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「日本は力が落ちたから、歴史の真実をごまかそうとする」韓国が"異様な日本観"をもつようになったワケ

プレジデントオンライン / 2022年8月26日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/panida wijitpanya

なぜ日韓関係は過去最悪となったのか。駐ミクロネシア連邦大使で過去に在韓国大使館総括公使を務めた道上尚史さんは「日韓双方に、『根拠なき楽観論』と『無視論』が蔓延しているからだ。この四半世紀の変化の本質をどちらも把握できていない」という――。(第1回)

※本稿は、道上尚史『韓国の変化 日本の選択 外交官が見た日韓のズレ』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。

■多くの日本国民の心が韓国から離れたのはなぜか

80年代以降、韓国は目覚ましく発展した。巨大だった国力差が少しずつ縮まり、韓国の日本観が変化してきたのは自然なことだ。日本人はそれが悔しい、腹立たしいからと、いわば感情論で「韓国はおかしい」と思ったわけではない。では、多くの日本国民の心が韓国から離れたのはなぜか。日本は韓国の何に気づいたのだろうか。

第一に、外交安保についての韓国・韓国民のめざす基本方向だろう。政府の公式見解でないにせよ、中韓が連携して日本を牽制(けんせい)すべしとの意見、米国と中国を天秤にかけホンネでは後者に傾斜しがちなこと、北の核実験等への無関心を、日本国民は知るようになった。

第二に、国と国との約束を守らない、国際社会の常識的なマナー(皇室に対してさえ)に反する言動が繰り返されるとして、韓国への信頼関係が大きく低下し、「国どうしでよい友達になれる相手ではない」との認識が広まってしまったことだろう。韓国をリスペクトし交流に熱心だった経済人、一般市民のショックが大きいし、熱心な韓流ドラマファンからも同じ声を聞くようになった。

第三に、これらについての韓国側の自省が薄れてきたことだろう(20年前はあった)。日本を「帝国主義の亡霊、残滓(ざんし)」と言うなど、世界でも突出した異様な日本観を耳にすることが増えた。かつては韓国国内でもブレーキがかかったのだが、近年は違う。

以上の3点を、一部専門家でなく日本国民の広範な層が気づいたのだ。

■「理解できない国」になってしまった韓国

これまで多くの懸案や葛藤があり、韓国への厳しい意見が台頭しても、当局者や政治指導部が国内を説得しつつ韓国との関係をおさめてきた。韓国に対する基本的な信頼関係と、「韓国が発展するにつれて、合理的な日本観を持つよい連携相手になるはずだ」という期待が根底にあったからだ。

しかし、その構図に大きな変化が生じている。

日韓の国旗
写真=iStock.com/Oleksii Liskonih
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Oleksii Liskonih

本来の伝統的外交ならば、厄介なことがあっても両国のプロ同士、当局がそこを乗り越えてうまくまとめる。国の立場は違っても、外交の基本マナーや信頼関係があればそれが可能だ。それでは不満だという向きもあろうが、外交については、対立要素を全部さらけだし両国世論に委ねていては、まとまるものもまとまらず、対立がエスカレートする。

だが、特に韓国側の対日姿勢後退が日本の一般国民の目にも明らかになった。良識ある多くの日本人が韓国に失望し、怒り、「理解できない国」と見るようになった。ただ、韓国がなぜそうなのかの分析はあまりない。ここで私が寄与できるのは、できるだけ韓国の実情や変化を紹介し、自分なりの解説を加え、現在の韓国についての理解を日本で深めていただくことだと思う。

感情や対立を煽ることはしない。ただ、「とにかく丸く収めよう」「良い材料だけ紹介しよう」というのでは、日本国民に通じない。「韓国の実態は違うだろう、それで何度も痛い目にあったではないか」とよくご存じである。知るべき実情は知っていただくのがよい。

他方で、放っておく、無視することが日本にとってよいわけではない。外交とは、このようなぎりぎりのところで成り立つものだろうと思う。

■根拠のない楽観論では日韓関係を改善できない

さて、ではどうすればよいのだろうか。最近気づいたのは、日韓両国において「根拠のない楽観論」と「無視(放っておけ)論」が大勢を占めてしまっていることだ。

まず韓国側の「根拠のない楽観論」=「心配するな、大丈夫論」がある。「嫌韓などごく一部の右翼の策動。日本人は今も韓国を好き。日韓関係には何の問題もない」と思っている人。「銅像とか細かいことに日本は腹を立てないで。韓国人は関心がない。心配ないですよ、ハハ」という人。「韓国有利に展開しているので大丈夫。日本が折れてくる」と見る人もいる。

かたや日本にも、根拠のない楽観論がある。その立場は実はさまざまなのだが。「日韓・米韓同盟という外交安保の基盤があるから」、「日韓には分厚い市民交流があるから」、「あの国は昔からそうだから」大丈夫、日韓関係は元に戻る、といった楽観論だ。

「メディアと政治家が対立を煽っているだけ、心配ない」という楽観論は、日韓どちらにも存在する。しかし、これら楽観論は、悪意はないとしても日韓の構造的問題に目を向けておらず、的外れだし、何も生まない。

■「放っておけ」「何を言っても無駄」という無視論

「根拠なき楽観論」の次には、「放っておけ」という「無視論」だ。

韓国の一部に「日本は影響力のない国。関係改善の努力は必要ない」という発想がある。韓国の国益を損なってもいるし、多くの韓国の方が建前上は否定するが、存在する。「関係改善をしたいが、日本が応じないのだ」という論法も同様である。日本では「日本が何を言っても無駄。韓国自身が目を覚ますまで待つほかない」との意見が増えている。

日韓の「無視論」は、中身は反対なのだが、「放っておこう」という点で共通している。以上、日韓ともほぼあらゆる場が、「根拠なき楽観論」、「無視論」いずれかの砦で占められたかのように私は感じる。

別の角度からはこう言えようか。まじめに、筋道立てて考える日本人にとって、昨今の韓国は理解を超えており、困惑している。韓国で、日本の国柄も世界での役割も理解せずに「日本をよく知っている」と錯覚し、日本を一刀両断すればいいと思っている韓国人は、現状に特段の痛痒(つうよう)を感じていない。根拠のない楽観論あるいは無視・放っておけ論でいればよいだけだ。

■ますます日米韓の連携は重要になってきているが…

正直、これほどまでに絡み合った事態の打開は容易ではない。ただ、確実なことが二つある。

一つは、日本にとっての韓国の重要性だ。安保、経済、中国、北朝鮮、米国と西太平洋、インド太平洋。どれをとっても韓国は非常に重要だ。今世紀初頭よりは良くない方向に来ている。日本がこれを放置し、ないし根拠薄弱な楽観論に身をゆだねていては、事態は一層悪くなる。中国台頭、ロシアのウクライナ侵略の中、日韓や日米韓連携はますます重要だ。

地図上の日中韓周辺
写真=iStock.com/Juanmonino
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Juanmonino

1980年代初めに駐韓大使と外務事務次官を務めた須之部(すのべ)量三(りょうぞう)氏は、よくこう話していた。

「日本の対外関係は、いつも韓国との関係から始まる。古代も明治初期もそうだった。日本が韓国とうまくやっていけるかは、日本外交がうまくやっていけるかのバロメータになる。韓国との関係は難易度の高いことなのだがね」

もう一つは、本書(『韓国の変化 日本の選択 外交官が見た日韓のズレ』)で私が書いた程度の、韓国ないし日韓についての分析は、日本の外交や国益を考えるのに必要な基礎知識だと思うが、それさえ十分にシェアされていないことだ。不遜(ふそん)な言い方だが、相手を把握せずしては、一人相撲になるだけだ。周辺的なことに時間とエネルギーを費やすのでなく、しっかりした分析の上に半歩でも前に進めたい。

■さまざまな側面がある韓国の対日感情

韓国人とある程度深く接した読者は、彼らの次のようなホンネに気づかれると思う。

「寿司も日本観光も好きな我々は反日でなく、日本とよい感じでつきあっている。なのに日本に嫌韓論がある。日本がおかしくなった」
「もう政府・国家の時代じゃない。日本は古い。民間交流を進めれば何の問題もない」
「日本は歴史の真実をごまかそうとする。力が落ちて焦っている。だから中国韓国とうまくいかない」

こういうときに、本書が読者の皆様の参考になればと思う。このような議論を避けるのでなく、大いに対話し日本の見方を伝えていただきたい。そうした作業があまりに少なかった。韓国側と真摯(しんし)な対話が進み、相互理解が深まればと希望する。

日本人がえっと驚くような日本観が韓国に多いのは事実だ。同時に、「日本歌謡カラオケ教室」があり、東京・大阪・福岡・沖縄や温泉観光が好きで、若い人が週末気軽に来てくれる国も、他にあるまい。「中韓連携」を支持する大学院生が「日韓連携」支持より多い国であると同時に、90年代初めまでは安保意識が高く、日本に北への警戒や国家安保を説く国でもあった。それが韓国である。

日本としては、韓国の色々な面を把握すべきだし、「足して割り」、「相殺して」ポジションを薄めたり沈黙したりするのでなく、根幹を見つつ、それぞれに発信・主張し、連携・協力していくのがよいだろう。

■「韓国はどうしようもない」とあきらめてはいけない

「なぜそうなるのか」を、韓国社会の変化や心理や対立構造を踏まえて把握した上で、どう働きかければ好ましい方向(日本にとって、そして韓国にとっても)に進むのか、どういう要因でうまくいかないのか、逆に、よい案が来たとして、それで韓国内を通せるのか。じっくり見きわめて検討するのが望ましい。

道上尚史『韓国の変化 日本の選択 外交官が見た日韓のズレ』(ちくま新書)
道上尚史『韓国の変化 日本の選択 外交官が見た日韓のズレ』(ちくま新書)

「韓国はどうしようもない」と冷笑するより、省内外のプロの意見に耳を傾け、冷静な把握と策の検討に時間を使うのがよい。韓国内の各界の意見の動向や論調を、また個々の事象の底に流れる発想や韓国内の力関係を把握しつつ。

外交に通じた方の中にも、「日米同盟、米韓同盟という外交安保の基盤があるから、大丈夫」と見る方がおられる。だが、残念ながらそういう状況は、過去のものになってしまった――と、近年(韓国在勤時)私はよく感じた。韓国はそれだけ手間ひまかかる、ラクはできないのだ。無視したり適当に受け流したりすることが、日本と東アジアにとってよいならそうすればいい。だが、そうではない。不要な妥協はすべきでない。

そのためにも、より深く把握したうえで、これまでより効果的にかつ粘り強くものを言っていくのがよい。

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道上 尚史(みちがみ・ひさし)
駐ミクロネシア連邦大使
1958年大阪生まれ。東京大学法学部卒。ソウル大学研修後ハーバード大学修士。韓国で5回計12年勤務し、外務省きっての韓国通。在中国大使館公使、在韓国大使館総括公使、在ドバイ総領事、在釜山総領事、日中韓協力事務局長を経て現職。最新刊『韓国の変化 日本の選択』(ちくま新書)のほか、『日本外交官、韓国奮闘記』『外交官が見た「中国人の対日観」』(共に文春新書)など日韓計5冊の著書あり。中韓両国で公使を務めた外交官第一号。

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(駐ミクロネシア連邦大使 道上 尚史)

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