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バブル崩壊は再び襲ってくる…今の米国は「バブル崩壊前の日本にそっくり」と言えるワケ

プレジデントオンライン / 2022年8月28日 17時15分

記者会見する米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長(=2022年7月27日、アメリカ・ワシントン) - 写真=EPA/時事通信フォト

先進各国の中央銀行がインフレ退治に躍起となっている。モルガン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)元日本代表の藤巻健史さんは「米国では株・不動産価格が依然として最高値圏にある。日本のバブル経済とそっくりで、金融引き締めによる大暴落は避けられない」という――。

※本稿は、藤巻健史『Xデイ到来 資産はこう守れ!』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。

■今の米国はバブル経済時の日本にそっくり

今の米国のインフレを考える際、復習しておきたいことがあります。1985年から89年までの日本のバブル経済です。このときの復習は、極めて重要だと思っています。

米国の権威ある経済誌『The International Economy』にしばしば寄稿を依頼されるのですが、ここでも強調しておきました。

バブル経済時の日銀総裁・澄田智(すみたさとし)氏は「資産価格だけが急騰して消費者物価指数が上昇しなかったというのは日本では初めてだったし、世界でもほとんど例がなかった。したがって、日銀は消費者物価指数ばかりに気を取られて資産価格の急騰に目を向けなかった。それで引き締めが遅れた」との反省を『【真説】バブル 宴うたげはまだ、終わっていない』(日経BP社)の中で述べられています。

米国では今、バブルとはいかないまでも、資産価格の急騰が起きています。日本の1985年から89年のバブル経済では、日経平均が84年末の1万1542円から3万8915円まで値上がりしました。3万8915円は、今でも終値において史上最高値です。

1984年からの5年間で、株価は3倍半近くになったわけです。土地の価格に関しては、実勢を的確に反映した公式の数字は存在しないのですが、感覚的には10倍くらいになったと思っています。

■資産価格の高騰を軽視した日銀の大失敗

当時のバブル経済は、まさに土地や株などの価格が急騰したがゆえに起こったわけです。

ところが、消費者物価指数は極めて低かったのです。今の日銀が目標としている2%よりもはるかに低かった。それでも経済は過熱したのです。「景気がよければ消費者物価指数は上昇する」との原則からも外れています。

ちなみに「インフレーション(インフレ)」や「デフレーション(デフレ)」というのは「フロー(流動性)」の話で、不動産や株の値上がりについては、インフレとはいいません。

資産インフレという言葉はありますが、中央銀行が行うインフレ率の計算において、土地や株の値段は直接関係ないのです。家の価格の上昇は「帰属家賃」という形で組み込まれはしますが、丸ごと影響するのではありません。

それがゆえに当時の日銀は、資産価格の高騰に注意を向けなかったのです。

これが大きな誤りで、とんでもないバブル経済を引き起こしてしまい、後に強烈な金融引き締めをしなくてはならなくなったのです。その結果が「失われた30年」だったのです。

■消費者物価指数は上昇しなかったのはなぜか

なぜこんなに景気が過熱したのに、消費者物価指数は上昇しなかったのか?

答えは為替です。1984年末に251円58銭だったドル/円が、1989年末には143円40銭。1990年末には135円40銭まで円高が進みました。毎年30円、40円もの円高/ドル安が進んだのです。自国通貨が強くなるのは、強いデフレ要因です。

輸入インフレとは、自国通貨が安くなると輸入品価格が上昇することで起こります。逆に円高では、輸入品が安くなり、国内物価も引きずられて下がります。

重要なことは、日本のバブル経済時は資産インフレという強烈なインフレ要因を、円高という超デフレ要因が相殺したという点です。だからこそ消費者物価指数が今の日銀の目標である2%より低いままで、いわば「狂乱経済」とも言うべき様相を呈(てい)していたのです。

■米国の不動産価格は高騰、株価は最高値圏…

現在の米国は、バブル経済時の日本ととても似ています。実際、そのような状態であることを的確に表す記事が2022年3月24日の日経新聞に出ていました。

「FRBのウォラー理事は24日、住宅市場について講演し、『ここワシントンで家を買おうとしているのでわかるが、市場はクレージーだ』と語った」そうなのです。私がここ米国でアパートの賃料値上げ率に、まいったのと同じです。ウォラー理事がご自身で家を買おうとしているからこそ、強く理解できるのだと思います。

ウォラー理事が感じたように、米国の資産価格はバブルと言わないまでも、かなり高騰しています。日本のバブル経済時と同じです。不動産の値上がりが激しく、株価は史上最高値圏です。日経平均も1989年12月の3万8915円が史上最高値だったことは、すでに述べた通りです。

史上最高値とは、一般論で言えば、株で皆が儲かっているということです。もちろん例外はあるでしょうが。

ルーズベルト島から見るマンハッタン東側のビル群
写真=iStock.com/Renata Tyburczy
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Renata Tyburczy

■FRBは「資産効果」を軽視している

米国は日本よりも株に投資することが社会に浸透していて、多くの米国民が株を保有しています。ですから「資産効果」は、当時の日本以上に国民に影響します。資産効果とは、株や土地を持っている人が自分が金持ちになったつもりになり、消費を増やすことです。

当時の日本では「シーマ現象」という言葉がはやっていました。当時の日産自動車の最高級車シーマがバカ売れしたのです。

そのバカ売れを投資家が見て、日産の株をさらに買い増す。

車がバカ売れするので日産の社員の給料・ボーナスは上がるし、日産の株を持っていた投資家は儲かった気分になり、さらに消費を増やす、という好循環です。これが日本のバブル経済だったわけですが、その現象が、まさに今米国で起きていると思うのです。

この資産効果の威力のすごさに、FRBは目を向けていないように思います。

ただバブル経済時の日本と、今の米国とでは大きく違っている点があります。

それは為替です。当時、日本では強烈な円高が進んでいて資産インフレというインフレ要因を、円高というデフレ要因が相殺していたと前述しました。

しかし、現在の米国で、ドルは急騰しておらず、安定しているのです。要はデフレ要因を相殺するものが存在しないのです。ドル高というデフレ要因がない以上、資産インフレが消費者物価指数の急騰を強烈に促すことになるのではないかと私は思っています。

■FRBは「インフレは一時的だ」と主張していたが…

現時点で、FRBは間違いだったと認めたのですが、最初のうちは「インフレは一時的だ」と主張していました。インフレの主因を供給制約のせいだと分析していたからです。「いろいろなところで、供給に目詰まりが起きている。その供給の目詰まりが取り除かれれば、インフレは終わる」と考えていたのです。

また人によっては、今ロシアがウクライナに侵攻しているからインフレになったと思い込んでいるようです。ロシアがウクライナに侵攻し、それによって原油価格が上がり、穀物の値段が上がり、穀物を餌にする家畜の肉の値段が上がったという理屈です。

また元米財務長官にして元ハーバード大学学長のローレンス・サマーズ氏はアレックス・ドマシュ氏(ハーバード大学)との共著論文の中で、「我々の研究では、もし今後、労働需要が大きく減じることがなければ、かなりの人手不足状態が続くという結論になる。このことは今後、労働市場からのインフレ圧力を無視してはならないことを意味する」(筆者訳)と述べています。

アトランタ連邦準備銀行が算出した賃金上昇率は、2022年2月には6.5%と1997年以降で最高になったそうです。その一方、消費者物価指数の上昇率は7.9%と40年ぶりの高水準となり、賃上げがインフレに追いついていないようです。

■原因は「通貨の刷りすぎ」である

確かにこれらの要因の一つひとつが今のインフレの構成要因ではありますが、それ以上に、すでに述べた「通貨刷りすぎインフレ」が、今のインフレの最大の理由だという認識が重要だと思います。

日経新聞(2022年3月17日)の夕刊でも「商品価格の高騰がインフレを招いているわけではなく、状況をより悪くしているだけにすぎない」とSGHのマクロ・アドバイザーズ・チーフエコノミストのティム・デュイ氏が言っていますが、まさにその通りなのです。

この理解は重要です。この理解がないと、ロシアがウクライナから撤退したらインフレは収束するとか、コロナ禍が収束すればインフレは収束するなどと誤解してしまうからです。

当時の日本のバブルも、今の米国の不動産と株の価格の上昇も、「通貨の刷りすぎ」でお金がジャブジャブになったがゆえに起きているのです。過剰にばらまいたお金を回収しないことには、このインフレは収まらないでしょう。

その意味では、今回のインフレ退治はかなり大変なことになるだろうと思っています。

ドル紙幣印刷機のイメージ
写真=iStock.com/3alexd
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/3alexd

本書で、今回の米国のインフレは「通貨刷りすぎインフレ」と書きましたが、これは財政ファイナンスの結果です。「中央銀行による政府への信用供与」とも言えます。この結果、世の中に、お金がジャブジャブに供給されたのです。それでも、日銀に比べればFRBが供給したお金の量はたいしたことはありません(対GDP〈国内総生産〉比)。

ばらまけばばらまくほど、お金の価値が下がっていくのは当たり前の話です。それがインフレです。1万円札の価値が下がれば、1万円札で買えるモノやサービスの量が少なくなる(=モノやサービスの値段が上がる)ということです。

■資産価格の高騰が深刻な問題を引き起こしている

資産価格の高騰が続いているのに、先ほど触れたFRBのウォラー理事以外に、この点に関してコメントをする専門家はいません。これは、バブル経済時の日銀と同じです。澄田元日銀総裁と同様、消費者物価指数にしか目が向いていないように思えます。

これだと引き締めの遅れる可能性が十分にあると思うのです。サマーズ元財務長官も、引き締めの遅れを何度も警告しています。

資産価格の高騰は、エコノミストたちが考えるより、よほど深刻な問題だと私は思っています。景気に与える資産効果が大きいのが一点。もう一つは、国民の生活に与える影響が消費者物価指数よりも格段に大きいのではないかと思うのです。

日本のバブル経済時、私は日銀でのヒアリングの際、「消費者物価指数が安定していても、土地の値段がたとえば2倍、3倍になると、都心に家を買えなくなり、我々サラリーマンの通勤時間はかなり長くなる。長距離通勤を強いられたらクオリティ・オブ・ライフ(生活の質)は格段に落ちる。だから、中央銀行マンは資産価格に注意しなければいけない」とよく主張したものです。

■家賃が上がり、インフレは収まらない

米国では家賃の高騰で、コロナ禍以降、郊外へ引っ越した人が増えました。土地の高騰に給料が追いつかず、とても家賃が払えないからです。でもコロナ禍が終わり、リモートワークが減ってくると、大きな問題になるだろうと私は思っています。

エコノミストは「給料が上がると個人消費が増え、景気回復の原動力になる」とよく言います。しかし、資産価格が上がったほうが、個人消費は増えるように私は思うのです。

土地や株は、給料としてもらったお金を貯めて買います。不動産の場合は、それを元手に銀行から借りるケースも多くあります。レバレッジ(てこの原理)が効く(=少額の元手で大きなお金を動かす)わけです。

ということは、保有する資産の価格が上昇すると、過去にもらった給料の価値がぐんと上昇するということです。全部ではないにしても、過去の給料のある程度の部分の価値(投資した分において)が上がるのですから、給料が上がるより、よほど消費行動に対する影響が大きいと私は思うのです。

■消費者物価指数だけを見ても意味がない

リスクテイカー(投資においてリスクをとる人)は、あまり実質金利で投資判断をしないのですが、エコノミストはよく実質金利の話をします。

実質金利とは、名目金利からインフレ率を引いたもので、実質金利が高いと景気を冷やし、実質金利が低いと景気を刺激するというわけです。しかし、消費者物価指数を使って日本のバブル経済のときの実質金利を計算した場合、あの狂乱経済をうまく説明できないのです。

コールレートとは、当時の日銀の政策金利(中央銀行が市場金利を誘導するためのレート)で銀行間の1日の貸借のレートのことですが、当時のコールレートは1985年は7.875%、86年は4.4375%、87年は4.0000%、88年は4.125%、89年は6.5%と極めて高かったのです。

ちなみに、政策金利は時代により、いろいろと変遷します。昔の日本では政策金利が公定歩合でした。それが変化して、最近まで1日の銀行間の貸借レートが政策金利になっていました。

1日の銀行間の貸借レートを日本では「コールレート」、米国では「FFレート」(FED FUNDSレート)といいます。日米ともこれが政策金利でしたが、日銀は(これ自体が異常ですが)長期金利も政策金利に加えました。

■このままでは「日本のバブル」の失敗が繰り返される

一方、バブル経済時の消費者物価指数は極めて低く、0.5%前後。これだと1986年で4.4375%(コールレート)-0.5%=3.9375%と、実質金利はかなり高いことになります。そんなに高い実質レートでは、狂乱経済になるわけがないのです。

藤巻健史『Xデイ到来 資産はこう守れ!』(幻冬舎)
藤巻健史『Xデイ到来 資産はこう守れ!』(幻冬舎)

あの頃、私が主張していたのは、実質金利を計算するときに、消費者物価指数を使うのはまずいのではないか、ということです。土地や資産の価格上昇率を使わなければ、金融政策を間違えるということを言っていたのです。

「名目金利-x」のxに「資産価格の上昇率」を使えば、実質金利はかなりのマイナスになり、狂乱経済を説明できるという主張でした。誰も耳を傾けてくれませんでしたが(苦笑)。

以上のように、FRBには日本のバブルから学ぶべきことがたくさんあると思っていますが、それらが生かされていないのは残念なことです。

逆に言うと、サマーズ氏が述べているように、FRBの引き締めの遅れが大変な事態を招くと私は思っているのです。

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藤巻 健史(ふじまき・たけし)
フジマキ・ジャパン代表取締役
1950年東京生まれ。一橋大学商学部を卒業後、三井信託銀行に入行。80年に行費留学にてMBAを取得(米ノースウエスタン大学大学院・ケロッグスクール)。85年米モルガン銀行入行。当時、東京市場唯一の外銀日本人支店長に就任。2000年に同行退行後。1999年より2012年まで一橋大学経済学部で、02年より09年まで早稲田大学大学院商学研究科で非常勤講師。日本金融学会所属。現在(株)フジマキ・ジャパン代表取締役。東洋学園大学理事。2013年から19年までは参議院議員を務めた。

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(フジマキ・ジャパン代表取締役 藤巻 健史)

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