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ずっと子供部屋にいるのはオジサンだけではない…「実家暮らしの男性」をバカにする風潮の罪深さ

プレジデントオンライン / 2022年8月23日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/monzenmachi

■独身人口は若者より中高年のほうが多い

未婚化や独身の増加の問題というと、つい若者の問題であると条件反射的に考えてしまいますが、実は、もう若者(30代以下)の未婚と離別死別を含む独身人口と40歳以上の中高年独身人口とを比べると、中高年独身人口のほうが上回っています。

2020年の国勢調査(不詳補完値)によれば、15~39歳の若者独身人口約2230万人に対して、40歳以上の中高年独身人口は約2700万人です。日本はもはや中高年独身国家なのです。

晩婚化とはいえ、40歳以上で結婚する数はそう多くはありません。再婚はともかく初婚となるともっと難しいものになります。40歳以上の独身人口が増えるのは「3組に1組」といわれる離婚の多さと、長寿化に伴う配偶者と死別した高齢で独身に戻った女性の増加によります。ただでさえ少子化で若者人口は減り続けています。つまり、これらを総合的に考えれば、今後も中高年独身が若者独身を下回ることは当分ありえないことになります。

「若者のデート経験なし4割」などが大きな話題となった令和4年度の内閣府白書ですが、若者のデートの心配をするより、この中高年独身激増の部分にも目を向けていくべきでしょう。

■「子ども部屋おじさん」という言葉も登場したが…

2020年の国勢調査不詳補完値での生涯未婚率(50歳時未婚率)は、男性28.3%、女性17.8%と1920年以降での過去最高記録となりました。ざっくり3人に1人の男性と6人に1人の女性が生涯未婚です。

そして、この生涯未婚率というのはそもそも50歳の未婚率であり、若者の未婚率ではありません。2020年40~59歳の未婚人口は男性約500万人、女性約360万人で、皆婚時代が終焉(しゅうえん)した1990年と比較すると男性は約4倍、女性も3.6倍です。

日本のこの中高年未婚の増加をかつてのパラサイトシングル(社会人になってからも親元で生活し、経済的にも精神的にもいつまでも自立せず、家事など生活全般を両親に依存している未婚者)の中高年化、つまり、パラサイト・ミドル化であると指摘する人もいます。さらにそうした状況を「子ども部屋おじさん」という言葉で揶揄する人もいます。

■親元で暮らす未婚者の割合は男女で変わらない

「子ども部屋おじさん」とはもともと某匿名掲示板の中で蔑称として使われた言葉であり、2014年が初出と言われています。そんな「子ども部屋おじさん」こそが現在の少子化の元凶であるかのごとき論評が2019年に公開された際には、ツイッターでトレンド入りするほど炎上しました。

未婚人口は男性だけが増えているわけではないし、中年になっても親元に住み続ける未婚は男性だけでもない。にもかかわらず「中年男性を叩けば話題になる、PVが稼げる」という安易さで適当な論評を出しているのだとしたら、そっちのほうが問題でしょう。

「子ども部屋おじさん」などという言葉をわざわざ使わずとも「親元未婚」で意味は十分通じます。

加えて事実も確認しておきましょう。国勢調査を基に親元で暮らす40代以降の中高年未婚者の割合をみると、2015年も2020年も驚くほど男女一致しています。全年代でも6割強の未婚者は親と同居です。むしろ2000年と比べても、40~50代の親元未婚率はさほど上昇しているとはいえません。男女での違いもありません。使う必要はないが、あえて使うとすれば「子ども部屋おじさん」と「子ども部屋おばさん」と言わねばならないでしょう。

■「子ども部屋おじさん」の本当の問題点

もちろん、未婚者の絶対数は増えているので、中高年の親元未婚者数は増えているでしょう。しかし、母数が増えても親元に住み続ける割合は変わっていない。そもそも論を言えば、昭和の時代だって未婚はたいてい親元に住んでいました。結婚するまでは親元住まいで、親元から独立するきっかけが結婚だったわけです。

そう考えれば、親元未婚の絶対数が増えたから、未婚が進み、それが少子化の元凶だなんて因果にはならず、逆に中高年の未婚化が進んだがゆえに、結果として親元未婚が増えたと考えるほうが妥当ではないでしょうか。

【図表】男女年齢別親元未婚率推移

炎上したのはネット記事だけではなく、これを扱ったテレビのワイドショーも同様に炎上しました。しかし、その理由は、単に言葉の使い方だけの問題ではなく、「子ども部屋おじさん」の実例の紹介の仕方にあります。なぜか判で押したように「ゲームや漫画本、アニメのDVDに囲まれて、雑然とした部屋に万年床で身だしなみにも気を使っていない」ような“いかにも”なキャラクターだけを紹介したからです。

■「親元未婚は経済的に自立していない」は本当か?

実際、そういう親元未婚男性もいるかもしれません。しかし、そうした生活を送っている単身未婚もいるでしょう。「子ども部屋おじさんとはこういうものだろう?」という決めつけと偏見に基づいて、それに沿った人をわざわざ見つけてきたのでしょうか。「中年になってまで親元に住み続けるような未婚男性は、経済的にも自立していない(金がない)がゆえに、恋愛も結婚もできない人たち」と演出したいのでしょうか。

そもそも親元未婚は経済的に自立していないと決めつけられるのでしょうか?

公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構が2020年資料から、40~50代だけを抽出して男女別に親元未婚と単身未婚との年収分布を比較したものが以下になります。男性は100万円未満の割合が多く、1000万円以上が低いですが、とはいえそれほど全体的に大きな違いがあるわけではありません。むしろ、女性の親元未婚のほうが低年収層に偏っています。

つまり、親元未婚の男性といっても、大部分は就労しているし、単身未婚より多少年収が低い分は、親元に住むことによって住居費や光熱費を節約しているという「賢い生き方」をしているともいえるでしょう。

【図表】単身/親元未婚男女 年収別分布

■実家暮らし無職の理由1位は「病気・けが・障害」

もちろん、中には働きもせず、それこそ親に依存している親元未婚もいるかもしれません。しかし、それは別に昭和の時代でも存在していたし、働いていない親元未婚がすべて「なまけ」や「甘え」による無職であるとも限りません。病気やけがで働きたくても働けないのかもしれないわけです。

また、若年層と違って40代以降ともなれば、70歳を超える親がいます。中には親の介護のために、一人暮らしから親元に復帰した親元未婚者もいるはずですし、その割合も増えています。

キッチンで洗いものをする男性の手元
写真=iStock.com/monzenmachi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/monzenmachi

そうした場合、最悪介護離職を余儀なくされた人もいます。仮に中高年親元未婚の年収が低いという現象があったとしても、それは介護離職したことに起因する場合もあり得るのです。

ちなみに前掲した年金シニアプラン総合研究機構の2020年調査によれば、親元未婚が無職となった理由の1位は男女とも「病気・けが・障害のため」で男性49.6%、女性44.1%であり、親元未婚となった理由に「親の介護のため」と回答した割合は男性10.9%、女性10.4%です。

■男女差も年代差も、ましてや趣味の差もない

個々人の事情はさまざまです。未婚である理由も、誰もが「結婚したいのにできない」という不本意未婚者ばかりではありません。「結婚する意志のない・結婚する必要性を感じない」選択的非婚の人たちも大勢存在します。

未婚化の要因に、経済的要件があることは否定しません。特に男性の場合は、働いているにもかかわらず「金がないから結婚できない」と愚痴を言いたくなるような給料の人たちもいるでしょう。残念ながら、男性の場合、結婚相手の条件として「経済力」は足切りとして使われてしまうものでもあり、事実、生涯未婚率は年収が低ければ低いほど高くなります。

しかし、それは親元であろうと一人暮らしであろうと変わらない。どんな趣味を楽しんでいるかはもっと関係ない。事実に基づけば、親元未婚率は男女の差も年代の差もないし、親元未婚が経済的自立をしていないと断じることもできない。確たるエビデンスのない推測を思い込みで結論づけるべきではありません。

■これはいじめと何が違うのか

あまつさえ「いい歳をして未婚で、親元に住み続けているような男はきっとこういう趣味を持つのだろう」というイメージを作り上げて、「ほら、イメージ通りでしょ? こういう人たちだから自己責任なんです。どうぞ叩いても構わないですよ。しかもおじさんだし」といわんばかりの記事や番組には疑問が湧きます。炎上するのも当然です。

親元に住もうと住むまいと、未婚だろうと結婚していようと、若者だろうと中年だろうと、ましてやどんな趣味を持っていようと、それをもって叩いていい人などいません。誰かをいけにえにして留飲を下げるような行動は、それこそいじめと何が違うのでしょう。

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荒川 和久(あらかわ・かずひさ)
コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会―「独身大国・日本」の衝撃』(PHP新書)、『結婚しない男たち―増え続ける未婚男性「ソロ男」のリアル』(ディスカヴァー携書)など。韓国、台湾などでも翻訳本が出版されている。新著に荒川和久・中野信子『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。

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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)

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