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「"軽症"でも入院が必要な子が増えている」現役小児科医が警鐘…子供の感染を急増させた「BA.5」の実態

プレジデントオンライン / 2022年8月23日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tomwang112

オミクロンBA.5は子供の感染者を増やし、全国のさまざまな地域の小児科の発熱外来が大混雑している。子供を守るために、今、親が知っておくべきことは何か。小児科医の森戸やすみさんに聞いた――。(聞き手・構成=大西まお)

■今、小児科外来が混雑している理由

――小児科の外来が大変混雑していると聞きます。森戸先生のクリニックは、今どんな状況でしょうか?

毎日、これまでにないほど混雑しています。朝の30分で、その日の発熱外来の予約枠が埋まってしまうほど。全国的にも大小たくさんの医療機関の小児科が同じ状況だと思います。これは「新型コロナウイルス感染症」の子供が増えているだけでなく、その他の感染症も流行しているためです。高熱と咳が続く「ヒトメタニューモウイルス」、同じく熱と咳が出る「RSウイルス」、熱と発疹が出る「手足口病」も多く、どれも最初に熱だけが出ると新型コロナと見分けがつきづらく、鑑別に手間がかかります。

――昨年の夏も、本来は冬にはやるはずのRSウイルスが流行しましたが、今年も同じような状況なんですね。

そうですね。ただ、国立感染症研究所のウェブサイトを見ると、RSウイルスの流行は去年ほどではありません(※1)。手足口病も増えてはいますがコロナ禍前よりは少ないし、ヒトメタニューモウイルスは定点観測をする感染症ではないのでわかりません。今、初めて子供の新型コロナウイルス感染者が爆発的に増えたのと同時に、いろいろな感染症の患者さんが同時に発熱外来を訪れるので、大変なことになっているのだろうと思います。これらの感染症のなかで、ワクチンがあるのは新型コロナだけで、罹患(りかん)して大きく行動制限が必要になるのも新型コロナだけなんです。

※1 国立感染症研究所「RSウイルス感染症 定点当たり報告数」

クリニックで通常の診察にのぞむ森戸やすみさん
撮影=大西まお
クリニックで通常の診察にのぞむ森戸やすみさん。 - 撮影=大西まお

――実際に子供の新型コロナウイルス感染症は増えているのでしょうか?

残念ながら、非常に増えています。新型コロナの「オミクロン株亜系統BA.5」が流行しはじめてから、子供の感染者が急増しました(※2)。こうして子供全体の感染者数が増えれば、入院が必要になったり、重症化したりする子供も増えてしまいます。分母が増えるから、分子も増えるんですね。さらには長引いたり、脳症になったり、深刻な後遺症が残ったりするリスクもあることがわかってきました。今年3月以降にすでに累計で21人の子供が亡くなっていて、基礎疾患のない子供もいます。

【図表1】性別・年代別陽性者数(累積)/性別・年代別重症者数
画像=厚生労働省

※2 厚生労働省「データからわかる―新型コロナウイルス感染症情報―」

■「軽症」「中等症」「重症」の基準とは

――重症化というと、どのくらいの症状を表しているのでしょうか?

もともと医療上の定義と一般の定義では、「軽症」「中等症」「重症」の捉え方が大きく違うことが指摘されていました。医療者のいう新型コロナウイルス感染症における「軽症」の定義は、当事者には症状が重く感じられても入院治療が不要な状態です。「中等症」は肺炎などを起こして入院治療が必要な状態、「重症」はECMOや人工呼吸器をつける必要があって死亡する危険性もある状態です。

――だから一般の人が息が苦しくて喉が痛く、ひどくつらいのに「軽症」とされて驚かれているんですね。

そういうことです。今はさらに子供において、医療上の定義と一般の定義がより隔たっているようです。先日、新潟大学医学部小児科学教室のSNSアカウントが「症状がある子供の新型コロナのイメージと実際の比較」という図(図表2)を示し、今流行している「BA.5」の場合は中等症に該当するような肺炎が起こりにくく、入院が必要な子が定義上は軽症になっていることを指摘されていました。その通りだと思います。

【図表2】ある子供の新型コロナのイメージと実際の比較
画像提供=新潟大学医学部小児科学教室(@Niigata_u_ped)

――もともと新型コロナウイルス感染症は軽症でもつらいといわれていますが……。

実際の診療においても、発熱していても元気なのはヒトメタニューモウイルスやRSウイルス、手足口病に感染した子供です。新型コロナウイルスに感染した子供は、高熱が続いていたり、喉が痛かったり、倦怠(けんたい)感がひどかったりして、ぐったりしていることが多いのです。大人でも、実際に感染した人が何も食べられないほど喉が痛くなったりして、驚かれていますよね。軽症ならラクというわけでもありません。「新型コロナは、ただの風邪」と言う人がいますが、全然違います。こんなに多数の人がつらい症状に苦しみ、重症化したり亡くなったり、後遺症が残ったりする風邪はありません。

■新型コロナ感染とワクチン接種率

――新型コロナウイルスに感染している子供たちのワクチン接種率は、どのくらいなのでしょうか?

第7波がきてから新型コロナに感染した子供たちにおけるワクチン接種率がどのくらいなのかは、まだわかっていません。ただ、新型コロナワクチンは子供の場合でも感染や重症化を防ぐという確かなデータはありますから、おそらく感染者における接種率は高くないだろうと思います。そもそも日本では5歳未満は新型コロナワクチンを接種できませんし、またそれ以上でも接種率が低いのが特徴です。うちのクリニックのある台東区の接種率は2割弱くらいで、おそらく近隣の区もそのくらいでしょう。政府の発表によると日本全国では、やはり2割弱、秋田県が45%で、大阪府が7%です。

――森戸先生のクリニックでは、どうでしょうか?

実際、うちのクリニックで新型コロナ陽性となった子供のほとんどはワクチン未接種でした。どうしてわかるのかというと、保健所に新規感染者の届け出をする際に、新型コロナワクチンの接種の有無、いつ受けたかを私が書く必要があるからです。7月の新規感染者は42人、ワクチンを受けているのは1人だけでした。とても少ないですね。「うちの子は一度、新型コロナに感染したからもう打たなくていいかと思っていた」という保護者がいますが、2回目の感染という子も数人います。

通常の外来時間に、熱のある患者さんが入らないよう注意書きのある入り口
撮影=大西まお
通常の外来時間に、熱のある患者さんが入らないよう注意書きのある入り口。 - 撮影=大西まお

■大切な子供を感染から守るためには

――この爆発的な感染のなか、どうしたら子供を守ることができるでしょうか?

まずは、先日「努力義務」になると発表された新型コロナワクチンを接種してください。すでに感染していたとしても、治ったらすぐに接種することをおすすめします。厚生労働省によると、新型コロナウイルス感染症にかかった後の3カ月は感染しづらいとされていますが、すぐに再感染してしまうリスクは否定できません。また次にかかったときに軽症で済む保証はありません。もしも大事なお子さんが重症化したら……きっと接種しておけばよかったと考える方が多いだろうと思います。

――保護者のなかには「新型コロナワクチンの長期的な影響がわかっていないからこわい」「新型コロナワクチンを接種していない子も多いし、様子をみたい」という方もいるようです。

お子さんに何か悪い影響がないか、心配になる気持ちはよくわかります。でも、新型コロナワクチンは既に世界中のたくさんの子供が接種していますし、新型コロナウイルスに感染したほうが短期的にも長期的にも影響が心配です。苦しい思いをするだけでなく、後遺症もあるし、最悪は亡くなるからです。それに小児用の新型コロナワクチンの接種期限は今年の9月30日まで。延長される可能性が高いと思いますが、いずれにせよ早めに打っておいたほうがいいでしょう。

なお、常に慎重な姿勢の日本小児科学会も「健康な小児へのワクチン接種は『意義がある』という表現から、『推奨します』という表現に変更する方針」と明言し(※3)、WHOも「子供から高齢者への感染を減らし、教育現場での感染予防対策を減らすことができる」としています(※4)

※3 日本小児科学会「5~17歳の小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方」
※4 WHO「Interim statement on COVID-19 vaccination for children」

■流行下の旅行や帰省はなるべく慎重に

――そのほかにできることはありますか?

これまでと同様に、不織布のマスクをする、こまめに手洗い・アルコール消毒をする、3密……つまり密閉空間、密集場所、密接場面を避けることですね。これだけ新型コロナが蔓延している時期は、大人数が集まる場所を避ける、こまめに換気をする、なるべく会食をしない、悪いなどと思わずに人とは距離を取る、屋外であっても近寄る場合はマスクをする、仕事はリモートワークにするなどの工夫をしてください。お子さんはもちろん、ご自身、そして周囲の人を守ることにもつながります。

――旅行へ行くかどうか迷う方も多いと思います。どう考えたらいいでしょうか?

個人的には今までにない大きな流行なので不要不急の外出は控えるべきだと思いますが、行動制限をどのようにするかは難しいところですね。少なくとも体調がよくないときは、絶対に旅行へ行かないようにしてください。また、病床利用率の高い都道府県には行かないようにしましょう。もしも新型コロナや他の病気になっても、ケガなどをしても受診や入院ができないためです。

――帰省はどうでしょうか?

帰省は高齢者を感染させるリスクがありますから慎重に。ただ、遠く離れた親にずっと会いにいかないというのも、現実的にはさまざまな事情があるので難しいかもしれません。たとえ帰省しても、親戚や友人と集まっての宴会などはしないようにしましょう。そういう意味でいえば、同居家族だけで混雑しないところへ旅行するほうが、帰省よりはリスクは低いかもしれません。いずれにしても、1回PCR検査や抗原検査で陰性だったとしても、翌日には感染しているかもしれませんし、絶対に安心できる状況というのはありません。ですから、できる限り、各自がしっかり感染対策をすることが大事だと思います。

※この記事は2022年8月13日時点での情報を基に書かれています。

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森戸 やすみ(もりと・やすみ)
小児科専門医
1971年、東京生まれ。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内で開業。医療者と非医療者の架け橋となる記事や本を書いていきたいと思っている。『新装版 小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』など著書多数。

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(小児科専門医 森戸 やすみ 聞き手・構成=大西まお)

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