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だから定年まで会社にしがみつこうとする…日本企業の競争力を下げている「退職金」という奇妙な制度

プレジデントオンライン / 2022年8月23日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

日本では「定年までひとつの会社を勤め上げる」というのは美談になりがちだ。元日本マイクロソフト社長の成毛眞さんは「これからはどんな大企業でも、定年まで大過なく過ごすのは安全でも無難でもない」という。冨山和彦さんとの共著『2025年日本経済再生戦略』(SBクリエイティブ)より一部をお届けする――。(第2回)

■大企業の社員の転職が少ないのは問題である

仕事というものの本当の意味と価値を今こそ問い直せ、という冨山さんのメッセージは、多くの読者に響いたことと思う。

加えて、自分に向いているかどうか、自分が楽しいと思えるかどうかも、やはり職業選択において重要である。しかし、これが自分でわかっているようで、意外とわかっていないものなのだ。

そこで思うのは、大企業の社員の転職が少ないのも問題ではないかということだ。30歳くらいで最初の転職、45歳で2回目の転職と、最低2回の転職をしたほうがいい。なぜなら、業種や仕事に合うか合わないかは、1社で働いただけではわからないからだ。

楽しく働くには、能力よりも、相性や適合性が大切だ。たとえば接客営業に向いていない人が店頭に立つ、事務仕事に向いていない人が間接部門で働く、どちらも同じくらい地獄だ。

実は海運がおもしろそうだと思っていたのに、たまたま新卒で採用されたのがメガバンクだけだった、などのミスマッチも、あちこちで起こっているだろう。

自分に合っていない場所で毎日働かなくてはいけないことほど、苦しいものはない。

自分に合っている場所ならば毎日が楽しく、生産性も上がりやすい。だからこそ、自分に合ったところを求めて、もっと自由にビジネスの世界を回遊していいと思うのだ。

■ダメダメな自分すらも楽しめばいい

もし私が1社しか勤めたことのない会社員だったら、もんじゃ焼き屋でアルバイトをしてみたい。

会社内ではベテランのオジサンが初心者となって、20歳そこそこのバイトリーダーに仕事を教わり、「そうじゃない!」なんて怒られたりしながら接客に立つ。なんと楽しく新鮮な体験になるだろうかと思う。

そう、その気になれば、今は副業でバイトだってできるのだ。新しい環境に行けば、誰だってダメダメな部分が露呈する。そんなダメダメな自分すらも楽しめばいいのだ。

少し極端な例だったかもしれないが、1社にがんじがらめになっているよりは、ずっといい。いろんな環境を知ることで、1社しか知らない人よりは深みのある人間にもなれるはずだ。要するに、人間の幅が広がるのである。

しかし、なかなかどうして日本では転職しづらい。「1社で定年まで勤め上げる」という傾向は薄れているだろうが、優秀な人も大企業に入って20年もすると視野狭窄(きょうさく)の昭和的サラリーマンになる傾向は残っている。

同族企業にいるうちに自分まで一族に加わったかのような「気持ちだけ同族」な会社員も多いだろう。

■退職金に縛られて転職しないのはつまらない

転職してもいいのに転職しにくいのは、退職金制度にも問題があるからだ。

最初の転職タイミングの30歳はともかく、2回目のタイミングである45歳は、ローンで家を買うころだ。その返済に退職金を組み込んだりするものだから、もう会社から逃れられない。あとは定年まで保身に走るしかなくなるのだ。

となると、まず退職金税制を変えることが、人材の流動性を高める政策となるだろう。異様に低い退職金の税率を、通常の給与所得より高い水準に引き上げる。次に、退職金に相当する額を、確定拠出年金資金として毎月会社に支給させる。これは非課税とする。

すると結果的に退職金はなくなるが、毎月の手取り額は確実に増えるし、確定拠出年金資金とすることで金融市場にも資金が供給される。そして、個人の人生にもっとも重要なこととして、「退職金に縛られないから転職しよう」という人が増えるのだ。

そもそも退職金という制度が、昭和の遺物である。戦後間もないころには企業にカネがなく、賃金をまともに支払えなかった。そこで「40年後にまとめて支払うからね」と賃金の後払いを社員に申し出たのが、退職金制度の始まりなのである。

メガバンクやゼネコンといったドメスティック大企業から、すべての若手社員を成長分野や中小企業に引き抜くのもいい。困った大企業は、子会社や下請け企業などから人を採用し始めるであろう。彼らの給料は一気に上がるはずだ。結果的に、国全体として平均給与が上がり始めるだろう。

日本人男性ビジネスマン
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

大企業を叱るだけでは意味がない。彼らは巨大な質量とシステムがもつ慣性で生きているからだ。だからこそ、若手を引き抜いてしまうのである。大企業はロートルばかりになり、必然的に変化せざるを得なくなるだろう。

■「ガラパゴス人材」になってはいけない

日本の会社員の多くは「業」をもたないのではないか、という冨山さんの指摘は実に当たっていると思う。耳の痛い人は少なくないだろう。

真に己(おのれ)の能力で対価を得ることができれば、会社にしがみつかなくても生きていける。

「業」をもたぬがゆえに、帰属している会社組織でしか生きていけないような「ガラパゴス人材」になってはいけない。組織に己を最適化させるという処世術は、もう通用しないのだ。

ひょっとしたら、今いる会社の幹部や直属の上司が、その組織の論理、暗黙のルールをふりかざしている場面に多々遭遇している人も多いかもしれない。

なんのことはない、彼らは、硬直化した組織で定年まで逃げ切るべく「保身」を図っているだけなのだ。彼らのやること、なすことを「ふーん、そういうものか」と唯々諾々と受け入れているうちに、今いる組織のロジックでしか、ものを考えられなくなってしまう。

それこそ「ガラパゴス人材」の始まりだ。

そもそも、なぜ日本企業で出世する人たちの多くが、保身しか頭にない輩と化してしまっているのか。

野心的な人ならば、まず入った企業で実力をつけて成果を積み上げ、たとえば30代くらいで外資にヘッドハントされて年俸1億円くらいで5年ほど働き、その後は好きなことをして暮らしていく――といった人生設計になる。実際、アメリカでは、そういう考え方で仕事人生を切り開いている人は多い。

仮想画面のコンセプト
写真=iStock.com/anyaberkut
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/anyaberkut

ところが日本では、多くの会社員が、そこそこの幹部に出世してもせいぜい年収1200万円くらいで、あくまでも組織にかじりつこうとする。

■自分で生きていく手段をどれだけ用意できるか

冨山さんの言葉を借りれば、己の「業」を培うことなく、いわば、所属する組織のなかでの処世術だけには長けている「プロ会社員」として定年まで居座ろうとする。それはなぜなのか。

前にも述べたとおり、日本には退職金という奇妙な制度がある。

安月給を受け入れる代わりに、40年ほども勤め上げれば、それまで低く抑えられていた分をまとめて払ってもらえる――となれば、なんとしてもその組織で勤め上げようと考えても不思議ではない。

そして定年まで勤め上げるには、その組織に己を最適化するのが一番だ。かくして、判で押したようなガラパゴス人材が量産されてきた。

成毛眞、冨山和彦『2025年日本経済再生戦略』(SBクリエイティブ)
成毛眞、冨山和彦『2025年日本経済再生戦略』(SBクリエイティブ)

もちろん、それが日本の経済成長を支える有効策として機能していた時代はあった。日本人全体が「経済先進国の仲間入り」という同じゴールを目指して、同じようにがんばっていた時代だ。

だが今は違う。経済は縮小し続けており、あと10年もしたら老後の見通しが立たない、なんて人はザラにいるという状況になっているはずだ。零細・中小企業の会社員だけではない。財閥系の大企業に勤めていても、である。

定年まで、とにかく大過なく過ごしたほうが安全だの無難だのと考えているのなら、今すぐ認識を改めたほうがいい。組織にしがみついて保身に走っている場合ではないのだ。

これからの人生の明暗を分けるのは、「どんな企業に勤めているのか」ではない。企業に属することの「恩恵」とされてきた制度に頼ることなく、「自分で生きていく手段をどれだけ用意できるか」なのだ。

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成毛 眞(なるけ・まこと)
HONZ代表
1955年、北海道生まれ。中央大学商学部卒業。自動車部品メーカー、アスキーなどを経て、1986年、日本マイクロソフト入社。1991年、同社代表取締役社長就任。2000年に退社後、投資コンサルティング会社インスパイア設立。2010年、書評サイト「HONZ」を開設、代表を務める。

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冨山 和彦(とやま・かずひこ)
経営共創基盤(IGPI)グループ会長
日本共創プラットフォーム(JPiX)代表取締役社長。1960年生まれ。東京大学法学部卒、在学中に司法試験合格。スタンフォード大学でMBA取得。2003年から4年間、産業再生機構COOとして三井鉱山やカネボウなどの再生に取り組む。機構解散後、2007年に経営共創基盤(IGPI)を設立し代表取締役CEO就任。2020年12月より現職。2020年日本共創プラットフォーム(JPiX)を設立し代表取締役社長就任。パナソニック社外取締役。

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(HONZ代表 成毛 眞、経営共創基盤(IGPI)グループ会長 冨山 和彦)

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