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日本にGAFAMが存在しない根本原因…それは日本が「昭和型企業のオジイサン」に支配されているからだ

プレジデントオンライン / 2022年8月24日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/epicurean

なぜ日本経済は低迷から抜け出せないのか。元日本マイクロソフト社長の成毛眞さんは「日本の証券取引所の規則は昭和のままだから、どんな身軽なスタートアップも上場すると昭和的体質になってしまう」という。冨山和彦さんとの共著『2025年日本経済再生戦略』(SBクリエイティブ)より一部をお届けする――。(第3回)

■日本の上場企業の昭和的体質に現場は困っている

日本はもう、いい加減に昭和的価値観から脱却しなくてはいけない。特に昭和型企業はすぐにでも改革に手を付けなくては手遅れになる。

いかに昭和型企業が社会的害悪となっているか。悪例はいくつもあるが、目に余る昭和型企業、東芝を取り上げる。

東芝は、所得隠しや粉飾決算など以前から数々の不祥事を起こしてきたが、2021年に判明した不祥事は特筆すべきものだった。2020年の株主総会において、東芝は経産省と結託し、外国株主(シンガポールのエフィッシモと3D、アメリカのHMC=ハーバード大学基金運用ファンド)の株主提案権や議決権を阻害しようと画策したというのだ。

東芝側の根本的な目論見は、これらの株主に解任されそうになった社長の保身のために経産省を利用しようというところにある。そこを経産省は見抜けなかったというバカげた話ではあるのだが、世間の耳目を集め、巨大企業の転落ここに極まるの感があった。

東芝だけではない。日本は多かれ少なかれ昭和的なものを引きずる企業だらけである。

たとえば私は企業から講演などを頼まれることもあるが、業務委託契約書やら請求書やら、書類の提出をやたらと求められるのだ。面倒なので講演を即刻断る。

なかには断り切れない大企業からの依頼もあったが、打ち合わせ時に「自家用車で来るのか、タクシーで来るのか」でメールを3往復したところで堪忍袋の緒が切れ、断った。

某出版社では一定額以上の印税支払いにあたって、請求書を提出してほしいという。呆れ果てて苦言を呈したら、実は担当編集者も編集長も前々から困っていたということが判明した。結局、社内で問題となって、請求書は全面的に不要になった。

要するに各社とも管理部門が昭和のままであり、現場は困っているのだ。

その点、実は中央省庁のほうが手軽だ。せいぜいその場での領収書だけで済んでしまう。

そこで、これは「日本の上場企業特有の昭和的体質」なのではないかということに、はたと気づいた。

■若者は証券取引所に足をとられず、ユニコーンを目指せ

たとえば10年前は身軽なスタートアップだった企業が、上場したとたんに面倒くさいロートル企業に変身してしまうことがずっと不思議だった。それも証券取引所の規則が昭和のままだからではないか。

上場するにあたって、どうしても昭和的手法に従うことになり、昭和を知っているオジイサンを管理部門に採用する。そのオジイサンたちが全部門に昭和を強要するのだろう。

かくて当初は身軽なスタートアップだった企業で、昭和の再生産と相成るわけだ。

「企業の昭和化」に暗躍していると思われる日本の証券取引所。そんなものに足をとられないように、若者はユニコーン(評価額が10億ドル=約1150億円を超える未上場のスタートアップ企業)を目指すべきだろう。

ユニコーンに乗るビジネスマン
写真=iStock.com/rudall30
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/rudall30

日本にGAFAMのようなイノベーティブな企業が存在しない遠因の1つも、ひょっとしたら日本の上場制度にあるかもしれないのだ。

■東芝は「単一」事業会社をつくるべきだった

最近、「東洋経済オンライン」で「『日の丸半導体』が凋落したこれだけの根本原因」という記事を読み、深刻に受け止めた。

このままだと日本は半導体どころか、発電システム部門、公共インフラ部門、二次電池部門なども国際競争力を失う可能性が高いと思ったからだ。

たとえば記事には、こんな記述がある。

「投資などを決めるのは本社様で、半導体のマーケットをわかっている人間が(投資の)賭けに打って出ることはほとんどできなかった。しかも、半導体が儲かったときは(利益を)全部吸い上げられるし、損をしたときは(事業を)止めろと言われる」と。

外国人投資家は、そうした昭和型大企業のコングロマリット(※1)体質を見抜いている。本社に鎮座ましますサラリーマン上がりの素人経営者が素人判断をしている。だから資本効率が悪いだけでなく、そもそも経営判断が稚拙なのだ。

東芝はまさにそういう会社だった。本来ならファンドが買収してバラバラに解体し、それぞれの事業にプロの経営者を雇い入れる一方で、東芝本体は三菱重工やNECなどの部門を買収して国際競争に勝てる「単一」事業会社をつくるべきだった。

しかし、そうした大ナタを振るうことはなく、スピンオフを報じられるに至っている。

悪い例は東芝だけではない。2011年の日立と三菱重工の合併話は、三菱重工のOBによって阻止されたといわれている。本社に鎮座する素人サラリーマン経営者どころか、隠居しているはずのオジイサンたちが経営を左右していたわけだ。

もし、この合併が行なわれ、事業単位で複数の単一事業会社が生まれていたら、様相はまったく違ったものになったはずだ。

東芝のファンド買収も、日立と三菱重工の合併話も、阻止された裏には経産省や政治家がいたと推定されている。昭和型大企業は国とオジイサンによって延命されても、いずれ滅びる。しかし延命コストのツケは、低成長経済という形で国民に押し付けられるのだ。

■昭和オジイサンたちに「ご退散いただく」方法

2022年4月に東証は3部制に移行した。それを見越して、大企業では「親子上場」を解消する動きが進み、さまざまな業界で再編が起こりやすくなると指摘している記事を見かけた。ありそうな話ではあるが、問題は再編対象となる社長と役員だろう。

買われる側の社長は自分の立場を守るために反対し、買う側の役員は自分の天下り先がなくなるから反対する。要するに会社や社員や株主のためではなく、自分の保身のための抵抗である。

そういうオジイサンたちには、少しばかりのカネか、それに代わる名誉を与えて去ってもらったほうが日本経済のためだろう。

たとえば、こんな方法はどうだろうか。

3部制への移行で、最上位のプライム市場には東証1部から1800社以上が組み込まれるという。だが、その上に「スーパープライム市場」をつくり、コングロマリット型大企業、すなわち経団連企業200社程度を閉じ込めるのだ。

スーパープライム市場の上場企業の経営者には、勲章でもくれてやればいい。サラリーマン素人経営者は、今生(こんじょう)で最高の名誉と大喜びするだろう。

かくして抵抗にあうことも恨みを買うこともなく、昭和を封じ込めるという目的は果たされる。一方、本当に将来性のある企業には資金が投入され、万々歳だ。

■「東京が最先端」は都市伝説。光明は地方企業にある

クラウドサービスなど使えるものはどんどん使え。そんな本書での冨山さんの話を受けて、なるほど、「身軽さ」「フットワークの軽さ」というのも、これからの企業の生き残り条件であると思った。

実際、地方からのダイレクトアクセスで世界とビジネスをしている日本企業は少なくない。グローバル化とデジタル革命によって、地域と地域、国と国という物理的距離の障壁がほぼ消滅し、フットワークが軽くなっている。

私が注目している企業も、大半は太平洋ベルト地帯に沿うような形で、地方にある。

森林
写真=iStock.com/T_Mizuguchi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/T_Mizuguchi

代表例の1つが、静岡県浜松市にある浜松ホトニクスだ。「この会社がなくては物理学の研究が成立しない」といわれるほどの存在になっている素材メーカーである。

同社の技術が、ノーベル物理学賞を受賞した理論物理学者、ピーター・ヒッグスの予測した「ヒッグス粒子(※2)」の発見に寄与したことはよく知られている。今も新粒子発見の研究に貢献していて、宇宙生誕の謎を解くためには同社の技術が欠かせない。

実は、浜松ホトニクスは海水の重水素からクリーンエネルギーを生み出す「レーザー核融合(※3)」の研究も行なっている。この技術が確立・実用化されたら、人類の共通課題といえる温室効果ガス問題を一気に解決できる可能性が高く、浜松ホトニクスには世界から視線が注がれているのだ。

他にも、たとえば長野県なら、アメリカのボーイング社との直接取引で制御装置用機器を製造する多摩川精機(飯田市)や、高度なセンサー技術と電磁弁制御を組み合わせた自動水栓を製造するバイタル(佐久市)がある。

日本の地方には、こうした「実はグローバルに活躍している超優秀な中小企業」がたくさんある。「東京が一番進んでいる」というのは、今や一種の都市伝説にすぎなくなっているのだ。大阪にも同じことがいえる。産業は、むしろ地方のほうが熱いといってもいいくらいなのだ。

■一部の大企業を、フットワークよく華麗にスルーせよ

今どきわざわざ東京に進出せずとも、地方から一気にグローバルにつながるほうが身軽であり、手っ取り早い。

京都から動こうとしない京セラや村田製作所、島津製作所の海外取引の割合は、すでに5割から9割にも上っている。東京はおろか、もう日本すら相手にしていないのだ。

成毛眞、冨山和彦『2025年日本経済再生戦略』(SBクリエイティブ)
成毛眞、冨山和彦『2025年日本経済再生戦略』(SBクリエイティブ)

下手に東京に出て大企業のサラリーマンとつき合おうものなら、延々と無駄な時間を過ごすことになるだろう。

製品ひとつ売り込むために、何度もプレゼンさせられた挙げ句、「決裁に時間がかかる」「懸念点を検討する」などと結論を先延ばしにされ、その間を接待でつながなければならない。

なぜか。東京には大企業が集まっており、そういう大所帯は変革の瞬発力が鈍くなっているからだ。価値観が昭和のままで止まっている。

地方の企業に今後ますます必要になるのは、「最先端の東京へ進出する」という危険思想を捨てることだ。保身しかない昭和オジイサンの巣窟である一部の大企業を、フットワークよく華麗にスルーすることである。

※1 互いに関連性のない異業種企業を次々と買収・合併することで巨大化した複合企業
※2 あらゆる物質の質量を生み出す機能をもつ粒子。「神の粒子」とも呼ばれる
※3 高出力のレーザー照射による爆縮で超高密度プラズマを発生させ、核融合を起こさせる方法

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成毛 眞(なるけ・まこと)
HONZ代表
1955年、北海道生まれ。中央大学商学部卒業。自動車部品メーカー、アスキーなどを経て、1986年、日本マイクロソフト入社。1991年、同社代表取締役社長就任。2000年に退社後、投資コンサルティング会社インスパイア設立。2010年、書評サイト「HONZ」を開設、代表を務める。

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冨山 和彦(とやま・かずひこ)
経営共創基盤(IGPI)グループ会長
日本共創プラットフォーム(JPiX)代表取締役社長。1960年生まれ。東京大学法学部卒、在学中に司法試験合格。スタンフォード大学でMBA取得。2003年から4年間、産業再生機構COOとして三井鉱山やカネボウなどの再生に取り組む。機構解散後、2007年に経営共創基盤(IGPI)を設立し代表取締役CEO就任。2020年12月より現職。2020年日本共創プラットフォーム(JPiX)を設立し代表取締役社長就任。パナソニック社外取締役。

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(HONZ代表 成毛 眞、経営共創基盤(IGPI)グループ会長 冨山 和彦)

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