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史上最大級の翼竜は大きすぎて飛べなかった…知れば知るほど切なくなる"よわい恐竜"たちの真実

プレジデントオンライン / 2022年8月28日 13時15分

ティラノサウルスの1億年弱先輩にあたるグアンロン(土屋健『ほんとうは“よわい恐竜”じてん それでも、けんめいに生きた古生物』より) - イラストレーション=ACTOW(徳川 広和・山本 彩乃)

「大きい」「強い」「怖い」というイメージがある恐竜や古生物。しかし研究者たちによる化石分析で、そんな彼らもさまざまな病気やケガに悩んでいたことがわかってきた。サイエンスライターの土屋健さんの著書『ほんとうは“よわい恐竜”じてん それでも、けんめいに生きた古生物』(KADOKAWA)から一部を紹介する――。

■巨大植物食恐竜の「足跡」で溺れ死んだグアンロン

グアンロンはあの大きくて恐ろしいことで有名なティラノサウルスの仲間で、1億年弱の先輩になります。でもティラノサウルスのような大きな恐竜ではありません。もっとも大きい個体でも、全長3.5メートルほどしかありませんでした。

小さいからと言って、「弱い」わけではありません。口には鋭い歯が並んでいました。むしろ、軽量な分、素早い。そんな狩りができたはず。

でも小さいことで不幸だったことがありました。

グアンロンが生きていた地域には、全長20メートルを超える巨大な植物食恐竜がいました。体重数十トンのその巨大恐竜は、足跡も大きく、深いものでした。あるグアンロンにとって運が悪かったのは、その足跡に、まわりから流れこんだ水と火山灰や砂や泥が詰まっていたことです。

ある日、不運なグアンロンが、火山灰や砂や泥が詰まった足跡に気づかずに足を踏み入れてしまいました。あるいは、飛びこそうとして失敗したか。それとも迂回(うかい)しようとして足をすべらせたか。

いずれにしろ、深さ1~2メートルの足跡に詰まった砂と泥は、まるで底無し沼のように、グアンロンをとらえてしまいます。もがくほど、グアンロンは沈んでいく。そして、やがて息絶えてしまう。そんな化石が発見されているのです。

■海で繁栄したが「潜水病」に悩んだプレシオサウルス類

恐竜時代の海で繁栄した「プレシオサウルス類」は、日本では、「クビナガリュウ類」とも呼ばれているグループです。たくさんの海棲爬虫(はちゅう)類がこのグループに分類されています。文字通り、首が長い種類もいれば、あまり長くない種類も、首が短い種類もいました。大きな種類のサイズは、全長10メートル近くにもなり、サカナをはじめとして、多くの動物を狩っていたとみられています。

プレシオサウルス類(クビナガリュウ類)は、空気中で呼吸をすることで生きていました。そのため、しばしば海面から顔を出す必要がありました。

呼吸をすると、空気は肺だけではなく、血液の中にも取りこまれます。このとき、水中に深く潜ると血液の中により多くの空気が取りこまれていきます。深ければ深いほど、圧力が高いからです。

深海で血液に取りこまれた空気は、浅い水深まで浮上したときに、小さな空気の泡(気泡)となります。この気泡が血管の中に詰まってしまうことがあります。「潜水病」と呼ばれる症状で、ヒトにもみられるものです。

プレシオサウルス類の多くの種に、この症状がみられています。つまり、プレシオサウルス類は海の中を上下に頻繁に移動することで、潜水病にかかっていたようです。獲物を追いかけるためだったのか、天敵から逃げるためだったのか。海で暮らすのもたいへんだったようです。

■「小さな傷」が命とりとなったステゴサウルス

背中に並ぶ骨の板と、尾の先端にある4本の大きなトゲ。そんな特徴をもつステゴサウルスは、アロサウルスと同じ時代に、同じ地域に生きていた植物食の恐竜です。

ステゴサウルス
イラストレーション=ACTOW(徳川 広和・山本 彩乃)
背中に並ぶ骨の板と、尾の先端の4本のトゲが特徴的なステゴザウルス(土屋健『ほんとうは“よわい恐竜”じてん それでも、けんめいに生きた古生物』より) - イラストレーション=ACTOW(徳川 広和・山本 彩乃)

ステゴサウルスは、大型肉食恐竜の獲物の一つでしたが、襲われるばかりではありませんでした。ときには尾の先端にあるトゲを使って強烈な反撃を行い、アロサウルスに大きなダメージを与えていたことがわかっています。

しかし、そんな“勇者”も、病気に悩まされていました。一見すると、元気に見えるステゴサウルスも「骨髄炎」という感染症に侵されていた個体がいたみたいです。

骨髄炎とは、骨や、骨の中心部にある骨髄という部分が腫れることです。腫れがひどいと、血液の流れが滞って骨の一部が死んでしまいます。もっとひどい場合には、骨だけではなく、動物そのものが死に至ることもあります。

なぜ、ステゴサウルスが骨髄炎になっていたのでしょうか? その理由までは、よくわかっていません。ただし、骨髄炎は、傷口から細菌などが体内に入ることで発症します。

肉食恐竜に襲われたときの傷か、自分でつけてしまった傷か。尾のトゲが折れて、その傷が原因になった個体もいたようです。いずれにしろ、医学のない世界では、ちょっとの傷が命とりになったのかもしれません。

■大きな翼で地上を歩いていた? ケツァルコアトルス

1億5000万年以上の長きにわたって繁栄した翼竜類。進化した翼竜類には、かなり大きな体をもつものもいました。たとえば、「ケツァルコアトルス」です。この翼竜類はランフォリンクスなどと違って、頭部が大きく、首が長く、尾が短いという特徴がありました。口には歯がありません。

そんなケツァルコアトルスの大きさは、翼を広げたときの幅が、なんと10メートルを超えました。現代の小型飛行機並みの大きさでした。この大きさは、空を飛ぶことができる脊椎動物の中で、「史上最大級」と言われています。

ケツァルコアトルス
イラストレーション=ACTOW(徳川 広和・山本 彩乃)
翼を広げた時の幅が10メートルを超える史上最大級の翼竜類、ケツァルコアトルス(土屋健『ほんとうは“よわい恐竜”じてん それでも、けんめいに生きた古生物』より) - イラストレーション=ACTOW(徳川 広和・山本 彩乃)

まさしく、空の覇者! 想像してみてください。小型飛行機並みの翼竜類が、空から襲いかかってくる場面を。かなり怖いはず。

しかし……実は、ケツァルコアトルスは大きすぎて、空を飛ぶことができなかったのではないか、とも考えられています。

飛べないのなら、少なくとも空から襲われる心配はなさそうです。でも、地上を歩いていたからといって「怖くない」というわけではないでしょう。

長い首と大きな頭を持つケツァルコアトルスの身長は、ちょっとした肉食恐竜よりも高いのです。うっかりしていると、その鋭いクチバシで襲われてしまうでしょう。史上最大級の翼竜類は空を飛べなかったかもしれない。でも、やはり恐ろしい存在だったのかもしれないのです。

■止まれずに「群れごと溺れた」セントロサウルス

「セントロサウルス」は、角竜類の一つです。全長は5メートルほど。鼻の上に1本のツノがあり、後頭部には広いフリルがありました。このツノは、何かに刺すというよりも、何かを突き上げることに向いていそうです。

土屋健『ほんとうは“よわい恐竜”じてん それでも、けんめいに生きた古生物』(KADOKAWA)
土屋健『ほんとうは“よわい恐竜”じてん それでも、けんめいに生きた古生物』(KADOKAWA)

セントロサウルスは、とても大きな群れをつくっていたことで知られています。その規模は、数千頭レベル! 想像してみてください。現代日本の道路を走っている一般的な自動車と同じか、それよりも大きな角竜類が、数千頭も群れを組んで移動しているのです。

もしも、あなたが大型の肉食恐竜だったとしても、とても怖くて近寄ることはできなかったはず。万が一にでも、その群れに踏まれてしまったら、間違いなくペシャンコにされてしまうでしょう。

そんなセントロサウルスですが、あまり泳ぎが得意ではなかった可能性があります。白亜紀のカナダにあった広い川を渡ろうとして、群れごと溺れてしまった。そんな化石が発見されているのです。

次から次へと川に入り、でも、溺れてしまう。大きな群れだから、先頭が溺れても、いきなり「全員止まれ!」とはいかなかったのでしょう。大きな群れをつくって肉食恐竜に襲われなかったとしても、その群れごと溺れてしまう、という危険もあったのです。

いかがでしたか? 「強さ」に注目が集まりがちな恐竜。でも、「リアルな生き様」を知ると、古生物たちの存在をより身近に感じませんか?

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土屋 健(つちや・けん)
サイエンスライター
オフィスジオパレオント代表。埼玉県出身。金沢大学大学院自然科学研究科で修士号を取得(専門は地質学・古生物学)。科学雑誌『Newton』の編集記者、部長代理を経て独立。シリーズ累計10万部を突破した『リアルサイズ古生物図鑑』、『カラー図説 生命の大進化40億年史 古生代編』、『怪獣古生物大襲撃 怪獣として蘇った古生物たちの世界』など著書多数。2019年、日本古生物学会貢献賞を受賞。

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(サイエンスライター 土屋 健)

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