「発熱外来の予約がとれない…」我が子の新型コロナ感染を疑ったら、まずすべきこと
プレジデントオンライン / 2022年8月30日 9時15分
■小児科の発熱外来を予約することが大事
――子供が新型コロナに感染したかもしれないと思ったら、どうすべきでしょうか?
医療機関を受診しましょう。この時に大事なのが「小児科」の「発熱外来」に「予約して」受診し、PCR検査または抗原検査と診察を受けることです。発熱している場合は、誰かに感染する恐れがあるので、無料の検査場は利用できません。また検査だけを行っている医療機関や内科では、子供向けの薬を処方してもらえないことがあります。その後、検査も診察もなしで小児科で薬を出してもらうことは通常はできないため注意してください。
――近隣の発熱外来が混み合っていて、すぐに診てもらえない場合はどうしたらいいですか?
その場合は、自宅で様子をみましょう。保健所または発熱センターなどに電話するのも一つの方法ですが、つながらないこともあると思います。お子さんがつらそうな場合は、ドラッグストアなどでアセトアミノフェンの解熱剤を買って、飲ませてあげてください。カロナールが品薄だと報道されましたが、カロナールはアセトアミノフェンの商品名ですので、他の商品でも大丈夫です。小児科クリニックは、当日朝に予約を取るところが多いので、次の朝インターネットや電話で予約しましょう。ただ、意識がない、痙攣(けいれん)するなどの重篤な症状があったら、すぐに救急車を呼んでください。
■予約時間を守って感染対策を万全に
――受診時に気を付けるべきことはあるでしょうか?
予約時間は、必ず守るようにしてください。患者さん同士が互いに感染症をうつさないために、一般診療と発熱外来を分けています。また発熱外来に来られる患者さんの来院時間も間隔をあけて設定しています。早く到着しても、遅く到着しても、他の人と会ってしまうのでよくありません。また今は混雑しているため、別室や屋外でお待ちいただくこともありますのでご了承ください。医療者も患者さんをお待たせしたくはないのですが、大勢が受診するとどうしようもないのです。
――院内では、どんなことに気を付けるべきでしょうか?
医療機関はリスクの高いところです。2歳以上の方は、必ずマスクをしてください。たまに待合室や診察室で、お子さんにジュースやおやつをあげる方がいますが、誤嚥(ごえん)の原因になるだけでなく、感染が広がる恐れもあるのでやめましょう。麦茶やジュースなどを飲ませる際は、いったん屋外に出てくださいね。
また床などは、毎日清掃していても、いつウイルスが落ちるかわからず清潔ではありませんから、お子さんをハイハイさせたり、荷物を置いたりはしないようにしましょう。
――どのような薬が出されるのでしょうか?
治療薬の選択肢は多くありません。抗ウイルス薬が適応になるのは持病のある人だけ。子供の場合は、熱や痛みがあると「解熱剤(アセトアミノフェン)」、お腹の調子が悪いと「整腸剤」、鼻水がひどい場合は「抗ヒスタミン薬」、痰がからむ場合は「去痰薬」などを出されることが多いでしょう。風邪の場合と同じく、症状のみを抑える対症療法になります。当院の場合、薬の処方箋は薬局にファクス等で送り、屋外などで受け取ってもらう流れになります。新型コロナ陽性の場合、さまざまな人のいる薬局には立ち入らず、受診時にどのように受け取ればいいか確認してください。
■感染者と濃厚接触者の自主隔離の日数
――最近は保健所からの連絡がないと聞きます。体調に変化があったときはどうしたらいいでしょうか。
感染者数が増えているので、手が回らなくなっている保健所もあります。東京都の場合、保健所からの電話はなく、スマートフォンにショートメッセージが届くだけです。ですから、あまりにも体調が悪い場合は、保護者の方から保健所や発熱センター、診断をしたクリニックに電話して相談しましょう。前にも述べたように、体調が急変して意識を失ったり、痙攣したりした場合は救急車を呼んでください。
――子供が新型コロナウイルス感染症になった場合、本人も家族も外出できないのでしょうか?
お子さんは、発症日を0(ゼロ)日目として10日間、外出できません。そのご家族は、お子さんをきちんと隔離できる場合でも、防護対策をしてから5日間は外出しないようにしましょう。お子さんを隔離できない場合は、お子さんの隔離期間の10日目を0日として5日間なので、16日間が自主隔離期間です。9月1日にお子さんが発症したなら、お子さんは9月12日から、その他の同居家族は17日から外出可能ということになります。結構、長いですよね。
最近、東京都では濃厚接触者は、最終接触日を0日として2日目と3日目に抗原定性検査キットで陰性となれば解除可能となりました(※1)。しかし、これには医学的根拠がありません。新型コロナに感染すると平均2.9日はウイルスが多く出て、たいてい10日以内に出なくなるとされていますが、潜伏期間も考えると3日では短すぎると思います。
※1 東京都福祉保健局「身近な人が新型コロナウイルス感染症になった方へ~自分が濃厚接触者だと思ったら~」
■家庭内感染を止めるのは難しい
――きちんと隔離するというのは、どういうことでしょうか?
まず、感染者であるお子さんは一つの部屋に入り、トイレとお風呂の時以外は出ないようにします。またトイレは感染者が使用するたびに、アルコール消毒しましょう。お風呂もアルコール消毒するか、界面活性剤の洗剤で洗い流します。詳しくは、日本環境感染学会がとりまとめた「新型コロナウイルスの感染が疑われる人がいる場合の家庭内での注意事項」を参考にしてください(※2)。とても大変なことですが、これくらいしないと家族は感染してしまいます。
※2 厚生労働省「新型コロナウイルスの感染が疑われる人がいる場合の家庭内での注意事項(日本環境感染学会とりまとめ)」
――なるほど。家族そろって自主療養するほうが周囲に感染を広げなさそうです。
そうですね。小さな子は、なかなかきちんと隔離できないと思います。知人のところのお子さんは小学生ですが、体がしんどい時に一人になって寂しくて心細くて泣いてしまったそうです。それに隔離期間を短くするよりも、できることなら家族そろって自主療養したほうが流行期を短くできるかもしれません。買い物などは、できるだけネットスーパーやドラッグストアなどの置き配、ウーバーイーツや出前館、宅食などの置き配を利用するといいでしょう。親戚や友人に置き配をお願いするのもいいと思います。
■飲料水や食品をストックしておくと安心
――万が一の感染に備えて、やっておけることはないでしょうか?
これだけ新型コロナが増えると、自治体からの救援物資が遅れることも多々あるようです。ですから、少なくとも数日分の飲料水やレトルトなどの食品を用意しておくと安心でしょう。新型コロナになると喉が痛くなり、なかなか食事をとることができない人も多いようですから、喉通りのよいゼリーやおかゆ、麺類などを用意しておくと、いいかもしれません。風邪の時の備えにもなりますね。
――血中酸素飽和濃度を測るためのパルスオキシメーターは必要でしょうか?
新型コロナになると、自治体からパルスオキシメーターが送られてくるところが多いですが、食料と同じく遅れることがあるようです。ですから、必需品とまではいきませんが、受診の目安や安心材料にするために、子供用のプローブが付替できるパルスオキシメーターを用意しておくといいかもしれません。なお、血中酸素飽和濃度は98以上が正常で、厚生労働省の新型コロナウイルス感染症診療の手引きでは、96%以上が軽症、93〜96%が中等症I、93%以下が呼吸不全で中等症II、および重症です。これを参考に、保健所やクリニックに数値を伝えて相談するといいでしょう。
■家庭での抗原検査に意味はあるのか
――家族の人数分の抗原検査キットも用意しておくと安心だといわれていますが……
私は、抗原検査キットは各家庭にはそれほど必要ないと思っています。一つには、市販の抗原検査キットのなかには、正確な結果が出ないものもあるからです(※3)。また、たとえ信頼性の高い検査キットを使ったとしても、検査しなれていない人が唾液や鼻腔(びくう)拭い液など検体の採取を行うと正確な結果が出ない恐れがあります。そうして本当は陽性なのに陰性になった人が安心して出歩くと、感染が広がってしまうでしょう。また検査した時に陰性でも、その直後には感染して陽性になっているかもしれません。検査=安心ではないんです。
――確かにそうですね。国や自治体が検査キットを配っているのはなぜでしょうか。
うーん、なぜでしょうね。検査キットが入荷しないという時に、国や自治体が検査キットをたくさん無料配布していたのでハラハラしました。自宅で検査して陽性だとわかっても、オンラインで申請できるのは東京都では現在、20〜40代までです(※4)。それよりも「新型コロナかも」と思ったら、どう行動・受診するべきかをもっと広く知らせることのほうが、ずっと感染拡大防止効果があると思います。
※3 プレジデントオンライン「『中には無意味なものもある』内科医が教える“使えるコロナ検査キットとダメな検査”の見分け方」(2022年5月1日)
※4 生年月日が1972年4月2日~2003年4月1日の人が対象。
■新型コロナの予防・対処法を詳しく伝えるべき
――本来、国や自治体はどんなことを伝えたらいいでしょうか?
ここまでにお話ししたようなこと、どこへどう受診したり、連絡したりしたらいいかなどです。たとえば、東京都では「都民のみなさまへ ~新型コロナウイルス感染症が心配なとき~」というページにまとまっていますが、意外と知られていません。自主隔離の日数、隔離というからにはできるだけ外出しないこと、外出しないための具体的な工夫の仕方なども、どの年齢層にも伝わるようテレビや新聞、雑誌、インターネットなどを通じて、わかりやすく伝えてほしいですね。
――最後に、私たちが新型コロナの流行を止めるためにできることはありますか?
基本に忠実に、新型コロナワクチンを接種する、マスクをする、こまめに手洗いする、3密を回避するなどの感染対策を行いましょう。誰でも、つい「自分だけはかからないだろう」と油断してしまうことがあり得ます。そして、ご自身やご家族が新型コロナに感染したり、体調が悪かったりする時には外出しないでください。こうしてコロナ禍が長期化してくると感染対策を行うのも疲れますし、自宅療養はつらいものです。でも、これ以上の流行を避けるためにも、周囲の子供やお年寄り、基礎疾患のある人にうつさないためにも、何よりも大切なことだとご理解いただけたら幸いです。
※この記事は2022年8月27日時点での情報を基に書かれています。
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小児科専門医
1971年、東京生まれ。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内で開業。医療者と非医療者の架け橋となる記事や本を書いていきたいと思っている。『新装版 小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』など著書多数。
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(小児科専門医 森戸 やすみ 聞き手・構成=大西まお)
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