の流れを、ほんの一例として紹介してみました。このように手段(珪藻土)と目的(手が滑らない)の組み合わせを意識すれば、アイデアは生み出しやすくなります。
任天堂の「ゲームボーイ」や「ゲーム&ウオッチ」の開発者として知られる横井軍平さんは、「枯れた技術の水平思考」という言葉を提唱しています。最新技術でなくても、別の用途へと目的をずらせば、新しいアイデアが浮かぶということです。
② 「とりあえずググる」→「とりあえずアイデアを書き出す」
アイデアを考える前にグーグル検索をしてしまうと、王道の考え方にイメージが引っ張られてしまいます。プロジェクトの概要を理解したら、まずはテーマに関する5W1Hを整理して、そこから純粋にアイデアを書き出してみましょう。
先入観のないイマジネーションを大切にしたほうが、ユニークなアイデアが浮かびやすくなりますし検索するのはアイデアがある程度固まってからにしましょう。
■優秀なアイデアマンはいい案の「感想戦」を行う
③ 「珠玉の1案を考える」→「玉石混交でいいから100案考える」
斬新なアイデアは演繹的には生まれません。ふとした瞬間に偶発的に生まれます。いいアイデアを出そうとして考えた1〜3案目は、だいたい他人と被るので捨ててしまうのも一つの手です。
サイコロでゾロ目を出すつもりで、まずはテキトーに、100個アイデアを振り出してみる。切り口を変え、考える場所を変え、なんとか100個出そうとする。
あきらめず100案くらい出してみて、砂金を探すように、1案ずつふるいにかけてみましょう。玉石混交の中に、キラリと光るアイデアがあるはずです。
④ 「いいアイデアが出て嬉しい」→「発想の瞬間をスローモーションで振り返る」
いいアイデアが出たら一安心。おめでとうございます。これで明日の会議を乗りきれます。しかし、その瞬間にこそ、セカンドチャンスがあるのです。いいアイデアが出せた直後は、自分だけの発想の切り口を脳に定着できるチャンスだからです。
いいアイデアが出る直前の思考や切り口を、スローモーションで思い出してみましょう。将棋で言うところの、感想戦です。
「トレンドをヒントにした」「ユーザーを勇気づけようとした」「パロディのネタを見つけた」「あるあるを何個も見つけた」「ギャップのある言葉を組み合わせた」など、発想の直前を振り返り、リスト化しておくのです。
そうすれば次回以降のプロジェクトでは、アイデアの切り口を転用して、効率よくアイデアを探ることができます。優秀なプランナーは、このトレーニングを隠れてやっています。
⑤ 「アイデアが尽きた」→「スティミュラスを活用して、眠った記憶を刺激する」
アイディエーションの後半になるほど、発想が尽きてきます。そんなときはスティミュラスを活用しましょう。スティミュラスとは「記憶の刺激になる情報」です。
多くのアイデアは、自分の記憶から意外な情報をひっぱり出すことによって生まれます。例えば「スマートフォン」は、「電話」を知らない人には思いつけません。ポストイットも「弱い接着剤」と「本のしおり」を組み合わせたアイデアです。
そのため、自分の眠っている記憶を刺激することで思わぬ発想を引き出そうと試みるのには、試す価値があります。
私のおすすめする三大スティミュラスは、「ツイッターのいいね欄」「カメラロール」「パソコンのゴミ箱」です。どれも自分がすでに知っているけど、忘れている情報をランダムに一覧できるフォーマットだからです。
これらの情報を大量に眺めることで、眠っている記憶がアイデアに昇華することがあります。これを認知科学用語で「プライミング効果」と呼びます。
ここで注意したいのは、新しい情報をスティミュラスにしてしまうことです。
新しいWEBニュースや、はじめて観る映画などは新鮮な情報ですが、「理解する」という脳のコストがかかるため、アイディエーションには不向きです。
アイデアに煮詰まったときに使うスティミュラスは、必ず既知の情報にしましょう。
■最初からすべての条件をクリアしようとしない
⑥ 「とりあえず企画会議を始める」→「個別で考えたアイデアを持ち寄る」
「さあ、みんなで新しいプロジェクトを始めよう!」となったときに、とりあえず人が集まるだけでは非効率的です。先述したような発想法で、個人が個別でアイデアを考えてから、案を持ち寄る会議にしましょう。
なお企画会議は、ブレストの大原則「①批判をしない②質より量③奇抜さを重視④便乗する」の4つが大切です。
⑦ 「参考事例を流し読みする」→「参考事例は類型化する」
日々の鍛錬として、参考事例を研究する機会もあると思います。でも、そのときに何となく事例を眺めるだけではもったいないです。似ている事例はカテゴライズしていきましょう。
ヒットしている商品や映像には、必ず共通点があります。
その際に「よく作り込まれている」「インサイトを突いている」といった、抽象的な要素でカテゴライズするのでは後から使える発想の切り口にはなりません。
例えば、「モーメントを捉えている」「対立構造で議論を呼んでいる」などといった、抽象度と具体度のバランスのいい要素を抽出していくのがポイントです。
⑧ 「すべての制約条件を突破しようとする」→「まずは1つの条件の解決に絞る」
どのプロジェクトにも、予算、ターゲット、商品特徴、競合商品、社会的背景、トレンドなど、さまざまな所与の条件があります。そのすべてを満遍なく解決しようとすると、発想ががんじがらめになり面白いアイデアが出なくなります。
そこで、まずは解決すべき課題や、伝えるべきメッセージを1つだけ決め、それを解決できるアイデアを探りましょう。基本となるアイデアのベースが決まった後から、他の条件を追加して整えていけば小さくまとまるのを防げます。
まずは1つの目的の達成を目指して、後からその他の条件をクリアするという順番で考えると、商品の新規性を担保しやすくなります。
■アイディエーションを一夜漬けでやるのは無謀
⑨ 「アイデアは一夜漬けで考える」→「アイデアは90分単位で断続的に考える」
人間の集中力は90分程度しか持たないと言われています。
大学の授業時間は90分が基本です。いくら面白い映画でも、180分あると集中が途切れる瞬間があるでしょう。
このように見ていくと、脳への負荷が高いアイディエーションを一夜漬けでやるのは非効率的です。考える時間は、なるべく分散させるようにしましょう。
私の場合、個人でアイディエーションする時間は、「午前中に90分+午後に90分+翌日に90分」を1セットとしています。時間を空けると集中力が続きますし、アイデアの良し悪しやダブりなども、冷静に判断できるのでおすすめです。
■「何が正しい」より「何が面白いか」のほうが楽しい
以上、アイディエーションの基本的な方法論について紹介しました。発想法について書きたかったのは、会議室や日常生活においてアイデアさえ決まれば、場の空気が安定する場面は少なくないからです。
「ディスカッションで、どちらが勝つか」というゼロサムゲームから抜け出し、「アイディエーションで、どんなアイデアが出せるか」という発想のゲームをしたほうが、幸せの総量は大きくなるのです。
会議室でも、SNSでも、「誰が正しいか」「何が間違っているか」に話が終始してしまうのはもったいないことです。
もっとみんなが自由に発言しあい、「どんなアイデアが面白い(interesting)か」「どうすればアイデアを実現できるか」を話しあったほうが、何より楽しいはずです。
パーソナルコンピュータの父とも言われるアラン・ケイ氏は、「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」という言葉を残しています。
どういう未来を描くべきかとディスカッションしたり、誰が一番正しいのかというマウンティングで消耗したりするだけでは、未来を発明できません。
アイディエーションをして、自分の手を動かし続け、時には失敗し、でも立ち直り、また開発する。そんな泥臭いプロセスを繰り返すことで、地道に未来を発明していければ、きっと明るい未来を切り拓いていけると、私は心の底から信じています。
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クリエイティブディレクター/コピーライター
1990年生まれ。東京大学工学系研究科建築学専攻を修了後、TBWA HAKUHODOなど外資系広告代理店を経て、現在は都内の広告代理店でクリエイティブディレクターを務める。過去に担当した仕事は、パリ・サン=ジェルマン・ジャパンツアー2022「全員、超人。」、ゼンショー×シンエヴァンゲリオン「外食5チェーン共同作戦」、TBSラヴィット「日本でいちばん明るい朝番組」、TikTok「#キャラ変チャレンジ」、岡崎体育÷JINRO「今宵よい酔い」、日本マクドナルド「いちばん長いポテトが、いちばん偉いわけではありません」などがある。日本キャラクター大賞2022プロモーション・ライセンシー賞、ガジェット通信2021年上半期 ネット流行語大賞ノミネート。YOUNG SPIKES ASIA 2020日本代表・本戦特別賞。YouTube Ads Leaderboard 2019上半期ベスト、釜山国際広告祭 NEW STARS 2018銅賞。CLIO2018銅賞など国内外・広告業界内外からの受賞多数。著書に『言葉のアップデート術』(クロスメディア・パブリッシング)がある。
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(クリエイティブディレクター/コピーライター 小竹 海広)
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