「教師が漢字・計算ドリルの○つけをしても子供は伸びない」生徒児童のための"やってる感"は自己満足だ
プレジデントオンライン / 2022年8月24日 11時15分
※本稿は、松尾英明『不親切教師のススメ』(さくら社)の一部を再編集したものです。
■漢字や算数のドリルの○つけは教師がすればいいのか
放課後の教師の机の上に、山となって積みあがっているものがある。子どもたちから回収した漢字ドリルや算数ドリルである。言わずもがな、○つけとチェックをするためである。
教師に「何のために」と尋ねたら「○をつけてあげることで、子どもの力になれる」「○をつけることで学習状況を把握する」「間違いがあったら教えてあげられる」「子どもの授業でのがんばりを認める場として」等の回答が考えられる。
しかしながら、それが本当に子どもの力になるのか、成長につながるのかというと、答えは「否」であることが多い。労力がかかるので、教師の「子どものためにやってる感」は出ると思うが、残念ながらそれは単なる自己満足である。教師がドリルに○をつけても、子どもの力にはならない。
ドリルの丸つけは、子どもにとって「セルフチェック」という自己診断力をつける場にもなるのである。自分のやったドリルが、どれだけ正しく書けていたかを、冷静に見る力をつける場である。セルフチェックの力を高めることが、主体的な学習態度を高めることにも通じるのである。
よって、ドリルの○つけは子どもが自分自身でやればよい。教師の側の到達度チェック&成績をつける目的のテストならまだしも、反復のための練習問題で他人に○をつけてもらう必要はない。
■子どもが○つけを自分でやると、メリットが大きい
まず、実施から終了、○つけまでがタイムリーである。解答集を自分でもっていれば、一切待つ必要がない。わからない時や自信がない時は、途中で確認しながら進めることもできる。
また、回収しない前提なので、ゆっくり取り組む子を急かす必要もない。誰に気兼ねすることなく個に応じた自分のペースで取り組み、答え合わせまでできる。
これを言うと必ず「子どもがすぐ答えを見てしまうからだめだ」という反論が出るが、これこそが根本的な勘違いである。「わからない時は手本を見て学ぶ」というのは学び方の基本である。特に理解度が浅い段階なら、見て学べばいい。
そもそもドリルとは語源からしてらせん状に回転しながら繰り返し進んでいくことであり、基礎的な知識や技能を学ぶためのものである。決して創造性(クリエイティビティ)を育てる目的の教材ではない。よって、さっさと正しい解答を見て学ぶのが正しい使い方である。
また、自分で○つけをするとなると、自分の書いたものに対し、結果責任が生じる。終わったからポンと提出して「よく見て○つけといて」とはならない。漢字だったら、細かいところや送り仮名に誤りがないか、セルフチェックが必要になる。計算ドリルだったら、「6」なのか「0」なのか判別不能な字に直面することになる。「こんな紛らわしい字を書いて!」と憤慨するのが教師ではなく書いた子ども自身になる。少なくとも「自分でも読めない字」は少なくなる。
このセルフチェックができるという力は、一生学んでいく上でかなり重要である。これがやがて、自分で購入した参考書の問題を自力で解いて答え合わせをする力や、仕事で自分の書いた書類をセルフチェックするといった、後々確実に必要となる力の基盤となる。将来を見据えるという意味でも、ドリルの○つけに関して不親切な方が、明らかに力がつく。
ただし前提として必要な条件は、これを教師が授業できちんと教えていることである。漢字ドリルならばきちんと授業中に実施し、新出漢字を扱う際には間違えやすいポイントなども教える。「左」と「右」、「上」の書き順など、教えなければ混同したり間違って覚えたりするのは明白である。
■先に親切に指導しておいて、そこから先は不親切にする
計算ドリルを学校で購入したのならば、授業中に使って○つけまで各自で行い、間違えやすいポイントまで教えるのが筋であり、全てを家庭での宿題として出すのは本来的な使い方ではない。
例えば、授業中に次のように語る。
今、ドリルであなたが○つけをして間違えていたところが、今日学習した内容の中で、まだ十分に身に付いていないところになります。そして、間違えた問題は人によって違います。あなたが間違えた問題を隣の人はできているかもしれない。逆に、あなたは○だった問題を、隣の人は間違えているということもあります。つまり、人によってもう一度がんばるべき問題は違うのです。
では、この間違えた問題はどうしますか? そうですね。今は赤で×をつけておいて、後でもう一度やるのがいいのです。今は一度答えを見て解き方を覚えたかのように思えますが、忘れるかもしれませんね。少し時間を空けて、家でもう一度やってみましょう。それが今日の宿題です。必要な宿題の内容も量も、人によって違うのです。みんな違う人間なんだから、当たり前ですね。
もう一度やってみて、合っていたらおめでとう、青で○をしましょう。間違えていたら? そう、今度は青で×をつけておきます。その問題は? また時間を空けてやるといいですね。今度は緑など色を変えて○か×。
こうして、自分のやるべき問題が自分でわかり、わかるようになるまで諦めずに何度もやるのが、力のつく勉強の仕方です。漢字の場合でも何でも同じです。自分で自分を育てていきましょう。
実施から○つけまで含めて、全て投げっぱなしにしておいての自力解決では力はつかないということである。ドリルに自分で○つけをするのも、授業中に指導しておいてこそである。先に親切に指導しておいて、そこから先は不親切にする。「教える」と「自力でやる」ということへの移行ステップそのままであり、指導の基本的な型である。
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公立小学校教員
「自治的学級づくり」を中心テーマに千葉大附属小等を経て研究し、現職。単行本や雑誌の執筆の他、全国で教員や保護者に向けたセミナーや研修会講師、講話等を行っている。学級づくり修養会「HOPE」主宰。『プレジデントオンライン』『みんなの教育技術』『こどもまなびラボ』等でも執筆。メルマガ「二十代で身に付けたい!教育観と仕事術」は「2014まぐまぐ大賞」教育部門大賞受賞。2021年まで部門連続受賞。ブログ「教師の寺子屋」主催。
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(公立小学校教員 松尾 英明)
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