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夫婦で「共通の趣味」を持つとろくなことにならない…「熟年離婚」を避けるためにやるべき本当のこと

プレジデントオンライン / 2022年8月31日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

熟年離婚する夫婦にはどのような特徴があるのか。老年医学の専門家である和田秀樹さんは「一緒に過ごす時間が長い夫婦ほど熟年離婚しやすい。かつて『亭主、元気で留守がいい』というテレビCMが流行したが、これは真理をついている」という――。(第3回)

※本稿は、和田秀樹『70歳の正解』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

■「顔を合わせる時間を減らすこと」が夫婦生活の秘訣

高齢になって、仕事を辞めたり減らしたりすると、否応なく、家族と顔を合わせる時間が長くなります。そのため、老後心安らかに暮らすには、現役時代以上に、家族との付き合い方が重要になってきます。『家族という病』という下重暁子さん著のベストセラーもありますが、家族は喜びや幸いにもなれば、病や禍(わざわい)になることもある存在なのです。

うまく付き合えば、「80歳の壁」を乗り越える最良の共同作業者になり、付き合い方に失敗すれば、「80歳の壁」をいよいよ高いものにする原因にもなります。本稿では、高齢者が家族とどう向き合えばいいのか、その心構えと方法について、お話ししましょう。まずは、「妻」あるいは「夫」、配偶者との付き合い方です。

かつて、「再雇用制度」の導入を政府が発表したとき、私は「これで、老後の“収入”が安定する」とは思いませんでした。むしろ、私は「老後の“夫婦生活”が安定する」と思ったのです。夫があと数年間、働くことになれば、その分、老後、夫婦が顔を突き合わせる時間が短くなるからです。というくらい、いわゆる「夫源病(ふげんびょう)」はポピュラーな病気です。

私を含め、多くの老年精神科医は、抑うつ傾向の初老の女性を問診するときは、まずそのことを頭に置いているくらいです。そういわれても、老後の夫婦関係の“難しさ”がピンと来ないのは、幸せな方でしょう。

「春の桜に秋の月、夫婦仲よく三度食う飯」という、世の幸せをうたった俗謡がありますが、それは白い飯も満足に食べられなかった時代の話です。今、夫婦で三度飯を食って、それがストレスでないという夫婦、少なくともストレスに感じないという「妻」は、ごく少数でしょう。

■妻を苦しめる“わしも族”の夫

データをみても、近年、定年後に、熟年離婚する夫婦が激増しています。この10年間ほどで、「同居期間が25年以上」の中高年夫婦の離婚は、2倍以上に増えているのです。その大半は、妻から離婚を切り出したケースです。つまり、「定年退職後の夫がずっと家にいる」ことに耐えられない妻が、それほどに増えているのです。

妻にとって、夫のいない昼間は、何十年もの間、自由な時間でした。自由にランチに出かけ、気の向くままに友だちと電話で話し、近所の人と井戸端会議を楽しむ、というように、のびのび暮らしていたのに、老後は、つねに夫の目がつきまとうようになります。そして、ちょっと外出しようとすると、夫から「どこに行くんだ?」「おれの昼飯はどうなるんだ?」「何時に帰ってくるんだ?」と矢継ぎ早に質問が飛んできます。

さらには、「わしも族」になる夫もいます。妻がどこかへ出かけようとすると、「“わしも”行く」と駄々をこねはじめるのです。そして、妻は、べたべたくっついてくる“濡れ落ち葉”のような夫に愛想が尽きるというわけです。還暦を過ぎていれば、とうに子育ては終わっているはず。

犬の散歩をする夫婦
写真=iStock.com/mykeyruna
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mykeyruna

もはや、子供への責任はなく、家庭の“共同運営者”である必要もない、というわけで、熟年離婚を切り出す妻が増えることになるのです。

■夫にとっての“自由な時間”は、妻にとっての“自由な時間の終わり”

というわけで、まずは、「老後も結婚生活を維持したい男性」のため、熟年離婚を避ける方法と心構えについて、お話ししていきましょう。

重ねていいますが、夫のリタイアは、夫にとっては“自由な時間の始まり”ですが、妻にとっては、“自由な時間の終わり”を意味します。妻にとって、定年後の夫は、自由を奪う「鎖」でしかないのです。

それは、これまで仲のよかった夫婦にもいえることで、夫が妻の自由を奪わなかったからこそ、これまでは仲よくいられたのです。人にとって、自由を失うことは、最大級のストレス源であり、それが妻の「主人在宅ストレス症候群」を招くことになるのです。

昭和の時代、「亭主、元気で留守がいい」というCMコピーがヒットしましたが、それが人口に 膾炙(かいしゃ)したのも、世の真理を突いていたからです。それは、令和の今も、変わりません。男性は、まずはそのことをよく理解しておきましょう。そもそも、人間関係には、「ほどよい距離感」が必要です。接近しすぎたヤマアラシが互いの体を傷つけるように、人間も近づきすぎると、心にトゲを刺し合うことになるのです。

■「妻が今まで通りの生活をできる」ことを心がけることが重要

その「ほどよい距離感」は夫婦の間にもあって、リタイア前は「夫は朝出勤し、夜帰ってくる」という1日のリズムが、ほどよい距離を成立させていました。どれほど仲のいい夫婦でも、何十年もの間、24時間一緒に仲よくいるというのは、無理な話です。

老後、妻が夫を嫌いになる原因は、夫の衰えや変化が原因ではなく、距離が近づきすぎることが主因です。一緒にいる時間が長くなりすぎるため、「やることなすこと、気に食わない」という状態になるのです。老後も円満な夫婦生活を送りたければ、男性は、「妻が今まで通りの生活をできる」ことを心がけるといいでしょう。

顔を合わせる時間が短くなれば、ほどよい心理的な距離感が生まれ、互いのストレスが軽減します。それが、主人在宅ストレス症候群からの熟年離婚というルートを防ぐ唯一の道です。

以下、「毒夫」にならないためのコツを紹介していきましょう。その目的は、いずれも妻の自由時間を確保することです。定年後、次のようなことをしばらくの間、心がけていると、やがて妻のほうも「前よりは、夫が家にいる暮らし」に慣れてくるようです。

ランチは“自給自足”を心がける

まずは、夫は昼飯くらいは、自分でなんとかしましょう。夫の昼飯を毎日つくらなければならないとなると、妻は日中出かけることもままならなくなり、それが大きなストレス源になります。昔と違って、今はコンビニやスーパーに行けば、和洋中何でもそろう時代です。昼飯、できれば朝飯も、自分で用意して食べるのが、夫婦関係を円満に保つ基本です。

食事をする男性
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

■「共通の趣味」を持つとろくなことにならない

家事を分担する

老後は、夫も家にいる時間が長くなるのですから、もはや家事を妻まかせにする大義名分は存在しません。少なくとも、スキルをあまり必要としない家事は、引き受けるのが、公平というものでしょう。ゴミ捨て、布団干し、浴槽を洗う、洗濯物を取り入れる、自分の部屋の掃除くらいは、スキルがなくてもできる仕事です。今日からでも、始めるといいでしょう。

妻の行く先をあれこれ聞かない

妻の“プライバシー”には干渉しないことです。むろん、つきまとわないこと。

共通の趣味をもとうとしない

若い頃から一緒に楽しんできたのならともかく、老後を迎えてから、「共通の趣味を楽しもう」などと意気込むと、ろくなことにはなりません。たとえば、妻と、同じカルチャーセンターなどに通っていても、同じ時間帯には行かないように工夫したほうがいいくらいです。

■「1日数時間は、顔を合わさない」という距離感が必要

では、続いて、老後を円満に暮らすための、「妻」の心得について、お話ししましょう。

リタイア後は「夫もしんどい」ことを知っておく

ご承知のように、平均寿命は男性のほうが短く、また日本では夫のほうが年上であることが多いため、夫婦の間では、夫のほうから先に老いはじめます。60代以降は、男性ホルモンの減少から心身に変調を来す人が増えるほか、生活習慣病にかかって肉体的にしんどいという人もいます。あるいは、老人性うつ病の予備軍も増えてきます。夫も夫なりに、いろいろとつらいのです。

老後の夫婦関係には“助け合い精神”が必要です。「困ったときはお互い様」くらいの優しさはもって、付き合いましょう。

夫が家にいるのなら、自分が外に出る

老後、夫がいつも家にいるようであれば、それを嘆くばかりではなく、自分が外に働きに出てはいかがでしょうか。大人同士がひとつ屋根の下で暮らすには、「1日数時間は、顔を合わさない」という距離感が必要です。加えて、働けば、老後資金をめぐる不安も軽減します。女性の場合、いざ働く気になれば、年配者でも、調理補助、家事代行、介護職など、いろいろな求人があるものです。

■「今さら、生活を変えられない」という思い込みを捨ててもいい

それでもダメなら、ひとりで生きるのもまた人生。「それでも、やっぱり無理。この人とは暮らせない!」と思ったときは、離婚し、新しい人生を求めるのも、選択肢のひとつだと、私は思います。なにしろ、まだまだ人生の先は長いのです。家庭内離婚、仮面夫婦状態を続けて、不快な気持ちで過ごすと、確実に心身に悪影響を与えることになります。

離婚届と指輪
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

私は精神科医として、そうして心を壊していく女性の姿を、嫌というほど見てきました。私は、「夫婦は添い遂げるもの」といった理想を純情に叫ぶつもりはありません。「今さら、生活を変えられない」という思い込みを捨てることもまた、老後の選択肢だと思います。

「われながら、夫婦仲はよくない」と思う人は、「この人を介護できるかどうか」、より端的にいえば、「この人のおむつを替えられるかどうか」、自問自答してみるといいでしょう。「それくらいはできる」と思う人は、たとえ「仮面夫婦」状態でも、婚姻生活を続けていけるかもしれません。

一方、「それは、無理」と思う人は、熟年離婚を視野に入れても、私はいいと思います。子育ては終わっているでしょうから、もう、いい妻、いい母親を演じる義務はありません。今は、夫の年金を離婚後、分割できるようになっているうえ、女性の働き口は探しやすいので、離婚後の暮らしも、昔よりはるかに成り立ちやすくなっています。

なにしろ、女性の平均寿命は87.74歳。60歳からでも、女性の人生はまだ30年近くも続くのです。いったんひとりになってリセットし、その後、残りの人生をともに歩む新しいパートナーを探すのも、手だと思います。

■子供を立ち直らせるには「とにかく放っておく」ことが必要

子供が成人した後の親子関係は、「スープが冷めない距離」が理想的といわれます。しかし、私は、昨今の日本では、その距離だと、子供が成人した以降の親子関係としては近すぎると思います。

和田秀樹『70歳の正解』(幻冬舎新書)
和田秀樹『70歳の正解』(幻冬舎新書)

80歳以上になって、本格的な老いを迎えてからならともかく、心身ともに元気な70代までの間は、子供とはもっと距離をとったほうがいいでしょう。これは、自分が若い頃のことを思い出してみると、よくわかるはず。自分が20代、30代の頃、親の顔など年に何度浮かんだものか。子供とは、「1年に一度くらい、顔を見せてくれたらいい」くらいに思い、つかず離れず、暮らすことです。それは、子供の自立心を育てるためでもあります。

私は、ときおり、子供(といっても成人、ときには中年)の引きこもりや家庭内暴力に関する相談を受けてきました。そんなとき、親御さんには「事態は、かまえばかまうほど、悪くなります。子供は、かまえばかまうほど、ダメになるものと、肝に銘じてください」という意味のことをいってきました。子供を立ち直らせるには、「とにかく放っておく」ことが必要なのです。

長年、引きこもっていても、親が食事をいっさいつくらなければ、コンビニくらいには行くようになるものです。しかし、私が「かまうな、放っておけ」と口を酸っぱくしていっても、たいていの親は、最初のうちは「先生、そうはいっても」と顔を曇らせます。

ただ、私が半年も同じことを言い続けるうち、しだいに親が態度を変えはじめ、自分の生活の充実のほうに気が向くようになると、子供の態度にも変容が現れるのです。

■子供に「結婚する相手がいる」というだけで幸福だと思ったほうがいい

子供の「就職」や「結婚」に関しても、私は、基本的には「放っておく」ことが肝要だと思います。まず、就職に関してですが、私たち親の世代が会社に入った頃は、まだまだ年功序列と終身雇用が当たり前の時代でした。ところが、今は55%の人が生涯、係長以下、3分の1の人は生涯、平社員で終わる時代です。

今の若者にとって、サラリーマンとして勤めあげるのは、私たち親の時代よりも、はるかに大変な道なのです。大企業に入っても、今の時代、安定した生活を送れるかどうか、まして幸せになれるかどうかは、まったくわかりません。そんな時代、子供が、サラリーマン以外の仕事につくと言いだしても、頭から否定しないことです。

「結婚」に関しても同様で、親の目から見て「とんでもない相手!」と思えても、私は頭から反対しないほうがいいと思います。今や、男性の4人にひとりは、生涯未婚という時代。バツイチが恥ずかしい時代でもありません。「結婚する相手がいる」というのなら、それだけでも幸いと考えたほうがいいと思います。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医・国際医療福祉大学赤坂心理学科教授
1960年大阪市生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科、老人科、神経内科にて研修、国立水戸病院神経内科および救命救急センターレジデント、東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、高齢者専門の総合病院・浴風会病院の精神科医師を経て、現在、国際医療福祉大学赤坂心理学科教授、川崎幸病院顧問、一橋大学・東京医科歯科大学非常勤講師、和田秀樹こころと体のクリニック院長。

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(精神科医・国際医療福祉大学赤坂心理学科教授 和田 秀樹)

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