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「K-POPが好きなら韓国のことも好きなはず」日本の現状を理解できない韓国社会の"悲しい勘違い"

プレジデントオンライン / 2022年8月27日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Barks_japan

なぜ日韓関係はこじれてしまったのか。駐ミクロネシア連邦大使で過去に在韓国大使館総括公使を務めた道上尚史さんは「韓国社会では『K-POPが好きな日本人は韓国全体が好きなはず』と考えられており、自分たちに問題があるという発想があまりない。日本にも留意すべき点もあるが、私の知る日韓関係を振り返ると、特にこの10年間は韓国の側の問題が大きい」という――。(第2回)

※本稿は、道上尚史『韓国の変化 日本の選択 外交官が見た日韓のズレ』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。

■「韓国ほど日本を小さく見る国はない」と語る記者

最近の韓国の日本観はどんなものであるか、私の勤務地ソウル・釜山(プサン)での体験をベースに述べていきたい。8年前のソウルで会った、日本通の知人二人に登場願おう。

まず、日本をよく知る記者は次のように語った。

「韓国ほど日本を低く小さく見る国はない。世界で韓国だけが、日本の国力の大きさを知らない。新聞社の東京特派員をした自分は日本の底力、裾野の広さを知っているし、世界各国で日本への評価が高いことを知っているが、一般の韓国人はこれを知らない。日本人が言っても耳を傾けない」

「日本へのコンプレックスのため日本を実際以上に大きく高く見過ぎ日本に譲歩してきた。韓国は強くなったので屈辱を改めよう。今や自分たちは反日でなく、コンプレックスもなく、合理的な日本観だ――多くの人はこう思っており、こういう自己正当化の心理が働いている。でもこれは逆立ちした議論であって、かつて日本を過大評価したのでなく、現在の日本をことさらに過小評価しているのだ。その傾向自体が対日コンプレックスともいえる」

■「一般国民になぜ日本が重要かを説明するのは難しい」

また、日本通の幹部外交官はこう語る。

「今世紀に入り、日中2つの隣国の重要さについて、日本は中国とは比較にならないということがコンセンサスになってしまった。保守・進歩や世代を超えた共通認識だ。中国嫌いの人でもこの点は同じだ」

「実は我々外交当局も、一般国民になぜ日本が重要かを説明するのは難しい。もっといえば、よい知恵がない。安保や自由民主という基本価値。ビジネスで相互依存が強い。社会問題で日本から学ぶことは今も多いと自分は思う。だが、日韓パートナーシップ宣言を策定した90年代とちがい、国民は耳を傾けず、アピールしない。韓国では、日本が重要だということが自明でないのが現実です」

「対中外交は不愉快なことが多いし、彼らから見ても韓国は厄介な国だが、韓国を取り込む作業を分厚く仕掛けてくる。文化、語学、政治家、経済人、メディア、官僚、学生等多岐にわたる人的交流を拡充している。かつて日本が得意としたソフトパワーだ」(「サード」配備で中韓関係が悪化する以前の発言)

ひび割れた日中韓の国旗
写真=iStock.com/Barks_japan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Barks_japan

この2つ目は、付き合いの長い、優秀で知的な外交官だ。韓国の立場から言わんとすることはわかるが、日本が改めれば日韓がうまくいくという話では全くなく、根本的な問題は韓国が抱えていると思う。ただ、「一般国民になぜ日本が重要かを説明するのは難しい」というのは、作り話ではなく、それが韓国の現実であった。

■「日本人はK-POPが好きだから、韓国全体が好き」と勘違いしている

韓国では、「日本人はK-POPや韓国ドラマが好き」だとして、「日本人は韓国全体が好き。韓国を嫌うのはごく一部。日韓の対立についても、ホンネは韓国を支持している」と飛躍する人が少なくない。日本は中韓に抜かれたのが悔しくてますます停滞を深めている、との印象を持つ人もいる。

2014年、私は大使館で文化広報公使から総括公使になり、ほとんど政治マターを扱う日々になった。その頃の話だ。日本の竹島領有主張に対し、外交部ステートメントに、(日本は)「帝国主義の亡霊」と非難する表現があった。週刊誌でなく政府の公式発表文がこのような表現を用いることに驚いた。国は違えど外交官として研鑽(けんさん)を重ねた先輩方から私は薫陶(くんとう)をうけてきたのだが、これは自分の中の古きよき韓国像が崩れる思いだった。

その後、日本の安倍総理と米国オバマ大統領が日米韓首脳会談を提案した。朴槿恵大統領の頃だ。本来の韓国なら、国益に沿う良い案としてすぐ賛成するところだが、国内で抵抗が強かった。メディアと一部世論が、「提案者に日本が入っている」ことに難色を示し、政治部門つまり青瓦台もこれに一時は引きずられた。

会談は結局は実現に至るのだが、日本の提案に乗るのがイヤという感情的反発がここまで強いのか、外交安保の得失でなく、世論の反発にそこまで影響され流されてしまうのか、保守政権でも韓国はそうなのか、とため息が出た。韓国は変わってしまったと感じた。

■韓国独自の「日本観」が議論を妨げている

外交は通常、自国の政策や方針を相手国に説明し、協議する。しかし韓国では、上記の例のように、政策以前に、韓国独自の「日本観」ゆえに話が進まないことがある。やや特異なことだとしても、日本は平素から、正確で客観的な日本観の形成に意を用いることが求められる。

この時期(2014年)、同じように「韓国は変わった」と感じた例を、他に2つあげよう。

ソウルの中堅私立大学で日本文化イベントを行った時、大学の副学長が開会あいさつでこう述べた。「中国との交流は素晴らしいと称賛し、日本との交流には顔をしかめる人が最近多い。誰が考えてもおかしいことだ。以前の大韓民国はこうでなかった」

政府高官が、ソウルにいる各国特派員たちを招いて、対外経済政策の説明会を行ったという。この高官は、韓国経済にとって日本の重要性が急速に低下したことを力説し、さらには経済と関係のない歴史問題で日本への不満を述べた。参加者たちは奇異に感じたと聞いた。

■日本人だというだけで舌打ちされることも

外交部の、40代後半の中堅幹部の話。彼はソウルでの日本大使館主催レセプションの招待を受け、参加した。同じ招待を受けながら参加しなかった役所の同期が複数いたと後でわかったという。彼らに聞いたら「日本だろ。日本大使館だろ。誰が行くか?」と答えたという。これには彼自身が驚いたし、この話を伝え聞いた外交部OBたちは嘆いた。

あるOBは私にこう言った。

「他国の大使館の招待を受ければ、光栄この上ないとして先約をキャンセルしてでも行くものです。外交官どうし、そういうものです。関係がよい時もそうでなくても。我々はそう教わってきたし世界どの国でもそのはずです。しかも、日本ではないですか。『日本、誰が行くか』という考えの人は、外交部にいる資格がないと思います」

次は、市井の小さなエピソードだ。ある程度韓国語のできる日本女性がソウルで韓国女性に道を聞かれ、教えた。「あれ、日本人?」と聞くのでそうだと答えると、チッと舌打ちされた。韓国語を何年も勉強し道を教えたあげく舌打ちされ、当人はショックを受けていた。他の国ではほぼありえないことだろう。もっとも日本で、韓国の方が不快な目にあうこともありえ、その点を心にとどめたいとも思う。

■「北朝鮮よりも日本のほうが脅威だ」と答えた政治家

さて、私学の代表格、名門Y大学。数年前に国際政治の教授が指導する大学院生に発表させたところ、10チーム中9チームが「韓国の外交安保について、中国との連携を強化して日本に対抗すべき」との政策をよしとした。日韓強化と述べたのは1チームのみだった。日本で博士号を得たこの教授はショックを受けた。

もう1つ、3年前に大学院生グループ(うち一人は日本人)が日韓関係を議論したところ、日本政府が植民地支配を反省しお詫びをしているという基本事実を、韓国の院生は一人を除き誰も知らなかった。

日本なら、外交官や大学教授あるいは新聞記者でなくても、1990年代半ばから広く知られていることである。1998年の日韓パートナーシップ宣言にも盛り込まれ、しかも韓国は、歴史に対する日本の立場を評価している。首脳が交わした外交文書である。しかし、こういう足元をすくうような現実が韓国に少なくないのだ。

日韓両国で特派員経験のある、欧米プレスが言う。日本が安全保障法制を整備するのは、当然かつ望ましいこと。韓半島の安保態勢強化につながり、韓国としても喜ばしいはず。でも、以前、民主党党首(当時)が公然と「北朝鮮のミサイルより、集団的自衛権の行使を可能とする日本のほうが脅威だ」と述べた。およそ的外れだけど、これが韓国の現実だ、と。

先述のY大学のような、「日本の反省・お詫びを知らなかった」というケースが多い。

旗付き3Dマップ上の韓国と北朝鮮と日本
写真=iStock.com/Harvepino
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Harvepino

■講演での質問の多くは「なぜ日本は謝らずにごまかすのか」というもの

私はソウルの日本大使館書記官時代も公使時代も、大学でよく講演をしたが、しばしば聞かれた。「なぜ日本は、歴史の事実を認めず、謝らず、ごまかすばかりなのか? 韓国民の心の痛みから目をそむけるのか?」という方向の質問が多いのだ。

私は講演で、歴史についての質問を避けるのでなく、むしろ積極的に話したかった。質問が出ない場合に備え、はじめから歴史問題の基本ファクトを伝え、質問がくるのを促した。ある時女子学生が手をあげた。

「高校時代、私は大使館前の慰安婦デモに参加した。日本謝れと皆で叫んだ。あなたの今日の説明は、デモ主催者の説明と全く違うものである。どちらが本当なのか」という。私は「意見の違いはあっても、ファクトは1つだ。日本は過去の歴史を直視し、反省とお詫びを明確に述べた。韓国側はこのファクトを直視してほしい。日本大使館のホームページには韓国語や英語で資料がある。ぜひあなた自身が、どちらが本当かを判断してください」と答えた。

韓国にいると、巨大な認識のずれを日々感じる。一歩一歩作業していくしかない。そしてこれは明らかに、外務省や政府だけでできることではなく、オールジャパンの――メディア、研究者、経済界、NGOなどを含めた――取り組みなのだ。韓国側の問題はもとよりだが、この種の発信・コミュニケーションを、日本側も怠ってきたと私は思う。

■「韓国経済は今も日本に依存しているんだ」は本当か

2012年、ソウルで行われた日韓のレセプションで、韓国経済界の大立者である80歳近い大企業会長が流暢な日本語で、昔は日本企業にいろいろ教えてもらいありがたかったと語り、新橋の小さな飲み屋で一杯やるのが今も好きだとなごやかに話していた。

彼が立ち去ると日本のビジネスマンは、「なんだ、今も変わらないんだ。韓国経済は今も日本に依存しているんだ」と嬉しそうに笑っていた。はたしてそうか。「新橋の飲み屋」は韓国経済の日本依存を意味しているのか?

たまたまだが、私はこの会社の会長室に彼を訪問したことがあった。日本の勲章や賞状、元総理を含む政財界名士との写真が何枚もあった。だが壁の三方には、アメリカ、中国、ドイツの国家指導者や、世界的に高名なビジネスリーダーやスポーツ選手と一緒の写真が、所狭しと飾られていた。どの国も日本より多かった。

道上尚史『韓国の変化 日本の選択 外交官が見た日韓のズレ』(ちくま新書)
道上尚史『韓国の変化 日本の選択 外交官が見た日韓のズレ』(ちくま新書)

彼は日本語だけでなく英語、ドイツ語が流暢だ。日本は、彼らのビジネスの中でいくつかの重要な相手国の1つであるが、それ以上ではない。圧倒的な存在ではなく、ワン・オブ・ゼムに近い。彼らは日本も見ているが、日本の肩越しに広く世界を見ているのだ。

日本製品不買運動、ノー・ジャパンの動きがあれば、「いや、韓国は日本に依存している。ビールも食品も日本のものが好きだから離れられない」と解説する人もいるが、正鵠(せいこく)を射ているとは思えない。たしかに日本の2、3のビール会社は広く知られ人気がある。「ビールは韓国より日本」と堂々と語る人は多い。しかし、ヨーロッパやアメリカのビールこそ人気が高い。韓国のビールも近年ずいぶん美味しくなった。

2012年に大学街のビールバーに立ち寄った。ヨーロッパを中心に、アジア、北米、中南米ほか世界各国のビールが何百種類も売られていた。日本で見たことのないほど豊富な品揃えの、大きな店だった。日本ビールも各社多く揃えていたが、全体の30分の1程度だ。若いビジネスマンや学生たちが世界各地の多様なビールを楽しみ、にぎわっていた。

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道上 尚史(みちがみ・ひさし)
駐ミクロネシア連邦大使
1958年大阪生まれ。東京大学法学部卒。ソウル大学研修後ハーバード大学修士。韓国で5回計12年勤務し、外務省きっての韓国通。在中国大使館公使、在韓国大使館総括公使、在ドバイ総領事、在釜山総領事、日中韓協力事務局長を経て現職。最新刊『韓国の変化 日本の選択』(ちくま新書)のほか、『日本外交官、韓国奮闘記』『外交官が見た「中国人の対日観」』(共に文春新書)など日韓計5冊の著書あり。中韓両国で公使を務めた外交官第一号。

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(駐ミクロネシア連邦大使 道上 尚史)

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