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ベランダから使用済みおむつが降ってくる…住民が外国人ばかりの団地で起きた"信じがたい生活トラブル"

プレジデントオンライン / 2022年8月30日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

トヨタの関連会社が周辺に数多く立地する愛知県知立市の知立団地では、そこで働く外国人が全世帯の6割以上を占めている。南米出身者が多数暮らす団地では、他では考えられない生活トラブルが起きるという。芝園団地自治会事務局長の岡崎広樹さんの著書『外国人集住団地』(扶桑社新書)より一部を紹介しよう――。

■トヨタ関連会社に勤める外国人が多く暮らす知立団地

日本を代表する企業の一つであるトヨタ自動車のある愛知県には、豊田市を中心に関連企業が多数ある。そこで働く外国人労働者も多く、彼らの住む集住地域も複数にわたる。

愛知県豊田市にある保見団地が外国人集住地域として全国的にも有名である。1990年に改正入管法が施行されると、南米出身の日系人労働者が来日してきた。保見団地の空き部屋が埋まり始めると、豊田市に隣接する知立市にあるUR知立団地にも日系人が増え始めたという。保見団地や知立団地の外国人住民は、トヨタ系列の工場で働く派遣労働に従事する人が多いようだ。

「知立市をとりまく、刈谷市、安城市、大府市ね。トヨタの子会社や関連会社があるんだけど、その真ん中に知立団地が置かれていて」

と、知立団地に住む髙笠原晴美(80代)は話す。知立団地はトヨタ系列の工場からアクセスが良く、企業にとって都合の良い場所だという。敷地の中には、派遣会社ごとに暗黙の停留所まであるそうで、毎日、その停留所までお迎えの車がやって来るという。

愛知県名古屋市から名鉄名古屋本線に乗って、静岡方面に30分も揺られると、知立団地の最寄り駅である名鉄牛田駅に到着する。牛田駅から知立団地には、徒歩10分程度である。

■ここ30年で外国人住民の数が10人→約2500人に

2021年11月、知立団地に向かった筆者が歩いていると、小さな店が目に入ってきた。看板は外国語で書かれている。外国人集住地域を訪問すると、近隣には外国人経営の店舗が必ずと言っていいほどある。

知立団地商店街の大きな看板が見えると、その先に知立団地がある。

知立団地の入居開始は1966年、総戸数は1960戸、全部で75号棟まであり、マッチ箱のような5階建ての住宅が並んでいた。

髙笠原が知立団地に引っ越してきたのは1976年頃だった。

「ここは緑がとても多くて、それを伐採しながら建てたところ。残っている緑もあるし、環境的にも良い所だからって言われて申し込んだのよ」

そして、1980年代初頭には知立団地自治会の役員になり、自治会長も長年務めてきた。また、知立市の市議会議員となり、知立団地の課題などにも対処してきたという。

1990年までは、知立団地の外国人住民は10人にも満たなかったが、その約10年後、外国人住民は1000人を超えた。この急増理由について、髙笠原はこう言った。

「保見団地の戸数はそんなに多くないですね。保見に外国人が住めなくなると、知立団地にも入ってきた」

2022年4月1日現在、UR知立団地の人口は、日本人住民が1391人、外国人住民が2467人と、人口の60パーセント以上が外国人住民である。芝園団地(埼玉県)よりも、外国人が集住する団地の存在に驚きを隠せない。

■窓やベランダから赤ちゃんの使用済みおむつが…

外国人住民が増えていくと、やはり、生活トラブルが目につき始めた。

「外国の人が増え始めた時のことですね、トラブルがしょっちゅうあったのは。たとえば、赤ちゃんのおむつ。普通は生ごみと一緒に袋の中に入れて捨てるわけですけれども、窓やベランダからポイッポイッと。あれっ、何が降ってきたの、ということなんですよ」

ごみが上階から降ってきたという話は芝園団地でも聞いたことがある。知立団地には南米出身者、芝園団地には中国出身者が多く住んでいる。出身国は異なるのに、同様の問題が起きるのは不思議に思えた。

また、深夜の騒音問題については、特に知立団地に住む外国人住民は朝から勤める人、昼から勤める人、夜勤の人もいて、勤務時間がバラバラになることによる生活騒音の問題があった。

勤務時間がバラバラであれば、生活時間帯もバラバラになり、掃除、洗濯、食事などの時間帯もバラバラになる。その違いが生活騒音の問題を生む。しかも、知立団地の人口構成も高齢者の日本人と若者の外国人だった。

「外国の人はね、赤ちゃんを抱っこして、夜中でも、自分の休憩時間や遊びの時間であれば連れてきます。子どもは甲高い声なもんだから、幼稚園くらいの子がしゃべっている声も伝わってくる。赤ちゃんが泣けば、『えーっ。こんな時間にどこなの』って感じで」

■深夜2時に外国人住民がバレーボールを始める

生活時間帯だけではなく、世代までが異なっているため、子どもに関連する騒音問題が起きやすくなる。

深夜2時頃に外国人住民が公園でバレーボールをしてうるさいといった苦情はいまだにあるという。これも勤務時間がバラバラだから起きることだろう。

ビーチバレーをしている人々
写真=iStock.com/rparobe
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/rparobe

こうした生活トラブル解決への取り組みは極めて地道だった。ここでは、髙笠原に聞いた一つの例を紹介したい。

ある日の夜11時頃、髙笠原の電話が鳴った。

「上の部屋から水が漏れてくるんだけど、どうにかしてもらえないかねえ」

日本人住民からのSOSである。髙笠原は昼夜を問わずに生活トラブルの相談を受けていた。「夜でも走ります」と、何時であっても現場に直行するという。昔ならいざ知らず、現在は80代である。5階ともなれば上るだけで息が切れてしまう。

「ハアッ、ハアッて、ちょっと休ませて……。こういう風になります(笑)」

息を整えて部屋のインターホンを鳴らすと、外国人住民が出てくる。髙笠原がトラブルの説明を始めるが、当然、日本語が通じない場合もある。こういう時はどうやって意思疎通を図るのか。

「あなた、日本語を知っているフレンドいませんか、と聞きます。ちょこっと通じるから、誰々が何棟にいて、彼女は翻訳ができるとか、日本語が分かるとか言う。そこで、夜中だけどその人を呼んでもらいます」

■深夜11時でもその場でトラブルを認識・解決させる

夜11時でも外国人住民に電話をさせる。すると、その友達は眠い目をこすりながらやって来る。この友達に通訳をしてもらいながら話を進める。

「仕事から帰ってきて、あなたはこれからだけど、外を見て。真っ暗でしょ。真っ暗な時は寝る。あなたの隣の人も上の人も下の人も寝ているんだよ。あなたにとっては昼かもしれない、だけど、みなさんは(手を枕のようにしたポーズをして)こうやっているんだから、水はこぼさないでね」

だが、水漏れしていることを気づかないこともあるという。

「水漏れは僕やっていないとかね、よく言われます。だから、『あなたの部屋の下、ポトポトポト、水がいっぱい流れている、ジャーっと流れている。だから見に行って』と必ず行かせます」

天井が漏れています
写真=iStock.com/MediaProduction
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MediaProduction

その際、髙笠原は外国人住民にこうお願いする。

「汚れても大丈夫なバスタオルを持っていきなさい。それで拭いてくるのよ」

このような心遣いが一つあれば、下階の人の不満もいくばくかは和らぐはずだ。

髙笠原は必ず当日に説明するという。

「次の日だとか2日後だとかなら、現場の状況をみんな忘れています。時間がかかっても、分かった? 分かった? と言いながら理解をさせる。そうやって、一回注意すれば比較的に直っていますね」

時には、深夜2時でも説明しに行ったことがあった。

「プリント一枚に注意事項を書けば済むと思うかもしれません。だけど、外国の人は全員が同じじゃないから。もちろん、基本的なことは同じだけれども、理解するのには国ごとに違ってきますから。マニュアルはあってないようなもの」

■外国人住民が増えるにつれて深刻化したごみの分別問題

こうして一つひとつの問題を地道に対処することによって、現在は生活トラブルがだいぶ改善してきたという。

ごみ捨て関連でも相当な苦労があったようだ。1999年に可燃ごみは各棟の階段入り口付近のスペースに置くことが決まった。それまでは、複数棟に一つのごみ捨て場があったという。ごみ捨て場には、オレンジとグリーンに色分けしたコンテナが置かれて、可燃ごみと不燃ごみとを分けて捨てていた。

当初は特段の問題は起きていなかったようだ。しかし、外国人住民が増えていくにつれて、分別の間違いが増えていた。

色分けされたコンテナであれば、分別しやすいはずだが、分別の区分がコンテナに書いてなかったのだろうか。

「書いてあったんですが、『燃える』『燃えない』って日本語で。まだ、行政もそこまで、深く考えていなかったのかなあ」

髙笠原の記憶では、「燃えるごみ」と「燃えないごみ」という日本語だけの表記だった。これでは、外国人住民が分別できなくても仕方ない。ごみの分別は機能せず、コンテナ付近の住民は、夏場の悪臭に困ってしまった。また、年末年始になると、ごみがコンテナから溢れ出てしまい、その片づけだけでも大変だったという。

■ごみの散乱を防ぐためにあえてコンテナを撤去

そこで、コンテナは撤去して、可燃ごみは各棟の入り口付近に集めるようにした。野ざらしの場所をごみ捨て場にして、ごみは散乱しないのだろうか。

「五つ程度の棟が共同で1か所に捨てると、今日はごみを出していい日じゃないのに捨てちゃうとかしても責任を感じないでしょ。間違ったとしても許してちょうだいよと。だけど、自分の棟の下であれば、いい加減なことはできない。一つの階段で10軒しかないですからね」

ごみが入り口付近に散乱すれば、ごみを捨てた本人だって不快に感じるはずだ。この対策によって無責任に捨てる人が減り、可燃ごみの問題はだいぶ改善したという。

もう一つの課題は不燃ごみである。現在は鉄枠のステーションが設置され、不燃ごみは毎週水曜日の午後3時から8時、毎週木曜日の朝6時から8時に捨てることが可能だが、以前は、時間外に捨ててしまう人や不燃ごみ以外も捨ててしまう人がいたという。

さらに、そのステーションは、「立ち番員」が管理している。「立ち番員」は自治会員が行っている。多少の報酬が支払われており、その一部は自治会費から捻出しているという。当然、自治会員だけがステーションを利用可能である。

知立市の条例では、自治会が不燃ごみに責任を負っているので、この管理方法は規則に合わせた形だという。では、会員以外が捨てに来たら、どうするのだろうか。

「断ってもいいんです。ここに住んでいる人が『立ち番員』をやっているので、あなた何棟だよね、とか上手に言ってね。今度、自治会に行ってカード買ってらっしゃいと」

■「立ち番員」から地域の分別方法を学ぶ

「立ち番員」は自治会費納入も依頼するそうだ。それでも会員証を提示しない人は断ってしまうらしい。だが、これでは不燃ごみが捨てられずに困る人も出てくるのではないだろうか。

自治会費は年間2400円だった。1カ月であれば、わずか200円である。その金額を負担せず、わざわざ会社で捨てる人がいるという。そういう人には、

岡崎広樹『外国人集住団地』(扶桑社新書)
岡崎広樹『外国人集住団地』(扶桑社新書)

「会社は『家庭ごみを持ってこないで』と言わないの?」

と聞くという。

「5回に1回くらいは言われるんでしょうから、間が悪そうにして帰っていきます」

不法投棄対策の側面もあるという。

「立ち番員制度を採り入れる前は、出勤時の車にいろんなものを積んで、ごみ捨て場にポーン、ポーンと捨てていく人がいました。それを取り締まりたかったのもあるんです」

見張り役がいれば不法投棄は難しくなるだろう。「立ち番員」は、分別の間違いも指摘しているという。この方法であれば、国籍を問わず新しい住民は、地域の分別方法を学ぶ機会にもなる。地域住民が激しく入れ替わる場所では、効果的な不燃物の管理方法かもしれない。

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岡崎 広樹(おかざき・ひろき)
芝園団地自治会事務局長
1981年、埼玉県上尾市生まれ。早稲田大学商学部卒。三井物産で海外業務を経験し外国人との共生に関心を持つ。2012年退社後、松下政経塾で学ぶ。2014年から埼玉県川口市芝園団地に住み、2017年から自治会事務局長を務める。自治会として2017年度国際交流基金「地球市民賞」などを受賞、個人として2018年日本青年会議所「人間力大賞総務大臣奨励賞」を受賞。

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(芝園団地自治会事務局長 岡崎 広樹)

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