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どれだけ魅力的でも「山を買う」と後悔する…「福島の高原の土地」を500万円で買った作家の大反省

プレジデントオンライン / 2022年8月31日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/7maru

都市部から地方に移住するとき、どんな物件を選んだらいいか。作家のたくきよしみつさんは「安いからと『土地だけの物件』にうっかり手を出すと後悔する。実際に私も、福島の高原の土地を購入して、失敗してしまった」という――。(第2回)

※本稿は、たくきよしみつ『マイルド・サバイバー』(MdN新書)の一部を再編集したものです。

■どんなに魅力的でも、土地だけの物件は選ぶな

私が田舎物件を探し始めたのは30代からですが、この30年で大きな災害に2度遭遇し、その度に新たな物件探しをして移住したので、実際に現地に足を運んで見て回った田舎物件は北は宮城県、南は長野県、山梨県まで、軽く100物件はあるでしょう。データを見て検討した数を入れれば1000件近いと思います。

また、実際に都会から田舎に移住して暮らしている人たちとも数多く交流してきましたので、都会人が田舎暮らしに抱く幻想や、その幻想・錯覚から生まれる失敗もいろいろ知っています。

ここでは、そんな私が実際に経験してきた「田舎暮らしの失敗例」や「田舎不動産物件探しの注意点」をまとめてみます。

最初に強調したいのは、土地だけの物件はどんなに魅力的でも諦めなさい、ということです。

最近、コロナ禍で観光地などに遊びに行くことが難しくなり、都会の人たちが自分専用の遊び場として「山」を買って「マイキャンプ場」を持つことが流行っている、などとテレビで報道されているのを何度か見ました。

「山を買った人たち」が楽しそうにキャンプしたり、バンガローもどきのようなものを作って「ここに住めるようにします」なんて言っている絵作りをして、「こんな生き方も夢があっていいですね」などと能天気なナレーションをかぶせるわけですが、少しでも田舎暮らしを経験した人が見れば「だみだこりゃ~」です。

■山の中の土地なんて値段がつくようなものではない

そもそもよく聞くと、買ったのは「山」丸ごとではなく、山の中の狭い土地で、周囲は他人の土地だったりします。そのうちに隣接する土地の所有者や現地の住民たちとトラブルを起こすんじゃないかと心配です。「そこはうちの村の里山だ。何を勝手なことしている」などと怒られないといいのですが。

「この土地、300坪で150万円でした。この車より安かったです」なんて自慢している人を見ると、いいカモにされたなあ、と同情してしまいます。ただの山の中の300坪なんて、ほとんど値段がつくようなものではないのです。150万円あるなら、10万円かけた贅沢な国内旅行を15回楽しんだほうがずっといい思い出になります。

ま、最初は楽しめても、虫に刺され、ヘビに驚き、ヒルに血を吸われ、猪や鹿に荒らされているうちに嫌気がさしてきて放置することになるでしょう。

……と嘲笑している私自身、かつては「山を買う」ことを真剣に考えた時期があります。

■ゼロから家を建てると数千万円の費用がかかる

越後の280万円の家を買う前、宮城県丸森町にある山一つを見に行ったことがあります。確か価格は1200万円くらいでした。払える金額ではなかったのですが、ローンを組んででも手に入れる価値があるかもしれないと思ったのです。

その山は7町歩(約7万m2、2万1000坪)くらいあったでしょうか。どこからどこまでというのもよく分からないような代物(しろもの)で、本当に「ただの山」でした。広葉樹が茂る自然は魅力でしたが、まず、家を建てられそうな平坦地に入るまでの道がなく、短い距離ですが、自分で道を造らなければなりません。

当然、電気も水道も来ていません。電気は引いてもらえるでしょうが、水は井戸を掘らなければなりません。どちらも百万円単位の費用がかかります。それだけの土台作りをして、さらにゼロから建物を建てるとなると、たちまち数千万円の費用がかかります。当然、そんな金はないので、即、やめました。

■エイヤッと買ったが、持て余した500万円の土地

当時、世の中はバブルに突入していて、日本中で別荘地開発や半リゾート分譲地(自然が色濃く残っている土地を定住もできる住宅地として開発したもの)が造られていました。

私もその頃は雑多な仕事を寝る時間もないほどに抱え込んでいてそこそこの収入があったため、調子にのって福島県の某高原にできた別荘地の一角を、迷った末に購入しました。価格は500万円ほどで、その全額を銀行ローンを組んで支払いました。当時の銀行住宅ローンの金利は8%近かったので、銀行もホイホイ貸してくれました。

たくきよしみつ『マイルド・サバイバー』(MdN新書)
たくきよしみつ『マイルド・サバイバー』(MdN新書)

土地だけですから、家を建てるためにはさらに最低でも1000万円以上のお金がかかるでしょうが、とりあえず土地だけでも持っておけばいいか、という気持ちでした。無理そうなら売ってしまえばいいと思ったのです。

しかし、冷静になってみると、やはり家を建てる金は作れそうにありません。また、購入したときは別荘地を売り出した直後だったので、建物はまったく見当たらず、区分けされた土地だけが並んでいたのですが、これからどんどん家が建ったら、山の中に普通の住宅街ができるだけで、すこしも自然と親しむような生活はできないと気づきました。

丸森の「山一つ物件」とは違い、別荘用分譲地として売り出されているので、一応簡易水道のような設備は各戸に引いてありましたが、改めてよく見ると、呼び径13mmの細い塩ビ管で、水量はちゃんと足りるのかしらと不安になるような代物です。下水処理はどうなっているのかとか、そのへんのことまではあまり考えずに、エイヤッと買ってしまったことを反省しました。

■今、家を新築するのは絶対に損

結局、数年後、バブルがはじけて土地の値上がり神話も崩れる気配を感じ、販売していた不動産会社に買い戻してもらいました。そのときの買取り価格は900万円ほどでしたから、銀行の金利を差し引いても損はしなかったどころか儲かった計算です。

そのときの判断が正しかったことはすぐに証明されました。バブルは一気にはじけ、その分譲地を開発したデベロッパーも倒産したのです。もちろん私が買った土地の価格も急落しました。土地バブルというのはこういうものなのかと思い知りました。

話が多少脱線しましたが、とにかく、土地だけの物件は、いくら安くてもうっかり手を出すと痛い目に遭います。そこに新たに家を建てるだけで千万円単位の金がかかることを忘れてはいけません。よほど資金があるなら別ですが、間違っても家の建築はローンで、などと思ってはいけません。ましてや建築資材が急騰し、住宅設備品の入手すら難しくなっている今は、家を新築するのは絶対に損です。

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たくき よしみつ 作曲家/作家
1955年、福島県生まれ。1991年、『マリアの父親』(集英社)で第4回「小説すばる新人賞」受賞。執筆ジャンルは小説の他、狛犬アートの研究やデジタル文化論など多岐に渡る。50代から福島県双葉郡川内村に居を移すも、東日本大震災で被災し日光市に移住。「緊急時避難準備区域」で全村避難した村の自宅に戻って普通に生活をしながら詳細にリポートした『裸のフクシマ』(講談社、2011年)が、各書評、メディアで話題になった。著書に『デジカメに1000万画素はいらない』(講談社現代新書)、『医者には絶対書けない幸せな死に方』(講談社+α新書)、『3.11後を生きるきみたちへ』(岩波ジュニア新書)、『マイルド・サバイバー』(MdN新書)など。

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(作曲家/作家 たくき よしみつ)

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